星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第49話:伏魔殿の女王、あり得ない来訪者

 大魔闘演武、3日目。

 競技パート『伏魔殿(パンデモニウム)』。

 会場は、静まり返った後、爆発的な歓声に包まれた。

「うおおおおおおっ!! 信じらんねぇぇぇ!!」

「100体のモンスターを……たった一人で全滅させたぁぁぁ!!」

 アリーナの中央、傷だらけで剣を掲げるエルザ・スカーレットの姿があった。

 他のギルドに出番すら与えず、全ての魔物を討伐するという離れ業。

 かつての「妖精の女王(ティターニア)」の完全復活だった。

「すっげぇぞエルザ! やっぱお前が一番だ!」

 ナツが身を乗り出して叫ぶ。

 会場の空気は完全に変わった。

 ブーイングは消え、誰もが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の強さに畏怖し、熱狂していた。

 彼らは、再び頂点へと駆け上がろうとしていた。

 

 森の隠れ家。

 ウルティアは、魔法水晶(ラクリマ)のスイッチを切ろうとしていた。

「……もう見せない方がいい。昨日の二の舞になるわ」

「待って、ウルティア」

 メルディがその手を止める。

「見せてあげようよ。……ルーシィは、本当は見たいはずだもん」

「でも、彼女の心が……」

「私がついてるから。……お願い」

 メルディの懇願に、ウルティアはため息をつき、再び水晶を起動させた。

 ベッドの上で、ルーシィは膝を抱えていた。

 やつれた顔。生気のない瞳。

 しかし、水晶に映るエルザの勇姿を見た瞬間、その瞳にわずかな光が宿った。

「……エルザ……」

「勝ったよ、ルーシィ。すごいね」

 メルディが優しく語りかける。

 ルーシィは震える手で自分の汚れた服を握りしめた。

「……綺麗……」

 強い。美しい。眩しい。

 あんな風になりたかった。あそこで一緒に戦いたかった。

 その羨望は、同時に激しい自己嫌悪を連れてくる。

「私なんて……こんなに薄汚れて……」

 鏡に映る自分は、24歳という実年齢以上に老け込み、魔力を失って枯れ木のように痩せ細っている。

 あんな眩しい場所には行けない。ナツに会わせる顔がない。

「でも……」

 ルーシィは涙を堪え、食い入るように水晶を見つめた。

「見届けたい……。私の大好きだったギルドが……一番になるところを……」

 会えなくてもいい。忘れられていてもいい。

 せめて、彼らの栄光を目に焼き付けたい。

 それは、彼女に残された最後の「生きる理由」だった。

 

 その頃。

 大会の裏側で、不穏な影が動いていた。

 ジェラールは、会場周辺に漂う「ゼレフに似た魔力」を感知し、路地裏を走っていた。

「見つけたぞ! 不審者!」

 ジェラールは、フードを目深に被った小柄な人物を追い詰めた。

「何者だ。……なぜゼレフの魔力を帯びている?」

 人物はゆっくりと振り返り、震える手でフードを下ろした。

 露わになった顔を見て、ジェラールは驚愕に目を見開いた。

「な……!?」

 そこにいたのは、金髪の女性。

 右手に妖精の尻尾の紋章。

 ルーシィ・ハートフィリアだった。

「……助けて……」

 彼女は涙を流して崩れ落ちた。

 ジェラールは混乱した。

 ルーシィ? なぜここに?

 いや、それ以前におかしい。

(違う……! 私の知っているルーシィとは、全く違う!)

 ウルティアたちから報告を受けている「現在のルーシィ」は、魔力を失い、病床に伏せっているはずだ。

 だが、目の前の彼女は傷ついてこそいるが、肉体的には健康そのものだ。

 何より――

(魔力がある……!? それも、かなり強い星霊魔導士の魔力が!)

 あり得ない。

 魔力を喪失したはずの彼女が、なぜ魔力を帯びている?

 なぜ7年前と変わらぬ姿でここにいる?

「君は……一体、どこのルーシィなんだ……?」

 未来から来たルーシィ(未来ルーシィ)。

 彼女の出現は、この世界の「理(ことわり)」とは異なる、別の時間軸の存在を示唆していた。

 

 隠れ家。

 水晶の中では、ナツたちが勝利を祝い、笑顔で肩を組んでいた。

 その笑顔を見るたびに、ルーシィの心臓が早鐘を打つ。

「うっ……くっ……」

「ルーシィ!?」

 突然、ルーシィが胸を押さえて苦しみ出した。

 呼吸が荒くなり、視界が明滅する。

(ナツ……笑ってる……)

(私のいない世界で……そんなに楽しそうに……)

 喜びと、疎外感。

 相反する感情が、弱りきった精神に過負荷をかける。

「はぁっ、はぁっ……! あ、頭が……割れる……!」

「マズイわ! 見るのをやめさせて!」

 ウルティアが叫び、水晶の映像を切った。

 しかし、もう遅かった。

「嫌ぁぁぁっ! 置いてかないで! 私を見てよぉぉぉ!!」

 プツン。

 理性の糸が切れる音がした。

 ルーシィはベッドの上でのたうち回り、白目を剥いて痙攣し始めた。

「ルーシィ!! しっかりして!!」

 メルディが必死に抱きしめるが、ルーシィのうわごとは止まらない。

「ごめんなさい……汚くてごめんなさい……! もう見ないから……! だから……私のこと忘れないでぇ……ッ!!」

 口から泡を吹き、意識が混濁していく。

 限界だった。

 遠く離れた場所からの「応援」すら、今の彼女には猛毒だったのだ。

 隠れ家に、少女の断末魔のような悲鳴が響き渡る。

 一方、路地裏ではジェラールが「健康なルーシィ」を前に立ち尽くしていた。

 

 二人のルーシィ。

 交わることのない二つの運命が、大魔闘演武の裏で動き出そうとしていた。

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