星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜 作:暁 蒼空
マグノリア東部の森。
静寂だった薬師の隠れ家は、爆音と土煙に包まれていた。
「『七星剣(グラン・シャリオ)』!!」
「『フラッシュ・フォワード』!!」
ジェラールとウルティアが同時に魔法を放つ。
七つの流星と、無数の水晶球が、襲撃者であるタルタロスの悪魔たちに降り注ぐ。
しかし。
「ヒャハハハ! 効かねぇなぁ魔法なんて!」
煙の中から無傷で現れたのは、九鬼門の一人・テンペスターだった。
彼はジェラールの魔法を身一つで受け止め、さらにウルティアの水晶を謎の衝撃波で粉砕した。
「なっ……魔法が消された!?」
「いや、吸収されたのか? 魔法の軌道が歪んでいる!」
ジェラールが驚愕する。
彼の「天体魔法」はフィオーレでも屈指の威力を持つ。それが通用しない。
ウルティアも焦りを隠せない。
「私の『時のアーク』も……! 生物には効かないけど、物質の時間を戻して攻撃を無効化するはずなのに……!」
彼らが使うのは魔法ではない。エーテラノを介さない、ゼレフ書の悪魔だけが使える「呪法(カース)」。
魔法界の常識が通用しない未知の力に対し、イシュガル最強クラスの二人ですら防戦一方だった。
その隙に、メルディはルーシィの手を引き、森の奥へと走っていた。
「ハァ、ハァ……! ルーシィ、大丈夫!?」
「う、うん……!」
ルーシィは息を切らしながら必死に走る。
まだリハビリ中の体だ。足がもつれそうになるのを、気力だけで支えていた。
しかし、悪魔たちの鼻は鋭かった。
「見つけたぞぉぉぉ!! 魔力のない女だ!!」
「殺せ! 魂を食らえ!」
木々をなぎ倒し、テンペスターの配下である異形の兵士たちが回り込んでくる。
「くっ……! 『マギルティ・ソドム』!!」
メルディが感覚の刃を放つが、敵の数は多い。
一匹、また一匹と増え、ついには包囲されてしまった。
「キャハハ! 終わりだぁ! その美味そうな魂、いただきまぁす!」
鋭い爪が、ルーシィの喉元へと迫る。
メルディが庇おうとするが、間に合わない。
「ルーシィ!!」
「……っ!」
死ぬ。
また、私は何もできずに――。
その時だった。
バリバリバリバリッ!!!!
鼓膜を引き裂くような轟音と共に、森に巨大な雷が落ちた。
「ギャァァァァァッ!?」
ルーシィに襲いかかろうとしていた悪魔たちが、一瞬にして黒焦げになり、吹き飛んだ。
焦げた匂いと、静電気の痺れが肌を刺す。
「な、何……?」
ルーシィが目を開けると、土煙の向こうに、黄金の稲妻を纏った大柄な男が立っていた。
ファーのついたコート。逆立った金髪。そして、背中に背負った紋章。
「……チッ。俺のシマで何してやがる、薄汚ぇネズミどもが」
ラクサス・ドレアー。
妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の男の一人が、そこに立っていた。
その背後には、フリード、ビックスロー、エバーグリーン――雷神衆の姿もある。
彼らは元評議員であるヤジマの護衛任務の途中、森の異変を察知して駆けつけたのだ。
「ラ、ラクサス……!?」
ルーシィの声が漏れそうになる。
懐かしい。頼もしい。
けれど、今ここで会うわけにはいかない。
「ルーシィ! 隠れて!」
メルディが咄嗟に、自分のローブのフードをルーシィに深く被せた。
「見られちゃダメ! フェアリーテイルよ! 今の貴方が見つかったら……!」
「う、うん……!」
ルーシィは震えながらフードを抑え、メルディの背中に隠れた。
「あぁ? なんだお前ら」
ラクサスが鋭い視線を向けてくる。
メルディは心臓が止まりそうになったが、必死に平静を装った。
「た、通りすがりの旅人よ! 魔物に襲われて……!」
「旅人? こんな森の奥にか?」
ラクサスは怪訝そうに眉をひそめたが、すぐに興味を失ったように敵の方へ向き直った。
「ま、いい。……下がってな。巻き込まれても知らねぇぞ」
彼はルーシィの正体に気づいていない。
ただの「守るべき一般人」として認識したのだ。
「行くぞ野郎ども! ヤジマの爺さんを狙う奴らは、一人残らずぶっ潰す!」
「了解だラクサス!」
雷神衆が展開する。
圧倒的な暴力。
呪法を使う悪魔たちも、ラクサスの規格外の魔力の前では紙切れ同然だった。
ドゴォォォォォォン!!
雷竜の咆哮が森を貫く。
その背中を見つめながら、ルーシィはフードの下で唇を噛み締めた。
(……ありがとう、ラクサス)
(でも、ごめんね。……まだ、名乗れない)
今の自分は、彼らに守られるだけの存在。
「仲間」として胸を張って再会するためには、ここで甘えるわけにはいかなかった。
戦闘は一方的だった。
ラクサスたちが暴れている隙に、ジェラールとウルティアも合流した。
「メルディ! 無事か!」
「うん! でも、フェアリーテイルが……!」
「チッ、鉢合わせか」
ジェラールは舌打ちし、すぐに判断を下した。
「長居は無用だ。……彼らが敵を引きつけている間に撤退するぞ」
「でも、ラクサスたちにお礼も言わずに……」
「正体がバレるリスクは冒せない。行くぞ!」
ウルティアがルーシィを抱え上げ、転移魔法の準備をする。
空間が歪む直前、ルーシィはもう一度だけ、雷光の中で暴れるラクサスの背中を見た。
(……みんな、元気でね)
(私も……必ず強くなって、会いに行くから)
シュンッ。
空間転移により、ルーシィたちは森から姿を消した。
戦闘を終えたラクサスが、ふと後ろを振り返る。
「……あいつら、消えやがった」
「逃げ足の速い奴らだねぇ」
「でも、あのフードの女……どこかで見たような……?」
エバーグリーンが首を傾げる。
ラクサスは鼻を鳴らし、コートを翻した。
「知るかよ。……行くぞ。本命の敵はまだ別にいる」
雷鳴が遠ざかる。
ニアミスの再会は、互いの正体を知らぬまま、嵐の中に消えていった。
しかし、この遭遇が、ルーシィの心に新たな火を灯したことは間違いなかった。