星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜 作:暁 蒼空
ハデスの飛行戦艦、動力室。
無数のパイプが張り巡らされたその中心で、巨大な機械仕掛けの心臓がドクンドクンと不気味な脈動を続けていた。
「うぅ……気持ち悪い音……」
「これが『悪魔の心臓』……! 艦の動力源であり、ハデスの魔力の源!」
シャルルが顔をしかめる。
ハッピーとリリーも到着した。
「これを壊せば、あのお爺ちゃんは弱くなるんだね!」
「ああ。ルーシィの読みが正しければな」
リリーが巨体化(バトルモード)し、大剣『ムジカの剣』を構える。
「やるぞ! ナツたちのために!」
「あいさー!!」
三匹のエクシードが同時に突っ込む。
警備の兵士たちが現れるが、リリーが一閃で吹き飛ばす。
「いっけぇぇぇぇ!!」
ズバァァァン!!
リリーの剣が、機械の心臓を深々と貫いた。
さらにハッピーとシャルルが、剥き出しになった回路を引きちぎる。
ドクン……ド……ク……ン…………プシュゥゥゥ……。
不気味な鼓動が止まり、艦全体から力が抜けていくような音が響いた。
玉座の間。
ハデスの動きがピタリと止まった。
「な……!? 私の魔力が……供給されないだと!?」
その顔に、初めて焦燥の色が浮かぶ。
無限にあったはずの魔力が、底をつき始めたのだ。
「今だナツ! 心臓は止まったわ!」
ルーシィが叫ぶ。
その声に応えるように、天井を突き破って、一筋の雷光が降り注いだ。
バリバリバリッ!!
「なっ、ラクサス!?」
現れたのは、破門されたはずの雷の滅竜魔導士、ラクサス・ドレアーだった。
彼はハデスに強烈な一撃を見舞うが、すぐに膝をついた。彼もまた、ここまで来るのに消耗していたのだ。
「……ナツ! 俺の分まで食らいやがれ!」
「ラクサス!?」
「ジジイの敵討ちだ……! テメェに託すぞ!!」
ラクサスは残った魔力の全てを雷に変え、ナツへと手渡した。
ナツはそれを口を開けて飲み込む。
ゴォォォォォォォ……!!
炎と雷。相反する二つの属性が、ナツの体内で混ざり合い、爆発的なエネルギーへと変わる。
「うおおおおおおっ!! 力が……湧いてくるぅぅぅ!!」
全身に雷を纏った炎竜。
モード・雷炎竜。
「馬鹿な……属性融合だと!?」
「行くぞハデス! これが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力だぁぁぁ!!」
滅竜奥義・改『紅蓮爆雷刃』!!!
雷を帯びた炎の斬撃が、ハデスを襲う。
心臓を失い、防御障壁も張れないハデスに、それを防ぐ術はなかった。
「ぬうぉぉぉぉぉっ!!」
最強の闇魔導士が、光の中に消えていく。
そして、飛行戦艦は轟音と共に天狼島の森へと墜落した。
土煙が晴れると、そこにはボロボロになった妖精たちの姿があった。
ハデスは倒れ、もう動かない。
完全勝利だ。
「か、勝った……」
「やったぞ……!」
グレイとエルザが肩を組み、ウェンディが座り込む。
ナツも変身を解き、大の字に寝転がった。
「へへっ……ざまぁみろ……」
そこへ、ルーシィが駆け寄ってくる。
泥だらけで、あちこち擦り傷だらけの彼女。
「ナツ! みんな! 無事!?」
「おう、ルーシィ。……お前のおかげだ」
ナツが身を起こし、ニカっと笑った。
「お前が心臓の場所を見つけてくれなきゃ、勝てなかった。……やっぱりお前は、すげぇよ」
「え……」
「魔力がなくたって、お前は立派な妖精の尻尾の魔導士だ!」
その言葉に、ルーシィの目から大粒の涙が溢れた。
足手まといだと思っていた。ゴミだと言われた。
でも、役に立てた。みんなを守れた。
その事実が、彼女の空っぽだった心を少しだけ満たしてくれた。
「う、うん……! よかった……本当によかった……!」
カナも駆けつけ、ギルダーツも合流する。
戦いは終わった。誰もがそう確信し、安堵の空気が流れた。
しかし。
その安堵は、あまりにも唐突に、そして暴力的に破られた。
ドクン。
ルーシィの心臓が、早鐘を打った。
魔力を失った彼女の鋭敏な感覚が、とてつもない「死」の接近を捉えたのだ。
ハデスの時とは比べ物にならない。
これは魔法ではない。災害だ。
「……なに、これ……?」
「おい、どうしたルーシィ?」
「逃げて……」
ルーシィはガタガタと震え出した。
「逃げて!! 空から……『終わり』が来る!!」
その直後。
ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!!
上空の雲が、一瞬にして消し飛んだ。
現れたのは、夜空のような黒い翼。
世界を絶望で塗りつぶす、黙示録の獣。
『■■■■■■■■■■■――ッ!!!!』
咆哮。
ただの声ではない。大気そのものを震わせ、魂を凍りつかせる破壊の音波。
島中の木々がなぎ倒され、立っていることすらできない。
「な、なんだあれは……!?」
「ドラゴン……!?」
ギルダーツの顔色が、一瞬にして蒼白になった。
彼は知っている。百年クエストで、自分を半殺しにした存在を。
「黒龍……アクノロギア……!!」
伝説の竜が、ゆっくりと天狼島の上空を旋回し始めた。
その瞳は、虫ケラを見下ろすように、無慈悲に輝いていた。
勝利の喜びなど、塵のように吹き飛んだ。
そこにあるのは、絶対的な「死」のみだった。