星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第8話:空白の季節と、見えざる妖精女王(ティターニア)

洞窟からの帰り道。ナツとグレイは、ルーシィの右腕をボロボロのストールで何重にも巻き、固く約束した。

「いいか、じっちゃんには絶対言うなよ。バレたらルーシィ、本当にギルドにいられなくなる」

「分かってるわよ……。ありがとう、二人とも」

 しかし、その「共犯」はギルドの扉を開けた瞬間に崩れ去った。

 カウンターで待っていたマカロフは、帰還した三人の顔を見るなり、静かに言ったのだ。

「……ナツ、グレイ。下手な隠し事はよせ」

 その眼光は、すべてを見透かしていた。

 マカロフはルーシィの手を取り、巻かれたストールを解く。

 露わになったのは、肘から二の腕、そして肩口まで侵食し、不気味に瞬く濃紫色の**『星の宇宙』**。

 右腕は半透明になり、血管の代わりに星屑が流れているのが透けて見えた。

「……ここまで進んでおったか」

「ごめんなさい、おじいちゃん。……でも、私はまだ……!」

「ならん」

 マカロフの声は、厳しく、そして悲痛だった。

「破門にはせん。お前は死ぬまで妖精の尻尾(フェアリーテイル)の家族じゃ。……だが、これ以上の活動は許さん。無期限の療養を命ずる」

「……」

 ルーシィは唇を噛み締め、俯いた。

 言い返す言葉など、何もなかった。自分の体はもう、魔導士として限界を迎えていたのだから。

 

 それから、季節が巡った。

 ルーシィの世界は、再びアパートのベッドの上へと縮小した。

 けれど、以前と違うのは、窓の外から「冒険」を持ち帰ってくれる仲間がいることだった。

「ほらルーシィ! これ、エバルーって変なオッサンの屋敷から手に入れた鍵だ!」

「こっちはガルナ島の報酬! なんか馬の星霊らしいぜ!」

 ナツとハッピーは、冒険から帰るたびにルーシィの部屋へ忍び込み、戦利品である『乙女座のバルゴ』や『射手座のサジタリウス』の鍵を届けてくれた。

「すごい……! ありがとう、ナツ」

「へへっ、お前が使ったほうが鍵も喜ぶだろ。……ま、今は休んどけよ」

 ナツが語る冒険譚。

 呪歌ララバイの怪物、ガルナ島の月の滴、そして復活した悪魔デリオラ。

 ルーシィはその話を、目を輝かせて聞いた。まるで自分がその場にいたかのように。

 けれど、ナツが帰った後の部屋は、以前よりも広く、冷たく感じられた。

(みんなは、どんどん強くなっていく。私だけが……取り残されていく)

 増えていく黄金の鍵。それは仲間との絆の証であり、同時に「私はもう一緒に戦えない」という残酷な現実でもあった。

 

 ある日、ギルドがいつになく騒がしかった。

 ナツがアパートに来て、興奮気味に言った。

「やべぇぞルーシィ! エルザが帰ってきた!」

「エルザ? ……ああ、最強の女魔導士と言われてる……」

「あいつマジで化け物だぞ! 鎧着て剣振り回して……でも、すっげぇイイ奴なんだ!」

 ナツやグレイが恐れながらも慕う、ギルドの精神的支柱。

 ルーシィはまだ、療養中であるため、その「エルザ」に会ったことがなかった。

 ギルドに行けば会えるかもしれない。でも、今のこんな体で会えば、きっと彼女にまで心配をかけてしまう。

(いつか……私の体が治ったら。胸を張って『はじめまして』って言いたいな)

 窓から見えるギルドの方角を見つめ、ルーシィは苦笑した。

 最強の妖精女王(ティターニア)。彼女はどんな人なのだろう。私のような弱虫でも、仲間だと認めてくれるだろうか。

 

 季節は秋へと差し掛かろうとしていた。

 ルーシィの右腕の浸食は、ついに鎖骨を越え、首の半分を覆い隠すほどになっていた。

 声帯が圧迫され、声を出すことすら辛い日が増えた。

 そんなある夜。

 マグノリアの街に、不穏な影が落ちた。

 ドォォォォン!!

 遠くで爆発音が響く。

 ベッドで跳ね起きたルーシィは、窓の外を見た。

 ギルドの方角から、黒い煙が上がっている。

「……なに? 火事……?」

 嫌な予感がした。

 胸の痣が、警鐘を鳴らすように激しく痛む。

 街の空気に、鉄の味が混じっている。これは、ナツの炎じゃない。もっと冷たく、重い「鉄」の魔力。

 ——『幽鬼の支配者(ファントムロード)』。

 フィオーレ王国で『妖精の尻尾』と双璧をなす巨大ギルド。

 その魔の手が、静かに、しかし確実に、病床のルーシィへと伸びようとしていた。

 彼女はまだ知らない。

 この争いの火種が、他ならぬ「ハートフィリア家」の因縁であり、自分の存在そのものであることを。

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