高専の教室に差し込む陽光は どこまでも明るく 残酷なほどに平穏だった
五条悟と夏油傑の二人に下された 特級の護衛任務
星漿体・天内理子との適合と その抹殺を目論む勢力からの防衛
「……というわけなんだけど 凪くんも来てくれるかな」
夏油が 廊下で包丁の手入れをしていた凪に声をかける
五条は青いレンズのサングラスを指で跳ね上げ ニカッと笑った
「理子ちゃんって子 どうせ死ぬ気で強がってるだろうしさ
そういう時こそ 凪くんの飯で胃袋から懐柔しちゃおうっていう作戦」
「僕は構いませんよ 外の方が面白い食材も見つかりそうですし」
凪は淡々と『無銘』を布で包み 背負い袋に収めた
それが 地獄への入り口になるとは まだ誰も知る由もない
合流した天内理子は 案の定 自身の運命を「高貴な犠牲」と思い込もうとしていた
震える声を張り上げ 自分は天元様と一つになるのだと豪語する
そんな彼女を乗せた移動中の車内
凪は 小さな保冷バッグから一つのおにぎりを取り出した
「天内さん これ」
「……何よ 妾(わらわ)を毒殺しようというのかえ?」
「ただの梅紫蘇です お腹が空いてると 余計なことばかり考えますから」
理子は毒づきながらも 差し出されたそれを口にした
その瞬間 彼女の目からスッと力が抜けた
「……な 何これ 普通なのに すごく……優しい味がする」
「呪力は混ぜてませんよ 普通の料理です」
凪の言葉に 夏油が後部座席で穏やかに目を細める
かつての彼なら 護衛対象の悲劇的な運命に同情し 独り沈み込んでいただろう
だが今の彼は 凪の料理で心身ともに満たされ 「守り抜く」という意志が岩のように安定していた
最初の襲撃は 呪詛師集団「Q」によるものだった
ビルの屋上から襲いかかる刺客に対し 五条が虚空を蹴り 夏油が呪霊を放つ
その連携は「最強」の名に恥じぬ 圧倒的な暴力
凪は理子の傍らを一歩も離れず 向かってくる低級の式神を『無銘』でなぞるように斬り裂いた
切り離された呪力の欠片を その場で掌へ吸着させる
消費した分だけ補充する 無駄のない守護
「……あんた 強いのね」
理子が 凪の背中を見つめて呟く
「強くないと いい素材は手に入りませんから」
凪は振り返らずに答えた
その瞳は 襲撃者たちの背後に渦巻く「懸賞金」に群がる有象無象の呪力を見透かしている
やがて一行は 監視の目を眩ますために沖縄へと飛んだ
ホテルのキッチンで 凪は現地の食材を並べていた
アグー豚 新鮮な魚介 そして南国の果実
夏油は凪の隣に立ち 楽しげに食材の処理を手伝っている
「凪くん 理子ちゃんが笑ってるよ」
窓の外 浜辺で黒井とはしゃぐ理子を見つめながら 夏油が言った
「……良かったですね あの子 本当はすごくお腹を空かせてたみたいですから」
「ああ 任務が終わったら 高専で盛大な宴をしよう
天元様との適合なんて 彼女が本当に望まないなら……その時は」
夏油の言葉は最後まで紡がれなかったが その決意はかつてないほど明確だった
救いたい 救えるはずだ
凪が自分を救ってくれたように 自分もまた この少女を救えるのではないか
そんな希望に満ちた食卓を 遠く離れた場所から見つめる男がいた
伏黒甚爾
彼は一切の呪力を持たず ただ物理的な因果の中にのみ存在する特異点
凪の「呪力を感知し 食らう」術式にとって 彼は唯一 「存在しない」に等しい空白
「……美味そうな匂いがここまでしてくるぜ」
甚爾はニヤリと笑い 手にした黒い得物を弄んだ
彼はまだ動かない
「最強」たちが 凪の供する安らぎによって その神経を極限まで弛緩させるその瞬間を待っている
嵐の前の 贅沢な前菜の時間は 静かに終わりを迎えようとしていた
理子の口調が中々難しいですね
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