星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第55話:薬師の森、冥府からの招待状

 マグノリア東部の森。

 木々のざわめきだけが響く静寂の中に、薬草の香りが漂う一軒家があった。

「……苦い」

「文句を言うんじゃないよ。良薬口に苦しだ」

 ベッドの上で顔をしかめるルーシィに、ポーリュシカが容赦なく深緑色の液体を突きつけた。

 長年の栄養失調、そして精神的な衰弱。

 それらを治療するため、ポーリュシカが特製した強烈な薬湯だ。

「魔力がない体に、無理やり魔導士としての負荷をかけたんだ。……ガタが来て当然さ」

「……はい」

 ルーシィは大人しく薬を飲み干した。

 この数週間で、彼女の顔色は以前よりずっと良くなっていた。

 ウルティアとメルディの献身的な介護、そしてポーリュシカの的確な治療のおかげで、死の淵からは完全に脱していた。

「今日は天気がいい。……少し外の空気を吸っておいで」

 ポーリュシカはぶっきらぼうに言い捨てて、調合室へと戻っていった。

 

 ルーシィは、ウルティアに肩を借りて、家の前のベンチに座った。

 木漏れ日が暖かい。

 そして、風に乗って微かに聞こえる街の喧騒。

「……マグノリアの音だ」

 ここからなら、歩いて数時間でギルドに着く。

 ナツたちがいる場所に。

「会いたい?」

 隣でリンゴを剥いていたメルディが尋ねる。

 ルーシィは首を横に振った。

「ううん。……今はまだ、いい」

 彼女は自分の手を見た。

 まだ痩せている。魔力もない。

 ナツたちの隣に立つには、あまりにも頼りない。

「私は今、リハビリ中だから。……心も、体も」

「そうね。焦らなくていいわ」

 ウルティアが優しく微笑む。

 ポーリュシカには口止めしてある。

 『あいつらが来たら騒がしくて治療にならん』という理由で、彼女も快諾(というか推奨)してくれた。

 ここは、世界から切り離されたシェルター。

 ルーシィがもう一度、自分の足で歩き出すための準備期間だった。

 

 しかし、その穏やかな時間は、唐突に終わりの鐘を告げられた。

 魔法評議院・ERA(エラ)。

 フィオーレの秩序を守る最高機関が、爆炎に包まれていた。

「ヒャハハハハ! 脆い、脆いぜぇ人間ども!!」

 爆心地に立つのは、獣のような耳と尻尾を持つ男――ジャッカル。

 闇ギルド最強の同盟「バラム同盟」の一角、冥府の門(タルタロス)の九鬼門が一人が、単独で評議院を壊滅させたのだ。

「評議員は全員殺した。……次は『元』評議員狩りだなぁ」

 ジャッカルが地図を広げる。

 彼らの目的は、大陸中の魔力を消滅させる兵器『フェイス』の封印を解くこと。

 そのためには、封印の鍵を持つ評議員たちを消す必要があった。

「おやおや? 近くに……面白そうな獲物がいるじゃねぇか」

 ジャッカルの鼻が動く。

 彼が狙いを定めたのは、評議院と深い関わりを持つ者たち。そして、彼らの邪魔をするであろう妖精の尻尾だった。

 

 数日後。マグノリアのギルド『妖精の尻尾』。

 マカロフが沈痛な面持ちで報告を受けていた。

「評議院が……全滅だと!?」

「ああ。……実行犯はタルタロスだ」

 ラクサスが拳を握りしめる。

 かつての敵、そして未知なる脅威。

 ナツが鼻を鳴らした。

「なんか……嫌な匂いがしやがる」

「ナツ?」

「焦げ臭いっていうか……禍々しいっていうか……」

 ナツの勘は鋭い。

 タルタロスの使う力は魔法ではない。**「呪法(カース)」**と呼ばれる、エーテラノを介さない異質の力。

 それが今、マグノリア周辺にも忍び寄っていた。

 

 東の森。

 薬師の家で、ポーリュシカが眉をひそめた。

「……なんだ、この不快な気配は」

「ポーリュシカさん?」

 ルーシィが不安そうに見上げる。

 同時に、外で警備をしていたウルティアとメルディが飛び込んできた。

「ルーシィ! 隠れて!」

「敵よ! それも、ただの魔導士じゃないわ!」

 ドォォォォォン!!

 家の前の木が、何の前触れもなく爆発した。

 煙の中から現れたのは、タルタロスの下級兵士たちと、それを率いる幹部クラスの悪魔。

「ここかぁ? 『天竜』の匂いがする場所ってのは」

 現れたのは、九鬼門の一人・フランマルスの配下たちだった。

 彼らはポーリュシカ(グランディーネのエドラスの姿)を、なんらかの鍵、あるいは排除すべき対象として認識したのだ。

「ちっ……人間嫌いだって言ってるだろ!」

 ポーリュシカが箒を構える。

 ウルティアが前に出た。

「下がってて。……ここは私たちが守る」

「メルディ、ルーシィを連れて裏口へ!」

「うん!」

 療養の地が、一瞬にして戦場へと変わる。

 ナツたちが気づくよりも早く、悪魔の手は「忘れられた少女」の元へと伸びていた。

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