星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第54話:消えゆく未来、森の薬師への道

 クロッカスの広場。

 ナツの拳が、エクリプスの扉を粉砕した。

 ズガァァァァァァァン!!

 扉が壊れると同時に、世界を歪めていた魔力が霧散していく。

 空を飛んでいたドラゴンたちが、光の粒子となって元の時代へと帰還を始めた。

「……終わった……のか?」

「勝った……! 俺たちは生き残ったぞ!」

 歓声が上がる中、ナツの目の前で、未来ルーシィの体が透け始めていた。

 歴史が修正され、彼女という存在そのものが消えようとしているのだ。

「……ありがとう、ナツ」

 未来ルーシィは穏やかに微笑んだ。

「貴方が守ってくれたおかげで……未来は繋がったわ」

「おい! 待てよ! お前、消えるのか!?」

「ええ。……でも、悲しくないわ」

 彼女は光の中で、ナツに手を伸ばした。

「今の私(この世界の私)を……よろしくね。……あの子は、貴方が思っているよりもっと近くで、貴方を待っているかもしれないから」

 その言葉を残し、未来ルーシィは金色の風となって空へ溶けていった。

「ルーシィ……!」

 ナツは空を掴むように手を伸ばしたが、そこには何も残らなかった。

 勝利の味は、どこまでも苦く、虚しいものだった。

 

 数日後。王宮での祝勝会。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)は英雄として称えられ、大魔闘演武の優勝ギルドとして完全復活を果たした。

 しかし、その中心にいるはずのナツの姿は、バルコニーにあった。

「……はぁ」

 ため息をつくナツの横に、グレイが立つ。

「辛気臭い顔すんなよ。優勝したんだぞ」

「分かってるよ。……でも、結局ルーシィは見つからなかった」

 未来ルーシィは消えた。

 そして、この世界のルーシィの手がかりは、ジェラールたちと共に煙のように消えてしまった。

 彼女は生きているのか。それとも、もう……。

「……あいつが消える時、言ってたんだ。『今の私をよろしく』って」

「ああ」

「だから、絶対に生きてる。……俺たちが有名になれば、きっと向こうから気づいてくれるはずだ」

 ナツは夜空を見上げた。

 その瞳に、諦めの色はなかった。

 しかし、彼らが再会するには、まだ運命の糸が複雑に絡まりすぎていた。

 

 その頃。

 クロッカスから遠く離れた街道を、一台の馬車が進んでいた。

 御者はジェラール。荷台には、ウルティア、メルディ、そして眠り続けるルーシィが乗っていた。

「……容態は?」

「安定してるわ。……未来の魔力との共鳴で、一時的に生命力は回復したみたい」

 ウルティアがルーシィの寝顔を見つめる。

 ラストエイジスの代償を回避し、自分も生き残った。

 しかし、根本的な解決にはなっていない。

 ルーシィの体は依然として持病に蝕まれており、既存の薬では延命が限界だ。

「ジェラール。……例の場所へ向かうわ」

「……本気か? あそこはマグノリアに近い。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に見つかるリスクがあるぞ」

「ええ。でも、今の彼女を救えるのは、あの人しかいない」

 ウルティアの決意は固かった。

 ルーシィは家族だ。

 彼女を生かすためなら、虎の尾を踏むような危険も冒す。

「行きましょう。……東の森へ」

 

 マグノリア東部の深い森。

 そこには、人間嫌いの薬師が住む一軒家があった。

 ポーリュシカ。

 妖精の尻尾の顧問薬剤師であり、グランディーネ(天竜)の声を持つ老婆。

 ドンドンドン!!

「うるさいねぇ! 人間は嫌いだって言ってるだろ!!」

 扉が乱暴に叩かれる音に、ポーリュシカは不機嫌そうに箒を持って出てきた。

「帰れ帰れ! 森に入ってくるな!」

「……頼む。話を聞いてくれ」

 そこに立っていたのは、指名手配中のジェラールと、二人の魔女だった。

 ポーリュシカは眉をひそめた。

「お前たちは……『魔女の罪』かい? 犯罪者が何の用だ」

「貴女に診てほしい患者がいるんです」

 メルディが必死に頭を下げる。

 ウルティアが、背負っていた少女をそっと地面に下ろした。

 フードが外れ、金色の髪がこぼれる。

「……!」

 ポーリュシカの目が大きく見開かれた。

 その顔を、忘れるはずがない。

 7年前、ナツたちが騒いでいたあの娘。

 そして、天狼島と共に行方不明になったはずの――。

「ルーシィ……だと……?」

「生きていました。……ですが、魔力を失い、体がボロボロなんです」

「私たちじゃ、もう治せない……! お願いします、助けてください!」

 メルディが泣きながら懇願する。

 ポーリュシカは、痩せ細ったルーシィの姿を見て、箒を投げ捨てた。

 彼女は無言でルーシィの脈を取り、瞳孔を確認し、舌打ちをした。

「……チッ。ひどい状態だね。よくここまで生きてたもんだ」

 

「……運びな。ベッドを用意する」

 ポーリュシカはぶっきらぼうに言った。

「本当ですか!?」

「勘違いするんじゃないよ。私は人間が嫌いなんだ。……だが、マカロフの所の子供を見捨てるほど落ちぶれちゃいないさ」

 彼女は家の中へと招き入れた。

 ウルティアたちは顔を見合わせ、安堵の息をついた。

「ありがとうございます……!」

 ルーシィが運び込まれる。

 森の匂いと、薬草の香りが充満する部屋。

 そこは、彼女が生まれ育ったギルドから目と鼻の先にある場所。

 しかし、今の彼女にとっては、最も安全で、最も必要な「療養の地」だった。

 ナツたちは知らない。

 彼らが必死に探していた少女が、灯台下暗し、すぐそばの森で治療を受けようとしていることを。

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