星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第53話:重ねた手、時計座の奇跡

 クロッカス市街地。

 ドラゴンの猛攻は激しさを増していた。

 滅竜魔導士たちの奮戦も空しく、小型ドラゴンの群れが一般市民や他のギルドメンバーを襲う。

「ジュビア!!」

 ドスッ……!

 小型ドラゴンのレーザーが、ジュビアを庇ったグレイの体を貫いた。

「グ……レイ……様……?」

「……へへっ……油断、すんなよ……」

 グレイが崩れ落ちる。

 その光景は、戦場にいた全員の心を折るには十分すぎた。

 リオンが叫び、ジュビアが泣き崩れる。

 未来は変えられないのか。絶望は避けられないのか。

 

 その惨状を、瓦礫の陰から見ていたウルティアが息を呑む。

「……グレイ……」

 彼女にとって、かつて罪を犯し、そして許された因縁の相手。

 彼が死んだ。世界が終わる。

 ウルティアは震える手で、自分の胸を掴んだ。

「……方法はある。……世界を元に戻す方法が」

 禁断魔法『ラストエイジス』。

 術者の「時間(命)」をすべて捧げ、世界の時間を巻き戻す魔法。

 それを使えば、私は死ぬ。あるいは、老婆になって全ての時間を失う。

「ウルティア……?」

 背後で、ルーシィが不安そうに声をかける。

 ウルティアはゆっくりと振り返り、ルーシィとメルディを見て、儚げに微笑んだ。

「……二人とも。愛してるわ」

「え?」

「貴方たちと過ごした7年間……私の人生で一番幸せだった」

 ウルティアは二人に背を向け、両手を広げた。

 その体から、凄まじい魔力が溢れ出す。

「ウルティア! 何をする気!?」

「やめて! 死ぬ気なんでしょ!?」

 メルディが駆け寄ろうとするが、魔法の風圧に阻まれる。

 ウルティアは詠唱を始めた。

「時のアークよ……我が命を糧とし、世界を再構築せよ……!」

 

「嫌ぁぁぁっ!!」

 ルーシィが叫んだ。

 せっかく見つけた家族。私を守ってくれた人。

 また失うの? また置いていかれるの?

 絶対に嫌だ!

「行かせない!!」

 ルーシィは風圧に逆らい、這いつくばってウルティアの元へ進んだ。

 魔力はない。体も動かない。

 けれど、彼女の右手には、あの時――地下水路で未来ルーシィと触れ合った時に残った、「黄金の残滓」が輝いていた。

「ルーシィ!?」

「死なせない……! 私の家族を……連れて行くなぁぁぁ!!」

 ガシッ!

 ルーシィの手が、ウルティアの腕を掴んだ。

 その瞬間。

 カァァァァァァァッ!!

 ルーシィの手から眩い黄金の光が溢れ出し、ウルティアの「時のアーク」と混ざり合った。

 魂の共鳴。

 未来ルーシィから受け継いだ「魔力の種」が、ルーシィの「守りたい」という爆発的な感情に呼応し、次元の扉を叩いたのだ。

 

 『……呼びましたか? ルーシィさん』

 空間が割れ、巨大な古時計が現れた。

 時計座のホロロギウム。

 本来なら契約者(ルーシィ)に魔力がないため呼べないはずの星霊が、共鳴の魔力を触媒に強制顕現したのだ。

「ホロロギウム!?」

「時間が……歪んでいるであります」

 ホロロギウムの針が高速で逆回転を始める。

 彼はウルティアを見下ろし、厳かに告げた。

『貴女は、自分の時間を対価に世界を戻そうとしている……。しかし、それはルーシィさんが望まない』

「でも……これしか……!」

「代償なら、ここにあります」

 ホロロギウムの扉が開く。

 そこには、地下水路で戦っているはずの「未来ルーシィ」の幻影(あるいは魂のリンク)が見えた。

『この世界線には存在し得ない時間……"消えゆく未来の時間"を、私が燃料に変換致します。……ルーシィさゆの願いに応え、貴女の命の代わりに、この"矛盾した時間"を消費する』

 それは、未来ルーシィが存在したという証そのものを、魔法の糧にするということ。

 ウルティアが息を呑む。

「……そんな、奇跡が……」

「やって! ホロロギウム!」

 ルーシィが叫ぶ。

 ホロロギウムが鐘を鳴らした。

 ボォォォォォン……ボォォォォォン……

 「ラストエイジス・アナザー……『星霜の回帰』!!」

 

 世界が白く染まった。

 そして、全ての時間が巻き戻る。

 ドムス・フラウ。市街地。

 ドラゴンの攻撃。グレイの死。

 それらがフィルムを逆再生するように戻り――。

「……はっ!?」

 グレイが目を見開いた。

 目の前には、これからジュビアを貫こうとする小型ドラゴンの姿。

(……なんだ? 今、死ぬ幻覚を……!?)

「どけジュビア!!」

 グレイは反射的にジュビアを突き飛ばし、氷の造形魔法でドラゴンの攻撃を防いだ。

 未来が変わった。

 たった一分。しかし、その一分が全滅の運命を回避させた。

「今だ! 反撃するぞぉぉぉ!!」

 ナツたちの猛攻が始まる。

 世界は、希望のルートへと分岐したのだ。

 

 そして、廃墟の陰。

 光が収まると、そこには三人の姿があった。

「……う、そ……」

 ウルティアは自分の手を見た。

 シワシワになっていない。老婆になっていない。

 魔力は空っぽだが、「私の時間」は失われていなかった。

「ウルティア……!」

 メルディが泣きながら抱きつく。

 そして、その足元には、ルーシィが倒れていた。

 共鳴の負荷と、ホロロギウムの触媒になった反動で、体力を使い果たしたのだ。

「ルーシィ!!」

「……へへ……守れ、た……」

 ルーシィは薄く笑い、ウルティアの手を握り返した。

「……家族……だもん……」

 そのまま、ルーシィは深い眠りに落ちた。

 ウルティアは涙を流し、ルーシィとメルディを強く抱きしめた。

「ありがとう……。私の、大切な宝物たち……」

 ウルティアは犠牲にならなかった。

 ルーシィの「守りたい」という想いと、未来からの贈り物が、悲しい運命を書き換えたのだ。

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