星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第56話:呪われた森、隠された金色の髪

 マグノリア東部の森。

 静寂だった薬師の隠れ家は、爆音と土煙に包まれていた。

「『七星剣(グラン・シャリオ)』!!」

「『フラッシュ・フォワード』!!」

 ジェラールとウルティアが同時に魔法を放つ。

 七つの流星と、無数の水晶球が、襲撃者であるタルタロスの悪魔たちに降り注ぐ。

 しかし。

「ヒャハハハ! 効かねぇなぁ魔法なんて!」

 煙の中から無傷で現れたのは、九鬼門の一人・テンペスターだった。

 彼はジェラールの魔法を身一つで受け止め、さらにウルティアの水晶を謎の衝撃波で粉砕した。

「なっ……魔法が消された!?」

「いや、吸収されたのか? 魔法の軌道が歪んでいる!」

 ジェラールが驚愕する。

 彼の「天体魔法」はフィオーレでも屈指の威力を持つ。それが通用しない。

 ウルティアも焦りを隠せない。

「私の『時のアーク』も……! 生物には効かないけど、物質の時間を戻して攻撃を無効化するはずなのに……!」

 彼らが使うのは魔法ではない。エーテラノを介さない、ゼレフ書の悪魔だけが使える「呪法(カース)」。

 魔法界の常識が通用しない未知の力に対し、イシュガル最強クラスの二人ですら防戦一方だった。

 

 その隙に、メルディはルーシィの手を引き、森の奥へと走っていた。

「ハァ、ハァ……! ルーシィ、大丈夫!?」

「う、うん……!」

 ルーシィは息を切らしながら必死に走る。

 まだリハビリ中の体だ。足がもつれそうになるのを、気力だけで支えていた。

 しかし、悪魔たちの鼻は鋭かった。

「見つけたぞぉぉぉ!! 魔力のない女だ!!」

「殺せ! 魂を食らえ!」

 木々をなぎ倒し、テンペスターの配下である異形の兵士たちが回り込んでくる。

「くっ……! 『マギルティ・ソドム』!!」

 メルディが感覚の刃を放つが、敵の数は多い。

 一匹、また一匹と増え、ついには包囲されてしまった。

「キャハハ! 終わりだぁ! その美味そうな魂、いただきまぁす!」

 鋭い爪が、ルーシィの喉元へと迫る。

 メルディが庇おうとするが、間に合わない。

「ルーシィ!!」

「……っ!」

 死ぬ。

 また、私は何もできずに――。

 

 その時だった。

 バリバリバリバリッ!!!!

 鼓膜を引き裂くような轟音と共に、森に巨大な雷が落ちた。

「ギャァァァァァッ!?」

 ルーシィに襲いかかろうとしていた悪魔たちが、一瞬にして黒焦げになり、吹き飛んだ。

 焦げた匂いと、静電気の痺れが肌を刺す。

「な、何……?」

 ルーシィが目を開けると、土煙の向こうに、黄金の稲妻を纏った大柄な男が立っていた。

 ファーのついたコート。逆立った金髪。そして、背中に背負った紋章。

「……チッ。俺のシマで何してやがる、薄汚ぇネズミどもが」

 ラクサス・ドレアー。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の男の一人が、そこに立っていた。

 その背後には、フリード、ビックスロー、エバーグリーン――雷神衆の姿もある。

 彼らは元評議員であるヤジマの護衛任務の途中、森の異変を察知して駆けつけたのだ。

「ラ、ラクサス……!?」

 ルーシィの声が漏れそうになる。

 懐かしい。頼もしい。

 けれど、今ここで会うわけにはいかない。

「ルーシィ! 隠れて!」

 メルディが咄嗟に、自分のローブのフードをルーシィに深く被せた。

「見られちゃダメ! フェアリーテイルよ! 今の貴方が見つかったら……!」

「う、うん……!」

 ルーシィは震えながらフードを抑え、メルディの背中に隠れた。

 

「あぁ? なんだお前ら」

 ラクサスが鋭い視線を向けてくる。

 メルディは心臓が止まりそうになったが、必死に平静を装った。

「た、通りすがりの旅人よ! 魔物に襲われて……!」

「旅人? こんな森の奥にか?」

 ラクサスは怪訝そうに眉をひそめたが、すぐに興味を失ったように敵の方へ向き直った。

「ま、いい。……下がってな。巻き込まれても知らねぇぞ」

 彼はルーシィの正体に気づいていない。

 ただの「守るべき一般人」として認識したのだ。

「行くぞ野郎ども! ヤジマの爺さんを狙う奴らは、一人残らずぶっ潰す!」

「了解だラクサス!」

 雷神衆が展開する。

 圧倒的な暴力。

 呪法を使う悪魔たちも、ラクサスの規格外の魔力の前では紙切れ同然だった。

 ドゴォォォォォォン!!

 雷竜の咆哮が森を貫く。

 その背中を見つめながら、ルーシィはフードの下で唇を噛み締めた。

(……ありがとう、ラクサス)

(でも、ごめんね。……まだ、名乗れない)

 今の自分は、彼らに守られるだけの存在。

 「仲間」として胸を張って再会するためには、ここで甘えるわけにはいかなかった。

 

 戦闘は一方的だった。

 ラクサスたちが暴れている隙に、ジェラールとウルティアも合流した。

「メルディ! 無事か!」

「うん! でも、フェアリーテイルが……!」

「チッ、鉢合わせか」

 ジェラールは舌打ちし、すぐに判断を下した。

「長居は無用だ。……彼らが敵を引きつけている間に撤退するぞ」

「でも、ラクサスたちにお礼も言わずに……」

「正体がバレるリスクは冒せない。行くぞ!」

 ウルティアがルーシィを抱え上げ、転移魔法の準備をする。

 空間が歪む直前、ルーシィはもう一度だけ、雷光の中で暴れるラクサスの背中を見た。

(……みんな、元気でね)

(私も……必ず強くなって、会いに行くから)

 シュンッ。

 空間転移により、ルーシィたちは森から姿を消した。

 戦闘を終えたラクサスが、ふと後ろを振り返る。

「……あいつら、消えやがった」

「逃げ足の速い奴らだねぇ」

「でも、あのフードの女……どこかで見たような……?」

 エバーグリーンが首を傾げる。

 ラクサスは鼻を鳴らし、コートを翻した。

「知るかよ。……行くぞ。本命の敵はまだ別にいる」

 雷鳴が遠ざかる。

 ニアミスの再会は、互いの正体を知らぬまま、嵐の中に消えていった。

 しかし、この遭遇が、ルーシィの心に新たな火を灯したことは間違いなかった。

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