ある少年のために僕は守護をする   作:ゆよう

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1話の少し前のお話です


2話影ながらの努力

 

 

数日前、とある廃病院にて——

「うわぁ、マジで不気味やなここ」

 陽介が懐中電灯を照らしながら、廃病院の廊下を歩いていく。

「だから肝試しにはぴったりやろ? でもどうせ町筋がおるから何も起きへんけど」

 もう一人の友人、健太が肩を竦める。

「いや、俺のせいにすんなよ」

 町筋は苦笑いしながら二人の後をついていく。

 その時、廊下の奥から白い人影がスーッと現れた。

 長い髪を垂らした女性の霊が、恨めしそうな表情で三人に近づいてくる。

 しかし、町筋たちが気づく前に——

「はぁ……また出てきた」

 天井裏に隠れていた渚が、溜息をつきながら指を鳴らす。

 パッと光が走り、女性の霊は「きゃあっ!」と小さく叫んで消えた。

「おい、今何か音せんかった?」

「気のせいやろ。ほら、何もおらんし」

 町筋たちは何事もなかったかのように先へ進んでいく。

「本当に何も起きないな。つまんな」

「だから言ったやん」

 その会話を聞いて、渚の眉間に皺が寄る。

「つまんないって……僕が必死に守ってるのに」

 渚は再び天井裏に身を隠し、三人の後を追う。もちろん、町筋が渚の存在に気づくはずもない。守護神は通常、守っている者には見えないのだから。

 

「そういえばさ、町筋って彼女おるん?」

 健太が突然そんな質問をする。

「は? いきなり何言ってんの」

「いやだって、お前モテそうやん。変な名前やけど顔はまあまあやし」

「まあまあって何だよ」

「俺も気になってたわ。誰か気になる子とかおらんの?」

 陽介も興味津々といった様子で町筋を見る。

「別におらんけど……」

「嘘つけ。絶対おるやろ」

「マジでおらんって」

 天井裏で、渚の表情がさらに険しくなる。

「彼女の話なんてして……そんなことより周りに気を配りなさいよ」

 渚は少しイライラしながら、辺りを警戒する。この廃病院は悪霊の巣窟だ。油断すれば、すぐに町筋が危険に晒される。

「まったく、呑気なものだね」

 

 さらに奥へ進むと、手術室の前に辿り着いた。

「うわ、ここマジでやばそう」

「入ってみるか?」

「お前が先行けよ」

 三人が手術室の扉を開けようとした瞬間、中から黒いモヤのようなものが溢れ出してきた。

「なっ……!」

 渚は咄嗟に飛び出し、三人の前に結界を張る。

 黒いモヤは結界に阻まれ、シューッという音を立てて消えていく。

「ん? なんか風吹いた?」

「窓どっか開いてんのかな」

 町筋たちは相変わらず何も気づいていない。

「ふぅ……危なかった」

 渚は額の汗を拭う。

「気づいてくれなくていい。気づかないまま、安全に過ごしてくれればそれで……」

 渚は町筋の背中を見つめながら、小さく呟いた。

 

「なぁなぁ、町筋が将来なりたいものって何?」

 帰り道、陽介が聞く。

「え? 急にどうした」

「いや、俺らもう大学三年やん。そろそろ就活とか考えなあかんし」

「確かにな……」

 町筋は少し考えてから答える。

「まあ、普通に就職して、普通に結婚して、普通に家庭持って……って感じかな」

「普通すぎやろ」

「いいじゃん、普通で」

 その言葉を聞いて、渚は少し寂しげな表情を浮かべる。

「普通……か」

 普通に結婚して、普通に家庭を持つ。

 そうなったら、守護神の僕はどうなるんだろう。

「ずっとそばで見守り続けるのが、僕の役目なんだけど……」

 渚は首を振って、その考えを追い払う。

「何考えてるんだ。町筋が幸せに生きてくれるなら、それが一番じゃないか」

 でも、心のどこかで、引っかかるものがあった。

 

 最後に、墓地の前を通りかかった時だった。

「うおっ、墓地とか絶対やばいやつやん」

「でも町筋がおるから大丈夫やろ」

「お前ら、俺を何だと思ってんだよ」

 その時、墓地から無数の人魂が浮かび上がってきた。

 青白い光が、フワフワと三人に近づいてくる。

「ちょっと、多すぎない!?」

 渚は慌てて両手を広げ、大きな結界を展開する。

 パァッと光が広がり、人魂たちは弾き飛ばされていく。

「はぁ……はぁ……」

 渚は息を切らしながら、膝に手をつく。

「流石に、疲れた……でも、これが僕の役目だから」

 町筋たちは相変わらず何も知らない。

「やっぱ何も起きんな」

「町筋、マジで最強の霊避けやわ」

「だから俺のせいじゃないって」

 三人は笑いながら帰路についていく。

 渚はその背中を見ながら、静かに呟いた。

「君が笑っていられるなら、それでいい」

 それが守護神としての務め。

 でも——

「もう少しだけ……君のことを知りたいな」

 渚は町筋の後を追いながら、そう思った。

 町筋は渚の存在に気づかない。

 渚も、自分から姿を現すつもりはなかった。

 それが、守護神と人間の正しい関係だと思っていたから。

 

 でも、状況は変わり始めていた。

 最近、明らかに強力な悪霊が増えている。

 普通の霊なら、渚の結界で簡単に退けられる。

 でも、最近現れる悪霊は違う。

「まるで、誰かが意図的に送り込んでいるみたいだ……」

 渚は不安を感じていた。

 このままでは、いつか町筋の身に危険が及ぶかもしれない。

「もしかしたら、直接守らないといけない時が来るかもしれない」

 そう考えた渚は、町筋の夢に現れることにした。

 少しずつ、自分の存在を認識してもらうために。

 そして——

 ついに、その時が来た。

 大学内に現れた、あの黒い物体。

 あれは渚の結界を突破してきた、今までにない強大な悪霊だった。

「これ以上、陰から守るだけじゃダメだ」

 渚は決意を固めた。

 町筋の前に、姿を現す時が来たのだ。

 

——現在——

「ねえ、町筋」

 渚が真剣な表情で町筋を見つめる。

「何?」

「実は、君が心霊スポットに行くたびに、僕は陰から守ってたんだ」

「え、マジで?」

「うん。廃病院でも、墓地でも、トンネルでも。君が気づかないところで、悪霊を退治してた」

 町筋は驚いた表情で渚を見る。

「そうだったのか……全然気づかなかった」

「気づかないのが当然だよ。守護神は普通、守っている人には見えないから」

「じゃあ、なんで今は見えるんだ?」

「それは……」

 渚は少し言葉に詰まる。

「君が危険に晒されているから。最近、明らかに強力な悪霊が増えてる。陰から守るだけじゃ、もう限界なんだ」

「そっか……」

 町筋は真剣な表情になる。

「ありがとな、渚。俺が知らないところで、ずっと守ってくれてたんだな」

「う、うん……」

 渚は少し照れたように視線を逸らす。

「これからは、二人で協力して戦おう。よろしく頼むよ、相棒」

「相棒……」

 渚の頬が少し赤くなる。

「うん。任せて」

 二人は笑顔で見つめ合った

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