星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第50話:異なる歴史の来訪者、命の賭け

 クロッカスの裏路地。

 ジェラールは、保護したフードの女性――未来ルーシィの話を聞いていた。

「一万のドラゴンが来る……?」

「ええ。明日、エクリプス計画を使って扉を開けなければ、国は滅びるわ」

 未来ルーシィは、悲痛な面持ちで訴えた。

 その瞳には強い意志と、確かな魔力の輝きが宿っていた。

 ジェラールは、彼女の右手の甲を見た。そこにはピンク色のギルドの紋章がある。

 そして腰には、黄金の鍵がジャラリと下がっていた。

(……やはり、私の知っているルーシィとは違う)

 ジェラールは戦慄した。

 ウルティアたちが匿っている現在のルーシィは、7年前に魔力を失い、今は病に伏せっている。

 だが、目の前の彼女は、魔導士としての力を失っていない。

 彼女は「魔力を失わなかった歴史」を歩んできた、別の時間のルーシィなのだ。

「分かった。君の話を信じよう」

「ありがとう……! ジェラール」

「だが、一つだけ……」

 ジェラールは口を開きかけ、そして閉じた。

 今、彼女に「この世界のルーシィ」のことを話すべきではない。混乱を招くだけだ。

(……この矛盾。二人のルーシィが存在することの意味……。これが希望となるか、絶望となるか)

 

 一方、ドムス・フラウでは、大会最大の盛り上がりを見せていた。

 最強と謳われた『剣咬の虎(セイバートゥース)』の双竜、スティングとローグに対し、ナツ・ドラグニルがたった一人で圧倒していたのだ。

「来いよ! 二人がかりでそんなもんか!」

「バカな……! 俺たちはドラゴンフォースを発動させているんだぞ!?」

 スティングが白き閃光を放つが、ナツはそれを素手で掴み消した。

「俺たちは7年間、止まってたかもしれねぇ! だがな!」

 火竜の咆哮!!!

 会場全体を揺るがす炎のブレスが、双竜を飲み込む。

 ナツの脳裏にあるのは、ただ一つの想い。

(見てるかルーシィ! 俺たちは負けねぇ!)

(お前がいつ帰ってきてもいいように……妖精の尻尾(フェアリーテイル)は最強じゃなきゃなんねぇんだ!!)

 その圧倒的な強さは、観客の度肝を抜き、かつての「ブーイング」を「大歓声」へと変えていった。

 ナツの炎は、まさしく復活の狼煙だった。

 

 しかし、その熱狂から遠く離れた森の隠れ家では、命の灯火が消えようとしていた。

「……はぁっ……はぁっ……」

 ベッドの上で、ルーシィの呼吸は浅く、早くなっていた。

 発作による錯乱は収まったものの、高熱が下がらず、意識が戻らない状態が続いている。

 その顔色は土気色で、唇は乾燥してひび割れていた。

「熱が……下がらない……」

 メルディが必死に氷魔法で冷やすが、ルーシィの体温は異常な数値を指していた。

 ウルティアが彼女の胸に手を当て、魔力の流れ――生命力の鼓動を探る。

 そして、絶望的な顔で首を横に振った。

「……だめよ。体が、回復しようとしていない」

「え……?」

「心が、生きることを拒否し始めているわ」

 ウルティアの声が震える。

 7年間の孤独。そして昨日の「変わらないナツたち」を目撃してしまった絶望。

 それらが、彼女の生きる意志を完全にへし折ってしまったのだ。

「このままじゃ……数日で死ぬわ」

「そ、そんな……! 嫌だよ! ルーシィ!!」

 メルディが泣き叫ぶ。

 ウルティアは唇を噛み締めた。

 自分たちの持っている薬や魔法では、もうどうにもならない段階に来ていた。

 このままここで、静かに看取るしかないのか。

 家族を、見殺しにするのか。

 

 その時、念話(テレパシー)が入った。ジェラールからだ。

 『……ウルティア、聞こえるか。……信じ難いことだが、会場付近で「未来から来たルーシィ」を保護した』

「未来の……ルーシィ?」

 ウルティアの目が大きく見開かれた。

 ジェラールは続ける。

 『彼女は魔力を失っていない。健康で、強い魔力を持っている。……まるで、今のルーシィとは別の存在だ』

 その言葉を聞いた瞬間、ウルティアの中で一つの「賭け」が閃いた。

 魔力を持たないルーシィと、魔力を持つ未来のルーシィ。

 同一人物でありながら、異なる歴史を歩んだ二人。

 もし、二人が接触すれば?

 未来ルーシィの持つ「健康な星霊魔導士としての因子」が、今のルーシィに何らかの影響を与えるのではないか?

 あるいは、失われた魔力を補完する鍵になるのではないか?

「……メルディ。支度をして」

「え?」

「彼女を連れて、クロッカスへ行くわ」

 メルディが息を呑む。

 それは、今まで徹底して守ってきた「隠蔽」を破る行為だ。

 ナツたちに見つかるかもしれない。評議院に追われるかもしれない。

 何より、瀕死のルーシィを動かすこと自体が危険すぎる。

「ウルティア……それは……」

「分かってるわ。これは賭けよ。……最悪の場合、移動中に死ぬかもしれない」

 ウルティアは、眠るルーシィの頬を優しく撫でた。

「でも……このまま何もせず、座して死を待つなんてできない」

 彼女の瞳に、魔女としての強い光が戻る。

「7年間、一緒に過ごした家族よ。……彼女を救える可能性が0.1%でもあるなら、私は悪魔にだって魂を売るわ」

 メルディは涙を拭い、強く頷いた。

「うん……! 行こう! ルーシィを助けよう!」

 

 夜が明ける前。

 二人の魔女は、意識のないルーシィを担架に乗せ、浮遊魔法で慎重に運び出した。

 目指すは花の都、クロッカス。

 そこは、ナツたちが戦う光の舞台であり、ジェラールと未来ルーシィが待つ場所。

「待っていて、ジェラール。」

 ウルティアは決意を込めて空を見上げた。

「私が必ず……この子の命を繋ぎ止めてみせる」

 瀕死のルーシィを乗せ、運命の歯車が大きく回り始めた。

 エクリプス計画、一万のドラゴン、そして二人のルーシィ。

 全ての因果が、クロッカスへと集束しようとしていた。

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