御膳操術   作:ナムルパス

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第5話 仕入れ

高専の演習場に 夏油傑の鋭い指示が飛ぶ

 

「灰原 左だ 七海はそのまま退路を断ってくれ」

 

以前の夏油なら これほどの規模の任務であれば一人で片付けていただろう

だが今の彼は 後輩たちとの連携を極めて合理的に そしてどこか楽しげに指揮していた

 

中心にいるのは 巨大な百足(むかで)のような形をした一級呪霊

数多の呪術師を退けてきたその禍々しい呪力も 今の夏油の目には「未知の食材」として映っている

 

「凪くん 頃合いはどうだい」

 

夏油が傍らの凪に問いかける

凪は『無銘』の鞘に手をかけ サングラスをずらして状況を注視する五条の横で 静かに頷いた

 

「最高ですね あの節の部分に呪力が溜まって ちょうど食べ頃です」

 

その言葉を合図に 凪が地を蹴った

七海の鉈が呪霊の姿勢を崩し 灰原の打撃がその動きを止める

その一瞬の隙間に 凪の包丁が閃いた

 

武術的な一撃ではない

それは 巨大な獣を解体する際に「急所」を外して鮮度を保つ 熟練の屠殺技術に近い一閃

 

「――締め(しめ)」

 

凪の声とともに 一級呪霊の巨体がビクリと跳ね その場で硬直した

死んではいない だが動けない

凪の術式によって 呪霊は「生きたままの素材」として現世に固定されたのだ

 

「よし 回収だ」

 

夏油が歩み寄り 凪が丁寧に布で包んだ「大きな獲物」を受け取る

かつての夏油なら ここで顔を顰めながら黒い玉を飲み込んでいただろう

だが今の彼は 重い荷物を持つ苦労さえ 今夜の献立への期待で相殺していた

 

高専に戻り 夜も更けた頃

 

旧調理室の明かりが ひっそりと灯る

中では凪が 一級呪霊の「節」から取り出した透明な肉を 丁寧に下処理していた

 

「……一級ともなると 繊維が強固ですね

 一度蒸してから 表面を軽く炙るのが一番良さそうだ」

 

「君に任せるよ 生簀くん」

 

夏油は調理台の向かい側に座り 凪の手元をじっと見つめていた

包丁がまな板を叩く音

鍋の中で何かが弾ける音

それらは夏油にとって どんな音楽よりも心を落ち着かせる旋律になっていた

 

やがて差し出されたのは 呪霊の肉とは思えないほど白く輝く「洗(あら)い」の一皿と

じっくりと火を通された「炙り」の二品

 

夏油は箸を手に取り 一口ごとにその強大な力を身体へ染み渡らせていく

かつての孤独な「呪いの摂取」ではない

これは 信頼する後輩が自分のために誂えてくれた「食事」だ

 

「……ああ 力が馴染んでいくのがわかる

 不快感がないどころか 自分の呪力が研ぎ澄まされていくようだ」

 

「良かったです 一級呪霊は呪力の密度が濃いので 使役後の出力も期待できますよ」

 

凪は満足げに 自分の分の端材を口に運ぶ

夏油はふと 窓の外を見上げた

 

校舎の屋上で 五条悟が夜風に吹かれながらこちらを眺めているのが「気配」でわかる

サングラス越しに彼が何を見ているのか 今の夏油には手に取るように理解できた

 

(悟 私はもう あの地獄には戻らない)

 

呪霊を食らい 人々を救う

その道がどれほど険しくとも この温かな食卓がある限り 自分は正気でいられる

 

夏油は最後の一片を口にし ゆっくりと目を閉じた

内側の影に 新たな一級呪霊が完全に定着する感覚

それは確かな「救済」の味だった

 

「……ごちそうさまでした 凪くん」

 

「お粗末様でした 先輩」

 

二人の間に流れる静かな空気

それは 呪術師という過酷な運命の中で 最も穏やかで 最も危うい絆の形だった




更新遅れてすみません

ちょっと指を怪我をしてて遅れましたm(_ _)m

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