星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第40話:輝きの代償、巨星墜つ

華院・ヒカルが星の彼方へ消えた後、森には静寂が戻った。

 目を回していたナツが、ブルブルと頭を振って立ち上がる。

「うおぉ……世界が回る……」

「大丈夫、ナツ? ハッピーも」

「あい……。でも、勝ったよルーシィ!」

 ハッピーがナツの奪還した人形を掲げる。

 ナツはニカっと笑い、ルーシィの肩を叩いた。

「すげぇなルーシィ! あんな戦い方、俺じゃ絶対思いつかねぇよ! お前の指示、バッチリだったぞ!」

「……うん。ありがとう」

 ルーシィは少し照れくさそうに笑ったが、すぐに表情を曇らせた。

 視線は、森の奥――カナが走り去った方向へ向けられている。

「……カナ」

「あいつ、一人で行っちまったのか?」

「うん。……試験をクリアしなきゃって、すごく焦ってて……」

 ルーシィは泥だらけの拳を握りしめた。

 カナを責める気にはなれなかった。彼女がどれほどの想いで、父親(ギルダーツ)に認めてもらおうとしているかを知ってしまったから。

 でも、この状況で単独行動は危険すぎる。

「追いかけよう、ナツ! カナが危ない!」

「おう! 急ぐぞ!」

 

 その頃、カナ・アルベローナは、島の聖地である洞窟の最奥――初代マスター・メイビスの墓前に辿り着いていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」

 息を切らし、墓石に手をつく。

 静謐な光が満ちる場所。ここがゴールだ。これで試験はクリアだ。

 S級になれる。パパに会える。

 なのに、カナの心臓は早鐘を打ち、胃がひっくり返るような吐き気に襲われていた。

「……私は……最低だ……」

 脳裏に焼き付いているのは、自分を止めようとして転んだルーシィの姿。

 魔力のない、無力な友人を、敵だらけの森に置き去りにしてきた。

 自分のエゴのために。

「……こんな私が、S級魔導士になんて……」

 涙が墓石に落ちる。

 その時、墓が強く輝き出した。

 光の中から、カードが一枚浮かび上がる。

 それは、妖精の三大魔法の一つ――**『妖精の輝き(フェアリーグリッター)』**を与えるためのカードだった。

『……力を求める者よ』

 優しい声が響く。メイビスの声だ。

 カナは震える手でそのカードを掴んだ。

 莫大な魔力が流れ込んでくる。敵を滅する絶対の光。

 最強の魔法を手に入れた。

 けれど、その輝きは、カナの罪悪感をより一層深く照らし出すだけだった。

「……ごめん、ルーシィ……。今すぐ助けに行くから……!」

 カナは「輝き」を右腕に宿し、来た道を全力で引き返した。

 

 一方、ナツとルーシィは森の中を疾走していた。

 その途中で、血の匂いが漂ってきた。

「こっちだ!」

 藪をかき分けると、そこには傷ついた仲間たちの姿があった。

 評議院のメスト(ドランバルト)と、ウェンディ、そしてシャルルとリリーだ。

 皆、ボロボロで倒れている。

「ウェンディ! シャルル!」

「ルーシィさん……ナツさん……」

 ウェンディが苦しげに目を開ける。

 敵の幹部・アズマとの戦闘で消耗しきっているようだ。

「ひどい怪我……!」

 ルーシィは駆け寄るが、手が止まった。

 治癒魔法は使えない。包帯も薬もない。

 魔力がない自分には、痛みを和らげることすらできない。

「……ごめん。私、何も持ってなくて……」

 無力感が胸を刺す。

 しかし、ウェンディは薄く微笑んで、自分の手をルーシィの手に重ねた。

「謝らないでください……。ルーシィさんが無事で、よかったです……」

「ウェンディ……」

「ルーシィさんがいてくれるだけで……ホッとしますから」

 その言葉に、ルーシィは唇を噛み締め、涙をこらえた。

 泣いている場合じゃない。今は私がしっかりしなきゃ。

「シャルル、リリー、動ける? とりあえずキャンプ地まで戻ろう。……ここじゃ敵の的よ」

4. 絶望の報せ

 その時だった。

 ズズズズズ……!!

 島全体が悲鳴を上げるような、重く、不吉な振動が走った。

「な、なんだ今の揺れは!?」

「魔力が……島の魔力が歪んでる……!」

 シャルルが怯えて空を見上げる。

 そこへ、念話魔法(テレパシー)が飛び込んできた。

 ウォーレンの声だ。

『みんな! 聞こえるか! ……マ、マスターが……!!』

 ウォーレンの声は震えていた。

『マスター・マカロフが……「悪魔の心臓」のマスター・ハデスに敗れた……!!』

「!!?」

 その場にいた全員の時間が止まった。

 ナツの目が見開かれる。

 あの最強のマカロフが、負けた?

 自分たちの親であり、絶対的な守護者であるマスターが?

「嘘だろ……じっちゃんが……」

「そんな……嘘です……」

 ウェンディが顔を覆う。

 それは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとって「敗北」以上の意味を持っていた。

 心の支柱が折れたのだ。

5. 総力戦の幕開け

 絶望的な空気が流れる中、ルーシィは震える足を叩き、立ち上がった。

「……まだ、終わってない」

「え?」

「マスターが負けたとしても……私たちはまだ生きてる。ナツも、グレイも、エルザもいる」

 ルーシィの声は震えていたが、その瞳は強く前を向いていた。

 魔力を失い、一度は全てを諦めた彼女だからこそ、今の「生」にしがみつく強さを持っていた。

「集まろう。キャンプ地へ。……みんなで力を合わせなきゃ、この島は沈むわ」

 ナツが顔を上げ、拳を握りしめた。

 怒りの炎が再び燃え上がる。

「……ああ。そうだな。ハデスだか何だか知らねぇが……じっちゃんの敵は俺が討つ!」

「行きましょう、皆さん!」

 傷ついた体を引きずり、彼らは動き出した。

 マカロフの敗北という絶望を背負いながら、妖精たちは最後の反撃の狼煙を上げるために集結する。

 そしてその先には、罪を抱えたカナと、最強の敵・ブルーノートが待ち受けていた。

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