星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第39話:あやつり竜と、導く声

森の奥深く。

 ルーシィは泥にまみれ、這いつくばっていた。

 背後には、悪魔の心臓(グリモアハート)の幹部、華院・ヒカルが迫る。

「逃げても無駄ですよぉ〜ん。……貴方からは、美味しそうな絶望の匂いがしますねぇ〜ん」

 華院が巨大な足を振り上げる。

 その影がルーシィを覆い隠す。

「ひっ……!」

「まずは、その綺麗な足を潰してあげましょうかぁ!」

 ドスゥゥゥン!!

 地面が大きく陥没した。

 ルーシィは間一髪で体を転がして避けたが、衝撃波だけで数メートル吹き飛ばされた。

「あ、がっ……!」

 背中を木に打ち付ける。

 肺が痙攣し、口から血が零れる。

 痛い。苦しい。

 魔力があれば。鍵があれば。星霊を呼んで守ってもらえるのに。

「何もできない……。私には、もう……」

 華院がニヤニヤしながら近づいてくる。

 その手には、不気味な藁人形(ウシコクさん)が握られていた。

「さあ、私の人形になりなさい! 髪の毛を一本いただくわよぉ〜ん!」

「いやぁぁぁっ! 来ないでぇぇ!!」

 ルーシィは悲鳴を上げた。

 死ぬ。ここで、誰にも知られずに、ゴミのように殺される。

 ナツ、助けて。

 

 華院の手が、ルーシィの髪に触れようとした、その瞬間。

 「ルーシィに触るなぁぁぁぁッ!!!!」

 上空から、灼熱の隕石が降り注いだ。

 いや、それは隕石ではない。炎を全身に纏った少年だ。

 ドゴォォォォォン!!

「ぶべらっ!?」

 華院の顔面に、怒りの鉄拳がめり込む。

 巨体がボールのように森の奥へと吹き飛んでいった。

 土煙の中から現れたのは、マフラーをなびかせ、鬼の形相をしたナツだった。

「ナ、ツ……?」

「大丈夫かルーシィ! 遅くなってごめん!」

 ナツが駆け寄り、ボロボロのルーシィを抱き起こす。

 その手は温かく、ルーシィの凍りついた心を一瞬で溶かした。

「ナツ……うぅ、怖かった……!」

「もう大丈夫だ。ハッピーもいるぞ!」

「あい! ルーシィ、生きててよかった!」

 空からハッピーも降りてくる。

 安堵で涙が溢れる。けれど、まだ終わっていない。

「痛いですねぇ〜ん……。よくも私の美しい顔を……!」

 吹き飛ばされた華院が、ゆらりと立ち上がる。

 その体は、先ほどよりも硬質化し、白く輝いていた。

「許しませんよぉ! 丑の刻参り・推参!!」

 

「下がってろルーシィ! 俺がやる!」

 ナツが飛び出す。

 火竜の咆哮!!

 凄まじい炎のブレスが華院を襲う。しかし、華院はその腹で炎を受け止めた。

「効きませぇ〜ん! 私の体は綿より軽く、鉄より硬くなるのですぅ!」

「なんだと!?」

 華院が反撃に出る。

 その身軽な動きでナツの懐に入り込み、強烈な張り手を叩き込む。

「張り手ぇぇぇ!!」

「ぐあぁっ!?」

 ナツが吹き飛ばされ、大木をへし折って倒れる。

 強い。

 ただの力押しでは勝てない相手だ。

「ナツ!!」

「へへっ、面白ぇじゃねぇか……!」

 ナツはすぐに立ち上がるが、華院は不敵に笑い、手にした人形を持ち上げた。

「次は貴方の髪の毛をいただきましょうかねぇ〜ん! 人形に髪をセットすれば、貴方は私の意のままですよぉ!」

「人形……?」

 ルーシィの目が、その人形に釘付けになった。

 あれが彼の魔法の核だ。

「ナツ! あの人形を奪って! あれで魔法を使ってるのよ!」

「あいつか! 分かった!」

 ナツが再加速する。

 華院が攻撃を仕掛けるが、ナツはそれを紙一重でかわし、すれ違いざまに人形を引ったくった。

「取ったどーーっ!!」

「ああっ!? 私のウシコクさんがぁぁ!?」

 

