ある少年のために僕は守護をする   作:ゆよう

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本日2話目


5話迫る影との初戦闘

 

 

 

翌日の放課後、俺たちは3号館の調査を本格的に開始することになった。

「それじゃあ、まず被害者の方から話を聞きましょう」

 蒼がノートを取り出しながら言う。

「被害者って、まだ意識不明なんじゃ……」

「今朝、意識が戻ったそうです。ただ、かなり憔悴しているとのことで、長時間の面会は難しいかもしれません」

「どこで会えるんだ?」

「大学の近くの病院です。大事を取って、今日は病院で入院しているそうです」

 俺たちは病院へと向かった。

 

 病室のベッドに、一人の女子学生が横たわっていた。

 彼女の名前は、田中さくら。文学部の2年生だという。

「田中さん、少しお話しできますか?」

 蒼が優しく声をかける。

「はい……」

 さくらは弱々しい声で答えた。顔色は悪く、目の下には深いクマができている。

「昨日の夜、何があったか教えていただけますか?」

「はい……私、教室に忘れ物を取りに行ったんです。確か、夜の8時くらいだったと思います」

 さくらは震える声で話し始める。

「教室に入った瞬間、変な感じがしたんです。空気が重くて、息苦しくて……」

「それで?」

「でも、忘れ物を取らないといけなかったから、我慢して教室に入りました。そしたら……」

 さくらの声が震える。

「教室の隅から、黒い影が這い出してきたんです……」

「黒い影?」

 俺は思わず聞き返す。

「はい……人の形をしているような、していないような……とにかく不気味で……」

 さくらは涙を浮かべながら続ける。

「その影が、私の足を掴んで……引きずろうとして……私、必死に抵抗したんですけど、力が全然入らなくて……」

「怖かったですね」

 蒼が優しく声をかける。

「はい……すごく怖くて……そのあとのことは、よく覚えてないんです。気づいたら、病院のベッドの上でした」

「その影について、他に覚えていることはありますか? 例えば、声を発していたとか……」

「声……あ、そういえば……」

 さくらは必死に記憶を辿る。

「『お前は餌だ』って……そんな声が聞こえた気がします……」

「餌……」

 蒼は険しい表情でメモを取る。

「ありがとうございます。無理をさせてすみません」

「いえ……もし、あの影のことが分かったら、教えてください。私、怖くて夜も眠れないんです」

「分かりました。必ず解決します」

 蒼は真剣な表情で答えた。

 

 病室を出た後、俺たちは人気のない廊下で立ち止まった。

「餌、か……」

 渚が顔を出す。

「どういう意味だ?」

「おそらく、あの悪霊は人間のエネルギーを吸収して力を蓄えているんだと思う」

「エネルギーを吸収?」

「うん。悪霊の中には、人間の生命力や精神力を糧にするものがいる。田中さんが意識不明になったのも、エネルギーを吸い取られたからだろう」

 蒼も頷く。

「渚さんの言う通りです。しかも、餌という言い方からすると、複数の被害者を出す可能性が高い」

「じゃあ、急がないと……」

「はい。次の犠牲者が出る前に、あの悪霊を倒さないといけません」

 

 俺たちは3号館の問題の教室へと向かった。

 警察のテープは既に撤去されていたが、学生たちは怖がって近づこうとしない。

「ここか……」

 教室の扉の前に立つと、確かに嫌な空気を感じる。

「町筋、感じるかい?」

 渚が聞く。

「ああ……なんか、重苦しい感じがする」

「それが霊気だよ。君も少しずつ、霊的な感覚が発達してきてるんだ」

 蒼が教室の扉に手を当てる。

「かなり強い残留霊気……これは普通の悪霊じゃないですね」

「やっぱり人工的な悪霊か?」

 俺が聞く。

「その可能性が高いです。自然発生する悪霊は、ここまで組織的に動きません」

 蒼は教室の中を見渡す。

「中に入って調べましょう」

 

 教室の中は、静寂に包まれていた。

 窓から差し込む夕日が、机や椅子に長い影を落としている。

「うわ……雰囲気悪いな」

「町筋、あまり動き回らないで。霊気を乱すと、悪霊が反応するかもしれない」

 渚が警告する。

 蒼は教室の隅々を調べ始めた。

「ここに、術式の痕跡がある……」

 蒼が教室の隅を指差す。

「術式?」

「悪霊を召喚したり、制御したりするための魔法陣のようなものです。見えますか?」

 俺が目を凝らすと、床にうっすらと円形の模様が見える。

「これ……」

「おそらく、誰かがここで儀式を行ったんです。悪霊を召喚するための」

 蒼は真剣な表情で続ける。

「しかも、この術式はまだ効力を保っている。つまり……」

「つまり?」

「悪霊はまだこの教室にいる可能性が高いです」

 その瞬間、教室の温度が急激に下がった。

「うわっ、寒っ!」

「来る……!」

 渚が叫ぶ。

 教室の隅から、黒い影がゆっくりと這い出してくる。

「グルルルル……」

 低い唸り声が教室中に響く。

「榊先輩、下がってください!」

 蒼が俺の前に立つ。

「出でよ、我が守護神・焔!」

 蒼がそう叫ぶと、彼の背後に炎のような光が現れた。

 その光の中から、赤い髪の青年が姿を現す。

「呼んだか、蒼」

 焔と呼ばれた守護神は、不敵な笑みを浮かべながら黒い影を睨む。

「久しぶりの実戦だな。腕が鳴るぜ」

「お願いします、焔さん」

 

