紫色の閃光が全てを無に帰した薨星宮の最深部
五条悟は宙に浮いたまま 自身の掌を見つめていた
反転術式によって回った脳は万物の理を鮮明に捉え 全能感に満ち溢れている
だが その高揚感の端で 五条は自分と同じく血塗れになって倒れている一年生の姿を視界に捉えた
生簀 凪
彼が繋いだあの数分間がなければ 理子の命も 傑の心も そして今の自分の覚醒もなかっただろう
「……お疲れ様 凪くん 本当にかっこよかったよ」
五条は地上に降り立ち むき出しの六眼で凪を静かに見つめた
そこに恐怖はない あるのは自分たちを「最強の二人」から「最強の三人」へと変えてくれた少年への 絶対的な信頼と感謝だけだった
五条が視線を転じると そこには左半分を失いながらも仁王立ちを続ける伏黒甚爾の亡骸があった
死してなお倒れぬ執念
「……最期に言い残すことはあるか」
五条の問いに 甚爾は力なく笑った
口から溢れる血を拭う気力すらないが その瞳には「最強」を自負していた頃の傲慢さはもうない
「……ねえな」
一度はそう断じ 視線を落とす甚爾
だが 彼の脳裏をよぎったのは 自分が捨て去ったはずの血縁と そして自分を死の淵まで追い詰めた「食欲」という名の異能を持つ少年――凪の姿だった
「いや……二、三年もしたら 俺のガキが禪院に売られる 好きにしろ」
呪いではなく 願いのような遺言
五条はその言葉を 凪が命懸けで守ったこの平穏の続きとして 深く胸に刻んだ
それから一週間 凪の意識は戻らなかった
高専の医務室で反転術式を施されたものの 家入硝子は「呪力による極度の餓死状態」と診断した
領域を維持するために自身の細胞まで燃料にした凪の身体は 今や空っぽの器のようだった
その傍らには 片時も離れず付き添う天内理子の姿があった
彼女は生き残った
五条が甚爾を退け 盤星教の野望を粉砕したことで 彼女の「死」という運命は一旦回避されたのだ
だが 根本的な問題は残っている
天元様との適合を行わなければ 天元様は進化し 人類の敵となる可能性がある
「……傑 どうするつもりだい」
医務室を訪れた五条が 窓際で凪を見守る夏油に問いかける
夏油は凪が仕留めてきた呪霊の端材を いつでも調理できるように手入れしながら答えた
「……理子ちゃんを適合させるつもりはない
だが天元様の暴走も許容できない
だから 凪くんが目覚めたら 提案しようと思っているんだ」
「天元様を 『調理』してもらうってこと?」
二人の視線の先で 凪の指が微かに動いた
「……腹が 減った」
開口一番に溢されたその言葉に 夏油は泣き笑いのような表情で特製の粥を差し出した
目覚めてから数日 凪は驚異的な回復を見せた
そして彼は 二人の先輩に支えられながら 再び薨星宮の最深部へと降り立った
そこには 形を保つことすら危うくなった 巨大な呪力の塊――天元様が鎮座していた
「……なるほど これは確かに 酷い『アク』ですね」
凪はフラつく足取りで前に出ると 『無銘』を抜いた
適合という名の犠牲を必要とする歪なシステム
それを 料理人として 術師として 根底から覆すための解体
「天元様 少し熱いですよ
――御膳操術 奥義 『聖餐・解脱味(せいさん・げだつみ)』」
凪の刃が 天元様の巨大な呪力核を優しく だが確実に捉えた
それは破壊ではない 「純化」だ
天元様の中に溜まった数千年の澱 老化という名の雑味を 凪の術式が次々と剥ぎ取っていく
天元様の輪郭が 禍々しい呪力から 透き通った清浄な光へと変わっていった
光が収まった後 そこにいたのは 適合を必要とせず自律した安定的な存在
「生贄」という名のレシピが この世から完全に消えた瞬間だった
凪はその場にへたり込み 満足げに微笑んだ
夏油は凪の肩を抱き寄せ 五条は新しいサングラスを直しながら不敵に笑う
「よし これで全部解決だね
凪くん 恵ってガキを拾いに行くついでに 最高級の肉を買ってきたよ
今夜は決起集会だ 最強の僕たちが 最強の教育者になるためのね」
「……分かりました その恵くんって子にも 生簀家の味を叩き込んであげますよ」
「ははは! それは心強いな!」
夏油も声を上げて笑った
運命は変わった
一人の少年が 呪霊を「喰らい」 絶望を「調理」したことで
最強の二人は 最強の三人のまま 未来へと歩み始めた
数年後 伏黒恵が初めて高専を訪れた際
彼を待っていたのは 最強の術師二人と
「とりあえず これ食べて」と 見たこともないほど美味い呪力のスープを差し出す 不思議な先輩だったという
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