ある少年のために僕は守護をする   作:ゆよう

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本日も2話投稿予定


6話終結?

 

 

3号館へ向かう途中、蒼が俺に話しかけてきた。

「榊先輩、一つ質問してもいいですか?」

「ん? 何?」

「榊家の歴史について、どれくらいご存知ですか?」

「歴史? まあ、千年続く神社の分家だってことくらいしか……」

 俺は正直に答える。実のところ、榊家のことは詳しく知らない。父親も母親も、あまり家系のことを話したがらなかったからだ。

「そうですか……」

 蒼は少し考えてから、話し始めた。

「実は、榊家は非常に特別な家系なんです。護神組の記録にも、その名が刻まれています」

「マジで?」

「はい。榊家は、平安時代から続く陰陽師の名門なんです」

「陰陽師……」

 俺は驚いて蒼を見る。

「それって、安倍晴明とかそういう……?」

「そうです。榊家は安倍家、賀茂家と並ぶ、三大陰陽師の家系の一つでした」

 蒼は真剣な表情で続ける。

「榊家の始祖、榊・明日麿(さかき・あすまろ)は、平安時代に京の都で暴れていた鬼を封印したという伝説があります」

「鬼を……封印?」

「はい。その鬼は『八岐鬼(やまたおに)』と呼ばれ、八つの頭を持つ恐ろしい妖怪でした。多くの陰陽師が挑みましたが、誰も倒せなかった」

 蒼の話に、俺は思わず聞き入る。

「でも、榊・明日麿は違いました。彼は『浄化の術』という独自の術を編み出したんです」

「浄化の術?」

「はい。それは、悪しきものを浄化し、無に還す力。通常の陰陽術が『封印』や『退散』を目的とするのに対し、榊家の術は『浄化』を目的とします」

 渚も話に加わる。

「浄化の力は、悪霊や妖怪にとって最も恐ろしい力なんだ。なぜなら、存在そのものを消し去ってしまうから」

「存在を……消す?」

「うん。普通の術なら、悪霊は封印されても、いつかは復活する可能性がある。でも、浄化の力で消された悪霊は、二度と復活することができない」

 俺は自分の手を見つめる。

「そんな力が、俺の中にあるのか……?」

「あるはずです」

 蒼が頷く。

「榊家の血を引く者には、その力が受け継がれています。ただし……」

「ただし?」

「その力を引き出すには、条件があります」

 蒼は真剣な表情で続ける。

「榊家の力は、『守りたいという強い意志』によって発現します。誰かを守りたい、何かを守りたい。その想いが強ければ強いほど、浄化の力も強くなる」

「守りたいという意志……」

 俺は渚を見る。

 渚は少し照れたように視線を逸らした。

「だから、榊先輩なら大丈夫です」

 蒼は微笑む。

「榊先輩は、誰かのために戦おうとしている。その想いがあれば、必ず力は目覚めます」

 

「でも、なんで榊家はそんな力を持ってるんだ?」

 俺が聞くと、蒼は少し考えてから答えた。

「それには、榊家の成り立ちが関係しています」

「成り立ち?」

「はい。実は、榊家の始祖・明日麿は、元々普通の人間ではなかったんです」

「え?」

「彼は、神と人間の間に生まれた、半神半人だったと言われています」

 蒼の言葉に、俺は言葉を失う。

「半神半人……?」

「はい。明日麿の母は人間でしたが、父は山の神だったと伝えられています。だから、明日麿には神の力が宿っていた」

 蒼は続ける。

「その力が、浄化の力の源です。神の力は、本質的に清浄なもの。だから、悪しきものを浄化することができるんです」

「なるほど……」

「そして、その力は明日麿の子孫に受け継がれていきました。ただし、世代を経るごとに、その力は弱まっていった」

「弱まった?」

「はい。半神の血は、人間の血と混ざることで徐々に薄まっていきます。だから、現代の榊家の人々は、明日麿ほど強い力は持っていません」

 蒼は俺を見つめる。

「でも、力が弱まったとはいえ、榊家の血には今でも浄化の力が宿っています。それを引き出せるかどうかが、今回の鍵です」

 