 

 

 

 

 

 

 黒い影は徐々に人型の形を取り始める。

 全身が黒い靄に包まれた、人間のような何か。

 顔には目も鼻も口もなく、ただ黒い穴が開いているだけだ。

「グアアアアア!」

 黒い影が咆哮を上げる。

「うわっ、耳が痛い!」

 俺は思わず耳を塞ぐ。

「町筋、壁際に!」

 渚が俺を庇うように前に出る。

「渚!」

「大丈夫、僕に任せて」

 渚は両手を広げ、紫色の光を放つ。

「焔さん、挟み撃ちで!」

「おう!」

 焔は両手に炎を纏わせる。

「いくぜ! 紅蓮の炎!」

 焔が手を振ると、赤い炎の球が黒い影に向かって飛んでいく。

 一方、渚も紫色の光の矢を放つ。

「浄化の光!」

 二つの攻撃が同時に黒い影に命中する。

「ギャアアアア!」

 黒い影が苦しそうに叫ぶ。

 しかし、影はすぐに体勢を立て直した。

「チッ、硬いな」

 焔が舌打ちする。

「やっぱり普通の悪霊じゃない……」

 渚も警戒を強める。

 黒い影は両手を伸ばし、黒い触手のようなものを生み出した。

「グルルル……」

 触手が鞭のようにしなり、渚と焔に向かって襲いかかる。

「危ない!」

 渚は咄嗟に結界を張る。

 パァンッ!

 触手が結界に弾かれる。

「焔さん、そっちは!?」

「問題ねえ!」

 焔は炎の剣を作り出し、触手を次々と切り裂いていく。

「ハアッ!」

 炎の剣が触手を焼き切る。

 しかし、触手は切られても切られても、すぐに再生する。

「キリがねえな!」

「本体を叩かないと!」

 蒼が叫ぶ。

「分かってるよ! でも、あの触手が邪魔で近づけねえ!」

 焔は苛立ったように言う。

「なら、僕が道を作る!」

 渚が両手を天に向ける。

「集いし光よ、我が手に!」

 渚の周りに、無数の光の粒子が集まってくる。

「これを……!」

 渚が手を振り下ろすと、光の粒子が一直線に黒い影に向かって飛んでいく。

「光の槍!」

 光の槍が触手を貫通し、黒い影の胸に突き刺さる。

「ギィィィィ!」

 黒い影が苦しそうに悶える。

「今だ、焔さん!」

「おうよ!」

 焔は炎の剣を大きく振りかぶる。

「終わりだ! 爆炎斬!」

 炎を纏った剣が、黒い影を縦に両断する。

「ギャアアアアアア!」

 黒い影は断末魔の叫びを上げながら、消えていった。

 

「やった……!」

 俺は思わず声を上げる。

 しかし、渚と焔の表情は険しいままだった。

「いや、まだだ……」

 焔が呟く。

「え?」

 その瞬間、床に描かれた術式が赤く光り始めた。

「術式が反応してる……!」

 蒼が叫ぶ。

「まさか……」

 渚の予感は的中した。

 術式の中心から、再び黒い靄が噴き出してくる。

「嘘だろ……復活したのか!?」

「いや、これは別の個体だ!」

 焔が叫ぶ。

「この術式、悪霊を自動的に召喚し続けるタイプだったのか……!」

 黒い靄は先ほどよりも巨大な形を取り始める。

 そして現れたのは、先ほどの二倍はあろうかという巨大な黒い影だった。

「グオオオオオ!」

 巨大な影が咆哮を上げる。

 その声だけで、教室の窓ガラスが割れた。

「うわああ!」

 俺は思わず床に伏せる。

「町筋!」

 渚が俺を庇うように前に出る。

「これは……まずいな」

 焔も珍しく焦った表情を見せる。

「焔さん、渚さん、一旦引きましょう!」

 蒼が叫ぶ。

「でも、このままじゃ……!」

「術式を破壊しないと、いくら倒してもキリがありません! 一旦態勢を立て直します!」

「分かった!」

 渚は俺の手を掴む。

「町筋、走るよ!」

「お、おう!」

 俺たちは教室から飛び出した。

 背後から、巨大な影の咆哮が聞こえる。

「待て……逃がさん……」

 低く、重い声が廊下に響く。

「追ってくる!」

「走れ走れ!」

 焔が後ろを振り返りながら叫ぶ。

 俺たちは必死に廊下を走った。

 

