星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第34話:見知らぬ家、嘆きの迷宮

マグノリアへの帰路、そしてギルドまでの道のりは、ナツにとって地獄のようだった。

 抱きかかえている少女は、ずっと泣き叫び、暴れていたからだ。

「離してください! 無礼者! 私を元の場所へ返しなさい!」

「暴れるなルーシィ! 俺だよ、ナツだ!」

「知りません! そんな名前、聞いたこともありませんわ!」

 ナツは歯を食いしばり、彼女をギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の中へと運び込んだ。

 扉が開くと、待機していたメンバーが一斉に振り返る。

「ナツ! ルーシィは!?」

「連れ戻した……けどよ……」

 ナツが腕の中のルーシィを下ろす。

 彼女は床に着地するなり、スカートの裾を払い、警戒心剥き出しの目で周囲を睨みつけた。

「……何なのですか、ここは。酒と汗の匂いがする……野蛮な場所……」

 その言葉に、駆け寄ろうとしたリサーナやレビィが足を止めた。

 かつて、彼女が「世界で一番楽しい場所」と呼んだギルドを、彼女は今、汚らわしいものを見る目で見下している。

「あ、あの……ルーちゃん? 私、レビィよ?」

「近寄らないでください!」

 ルーシィの拒絶が、ギルドの空気を凍りつかせた。

 

 マカロフが沈痛な面持ちで歩み出た。

「ルーシィ……ワシじゃ。マスターじゃよ。お前の親代わりのようなものじゃったろう?」

「親……? 冗談はおよしになって。私のお父様はジュード・ハートフィリアただ一人です」

 ルーシィは冷たく言い放ち、そして震える声で叫んだ。

「帰してください! こんな知らない場所、一秒だっているものですか!」

「ルーシィ……」

「嫌……誰も信用できない……助けて、アクエリアス!!」

 彼女は虚空に向かって叫んだ。

 魔力を失った体で、鍵もないのに、必死に友の名を呼ぶ。

「お願い、来て! 私を守って! アクエリアス!!」

 ……シーン。

 何も起きない。水瓶の扉は開かない。

 当然だ。魔力はないし、何より彼女自身が、先ほどアクエリアスに拒絶されたばかりなのだから。

「……なんで……? どうして来てくれないの……?」

 ルーシィはその場に崩れ落ち、膝を抱えた。

 遺跡での出来事がフラッシュバックする。

 再会したはずの親友に、激怒され、頬を叩かれ、置き去りにされた記憶。

「私が……記憶を捨てたから? だから怒ったの……?」

 意味が分からなかった。

 記憶が全くないけど、あなたに会うために、いらない記憶(ゴミ)を捨てたのに。どうして喜んでくれないの?

 どうして、あんなに悲しい顔をしたの?

「……うぅ……怖い……みんな敵……」

 彼女はギルドの隅へと這って逃げ、椅子で作ったバリケードの中にうずくまった。

 そこは、世界一温かいギルドのはずなのに、今の彼女にとっては、冷たい牢獄でしかなかった。

 

 ギルド全体がショックで沈黙する中、『青い天馬』の魔導爆撃艇クリスティーナが到着した。

 降りてきたのは、天才魔導士ヒビキ・レイティスだ。

「……事情は聞いたよ。禁書『嘆きの魔導書』に関わってしまったんだね」

 ヒビキは古文書を広げ、深刻な表情でナツたちに告げた。

「ルーシィちゃんの記憶は、番人に喰われてしまった。……物理的に番人を倒しても、消化された記憶は戻らない」

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!」

「方法は一つ。……番人の『本体』を叩くしかない」

 ヒビキがホログラムを展開する。

「番人は、ルーシィちゃんの記憶と同化している。……つまり、外からじゃ倒せない。君たちが再び彼女の精神世界……いや、『記憶の迷宮』に入り込み、内側から番人の核を壊すしかないんだ」

「記憶の迷宮……」

「ああ。だが、気をつけてくれ。以前、星霊王が開いてくれた精神世界とは訳が違う」

 ヒビキは警告した。

「今度の世界は、彼女が『自ら望んで閉ざした記憶』の世界だ。……侵入者である君たちを、彼女自身の防衛本能が全力で排除しに来るはずだ」

4. 拒絶の迷宮へ

「関係ねぇ」

 ナツは迷わず言った。

 

「何度忘れても、何度拒絶されても……俺はあいつを連れ戻す。……それが仲間だろ」

 グレイ、エルザ、そしてウェンディも頷く。

 ヒビキは「分かった」と頷き、古文書魔法(アーカイブ)を展開した。

 術式が、隅で震えるルーシィを包み込む。

「いやっ! 何を……何をするのですか!」

「ごめんなルーシィ。……少しの間、お前の心にお邪魔するぜ」

 ナツたちは、光の中へとダイブした。

 ――転移完了。

 目を開けたナツたちが立っていたのは、以前のような屋敷の廊下ではなかった。

「……なんだ、ここは」

 そこは、巨大な壁に囲まれた要塞都市のようだった。

 空は鉛色で、冷たい雨が降り注いでいる。

 そして、街の至る所に、『侵入者ヲ排除セヨ』という無機質な看板が立っていた。

「以前は、泣いている子供部屋だった……。でも今回は……」

 エルザが剣を構える。

 地面が揺れ、建物の影から、無数の兵隊人形(ソルジャー)が現れた。

 その顔はすべて、無表情なルーシィの顔をしていた。

『排、除……。排、除……』

「嘘だろ……。これ全部、ルーシィの拒絶心かよ!」

 グレイが氷の造形魔法を構える。

 敵は番人だけではない。

 ルーシィ自身の心が、「ナツたち(自分を連れ去ろうとする野蛮人)」を敵と認識し、全力で殺しにかかってきているのだ。

「甘くなかったな……」

 ナツは炎を拳に纏わせた。

 目の前に広がるのは、彼女が築き上げた、誰も寄せ付けないための孤独の城塞。

 ここを突破し、最奥に眠る「本当の記憶」に辿り着く戦いが始まった。

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