星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第41話:砕かれた輝き、父の背中

天狼島の森を、カナは走っていた。

 右腕には、メイビスから託された『妖精の輝き(フェアリーグリッター)』の紋章が刻まれている。

「……ルーシィ! どこだ!?」

 友を探す。謝らなければならない。そして、この強大な力で守らなければならない。

 しかし、その行く手を阻むように、森の空気が一変した。

 ズンッ……!

 強烈な圧力が全身にかかり、カナはその場に膝をついた。

「な、なんだ……この重圧は……!」

「ほう。……随分と珍しい魔力を持った羽虫がいるな」

 木々がひしゃげ、地面が陥没していく中、一人の大男が現れた。

 悪魔の心臓(グリモワールハート)の副司令官、ブルーノート・スティンガー。

「貴様か。……メイビスの墓を持ってきたのは」

 ブルーノートがカナの右腕を一瞥する。

 その視線だけで、心臓が握り潰されそうな恐怖を感じた。

「墓の場所を教えろ。……そうすれば、楽に殺してやる」

「ふ、ふざけるな……! 誰が教えるかよ!」

 カナは歯を食いしばり、立ち上がろうとするが、重力魔法の影響で体が鉛のように重い。

 

(……ここで私がやらなきゃ、ルーシィも、みんなも殺される!)

(私が手に入れたこの力は……ギルドを守るための光だ!)

 カナは右腕を掲げた。

 贖罪の念と、仲間を守りたいという願いを込め、最強の魔法を発動させる。

「集え! 妖精を導く川の光よ! 照らせ! 邪悪なる爪牙を滅する為に!!」

 森が眩い光に包まれる。

 天空から巨大な光の輪が出現し、ブルーノートを取り囲んだ。

「妖精の輝き(フェアリーグリッター)!!!」

 ズドォォォォン!!

 絶対不可避の光の奔流が、ブルーノートを直撃する。

 やった。これならどんな敵でも――!

「……ぬるい」

 しかし、光の中でブルーノートは冷酷に言い放った。

「なっ……!?」

「輝きは素晴らしい。だが、使い手が未熟すぎる」

 ブルーノートが片手をかざす。

 

「落ちろ」

 ゴゴゴゴゴゴ……バキンッ!!

 最強のはずの『妖精の輝き』が、見えない重力によって捻じ曲げられ、ガラス細工のように粉々に砕け散った。

 光の粒子が地面に落ち、消えていく。

「嘘……でしょ……」

 カナは呆然とした。

 友を捨ててまで手に入れた力が、こうも呆気なく破られるなんて。

 

「遊びは終わりだ」

 ブルーノートが手を振り下ろす。

 ドォォォォン!!

 カナの体が地面にめり込む。骨が軋み、内臓が悲鳴を上げる。

「が、はっ……!」

「墓の場所を言え。言わねば、このままミンチにしてやる」

 重力が強まる。

 もう声も出ない。指一本動かせない。

 死ぬ。ここで死ぬんだ。

 S級にもなれず、父親に名乗ることもできず、ルーシィに謝ることもできず。

(……ごめん、ルーシィ……)

(……助けて……パパ……!!)

 薄れゆく意識の中で、カナは心の中で叫んだ。

 その時だった。

 ガシャァァァァァァァン!!!!!

 上空から、空間そのものが割れるような衝撃音が響いた。

 ブルーノートの重力場が、一瞬にして霧散する。

「……何者だ」

 ブルーノートが顔を上げる。

 舞い上がる土煙の中、一人の男がカナの前に立っていた。

 ボロボロのマント。無精髭。そして、世界を揺るがすほどの圧倒的な魔力。

「……娘に、何してやがる」

 ギルダーツ・クライヴ。

 妖精の尻尾最強の魔導士が、鬼の形相でそこに立っていた。

 

「ギル……ダーツ……?」

 重圧から解放されたカナが、掠れた声で名を呼ぶ。

 ギルダーツは振り返らず、ブルーノートを睨みつけたまま言った。

「遅くなってすまねぇ、カナ。……よく頑張ったな」

「……う、うぅ……」

「後は任せろ。……俺のギルドの子供に手を出した代償は、高くつくぞ」

 ギルダーツの足元の地面が、怒りの魔力で粉砕されていく。

 ブルーノートがニヤリと笑う。

「ほう。貴様がギルダーツか。……潰しがいがありそうだ」

 二人の怪物が対峙する。

 そのプレッシャーだけで、周囲の空間が歪む。

 

「カナ!!」

 そこへ、ナツとルーシィが茂みをかき分けて飛び出してきた。

「ルーシィ……!」

「カナ! 無事!?」

 ルーシィは地面に倒れているカナに駆け寄り、抱き起こした。

「よかった……! 生きててよかった……!」

「ごめん……ごめんよ、ルーシィ……! 私、お前を置いて……!」

 カナが泣きじゃくる。

 ルーシィは首を振って、彼女を強く抱きしめた。

「いいの。無事ならそれでいいの。……それに、見て」

 ルーシィが視線を向ける先。

 そこには、ギルダーツの背中があった。

「パパが、来てくれたよ」

 カナの瞳から涙が溢れ出す。

 その背中は、彼女がずっと追いかけ、焦がれていた「世界一強くて優しい父親」の背中だった。

「ナツ、ルーシィ。カナを頼む」

 ギルダーツが静かに告げる。

「ここからは、大人の喧嘩だ」

 ドゴォォォォォォン!!

 ギルダーツの拳とブルーノートの重力が激突する。

 島全体を揺るがす頂上決戦が、今始まった。

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