ある少年のために僕は守護をする   作:ゆよう

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4話新たな出会い

 

 

 

翌日、大学の学食。

 昼休みの喧騒の中、俺は友人たちとテーブルを囲んでいた。

「おっす、町筋!」

 陽介が手を振りながら近づいてくる。その後ろには、見慣れた顔ぶれが続いていた。

「よう」

 俺は軽く手を上げて応える。

「紹介するわ。こっちは佐藤健太。お前も知ってるやろ?」

「ああ、この前の心霊スポット巡りで一緒だったな」

 健太は人懐っこい笑顔で手を振る。茶髪で少しチャラい見た目だが、性格は明るくて面白い奴だ。

「そんで、こっちが新しく友達になった木村蒼。同じ学部の後輩や」

「初めまして、木村です」

 蒼と名乗った男は、落ち着いた雰囲気の青年だった。黒縁のメガネをかけ、どこか知的な印象を受ける。身長は俺より少し低いくらいで、物腰が柔らかい。

「榊です。よろしく」

「こちらこそ」

 蒼は丁寧にお辞儀をした。

「そして最後に、星野美月ちゃん!」

 陽介がニヤニヤしながら紹介する。

「星野です。美月って呼んでください」

 美月は明るい笑顔で挨拶をした。肩までかかる茶色の髪を軽く巻いていて、華やかな雰囲気がある。目が大きくて、笑うと少し八重歯が見える。身長は160センチくらいだろうか。

「榊です。よろしく」

「よろしくね、榊くん!」

 美月の笑顔を見て、俺の心臓が少しだけ早く打った。

 可愛い、と素直に思った。

 

「それで、今日はなんで集まったんだっけ?」

 俺が聞くと、陽介が答える。

「いや、特に理由はないねんけど、せっかくやし皆で昼飯食おうかなって」

「そういうことか」

 俺たちは適当に雑談を始めた。

「そういえば町筋、最近独り言多くない?」

 健太が突然そんなことを言い出す。

「え?」

「いや、この前も廊下で一人でブツブツ言ってたやん」

 その言葉に、蒼の表情が少し変わった気がした。

「あー、それは……考え事してただけだよ」

「考え事にしちゃ、会話っぽかったけどなぁ」

 陽介も不思議そうな顔をする。

「気のせいだろ」

 俺は誤魔化すように笑う。実際は、渚と話していたのだが、それは言えない。

「ねえねえ、榊くんって彼女いるの?」

 美月が突然話題を変えた。

「え? いや、いないけど……」

「本当に? モテそうなのに」

 美月は少し首を傾げる。その仕草が妙に可愛くて、俺は視線を逸らした。

「モテないよ、別に」

「嘘だぁ。絶対モテるでしょ」

 美月が笑う。その笑顔に、俺の心臓がまた跳ねる。

「美月ちゃん、町筋のこと気になるん?」

 陽介がニヤニヤしながら聞く。

「え!? ち、違うよ! ただ聞いてみただけ!」

 美月は顔を赤くして否定する。

「まあまあ、美月ちゃんも町筋も照れんなや」

 健太も笑いながら茶化す。

「照れてないって!」

 俺と美月は同時に言って、顔を見合わせた。

 そして、また同時に視線を逸らす。

 なんだこれ、恥ずかしい……

 

「ところで、榊先輩」

 蒼が静かに話しかけてくる。

「ん?」

「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」

「変わったこと?」

「はい。例えば……不思議な体験とか」

 蒼の目が、少しだけ鋭くなった気がした。

「特にないけど……なんで?」

「いえ、ただ気になっただけです」

 蒼は笑顔を浮かべるが、その笑顔はどこか探るような感じがする。

「蒼って、そういうの信じる方?」

「まあ、世の中には不思議なことも多いですから」

 その言葉に、俺は少し引っかかるものを感じた。

「榊先輩は、守護神って信じますか?」

「は?」

 突然の質問に、俺は思わず聞き返す。

「守護神です。人を守る神様のこと」

「あー……まあ、うちの家系が神社の分家だから、そういう話は聞いたことあるけど」

「そうですか。では、もし守護神が実在したら、榊先輩はどう思いますか?」

 蒼の質問は、明らかに何かを探っている。

「どうって……嬉しいんじゃない? 守ってくれるなら」

「そうですよね」

 蒼は納得したように頷いた。

 しかし、その目は俺を観察し続けている。

(この人、何か知ってるのか……?)