「ちなみに、なんで榊家は分家になったんだ?」

 俺の質問に、蒼は少し暗い表情を浮かべた。

「それは……少し複雑な事情があります」

「複雑?」

「はい。実は、榊家は江戸時代に、本家と分家に分かれたんです」

 蒼は説明を続ける。

「当時、榊家の当主だった榊・久成(ひさなり)には、二人の息子がいました。長男の継成(つぐなり)と、次男の守成(もりなり)です」

「兄弟がいたのか」

「はい。本来なら、長男の継成が家を継ぐはずでした。でも……」

 蒼は言葉を選びながら続ける。

「継成は、浄化の力を悪用しようとしたんです」

「悪用?」

「はい。浄化の力は、悪霊を消し去るだけでなく、人間の記憶や感情さえも消すことができます。継成は、その力を使って政敵を操ろうとした」

 俺は背筋が寒くなるのを感じた。

「それを知った次男の守成は、兄を止めようとしました。そして、二人は激しく争った」

「結果は?」

「守成が勝ちました。そして、継成を封印したんです」

 蒼は深く息を吐く。

「でも、兄を封印した守成は、自分が家を継ぐことを拒否しました。『兄を封印した自分には、家を継ぐ資格がない』と」

「それで……」

「榊家は二つに分かれました。本家は継成の息子が継ぎ、守成は分家を立てた。榊先輩は、その守成の子孫なんです」

 俺は複雑な気持ちになった。

 自分の祖先が、そんな重い過去を背負っていたなんて。

「ちなみに、本家の方はどうなったんだ?」

「本家は……残念ながら、明治時代に途絶えました」

 蒼は寂しそうに言う。

「継成の血を引く者たちは、代々、浄化の力の暴走に苦しめられたそうです。そして、最後の当主が力に呑まれて暴走し、自滅した」

「力の暴走……」

「はい。浄化の力は強大ですが、使い手の精神が弱いと、逆に力に呑まれてしまうんです」

 蒼は俺を真剣に見つめる。

「だから、榊先輩。力を使う時は、常に自分の心を保ってください。『守りたい』という想いを忘れずに」

「……分かった」

 俺は深く頷いた。

 

「でもさ、なんで俺は今まで、そんな力があるなんて知らなかったんだ?」

「おそらく、榊先輩のご両親が、意図的に教えなかったんだと思います」

 蒼が答える。

「なんで?」

「力のことを知れば、榊先輩は否応なく、霊的な戦いに巻き込まれます。ご両親は、榊先輩に普通の生活を送ってほしかったんでしょう」

 渚も頷く。

「親心だね。でも、運命は残酷だ。力を隠しても、町筋は結局、この世界に引き込まれてしまった」

「運命、か……」

 俺は空を見上げる。

 確かに、この数日で俺の人生は大きく変わった。

 でも、後悔はしていない。

 渚と出会えたし、蒼や焔とも仲間になれた。

 そして、何より——

「俺、誰かを守るために戦えるなら、それでいいや」

 俺は笑顔で言った。

「家系がどうとか、運命がどうとか、正直よく分からない。でも、困ってる人を放っておけないし、大切な人を守りたい。それだけだ」

「町筋……」

 渚が嬉しそうに微笑む。

「それが、榊先輩の強さですね」

 蒼も微笑んだ。

「その想いがあれば、必ず力は目覚めます」

 

 そうこうしているうちに、俺たちは3号館の前に着いた。

 建物は夕日に照らされ、不気味な影を落としている。

「さて、作戦を始めましょう」

 蒼が全員を見渡す。

「焔さん、渚さん、準備はいいですか?」

「ああ、いつでもいけるぜ」

 焔が拳を鳴らす。

「僕も大丈夫」

 渚も頷く。

「では、行きましょう」

 俺たちは3号館の中へと入った。

 

 階段を上り、3階の廊下へ。

 問題の教室の前に立つと、中から黒い靄が漏れ出しているのが見える。

「いるな……」

 焔が呟く。

「ああ。しかも、さっきより強くなってる気がする」

 渚も警戒する。

「おそらく、倒された最初の個体のエネルギーを吸収したんでしょう」

 蒼が説明する。

「つまり、さっきより強敵ってことか……」

「はい。気をつけてください」

 蒼は深呼吸をしてから、扉に手をかける。

「それでは……行きます!」

 扉が開かれる。

 瞬間、中から強烈な悪寒が吹き出してきた。

「うわっ!」

 俺は思わず後ずさる。

 教室の中央には、巨大な黒い影が鎮座していた。

 高さは3メートルはあるだろう。全身から黒い靄を発し、周囲の空気を腐敗させている。

「グオオオオオ……」

 低い唸り声が教室中に響く。

「来たぞ……!」

 焔が構える。

「焔さん、渚さん、お願いします!」

「おうよ!」

 焔と渚が同時に教室へ飛び込む。

 

