星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜 作:暁 蒼空
ハルジオンからマグノリアへ向かう列車の中。
車内には、対照的な姿をした「二人の病人」が並んでいた。
「オエェェ……もうダメだ……殺せ、いっそ殺してくれ……」
「ナツ……大丈夫? ほら、口を拭いてあげるから……」
乗り物酔いで完全にノックアウトされたナツの隣で、ルーシィは震える手で彼の口元をハンカチで拭っていた。ルーシィ自身、先ほどの吐血と魔力欠乏で今にも意識を失いそうなほど青白い顔をしていたが、不思議と心は穏やかだった。
(……不思議。ナツの近くにいると、少しだけ呼吸が楽……)
ルーシィは、ナツの火竜の魔力が発する圧倒的な**「熱」**が、自分の体内で暴走する魔力を鎮める「重石」になっていることに気づいていた。それは恋愛感情とは違う、もっと根源的な、凍えそうな命を繋ぎ止めるための救いだった。
マグノリアに到着し、復活したナツはルーシィを背負ってギルドの扉を蹴破った。
「ただいまーーー!! おい野郎ども、新しい仲間を連れてきたぞ!!」
しかし、その日はいつもの乱闘は起きなかった。
ナツの背中で、血のついた服を着たまま、幽霊のように青白くぐったりとしているルーシィを見た瞬間、ギルド全体が凍りついた。
「…………えっ?」
次の瞬間、ギルドは**「静かなパニック」**に陥った。
「おい、大声を出すな! 彼女に障るだろ!」とグレイがエルフマンの口を塞ぐ。
「ミラちゃん! 早く医務室の準備を!」とカナが叫ぶ。
荒くれ者たちが全員つま先立ちで歩き、ヒソヒソ声で「静かにしろ!」「お前こそ声がデカい!」と小声で怒鳴り合う奇妙な光景。ルーシィは朦朧とする意識の中で、(なんておかしな人たち……)と小さく口角を上げた。
医務室で、ミラジェーンがルーシィの服を緩めると、その場にいたマスター・マカロフが眉をひそめた。
ルーシィの白い胸元から肩にかけて、薄紫色をした**「星空のような痣」が広がっていた。それは肉体が星霊へと変質し始めている『星霊同化症』**の進行の証だった。
数時間後。ミラジェーンの処置で落ち着いたルーシィは、ベッドで身体を起こしていた。そこへ、マカロフがゆっくりと近づいてきた。
「ルーシィ。お前は自分がどういう状態か分かっておるのか?」
「はい……。魔法を使えば、私はいつか人間ではなくなる。……でも、ベッドの上でただ消えるのを待つだけなんて、嫌なんです」
ルーシィは、少しだけ寂しげに笑い、マカロフを見つめた。
「私は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りたい。ただの病人じゃなくて……魔導士として、仲間になりたいんです」
マカロフは黙って彼女を見つめ、それから豪快に笑った。
「カッカッカ! 病気だろうが、呪われとろうが、そんなことは関係ない。ここへ来た者は、皆、家族じゃ! わしが許す!」
マカロフの手が、魔法のスタンプをルーシィの右手に押し当てる。
色は、彼女に熱を与えてくれた炎と同じ、ピンク色。
「……家族」
その言葉が、ルーシィの胸に深く染み渡った。
冷淡だった実の父からは一度も向けられたことのない、絶対的な肯定と無償の愛。
ルーシィは、溢れそうになる涙を堪えながら、恐る恐るマカロフの顔を覗き込んだ。
「あの……マスター」
「なんじゃ?」
「……さっき、家族って言ってくれたのが、すごく……嬉しくて。その……私、あなたのことを、**『おじいちゃん』**って……呼んでもいいですか……?」
一瞬、部屋が静まり返った。
マカロフは少しだけ驚いたように目を丸くしたが、すぐに目尻を下げ、これ以上ないほど優しい笑顔になった。
「当たり前じゃ。お前はもう、わしの可愛い孫娘じゃからな」
「……おじいちゃん……っ!」
ルーシィは堪えきれず、マカロフの小さな体に顔を埋めて泣いた。
ナツはそれを見て、ニカッと笑って彼女の頭を乱暴に撫でる。
「へへっ、よかったなルーシィ! これで今日から俺たちの仲間だ!」
扉の向こうからは「今日からルーシィは俺たちの妹だ!」「酒だ! 今日は小声で宴だ!」という、不器用な仲間たちの声が聞こえてくる。
鳥籠から逃げ出した星は、ようやく、本当の意味で自分を愛してくれる「家族」の元へと辿り着いたのだった。