 俺は少し警戒心を抱いた。

 

「ねえ、榊くん」

 美月が再び話しかけてくる。

「何?」

「今度、皆でカラオケ行かない?」

「カラオケ?」

「うん! 私、ストレス溜まっててさ。大声で歌いたい気分なの」

 美月は少し疲れたような表情を浮かべる。

「何かあったの?」

「うん……最近、バイト先で嫌なことがあって」

「そっか。大変だな」

「でしょー? だから気分転換したいの」

 美月は再び笑顔を見せる。その笑顔は、少しだけ無理をしているようにも見えた。

「カラオケか……いいんじゃない?」

「本当!? じゃあ決まり!」

 美月は嬉しそうに手を叩く。

「いつ行く?」

「んー、今週末とかどう?」

「俺は大丈夫だけど……」

 俺は他の皆を見る。

「俺も大丈夫やで」

 陽介が答える。

「俺もOK」

 健太も頷く。

「僕は……その日は用事があるかもしれません」

 蒼だけが曖昧な返事をした。

「そっか、残念。じゃあ蒼抜きで行こうか」

「すみません」

 蒼は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 昼休みが終わり、それぞれが次の授業へと向かう。

 俺は美月と同じ方向だったので、一緒に歩くことになった。

「榊くんって、優しいね」

「え?」

「さっき、私が疲れてるって言ったら、心配してくれたでしょ」

「あー……まあ、普通に心配になるだろ」

「そういうとこが優しいんだよ」

 美月は少し照れたように笑う。

「ありがと」

「いや、別に……」

 俺も少し照れくさくなって、視線を逸らす。

「ねえ、榊くん」

「何?」

「もし私が困ってたら、助けてくれる?」

「は? 急にどうした」

「ううん、なんとなく聞いてみただけ」

 美月は少し不安そうな表情を浮かべる。

「まあ、困ってたら助けるよ。友達だろ?」

「友達……そっか、友達だね」

 美月は少し寂しそうに笑った。

 その表情が気になったが、深く聞くことはできなかった。

 

 授業が終わり、俺は一人で帰路についた。

 すると、いつの間にか渚が隣を歩いている。

「お疲れ様」

「うわっ、急に出てくるなよ」

「ごめんごめん」

 渚は笑いながら謝る。

「今日はどうだった?」

「まあ、普通かな」

「そう? 僕から見たら、結構楽しそうだったけど」

「見てたのかよ」

「守護神だからね」

 渚はニヤニヤしながら言う。

「特に、星野美月ちゃんと話してる時、嬉しそうだったね」

「う、うるさい」

 俺は顔が熱くなるのを感じた。

「あ、照れてる」

「照れてないって」

「照れてるよ、絶対」

 渚は楽しそうに笑う。

「……で、木村蒼のことなんだけど」

 俺は話題を変える。

「ああ、彼ね」

「何か知ってるのか?」

「うん。彼、守護神を持ってるよ」

「マジで!?」

 俺は驚いて声を上げた。

「しかも、『護神組』っていう組織に所属してるみたい」

「護神組?」

「守護神を持つ者たちで構成された、正義の組織。悪霊や悪しき術師から人々を守ることを使命としてる」

「へえ……そんな組織があるんだ」

「うん。で、彼は多分、君のことを調べてるんだと思う」

「俺のこと? なんで?」

「最近、君の周りで強力な悪霊が現れてるからね。護神組は、そういう異常事態に敏感なんだ」

 渚は真剣な表情になる。

「彼が敵じゃないといいんだけど……」

「敵の可能性もあるのか?」

「可能性はゼロじゃない。でも、護神組は基本的に正義の組織だから、大丈夫だと思うけど」

「そっか……」

 俺は少し不安になった。

 蒼の探るような視線を思い出す。

「気をつけてね、町筋」

「ああ」

 

 その夜、大学の教室。

 誰もいないはずの教室に、一人の女子学生がいた。

 彼女は忘れ物を取りに来たのだが、教室の雰囲気が妙に重苦しいことに気づいた。

「何……この空気……」

 彼女は不安になって、急いで荷物を取ろうとする。

 その時、教室の隅から黒い影が這い出してきた。

「え……?」

 影はゆっくりと彼女に近づいてくる。

「ひっ……!」

 彼女は悲鳴を上げようとしたが、声が出ない。

 黒い影は彼女の足を掴み、引きずり始めた。

「いや……いやあああああ!」

 ようやく声が出た。

 しかし、誰も助けには来ない。

 教室は防音になっているため、外には声が漏れないのだ。

「助けて……誰か……!」

 彼女は必死に抵抗するが、黒い影の力は強い。

 そして——

 彼女の意識は、闇に飲み込まれた。

 

