星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜 作:暁 蒼空
王宮の地下。
ヒスイ姫の命令により、エクリプスの扉が完全に開かれた。
しかし、そこから放たれたのは希望の砲撃(キャノン)ではなかった。
ゴオオオオオオオオッ!!!!
扉の向こうから現れたのは、400年前の強大なドラゴンたち。
一頭、二頭……七頭もの巨大な竜が、クロッカスの夜空を埋め尽くした。
「嘘……ドラゴン!?」
「街が……燃やされる!!」
上空を舞うダイヤモンドのドラゴン、マザーグレアが咆哮すると、その体から無数の卵が降り注いだ。
卵が割れ、中から凶暴な小型ドラゴンたちが這い出してくる。
それはまさに、地獄絵図だった。
「行くぞみんな! 俺たちの力で食い止める!」
ナツの声が響く。
滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)たち――ナツ、ガジル、ウェンディ、ラクサス、スティング、ローグ、そしてコブラまでもが、それぞれの獲物を定めて飛び出した。
彼らは英雄だ。世界の命運を背負って戦う光だ。
だが、その光が届かない場所で、もう一つの戦いが始まっていた。
王都の郊外。ウルティアたちが身を隠していた廃墟。
ここにも、マザーグレアから産み落とされた小型ドラゴンの群れが押し寄せていた。
「グルルルルッ!!」
「させないわよ! 『聖なる光(マグルティ・ソドム)』!!」
「氷の造形(アイスメイク)・薔薇の王冠(ローゼン・クローネ)!!」
メルディの感覚連結魔法の刃と、ウルティアの時間のアークが、襲い来る小型竜を弾き飛ばす。
しかし、敵の数が多すぎる。
「くっ……キリがないわね!」
「ハァ、ハァ……! ウルティア、後ろ!」
二人は満身創痍だった。
自分たちだけなら逃げられる。しかし、彼女たちの背後には、担架に乗せられたルーシィがいる。
一歩も引けない。守らなければならない。
ガブッ!!
「うっ……!」
ウルティアの腕に小型竜が噛み付く。鮮血が舞う。
「ウルティア!!」
その騒音と揺れ、そして血の匂いで、ルーシィの意識が覚醒した。
「……ん……うぅ……」
重い瞼を開ける。
視界に入ってきたのは、燃え盛る街と、空を埋め尽くすドラゴンの影。
そして――自分の目の前で、血を流しながら戦う二人の背中だった。
「……ウルティア……? メルディ……?」
状況を理解するのに時間はかからなかった。
彼女たちは、戦えない自分を守るために、身を挺して盾になっているのだ。
「……やめ……て……」
ルーシィの喉から、掠れた声が漏れた。
もういい。十分だ。
私は魔力もない、未来もない、ただのお荷物だ。
私のせいで、あなたたちが傷つく必要なんてない。
「……逃げて……」
ルーシィはベッドから転げ落ち、這うようにして叫んだ。
「私なんか置いて……逃げて……!!」
ナツたちに置いていかれた記憶。
自分が「異物」だから弾かれた記憶。
だから今度も、私は捨てられるべきなのだ。そうすれば、二人は助かる。
その言葉を聞いた瞬間、メルディが振り返った。
その顔は、涙と泥でぐちゃぐちゃだったが、瞳だけは燃えるように怒っていた。
「家族を置いて逃げるわけないでしょ!!」
ルーシィの思考が止まった。
「メ……ルディ……?」
「私たちは……魔女の罪(クリムソルシエール)は、罪を背負って生きてる! でもね!」
メルディが光の剣で敵を薙ぎ払い、ルーシィの前に立ちはだかる。
「ルーシィを見捨てる罪だけは……絶対に背負わない!!」
ウルティアも、傷だらけの体で振り返り、優しく微笑んだ。
「そうよ、ルーシィ。……貴方がどんな姿でも、魔力がなくても関係ない」
彼女は血のついた手で、ルーシィの頬に触れた。
「私は……私たちは、これからも一緒に生きていくのよ! 三人で!」
その言葉が、ルーシィの凍りついた心の核を貫いた。
ナツじゃなかった。
ギルドじゃなかった。
私がずっと求めていた「帰る場所」は、こんなにも近くにあった。
7年間、私の手を握り続け、汚れた私を抱きしめ、今、命懸けで守ってくれているこの二人こそが――。
「……あ……ああ……」
ルーシィの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
それは絶望の涙ではない。温かい、再生の涙だった。
(私は……ずっと過去を見てた)
(ナツに、アクエリアスに、輝いていた頃の自分に縋ってた)
でも、違う。
本当の家族は、今、ここにいる。
「……うん……! ごめんね……ありがとう……!」
ルーシィの中で、「ナツたちへの依存」という鎖が、音を立てて砕け散った。
彼女はもう、過去の亡霊ではない。
魔女たちの愛娘として、この地獄を生き抜く覚悟を決めたのだ。
「伏せてて、ルーシィ! 今、終わらせるわ!」
ウルティアの瞳に、凄まじい魔力が収束する。
メルディと手を繋ぐ。魔力リンク。二人の想いが一つになる。
「行くわよ、メルディ!」
「うん!」
「アーク・オブ・タイム……『万物よ、あるべき未来へ還れ』!!」
「マギルティ・センス……『聖なる殲滅の光』!!」
二人の合体魔法が炸裂した。
時空を歪める波動と、感覚を断ち切る光の刃が、襲い来る小型ドラゴンの群れを一瞬にして消滅させた。
ズドォォォォン!!
静寂が戻る。
ウルティアとメルディは膝から崩れ落ちたが、その顔には勝利の笑みがあった。
「……やった……」
「守れた……」
ルーシィは這いずって二人の元へ行き、その体を抱きしめた。
「ウルティア! メルディ!」
三人は瓦礫の中で、互いの体温を確かめ合うように寄り添った。
空にはまだドラゴンが飛んでいる。
ナツたちの戦いは続いている。
けれど、ルーシィの心はもう揺らがなかった。
彼女の戦場はここにある。この愛すべき家族と共に。