星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第52話:絶望の扉、魔女たちの誓い

 王宮の地下。

 ヒスイ姫の命令により、エクリプスの扉が完全に開かれた。

 しかし、そこから放たれたのは希望の砲撃(キャノン)ではなかった。

 ゴオオオオオオオオッ!!!!

 扉の向こうから現れたのは、400年前の強大なドラゴンたち。

 一頭、二頭……七頭もの巨大な竜が、クロッカスの夜空を埋め尽くした。

「嘘……ドラゴン!?」

「街が……燃やされる!!」

 上空を舞うダイヤモンドのドラゴン、マザーグレアが咆哮すると、その体から無数の卵が降り注いだ。

 卵が割れ、中から凶暴な小型ドラゴンたちが這い出してくる。

 それはまさに、地獄絵図だった。

「行くぞみんな! 俺たちの力で食い止める!」

 ナツの声が響く。

 滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)たち――ナツ、ガジル、ウェンディ、ラクサス、スティング、ローグ、そしてコブラまでもが、それぞれの獲物を定めて飛び出した。

 彼らは英雄だ。世界の命運を背負って戦う光だ。

 だが、その光が届かない場所で、もう一つの戦いが始まっていた。

 

 王都の郊外。ウルティアたちが身を隠していた廃墟。

 ここにも、マザーグレアから産み落とされた小型ドラゴンの群れが押し寄せていた。

「グルルルルッ!!」

「させないわよ! 『聖なる光(マグルティ・ソドム)』!!」

「氷の造形(アイスメイク)・薔薇の王冠(ローゼン・クローネ)!!」

 メルディの感覚連結魔法の刃と、ウルティアの時間のアークが、襲い来る小型竜を弾き飛ばす。

 しかし、敵の数が多すぎる。

「くっ……キリがないわね!」

「ハァ、ハァ……! ウルティア、後ろ!」

 二人は満身創痍だった。

 自分たちだけなら逃げられる。しかし、彼女たちの背後には、担架に乗せられたルーシィがいる。

 一歩も引けない。守らなければならない。

 ガブッ!!

「うっ……!」

 ウルティアの腕に小型竜が噛み付く。鮮血が舞う。

「ウルティア!!」

 

 その騒音と揺れ、そして血の匂いで、ルーシィの意識が覚醒した。

「……ん……うぅ……」

 重い瞼を開ける。

 視界に入ってきたのは、燃え盛る街と、空を埋め尽くすドラゴンの影。

 そして――自分の目の前で、血を流しながら戦う二人の背中だった。

「……ウルティア……? メルディ……?」

 状況を理解するのに時間はかからなかった。

 彼女たちは、戦えない自分を守るために、身を挺して盾になっているのだ。

「……やめ……て……」

 ルーシィの喉から、掠れた声が漏れた。

 もういい。十分だ。

 私は魔力もない、未来もない、ただのお荷物だ。

 私のせいで、あなたたちが傷つく必要なんてない。

「……逃げて……」

 ルーシィはベッドから転げ落ち、這うようにして叫んだ。

「私なんか置いて……逃げて……!!」

 ナツたちに置いていかれた記憶。

 自分が「異物」だから弾かれた記憶。

 だから今度も、私は捨てられるべきなのだ。そうすれば、二人は助かる。

 

 その言葉を聞いた瞬間、メルディが振り返った。

 その顔は、涙と泥でぐちゃぐちゃだったが、瞳だけは燃えるように怒っていた。

「家族を置いて逃げるわけないでしょ!!」

 ルーシィの思考が止まった。

「メ……ルディ……?」

「私たちは……魔女の罪(クリムソルシエール)は、罪を背負って生きてる! でもね!」

 メルディが光の剣で敵を薙ぎ払い、ルーシィの前に立ちはだかる。

「ルーシィを見捨てる罪だけは……絶対に背負わない!!」

 ウルティアも、傷だらけの体で振り返り、優しく微笑んだ。

「そうよ、ルーシィ。……貴方がどんな姿でも、魔力がなくても関係ない」

 彼女は血のついた手で、ルーシィの頬に触れた。

「私は……私たちは、これからも一緒に生きていくのよ! 三人で!」

 その言葉が、ルーシィの凍りついた心の核を貫いた。

 ナツじゃなかった。

 ギルドじゃなかった。

 私がずっと求めていた「帰る場所」は、こんなにも近くにあった。

 7年間、私の手を握り続け、汚れた私を抱きしめ、今、命懸けで守ってくれているこの二人こそが――。

「……あ……ああ……」

 ルーシィの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

 それは絶望の涙ではない。温かい、再生の涙だった。

(私は……ずっと過去を見てた)

(ナツに、アクエリアスに、輝いていた頃の自分に縋ってた)

 でも、違う。

 本当の家族は、今、ここにいる。

「……うん……! ごめんね……ありがとう……!」

 ルーシィの中で、「ナツたちへの依存」という鎖が、音を立てて砕け散った。

 彼女はもう、過去の亡霊ではない。

 魔女たちの愛娘として、この地獄を生き抜く覚悟を決めたのだ。

 

「伏せてて、ルーシィ! 今、終わらせるわ!」

 ウルティアの瞳に、凄まじい魔力が収束する。

 メルディと手を繋ぐ。魔力リンク。二人の想いが一つになる。

「行くわよ、メルディ!」

「うん!」

 「アーク・オブ・タイム……『万物よ、あるべき未来へ還れ』!!」

 「マギルティ・センス……『聖なる殲滅の光』!!」

 二人の合体魔法が炸裂した。

 時空を歪める波動と、感覚を断ち切る光の刃が、襲い来る小型ドラゴンの群れを一瞬にして消滅させた。

 ズドォォォォン!!

 静寂が戻る。

 ウルティアとメルディは膝から崩れ落ちたが、その顔には勝利の笑みがあった。

「……やった……」

「守れた……」

 ルーシィは這いずって二人の元へ行き、その体を抱きしめた。

「ウルティア! メルディ!」

 三人は瓦礫の中で、互いの体温を確かめ合うように寄り添った。

 空にはまだドラゴンが飛んでいる。

 ナツたちの戦いは続いている。

 けれど、ルーシィの心はもう揺らがなかった。

 彼女の戦場はここにある。この愛すべき家族と共に。

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