御膳操術   作:ナムルパス

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第8話 招かれざる客

高専の結界が 悲鳴を上げるような衝撃に揺れていた

 

「悟――!」

 

夏油の叫びを遮るように 血に濡れた五条が片手で制す

その瞳は サングラスを失い むき出しになった六眼が異常なまでの光を放っていた

脳に焼き付くような熱を 凪のソルベがもたらした残冷が辛うじて繋ぎ止めている

 

「……行け 傑 こいつは僕がやる」

 

「だが!」

 

「いいから行けって! 凪くん 理子ちゃんを頼むよ!」

 

五条の背後で 甚爾が退屈そうに耳を掻く

凪は苦い鉄の味を飲み込み 倒れた衝撃で痺れる足を引きずりながら立ち上がった

凪の目には 五条という「太陽」が 甚爾という「月も出ない夜」に飲み込まれようとしている光景が見えていた

 

「……夏油先輩 行きましょう」

 

凪の声は これまでにないほど冷徹だった

自分の術式では あの男(甚爾)は調理できない

呪力のない素材は 凪にとって存在しないも同義だ

ならば 今すべきことは一つしかない

 

「天内さんを 天元様の元へ」

 

夏油は唇を噛み切り 親友に背を向けた

理子の手を引き 黒井を庇いながら 高専最深部『薨星宮』へと続く階段を駆け下りる

 

静まり返った参道

湿った空気と 古びた木の匂い

理子の震える指先が 夏油の制服を強く握りしめていた

 

「……なあ 生簀くん」

 

走りながら 夏油が問いかける

その声には 隠しきれない不安が混じっていた

 

「悟は 大丈夫だろうか」

 

「五条先輩は最強です ……でも あの男は『何も持っていない』からこそ 最強のルールが通用しない」

 

凪は懐から 小さな紙包みを取り出した

それは沖縄で密かに作っておいた 一級呪霊の心臓を極限まで濃縮した「乾肉」だ

 

「先輩 これ 今食べてください」

 

「……こんな時にか?」

 

「こんな時だからです 今の先輩の呪力は 怒りで濁りすぎている

 それでは もしもの時に最高の出力が出せません」

 

夏油は凪の瞳に宿る 職人のような峻烈さに圧され その乾肉を口に放り込んだ

噛み締めるたびに 凪が精製した純粋な呪力が 荒れ狂う夏油の精神を強引に凪かせていく

 

やがて一行は 巨大な御神木の聳え立つ本殿へと辿り着いた

 

「ここから先は 適合者のみが立ち入ることを許される場所……」

 

黒井が足を止め 理子を見つめる

理子の顔からは 先刻までの怯えが消えていた

代わりにあったのは 凪がこれまでの数日間で食べさせてくれた「美味しい記憶」に支えられた 静かな覚悟だった

 

「……夏油様 生簀様 お二人とも」

 

理子が振り返り 最高の笑顔を作った

 

「妾を 最後までお腹いっぱいにしてくれて ありがとうえ」

 

その言葉は 適合への旅立ちを告げるものだった

だが 夏油はそこで足を止めることはなかった

彼は凪の術式によって かつてないほどに「自分」を取り戻していた

 

「……理子ちゃん 帰ろう」

 

確信に満ちた拒絶

夏油は理子の手を握り直し 凪を見た

凪は静かに頷き 『無銘』を逆手に持ち替える

 

「……お口直しに 最高の晩餐を用意しておきますから」

 

その瞬間だった

本殿の静寂を切り裂いて 乾いた足音が響く

 

一足早く「答え」を出した男が 血に濡れた刀を肩に担ぎ

奈落の底から這い上がってきた

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