星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜 作:暁 蒼空
クロッカス市街地。
ドラゴンの猛攻は激しさを増していた。
滅竜魔導士たちの奮戦も空しく、小型ドラゴンの群れが一般市民や他のギルドメンバーを襲う。
「ジュビア!!」
ドスッ……!
小型ドラゴンのレーザーが、ジュビアを庇ったグレイの体を貫いた。
「グ……レイ……様……?」
「……へへっ……油断、すんなよ……」
グレイが崩れ落ちる。
その光景は、戦場にいた全員の心を折るには十分すぎた。
リオンが叫び、ジュビアが泣き崩れる。
未来は変えられないのか。絶望は避けられないのか。
その惨状を、瓦礫の陰から見ていたウルティアが息を呑む。
「……グレイ……」
彼女にとって、かつて罪を犯し、そして許された因縁の相手。
彼が死んだ。世界が終わる。
ウルティアは震える手で、自分の胸を掴んだ。
「……方法はある。……世界を元に戻す方法が」
禁断魔法『ラストエイジス』。
術者の「時間(命)」をすべて捧げ、世界の時間を巻き戻す魔法。
それを使えば、私は死ぬ。あるいは、老婆になって全ての時間を失う。
「ウルティア……?」
背後で、ルーシィが不安そうに声をかける。
ウルティアはゆっくりと振り返り、ルーシィとメルディを見て、儚げに微笑んだ。
「……二人とも。愛してるわ」
「え?」
「貴方たちと過ごした7年間……私の人生で一番幸せだった」
ウルティアは二人に背を向け、両手を広げた。
その体から、凄まじい魔力が溢れ出す。
「ウルティア! 何をする気!?」
「やめて! 死ぬ気なんでしょ!?」
メルディが駆け寄ろうとするが、魔法の風圧に阻まれる。
ウルティアは詠唱を始めた。
「時のアークよ……我が命を糧とし、世界を再構築せよ……!」
「嫌ぁぁぁっ!!」
ルーシィが叫んだ。
せっかく見つけた家族。私を守ってくれた人。
また失うの? また置いていかれるの?
絶対に嫌だ!
「行かせない!!」
ルーシィは風圧に逆らい、這いつくばってウルティアの元へ進んだ。
魔力はない。体も動かない。
けれど、彼女の右手には、あの時――地下水路で未来ルーシィと触れ合った時に残った、「黄金の残滓」が輝いていた。
「ルーシィ!?」
「死なせない……! 私の家族を……連れて行くなぁぁぁ!!」
ガシッ!
ルーシィの手が、ウルティアの腕を掴んだ。
その瞬間。
カァァァァァァァッ!!
ルーシィの手から眩い黄金の光が溢れ出し、ウルティアの「時のアーク」と混ざり合った。
魂の共鳴。
未来ルーシィから受け継いだ「魔力の種」が、ルーシィの「守りたい」という爆発的な感情に呼応し、次元の扉を叩いたのだ。
『……呼びましたか? ルーシィさん』
空間が割れ、巨大な古時計が現れた。
時計座のホロロギウム。
本来なら契約者(ルーシィ)に魔力がないため呼べないはずの星霊が、共鳴の魔力を触媒に強制顕現したのだ。
「ホロロギウム!?」
「時間が……歪んでいるであります」
ホロロギウムの針が高速で逆回転を始める。
彼はウルティアを見下ろし、厳かに告げた。
『貴女は、自分の時間を対価に世界を戻そうとしている……。しかし、それはルーシィさんが望まない』
「でも……これしか……!」
「代償なら、ここにあります」
ホロロギウムの扉が開く。
そこには、地下水路で戦っているはずの「未来ルーシィ」の幻影(あるいは魂のリンク)が見えた。
『この世界線には存在し得ない時間……"消えゆく未来の時間"を、私が燃料に変換致します。……ルーシィさゆの願いに応え、貴女の命の代わりに、この"矛盾した時間"を消費する』
それは、未来ルーシィが存在したという証そのものを、魔法の糧にするということ。
ウルティアが息を呑む。
「……そんな、奇跡が……」
「やって! ホロロギウム!」
ルーシィが叫ぶ。
ホロロギウムが鐘を鳴らした。
ボォォォォォン……ボォォォォォン……
「ラストエイジス・アナザー……『星霜の回帰』!!」
世界が白く染まった。
そして、全ての時間が巻き戻る。
ドムス・フラウ。市街地。
ドラゴンの攻撃。グレイの死。
それらがフィルムを逆再生するように戻り――。
「……はっ!?」
グレイが目を見開いた。
目の前には、これからジュビアを貫こうとする小型ドラゴンの姿。
(……なんだ? 今、死ぬ幻覚を……!?)
「どけジュビア!!」
グレイは反射的にジュビアを突き飛ばし、氷の造形魔法でドラゴンの攻撃を防いだ。
未来が変わった。
たった一分。しかし、その一分が全滅の運命を回避させた。
「今だ! 反撃するぞぉぉぉ!!」
ナツたちの猛攻が始まる。
世界は、希望のルートへと分岐したのだ。
そして、廃墟の陰。
光が収まると、そこには三人の姿があった。
「……う、そ……」
ウルティアは自分の手を見た。
シワシワになっていない。老婆になっていない。
魔力は空っぽだが、「私の時間」は失われていなかった。
「ウルティア……!」
メルディが泣きながら抱きつく。
そして、その足元には、ルーシィが倒れていた。
共鳴の負荷と、ホロロギウムの触媒になった反動で、体力を使い果たしたのだ。
「ルーシィ!!」
「……へへ……守れ、た……」
ルーシィは薄く笑い、ウルティアの手を握り返した。
「……家族……だもん……」
そのまま、ルーシィは深い眠りに落ちた。
ウルティアは涙を流し、ルーシィとメルディを強く抱きしめた。
「ありがとう……。私の、大切な宝物たち……」
ウルティアは犠牲にならなかった。
ルーシィの「守りたい」という想いと、未来からの贈り物が、悲しい運命を書き換えたのだ。