星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第46話:妖精の目覚め、空白の座席

 眩しい朝陽が、森の木々を照らしていた。

 小鳥のさえずりが聞こえる。

 地面に大の字になっていたナツは、むくりと起き上がった。

「ふわぁ〜……よく寝た!」

 彼は大きく伸びをし、隣で寝ているハッピーを揺すった。

「おいハッピー、起きろ! 朝だぞ!」

「あい……。魚……」

「腹減ったなー。昨日の黒い竜、どこ行ったんだ?」

 周囲を見渡すと、グレイやエルザ、他のメンバーたちも次々と目を覚ましていた。

 皆、体に傷はなく、魔力も回復しているようだった。

「……助かったのか?」

「あの光……初代様の魔法か?」

「とにかく、みんな無事のようじゃな!」

 マカロフが安堵の声を上げる。

 彼らの感覚では、アクノロギアの咆哮から一晩が明けただけだった。

 誰も、自分たちが7年間もの間、時を凍結されていたとは夢にも思っていなかった。

「よし! ギルドへ帰るぞ! 腹いっぱい飯食わせろ!」

「あいさー!」

 ナツたちは意気揚々と船(魔法で即席で作ったものや、迎えに来たエクシードたち)に乗り込み、天狼島を後にした。

 

 マグノリアの港に到着した時、最初に違和感を覚えたのはウェンディだった。

「あれ……? 街の様子が、少し変じゃありませんか?」

 建物が増えているような、あるいは古びているような。

 看板のデザインも、流行りの服も、記憶にあるものとは微妙にズレている。

「気のせいだろ。ほら、急ごうぜ!」

 ナツは気にせず、ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』があった場所へと走った。

 しかし。

「……え?」

 そこには、ギルドはなかった。

 代わりに、全く別の商店が建っていた。

「な、なんだこれ!? ギルドがねぇぞ!?」

「場所を間違えたのか? いや、確かにここだぞ……」

 エルザが困惑する。

 通りかかった住人に尋ねると、驚くべき答えが返ってきた。

「フェアリーテイル? ああ、あのボロいギルドなら、街外れの丘の上だよ。……まだあったんだねぇ」

 ボロいギルド? まだあった?

 不審に思いながらも、一行は教えられた場所へ向かった。

 そこにあったのは、風車小屋のような、小さなボロボロの建物だった。

「……ここが、今のギルド?」

 ナツがおそるおそる扉を開ける。

「たのもー……」

 

 ギルドの中には、数人のメンバーが暗い顔で酒を飲んでいた。

 しかし、扉が開いた瞬間、全員がグラスを落として固まった。

「……な、ナツ……にい……?」

 声を上げたのは、背の高い青年だった。

 ナツは首を傾げた。

「誰だお前? ……ロメオか!?」

「ロメオ!? こんなにデカくなったのか!?」

 グレイが驚愕する。

 さらに、奥から出てきたマカオやワカバは、白髪が増え、すっかり老け込んでいた。

「嘘だろ……。お前ら、生きてたのか……!?」

「マカオ、老けすぎだろ! 一日で何があったんだよ!」

「一日だと!? 馬鹿野郎!!」

 マカオが泣きながらナツに抱きついた。

「7年だぞ!! お前らがいなくなってから、7年も経ったんだぞ!!」

「……は?」

 ナツたちの時間が止まった。

 7年。

 自分たちが眠っている間に、世界は7回も回っていたのだ。

 アルザックとビスカが結婚して子供がいること、ギルドが借金まみれで落ちぶれたこと。

 次々と明かされる衝撃の事実に、ナツたちは言葉を失った。

 

 しかし、再会の喜びと衝撃が一段落した頃、ナツはふと周囲を見渡した。

「あれ? そういえば……ルーシィは?」

 その場が静まり返った。

 ナツは、人混みの中に彼女がいるものだと思っていた。

 だが、どこにも金髪の少女の姿はない。

「ルーシィ? ……お前たちと一緒じゃなかったのか?」

 マカオが怪訝な顔をする。

 ナツの顔から血の気が引いた。

「は? いや、あいつ……魔力がなかったから、スフィアに入れたか分かんねぇけど……でも、俺たちが目覚めた時にはいなかったから、てっきり先に帰ったんだと……」

「帰ってきてねぇよ」

 ワカバが首を横に振る。

「天狼島が消滅した時、あの子の姿も見つからなかった。……だから俺たちはてっきり、ナツたちと一緒に『消えた』んだと思ってたんだ」

 認識のズレ。

 ナツたちは「ギルドに帰った(あるいは自分たちとは別に助かった)」と思い、ギルド側は「ナツたちと一緒にいる」と思っていた。

「じゃあ……ルーシィは?」

 誰も答えない。

 ただ、重苦しい沈黙が落ちた。

 7年間。

 彼女は、天狼島にも、マグノリアにもいなかった。

 つまり――。

「行方不明……ってことかよ」

 グレイが絞り出すように言った。

 ナツは震え出した。

「嘘だろ……。あいつだけ、7年間も……一人で……?」

 魔力のない体で。たった一人で。

「探すぞ!!」

 ナツが叫び、ギルドを飛び出した。

 匂いを辿る。痕跡を探す。

 しかし、7年という歳月は、あまりにも残酷に痕跡を消し去っていた。

 

 マグノリア中を駆け回るナツたちの姿を、遠く離れた森の木陰から見つめる二つの影があった。

 フードを被ったウルティアとメルディだ。

「……戻ってきたのね、彼ら」

 ウルティアが静かに呟く。

 メルディは、視線の先にいるナツを見て、複雑な表情を浮かべた。

「ウルティア。……ルーシィに、教えてあげないの? ナツたちが生きてたって」

「……だめよ」

 ウルティアは冷徹に首を振った。

「今の彼女に彼らを会わせれば……彼女の心は完全に壊れるわ」

 7年という時間は長すぎた。

 ナツたちは昔のままの姿で、未来への希望に満ちている。

 対してルーシィは、病み衰え、精神を病み、24歳という年齢を重ねてしまった。

 その対比は、ルーシィにとって「自分だけが置いていかれた」という絶望を決定づける凶器にしかならない。

「それに……彼女は今、やっと落ち着いているの。『彼らは死んだ』という世界の中で」

「……うん。そうだね」

 メルディも納得したように頷く。

 それは、歪んだ優しさだったかもしれない。

 けれど、壊れかけのルーシィを守るためには、彼女たち『魔女の罪』が、この秘密を墓場まで持っていく覚悟で隠し通すしかなかった。

「行きましょう。……ルーシィが目を覚ます時間よ」

 二人は背を向け、森の奥深くにある隠れ家へと消えていった。

 ナツの声が、届かない場所へ。

 捜索は数日続いたが、結局、ルーシィの手がかりは何一つ掴めなかった。

 ギルドにお祭り騒ぎが戻ることはなく、ただ一つの「空席」が、ナツの心に暗い影を落とし続けていた。

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