「ハアッ!」

 焔が先制攻撃を仕掛ける。

 両手に炎を纏わせ、黒い影に向かって突進する。

「炎拳!」

 炎を纏った拳が、影の胴体に叩き込まれる。

「グアッ!」

 影が怯む。

「今だ、渚!」

「分かってる!」

 渚は両手を組み、紫色の光を放つ。

「光の鎖!」

 光でできた鎖が、影の体を縛り上げる。

「ギィィィ!」

 影が暴れるが、鎖はびくともしない。

「よし、このまま……」

 しかし、次の瞬間。

「グルアアアア!」

 影が咆哮を上げると、体から無数の触手が生えてきた。

「なっ!?」

 触手が鎖を引きちぎる。

 そして、焔と渚に向かって襲いかかる。

「チッ!」

 焔は炎の剣で触手を切り払う。

 渚も結界を張って触手を防ぐ。

「数が多い!」

「焔さん、一旦引いて!」

「分かった!」

 二人は距離を取る。

 しかし、影は執拗に触手を伸ばしてくる。

「町筋、今だ!」

 蒼が叫ぶ。

「分かった!」

 俺は影の注意が焔と渚に向いている隙に、術式に向かって走る。

 床に描かれた赤く光る術式。

 その中心には、黒い水晶のようなものが埋め込まれている。

「あれが術式の核か……!」

「はい、あれを破壊してください!」

 蒼が俺の隣に来る。

「でも、どうやって……」

「渚さん!」

 蒼が叫ぶ。

「町筋くんに力を!」

「分かった!」

 渚は触手を避けながら、俺に向かって手を伸ばす。

「町筋、手を出して!」

「おう!」

 俺は手を伸ばす。

 渚の手と俺の手が触れ合う。

 瞬間、体中に電流が走ったような感覚を覚えた。

「うわっ!」

「我が力よ、町筋に宿れ!」

 渚が叫ぶと、紫色の光が俺の体を包み込む。

「うおおおお!」

 体中に、今まで感じたことのない力が満ちていく。

 温かくて、でもどこか冷たい。

 優しくて、でも強い。

 それは、間違いなく渚の力だった。

「町筋、感じて! 君の中にある力を!」

 渚の声が聞こえる。

 俺は目を閉じて、自分の内側に意識を向ける。

 すると——

 そこには、眩いばかりの白い光があった。

「これが……俺の力?」

「そうだよ、町筋! それが榊家に受け継がれる、浄化の力だ!」

「浄化の力……」

 俺はその光に手を伸ばす。

 光は俺の手に吸い込まれていく。

 そして——

「うおおおおお!」

 俺の体から、白い光が溢れ出した。

 

「これは……!」

 蒼が驚いた表情を浮かべる。

「榊家の力が目覚めた……!」

 俺の手が白く光り輝いている。

 その光は、渚の紫色の光と混ざり合い、さらに強い輝きを放つ。

「いける……!」

 俺は術式の核に向かって手を伸ばす。

「浄化せよ!」

 白い光が核に触れる。

 瞬間、核が激しく震え始めた。

「ギャアアアア!」

 黒い影が苦しそうに叫ぶ。

「効いてる!」

「榊先輩、そのまま続けて!」

 蒼が叫ぶ。

 俺は力を込め続ける。

 しかし——

「グルアアアア!」

 黒い影が全ての触手を俺に向けて伸ばしてきた。

「町筋、危ない!」

 渚が叫ぶ。

「させるか!」

 焔が触手の前に立ちはだかる。

「炎の壁!」

 焔が両手を広げると、巨大な炎の壁が現れる。

 触手は炎の壁に阻まれ、俺には届かない。

「今のうちだ、榊!」

「ああ!」

 俺はさらに力を込める。

 核が激しく振動し、ひびが入り始める。

「もう少し……!」

「グアアアアア!」

 黒い影が絶叫する。

 そして、影は最後の力を振り絞って、巨大な黒い球を作り出した。

「あれは……!」

 蒼が顔色を変える。

「自爆するつもりです! 早く!」

「分かってる!」

 俺は最後の力を振り絞る。

「浄化せよ、悪しき力よ!」

 白い光が一層強く輝く。

 そして——

 パリィン!