 階段を駆け下り、1階のエントランスまで逃げてきた。

「はぁ……はぁ……」

 俺は息を切らしながら振り返る。

 幸い、巨大な影は追ってきていないようだ。

「追ってこなかったな……」

 焔が言う。

「おそらく、術式の効力範囲から出られないんです」

 蒼が答える。

「じゃあ、3号館から出れば安全ってことか?」

「今のところは。でも、術式を破壊しない限り、悪霊は湧き続けます」

「どうやって破壊するんだ?」

「術式の中心に、強力な浄化の力をぶつけるしかありません」

 蒼は真剣な表情で続ける。

「でも、あの巨大な影がいる限り、術式に近づくのは困難です」

「じゃあ、どうすればいいんだよ……」

 俺は頭を抱える。

「作戦を練る必要があるね」

 渚が言う。

「焔さんと僕で影を引きつけて、その隙に蒼が術式を破壊する……とか」

「いや、それじゃリスクが高すぎる」

 蒼が首を振る。

「もっと確実な方法を考えましょう」

 

 俺たちは3号館の外で作戦会議を始めた。

「まず、あの巨大な影の弱点を探る必要があるね」

 渚が言う。

「弱点か……あるのか?」

「どんな悪霊にも弱点はあるよ。それを見つけられるかどうかが問題だけど」

「さっきの戦闘で、気づいたことはありますか?」

 蒼が焔に聞く。

「うーん……」

 焔は少し考えてから答える。

「再生能力が高い。触手を切っても切ってもすぐに生えてくる。でも……」

「でも?」

「本体にダメージを与えた時は、明らかに苦しんでいた。つまり、本体さえ破壊すれば倒せるってことだ」

「なるほど……」

 蒼はメモを取りながら頷く。

「では、触手を無視して本体を直接攻撃する方法を考えましょう」

「それができりゃ苦労しねえよ」

 焔が苦笑する。

「あの触手の数と速度じゃ、近づく前に捕まっちまう」

「なら、遠距離攻撃で……」

「試したけど、あいつ動きが速いんだよ。遠距離攻撃は避けられる」

 行き詰まった沈黙が流れる。

「あの……」

 俺が恐る恐る口を開く。

「俺、何かできることないか?」

「町筋……」

 渚が心配そうに俺を見る。

「でも、君には戦う力が……」

「分かってる。でも、何もしないで見てるだけってのも嫌なんだ」

 俺は真剣な表情で皆を見渡す。

「囮になるとか、そういうのでもいい。何か役に立ちたい」

「町筋くん……」

 蒼が少し考えてから言う。

「では、一つお願いしてもいいですか?」

「何?」

「榊先輩には、術式を破壊する役をお願いしたいんです」

「え? でも、俺にそんな力……」

「榊先輩は榊家の血を引いています。その血には、浄化の力が宿っているはずです」

 蒼は真剣な表情で続ける。

「僕たちが影を引きつけている間に、榊先輩に術式の中心を破壊してもらいます」

「でも、どうやって……」

「渚さんが力を貸してくれれば、できるはずです」

 蒼は渚を見る。

「渚さん、町筋くんに力を貸せますか?」

「……できるよ。でも、リスクがある」

 渚は心配そうに俺を見る。

「町筋の体に、僕の力を流し込むことになる。うまくコントロールできないと、体が傷つくかもしれない」

「やるよ」

 俺は即答した。

「このまま何もしないで、また誰かが襲われるのを待つなんて嫌だ」

「町筋……」

「大丈夫。お前を信じてるから」

 俺は渚の目を真っ直ぐ見つめる。

「一緒に戦おう。相棒」

「……っ」

 渚の目が潤む。

「分かった。じゃあ、やろう」

 渚は決意を固めた表情で頷いた。

 

「それじゃあ、作戦を確認します」

 蒼が全員を見渡す。

「まず、焔さんと渚さんが教室に突入し、巨大な影の注意を引きつけます」

「おう、任せろ」

 焔が拳を鳴らす。

「その間に、榊先輩と僕が術式に接近。榊先輩が術式を破壊します」

「分かった」

「術式が破壊されれば、影は力の源を失います。そこを焔さんと渚さんで一気に畳み掛ける」

「完璧だな」

「ただし、時間制限があります」

 蒼は腕時計を見る。

「あと30分で日が沈みます。夜になれば、悪霊の力はさらに強くなる。それまでに決着をつけないと……」

「分かった。じゃあ、急ごう」

 俺たちは再び3号館へと向かった。

 

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