星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

43 / 61
第42話:悪魔の艦、鼓動のありか

 ズズズズズ……!!

 ギルダーツとブルーノートの魔力が衝突し、天狼島の空間が軋みを上げる。

 立っているだけで押しつぶされそうなプレッシャーの中、ギルダーツは背中で語りかけた。

「行け、カナ。ルーシィ。……ナツたちと合流するんだ」

「で、でも……!」

「俺はこいつを片付けたらすぐに行く。……お前たちには、まだやるべきことがあるはずだ」

 その言葉に、カナはハッとして涙を拭った。

 そうだ。ここで立ち止まっている場合じゃない。

 この島を、ギルドを守るために、元凶であるハデスを倒さなければならない。

「……うん。……死なないでよ、パパ!」

 カナが初めて叫んだ「パパ」という言葉に、ギルダーツの肩がビクリと震え、そして嬉しそうに揺れた気がした。

「ああ。……約束する」

 ナツとルーシィ、そしてカナは、最強の父親に背中を預け、戦場を後にした。

 

 森を抜け、島の開けた場所に出ると、そこには既に仲間たちが集結していた。

 グレイ、エルザ、ウェンディ、そしてガジルたち。

 全員が傷だらけで、満身創痍だ。しかし、その目は死んでいない。

「ナツ! ルーシィ!」

「みんな、無事だったか!」

 合流を喜ぶ暇もなく、彼らの視線は一点に集中していた。

 上空に浮かぶ巨大な飛行戦艦。悪魔の心臓の本拠地だ。

 あそこに、マスター・マカロフを倒したハデスがいる。

「じっちゃんの敵(かたき)……ハデスはあそこだ」

 ナツが炎を噴き上げる。

「乗り込むぞ! これ以上、好きにはさせねぇ!」

「ああ。この落とし前は高くつくぞ」

 グレイが氷を生成し、エルザが剣を構える。

 しかし、ルーシィだけは一歩引いて、不安そうに船を見上げていた。

(……私が行ってもいいのかな)

 戦える力はない。足手まといになるだけかもしれない。

 けれど、ナツが振り返り、手を差し出した。

「行くぞ、ルーシィ」

「え……?」

「お前は俺たちの『目』だ。……頼りにしてる」

 その言葉に、ルーシィは強く頷いた。

 魔力はなくとも、私は妖精の尻尾の一員だ。

「うん! 行こう!」

 ウェンディの補助魔法(エンチャント)で身体能力を強化された一行は、一気に跳躍し、空飛ぶ船へと乗り込んだ。

 

 船内への侵入は容易だった。

 いや、あえて招き入れられたようだった。

 最奥の玉座の間。そこには、眼帯をした老人が一人、静かに座っていた。

「……よく来たな、妖精の子供たちよ」

 ハデス。

 かつての名をプレヒト・ゲイボルグ。

 妖精の尻尾の創設メンバーの一人であり、メイビスの意志を継ぐはずだった男。

「てめぇがハデスか……! じっちゃんの敵!」

 ナツが突っ込む。

 火竜の鉄拳!!

 しかし、ハデスは指一本動かさず、ただ見つめただけでナツを吹き飛ばした。

「ぐはぁっ!?」

「ナツ!?」

 見えない鎖のような魔力が、ナツの手足を拘束する。

 グレイとエルザが同時に攻撃を仕掛けるが、それもまた、ハデスの片手で軽くあしらわれた。

「魔法の深淵を覗いたことがない者には、私の魔法は理解できん」

 圧倒的だった。

 次元が違う。マカロフが敗れたのも納得できるほどの、底なしの魔力。

「……ん? 其処な無力な娘はなんだ?」

 ハデスの視線が、後方で戦況を見つめるルーシィに向けられた。

「魔力がない。……ただの人間か。なぜこのようなゴミがここにいる?」

「……っ!」

 ゴミ。

 その言葉がルーシィの古傷を抉る。

 しかし、ナツが鎖を引きちぎらんばかりに叫んだ。

「ゴミじゃねぇ! ルーシィは俺たちの仲間だ!」

「仲間? 魔道の道を歩めぬ者がか? ……滑稽だな。魔法こそが全て。力なき者に価値はない」

 ハデスが指を振ると、黒い波動がルーシィを襲った。

 ウェンディが盾になるが、防ぎきれずに二人とも吹き飛ばされる。

 

「きゃぁぁぁっ!」

「ルーシィさん!」

 壁に叩きつけられたルーシィは、激痛に顔を歪めた。

 やはり、来るべきじゃなかったのか。

 ハデスの言う通り、魔力のない私は、ただのゴミなのか。

(……いいえ、違う)

 ルーシィは床に耳を押し当てていた。

 魔力を失ったことで研ぎ澄まされた感覚。

 彼女は、この船全体に流れる「魔力の血管」のような音を聞いていた。

(……おかしい)

 ハデスの魔力は強大だ。けれど、それは彼自身から湧き出ているものではない。

 どこか別の場所から供給され、循環しているような違和感。

 そして、その供給源と思われる場所から、ドクン、ドクンという、生き物のような鼓動が聞こえる。

「……心臓?」

 ルーシィはハッとした。

 『悪魔の心臓(グリモアハート)』。そのギルド名の由来。

 ハデス自身の強さの秘密。

「……ナツ! みんな! ハデスを狙っても駄目よ!」

 ルーシィは叫んだ。

 その声は、戦場によく通った。

「え?」

「この人の魔力は無限じゃない! ……船よ! 船の底から魔力が送られてる!」

 ハデスの眉がピクリと動いた。

「……ほう。魔力なき分際で、魔導の理(ことわり)が見えるか」

 図星だ。

 ルーシィは確信した。

「ハッピー! シャルル! リリー! 船の動力室へ行って! そこに『心臓』があるはずよ!」

「心臓!?」

「それを壊せば、このお爺さんの魔力供給が止まるわ!」

 猫たちが顔を見合わせる。

「分かった! 行くぞ!」

「あいさー!」

 エクシードたちが一斉に飛び立つ。

 ハデスが初めて焦りの色を見せ、迎撃しようと手を挙げた。

「小賢しい……!」

「行かせるかよぉぉぉ!!」

 ナツが鎖を炎で焼き切り、ハデスの前へ立ちはだかった。

 グレイ、エルザ、ウェンディ、そしてカナも続く。

「ルーシィの言う通りだ! 心臓を止めるまで、ここを死守するぞ!」

「おう!!」

 魔力を失った少女の一声が、最強の敵を倒すための唯一の勝機(ルート)を切り開いた。

 ゴミなんかじゃない。

 彼女は今、この戦場の司令塔として、確かにそこに立っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。