 核が砕け散った。

「やった!」

 瞬間、術式の光が消える。

 そして、黒い影の体も光を失い始める。

「グ……ア……」

 影は力なく崩れ落ちる。

「終わりだ!」

 焔が最後の一撃を放つ。

「爆炎斬!」

 炎の剣が影を貫く。

「ギャアアアアア!」

 影は断末魔の叫びを上げながら、消滅した。

 

「はぁ……はぁ……」

 俺は膝をついて、荒い息を吐く。

 全身から力が抜けていく。

「町筋!」

 渚が駆け寄ってくる。

「大丈夫?」

「ああ……なんとか」

 俺は立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

「無理しないで。初めて力を使ったんだから、疲れて当然だよ」

 渚が俺を支える。

「やったな、榊」

 焔が笑いながら近づいてくる。

「初陣にしちゃ上出来だぜ」

「ありがとう、焔さん」

 俺も笑顔を返す。

「お疲れ様です、榊先輩」

 蒼も微笑む。

「榊先輩の力、見事でした。あれが榊家の浄化の力……本当に強力ですね」

「でも、もう動けないけどな」

 俺は苦笑する。

「大丈夫です。休めばすぐに回復しますよ」

 

 教室の床を見ると、術式は完全に消えていた。

 核も粉々に砕け、もう二度と悪霊を召喚することはないだろう。

「これで、一件落着……」

 俺がそう言いかけた時。

 教室の隅から、小さな声が聞こえた。

「まだ……終わってない……」

「え?」

 俺たちが振り向くと、そこには小さな黒い塊があった。

 影の欠片だ。

「しぶといな……」

 焔が舌打ちする。

 しかし、その欠片は攻撃してこない。

 ただ、震えながら喋り続ける。

「主の……命令……果たす……」

「主?」

 蒼が聞く。

「誰が、お前を送り込んだ?」

「主は……主は……」

 欠片は何かを言おうとするが、次の瞬間。

 バチッ!

 電撃のようなものが走り、欠片は跡形もなく消滅した。

「口封じ……!」

 蒼が叫ぶ。

「相手は用心深いですね。証拠を残さないつもりだ」

「ちくしょう……」

 焔が悔しそうに拳を握る。

「でも、一つ分かったことがある」

 渚が言う。

「この悪霊を送り込んだのは、『主』と呼ばれる誰か。しかも、かなり高度な術を使える人物だ」

「そして、その主は町筋を狙っている……」

 蒼が付け加える。

「一体誰なんだ……」

 俺は不安になる。

「分からない。でも、必ず突き止めるよ」

 渚が俺の肩に手を置く。

「大丈夫。僕たちがいる」

「そうだぜ。一人じゃないんだから」

 焔も頷く。

「僕たちも協力します」

 蒼も微笑む。

「ありがとう、みんな」

 俺は仲間たちに囲まれて、少し安心した。

 確かに、敵は強大で正体不明だ。

 でも、俺には仲間がいる。

 この仲間たちとなら、きっと乗り越えられる。

 そう信じて——

 

 その時、廊下から足音が聞こえた。

「誰か来る……!」

 蒼が警戒する。

 教室の扉が開く。

 そこに立っていたのは——

「町筋? なんでこんなところに?」

 陽介だった。

「陽介……!」

 俺は驚いて声を上げる。

「お前こそ、何でここに?」

「いや、3号館で変な音がするって噂聞いて、ちょっと見に来ただけだけど……」

 陽介は教室の中を見回す。

「なんか、めちゃくちゃになってるな。何があったんだ?」

「あ、あー……それは……」

 俺は言葉に詰まる。

 まさか、悪霊と戦ってましたなんて言えない。

「地震があって、棚が倒れたんだよ」

 蒼が咄嗟に嘘をつく。

「地震? 俺、気づかなかったけど……」

「小さい地震だったんで」

「そっか……」

 陽介は納得したように頷く。

 しかし、その目は何かを探るような光を宿していた。

「じゃあ、俺は帰るわ。お前らも気をつけてな」

「ああ、またな」

 陽介は去っていった。

 

「……怪しいですね」

 蒼が呟く。

「何が?」

「陽介さんです。あのタイミングで現れるなんて、偶然にしては出来すぎています」

「まさか、陽介が……」

 俺は信じたくなかった。

 陽介は親友だ。裏切るはずがない。

「確証はありません。でも、用心するに越したことはない」

 蒼は真剣な表情で言う。

「榊先輩、陽介さんには、今日のことを話さない方がいいです」

「……分かった」

 俺は複雑な気持ちで頷いた。

 親友を疑いたくない。

 でも、蒼の言うことももっともだ。

「さて、今日はもう帰りましょう」

 蒼が時計を見る。

「もうすぐ日が暮れます。夜になる前に、安全な場所に」

「そうだな」

 俺たちは3号館を後にした。

 振り返ると、建物は夕日に染まり、静かに佇んでいた。

 まるで、何事もなかったかのように。

 

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