星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第59話:炎の消えた日、魔女たちの旅路

 マグノリア周辺の戦いは、壮絶な結末を迎えた。

 冥府の門(タルタロス)は壊滅した。

 しかし、その代償はあまりにも大きかった。

 上空で繰り広げられた、炎竜王イグニールと黒龍アクノロギアの死闘。

 ナツの目の前で、父親代わりだったイグニールが散った。

「イグニールぅぅぅぅぅ!!」

 ナツの慟哭が響き渡る。

 その悲しみは、遠く離れた森の隠れ家にいるルーシィの胸にも、鋭い痛みとなって届いていた。

「……ナツが、泣いてる」

 ルーシィは胸を押さえ、空を見上げた。

 何もしてあげられない。傍にいてあげることすらできない。

 無力感が彼女を襲うが、ウルティアがそっと肩に手を置いた。

「今は、彼を信じましょう。……彼らは勝ったのよ」

 そして数日後。

 廃墟となったギルドの跡地で、マカロフから衝撃的な言葉が告げられた。

「妖精の尻尾(フェアリーテイル)は……今日をもって解散する!!」

 それぞれの道を歩め。自分の足で立て。

 それは親心からの決断だったが、傷ついた魔導士たちにとっては、帰る家を失う宣告でもあった。

 ナツはハッピーを連れ、誰にも告げずに修行の旅へと出た。

 ルーシィへの手紙も、言葉もなく。

 彼はただ、強くなるために、思い出の地を背にした。

 

 それから数週間後。

 東の森の薬師の家。

「世話になったね、ポーリュシカさん」

 荷物をまとめたウルティアが頭を下げる。

 隣にはメルディ、そして杖をつきながら立つルーシィの姿があった。

「フン。やっと静かになるよ」

 ポーリュシカは憎まれ口を叩きながら、羊皮紙の束をメルディに渡した。

「ほらよ。薬のレシピだ。……調合の手順は叩き込んだはずだから、間違えるんじゃないよ」

「うん! ありがとう、お婆ちゃん!」

「誰がお婆ちゃんだ!」

 ポーリュシカは、ルーシィの方を向いた。

「……無理はするなよ。お前の体は、ガラス細工みたいなもんだ。少しでも異変があれば、すぐに薬を飲むんだ」

「はい。……本当にありがとうございました。命を繋いでくれて……」

 ルーシィは深く頭を下げた。

 いつまでもここに居座って、迷惑をかけるわけにはいかない。

 体調は安定してきた。これからは自分たちの足で歩く番だ。

「行くわよ、みんな」

「はい!」

 三人の魔女は森を出た。

 ギルドという家を失ったルーシィにとって、この二人こそが、唯一の帰る場所となっていた。

 

 一年が過ぎた。

 世界は復興へと向かい、魔法界の秩序も少しずつ戻りつつあった。

 フィオーレ北部、雪深い山岳地帯。

 外套(マント)を纏った三人の姿があった。

 闇ギルドの残党を追う、独立ギルド『魔女の罪』。

 その活動の中に、ルーシィの姿もあった。

「……解析完了。この先の洞窟に、闇ギルド『アヴァタール』の下部組織が潜伏してるわ」

 ルーシィが古文書と地図を広げて告げる。

 彼女は戦闘には参加できない。魔力はまだ、日常会話程度で枯渇するほど微弱だからだ。

 その代わり、彼女は明晰な頭脳と知識で、ギルドの「作戦参謀」兼「情報解析役」を務めていた。

「了解。さっさと片付けるわよ、メルディ」

「うん! ルーシィはここで待ってて。暖かくしてね」

 メルディがルーシィの襟元を直し、カイロ代わりの魔道具を渡す。

 二人が洞窟へ向かうのを見送りながら、ルーシィは咳き込んだ。

「ゴホッ……ゴホッ……」

「大丈夫か?」

 背後から声をかけられ、ルーシィは振り返った。

 青い髪の青年、ジェラールだ。

「ジェラール。……久しぶりね」

「ああ。近くまで来たからな」

 

 ジェラールは世界各地を放浪しながら、ゼレフに繋がる情報を集めている。

 こうして合流するのは数ヶ月に一度だ。

「体の具合はどうだ?」

「……まあまあかな。薬のおかげで、発作は起きてないわ」

 ルーシィは苦笑いして、ポケットから小瓶を取り出した。

 ポーリュシカ直伝の薬。これを飲まなければ、彼女は生きられない。

「魔力の方は?」

「……見てて」

 ルーシィは深呼吸をし、掌を前に出した。

「開け……光の扉……」

 ポウッ……。

 指先から、蛍のような小さな光が生まれた。

 星霊を呼ぶには程遠い。鍵すら回せない微弱な光。

 しかし、1年前は何も出せなかったことを考えれば、大きな進歩だった。

「……ハァ、ハァ……! これくらいが、今の限界」

「焦るな。少しずつ戻ればいい」

 ジェラールは優しく言った。

 ルーシィは悔しそうに拳を握る。

「……ナツたちは、もっと先に行ってるはずなのにね」

「……彼らの情報が入った」

 ジェラールの言葉に、ルーシィが顔を上げる。

「今年も『大魔闘演武』が開催される。……そこに、ナツ・ドラグニルが現れるという噂だ」

 

「ナツが……?」

 心臓が跳ねた。

 1年。

 彼もまた、どこかで修行し、強くなっているはずだ。

 会いたい。一目だけでも。

 その感情が湧き上がるが、ルーシィは首を横に振ってそれを押し殺した。

「……そう。元気そうでよかった」

「会いに行かないのか?」

「……今の私は、魔女の罪の一員よ。まだ魔力も戻ってないし、足手まといになるだけだもの」

 ルーシィは杖を握り直した。

 かつてナツに依存していた少女はもういない。

 今の彼女には、ウルティアとメルディという守るべき家族がいて、自分の役割がある。

「それに……ナツならきっと、勝手に私のことを見つけ出すわ。……あいつは、そういう奴だもの」

 ルーシィは悪戯っぽく笑った。

 その笑顔は、病弱ながらも、どこか吹っ切れた強さを感じさせた。

 洞窟の方から爆発音が聞こえる。

 ウルティアたちが暴れている証拠だ。

「行かなきゃ。……二人が帰ってきたら、温かいスープでも作ってあげないと」

 ルーシィは雪の中を歩き出した。

 一歩一歩、踏みしめるように。

 

 X792年。

 妖精の尻尾はバラバラになったが、それぞれの物語は続いていた。

 そして運命は、再び彼らを「黒魔導士」との最終決戦へと導こうとしていた。

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