星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第37話:魔力なき参謀、ルーンの綻び

ジリジリと肌を焼くような日差し。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーを乗せた船は、聖地・天狼島へと向かっていた。

「うぷ……気持ちわりぃ……」

「しっかりしてよナツ! もうすぐ着くぞ!」

 船縁でダウンしているナツの背中を、ハッピーがさすっている。

 その様子を眺めながら、ルーシィは隣に立つカナに視線を移した。

 彼女は酒瓶を片手に、険しい顔で水平線を見つめていた。

「……ねえ、カナ」

「ん?」

「どうして、ギルドを辞めようとしてるの? ……S級になれなかったら辞めるなんて、どうしてそんなに自分を追い詰めるの?」

 ルーシィの問いに、カナは酒を一口煽り、寂しそうに笑った。

「……言えないな。まだ」

「え?」

「S級になったら教えてやるよ。……だから、頼むぜ。私の『頭脳』さん」

 カナは茶化すように言ったが、その指先が微かに震えているのをルーシィは見逃さなかった。

 彼女には、何か大きな秘密がある。

 それを賭けて、この試験に挑んでいるのだ。

(……私と同じだ)

 ルーシィは自分の胸元を握りしめた。

 私も、大切なものを失って、それでもここにいる。

 カナの願いを叶えることが、今の私の唯一の存在意義なのかもしれない。

 

 天狼島に上陸した参加者たちの前に、マカロフが現れた。

「第一の試練じゃ! 目の前にある八つのルートから一つを選んで進め! ルートの先には『激闘』『静』『強敵』などが待ち受けておる!」

 よーい、ドン! の合図と共に、ナツやグレイが一斉に走り出す。

 我先にと洞窟へ突っ込んでいく仲間たちを見て、カナが焦る。

「くそっ、私たちも行くぞルーシィ! どのルートだ!?」

「待って、カナ!」

 ルーシィはカナの腕を掴み、洞窟の入り口を冷静に観察した。

「みんな『激闘』を望んでる。ナツやガジルは間違いなく戦闘ルートを選んだわ。……逆に、ウェンディたちは戦いを避けて『静』のルートを探すはず」

「だったら私たちも『静』を……」

「いいえ、駄目よ。この試験にはフリードがいるのよ?」

 ルーシィの瞳が鋭く光る。

「フリードなら、みんなが『楽だ』と思いそうなルートにこそ、強力な術式(罠)を仕掛けるはず。……『静』のルートこそ、一番の地雷原よ」

「なっ、なるほど……!」

「だから、あえて誰も選ばないような……一見すると『悪路』に見えるEルートを行くべきだわ」

 ルーシィが指差したのは、入り口が狭く、不気味な風切り音が聞こえるルートだった。

「風が通ってる。……罠が少ない証拠よ。行きましょう!」

「信じるぜ、相棒!」

 カナとルーシィは、誰も選ばなかったEルートへと飛び込んだ。

 

 洞窟の中は薄暗く、湿っていた。

 しかし、ルーシィの読み通り、道中に目立った罠はなく、順調に進むことができた。

「やるじゃないかルーシィ! これなら第一試験突破も……」

 カナが笑顔を見せた、その瞬間だった。

 バチチチチッ!!

 空間に紫色の電流が走り、行く手を阻んだ。

 闇の文字が空中に浮かび上がる。

『術式展開:進入禁止』

「術式!? フリードか!」

「ようこそ、Eルートへ」

 闇の奥から現れたのは、サーベルを携えた長髪の男フリードと、その背後で人形を操るビックスローだった。

「まさかここを選ぶとはな。……カナ、そしてルーシィか」

「運が悪かったなベイビィ! ここは俺たちの狩場だぜぇ!」

 フリード&ビックスロー。雷神衆の最強コンビだ。

 カナが舌打ちをする。

「チッ、読みが外れたか……!」

「いいえ、想定内よ。……フリードがいるなら、術式があるのは当然だもの」

 ルーシィは冷や汗を流しながらも、フリードを睨みつけた。

 魔力はない。体も弱い。

 けれど、彼女の目は死んでいなかった。

 

「行くぞ! 『魔法の札(マジックカード)』!!」

 カナがカードを投げる。爆炎や氷柱がフリードたちを襲う。

 しかし、フリードは動じることなく剣を一閃させた。

「闇の文字(エクリテュール)・拒絶」

 空中に書かれた文字が壁となり、カナの魔法を全て弾き返す。

「くそっ、硬い!」

「隙ありだぜ! フォーメーション・バリオン!」

 ビックスローの人形たちが四方からカナを取り囲み、レーザーを放つ。

 カナは防戦一方だ。ルーシィは岩陰に隠れることしかできない。

(私が魔法を使えれば……! ウラノ・メトリアで援護できるのに!)

 歯噛みするルーシィ。

 しかし、彼女は気づいた。

 フリードが書いている術式文字(ルーン)の法則に。

(……待って。あの文字の配列……古代ベルベリオン語の変形?)

 小説を書くために勉強した古文書の知識。そして、星霊魔法で培った「魔力の流れ」を読む目。

 魔力を失ったことで、皮肉にも彼女の感覚は鋭敏になり、空間を流れる魔力の「綻び」が見えるようになっていた。

「カナ! 右! 右の壁際を狙って!」

 ルーシィが叫ぶ。

「はぁ!? フリードは正面だぞ!」

「いいから! あそこの文字が、術式の『結び目』になってるの! あそこを壊せば壁が消えるわ!」

 フリードの眉がピクリと動く。

 

「……馬鹿な。魔力のない人間に、術式の構成が見えるはずが……」

「今よカナ!」

「わかった! 『爆発(エクスプロージョン)』!!」

 カナが半信半疑で右の壁へカードを投げる。

 ドォォォォン!!

 爆発と共に、空間に浮かんでいた『拒絶』の文字が、ガラスのように砕け散った。

「術式が……解けた!?」

「今だ! 行けぇぇぇ!!」

 防御壁を失ったフリードたちに、カナの最大火力のカードが直撃する。

「ぐわぁぁぁっ!!」

「うおぉぉぉっ!?」

 煙が晴れると、フリードとビックスローは膝をついていた。

 勝負ありだ。

 

「……信じられん。……術式の弱点を、一瞬で見抜くとは」

 フリードが荒い息でルーシィを見る。

「……私の負けだ。通るがいい」

「やった……勝ったぞルーシィ!」

 カナが歓喜の声を上げてルーシィに抱きつく。

 ルーシィはへなへなと座り込んだ。

「よ、よかったぁ……。外れたらどうしようかと……」

「最高だぜお前! やっぱりお前を選んで正解だった!」

 カナの笑顔を見て、ルーシィの胸に温かいものが広がる。

 魔法は使えない。戦えない。

 それでも、私はまだ「誰かの役に立てる」。

 それは、失意の底にいた彼女にとって、小さな、けれど確かな光だった。

 二人は第一試験を突破し、島の深部へと進む。

 しかし、彼女たちはまだ知らない。

 この島に、妖精の尻尾を根絶やしにしようとする闇ギルド『悪魔の心臓(グリモワールハート)』が迫っていることを。

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