 ナツは人形を奪ったものの、困惑した顔をした。

「で、これどうすんだ? 燃やすか?」

「だめ! それを使えば、相手を操れるかもしれないの!」

 ルーシィが叫ぶ。

 しかし、その人形にはまだ「髪の毛」がセットされていない。

 操るには、対象の一部が必要だ。

「髪の毛……髪の毛……あ!」

 ルーシィは気づいた。

 奪い取った拍子に、ナツが人形を持ったまま炎を出したせいで、人形が少し焦げている。

 いや、ナツの汗や魔力が染み込んでいる。

「ナツ、その人形をハッピーに投げて!」

「おう!」

「ハッピー、キャッチして!」

 ハッピーが空中で人形を受け取る。

 すると、地上にいるナツの体が、ビクンと反応した。

「うおっ!? 体が勝手に……!?」

「やっぱり! ナツの魔力に反応して、ナツ自身とリンクしちゃったんだわ!」

 これだ。

 ルーシィの脳内で、瞬時に作戦が組み立てられる。

 魔力はない。戦えない。

 でも、私には「目」がある。「声」がある。

 そして、誰よりも信頼できる「相棒」がいる!

「ハッピー! そのまま高く飛んで!」

「あいさー!」

「うわぁぁぁ! 俺も浮いたぁぁぁ!」

 ハッピーが人形を持ち上げると、リンクしたナツの体もフワリと浮き上がる。

 華院が目を白黒させている。

「な、何ですかそれはぁ!?」

「今よ! ハッピー、人形の手を右に振って! 思いっきり!」

「こう?」

 ハッピーが人形の右腕をブンと振る。

 すると、空中のナツの右腕も、意志とは無関係に高速で振るわれる。

「うおぉぉぉっ!?」

 その勢いのまま、ナツの拳が華院の顔面にクリーンヒットした。

 バゴォォォン!!

「ぐえぇぇっ!?」

5. 必殺・ルーシィファイア

「いける! これなら勝てるわ!」

 ルーシィは痛みを忘れ、立ち上がって叫んだ。

 彼女はもう、守られるだけの少女ではなかった。

 戦場の司令塔だ。

「ナツ、全身に炎を纏って!」

「お、おう! よく分かんねぇけど燃えてきたぞ!」

 ボォォォォォ!!

 ナツが全身を発火させる。

 ハッピーが持つ人形も、リンクして熱を帯びる。

「あちちち! ルーシィ、熱いよぉ!」

「我慢してハッピー! そのまま人形を高速回転させて!」

「あいさぁぁぁぁっ!!」

 ハッピーが人形をプロペラのように回す。

 すると、炎を纏ったナツもまた、空中で高速回転を始めた。

 まるで、生きた炎の竜巻だ。

「目が回るぅぅぅぅ!!」

「そのまま突っ込んで! 必殺……**『ルーシィファイア』**よ!!」

 ルーシィが指差す。

 その指先は、正確に華院の弱点を捉えていた。

「行っけぇぇぇぇぇ!!!」

 ズドォォォォォォォン!!!!!

 高速回転する炎の弾丸と化したナツが、華院の腹に直撃する。

 鋼鉄より硬いはずのボディが、遠心力と炎の爆発力によって貫かれた。

「ひでぶっ!!」

 華院は星の彼方へと吹き飛ばされ、森に静寂が戻った。

 ドサッ。

 ナツが目を回して地面に落ちてくる。

「……か、勝った……」

 ルーシィはその場にへたり込んだ。

 魔法は使えなかった。一発も殴っていない。

 けれど、これは紛れもなく、三人で掴み取った勝利だった。

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