 翌朝、大学は騒然としていた。

「おい、聞いた? 昨日の夜、3号館で女子学生が倒れてたらしいぞ」

「マジで? 大丈夫なの?」

「意識不明らしい。原因不明で」

 学生たちの噂話が飛び交う。

 俺はその噂を聞いて、嫌な予感がした。

「渚……」

「うん、聞こえた。これは……」

 渚の表情が険しくなる。

「悪霊の仕業だね」

「この大学で?」

「うん。しかも、昨日の夜。僕たちが帰った後だ」

 渚は悔しそうに唇を噛む。

「守れなかった……」

「お前のせいじゃないだろ」

「でも……」

 渚は自分を責めるような表情を浮かべる。

「次は守らないと。これ以上、犠牲者を出すわけにはいかない」

 俺も頷く。

「そうだな。でも、どうやって?」

「まず、現場を調べよう。手がかりが残ってるかもしれない」

「分かった」

 俺たちは3号館へと向かった。

 

 3号館の教室は、警察のテープが張られていた。

「入れないな……」

「仕方ない。外から見てみよう」

 渚は窓から教室の中を覗く。

「うーん……残留している霊気がある。かなり強い悪霊だったみたいだ」

「犯人は分かるか?」

「分からない。でも、昨日大学で現れた悪霊と同じ種類だと思う」

「ってことは……」

「うん。君を狙ってる相手の仕業だね」

 渚は真剣な表情で続ける。

「相手は本格的に動き始めてる。もう、のんびりしてる場合じゃない」

「どうする?」

「まず、護神組の木村蒼に協力を求めよう」

「え、いいのか?」

「背に腹は代えられない。それに、彼が敵じゃないことを確認する必要もある」

「分かった」

 俺は蒼に連絡を取ることにした。

 

 その日の夕方、俺は蒼と大学近くのカフェで会うことになった。

「来てくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ」

 蒼は落ち着いた様子で席に座る。

「単刀直入に聞きます。榊先輩、守護神を持っていますね?」

 蒼の質問は、ストレートだった。

「……何で分かったんだ?」

「最近の榊先輩の様子から推測しました。独り言が増えた、視線が時々虚空を見ている、そして何より、榊先輩の周りで悪霊の活動が活発化している」

「そこまで見てたのか……」

「僕も守護神を持つ者です。同じ立場の人間には敏感なんです」

 蒼は少し申し訳なさそうに言う。

「疑ってすみません。でも、確認する必要があったんです」

「疑ってた?」

「はい。最近、この大学で悪霊の活動が活発化している。その中心にいるのが榊先輩だったので、もしかしたら榊先輩が術師かもしれないと思っていました」

「術師?」

「悪霊を操る者のことです。でも、今日の話で分かりました。榊先輩は被害者側だと」

 蒼は真剣な表情になる。

「榊先輩を狙っている相手がいる。その相手は、かなりの実力者です」

「やっぱりそうか……」

 俺は溜息をつく。

「協力してもらえますか?」

 蒼が聞く。

「こっちこそ、お願いしたい」

「分かりました。では、今後は情報を共有しましょう」

 蒼は手を差し出す。

 俺はその手を握った。

「よろしく頼む」

「こちらこそ」

 新たな仲間を得た俺たち。

 しかし、敵の動きも加速していた。

 次の犠牲者を出さないために、俺たちは動き始める。

 

 その夜、再び3号館。

 教室の中で、黒い影が蠢いていた。

「クックック……次は誰にしようかな……」

 影の中から、不気味な笑い声が響く。

「榊・久礼・町筋……お前を追い詰めるために、お前の周りの人間を一人ずつ潰していく……」

「そして最後に、お前を……」

 影は窓の外を見つめる。

 その視線の先には、帰宅する学生たちの姿があった。

 その中に、星野美月の姿も見える。

「ああ、あの娘がいいかな……榊・久礼・町筋が気にしている娘……」

 影はニヤリと笑った。

「次のターゲットは、決まりだ……」

 

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