だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ!!   作:散髪どっこいしょ野郎

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スティル実装から結構経ったのに未だ傷が癒えてないため書きました(注釈しておくとスティルシナリオは本当に素晴らしいストーリーでした。そこは間違いないです)
















妻の様子が早くもおかしい

「さあ、どうぞ」

 

「……」

 

 

 腕を広げ、こちらを見据える彼女。……俺、明日死ぬんかな?

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 事の発端は数十分前。

 

 

「お、いいよなそのドラマ。俺好きなんだよ」

 

「はい。私も見ていて胸が躍る心地で」

 

 

 テレビで流れているその番組は、ラブコメ漫画が原作のドラマだった。めっちゃ詳しいって程じゃないけど毎話楽しみに見ていた。

 

 コーヒーが入ったマグカップを二つテーブルに置きソファに腰掛ける。するとスティルはいきなり体を預けてきた。思わず爆発しかけたが、鋼の意志で耐え抜いた。

 

 ……めっちゃいい匂いする。人間のそれより少し高い体温が程よい心地良さを放っていた。ああいかん、考えるな俺。また爆発したいのか。

 

 

『今日は何の日でしょう~』

 

『なんだっていいだろ。それよりティッシュ取ってくれ』

 

『つれないなぁ~』

 

 

 俺の激情はつゆ知らず、物語が進んでいく。ちくしょう、俺も画面のあんたらみたいに平常心でいられたら……。

 

 

『今日は、ハグの日です!』

 

『……僕としたいっての?』

 

「ハグの、日……」

 

「スティルー?変なこと考えてないかー?」

 

「……」

 

「……」

 

 

 静寂が恐ろしい。ただでさえ一杯一杯なのに。

 

 

「……してみますか?」

 

「え?」

 

「してみますか?ハグ」

 

「……急にグイグイ来るじゃん」

 

「お嫌、ですか?」

 

「んなわけねぇだろぉ!」

 

 

 そして、今に至る。

 

 

「さあ、どうぞ」

 

「……」

 

 

 頬を僅かに紅潮させ、彼女は腕を広げる。それだけで一枚の絵になりそうな美しさだ。

 

 いやマジで、いやホント、ホントこの子可愛いよな。もう俺明日死んでもいいくらいだ。スティルを置いて逝くつもりは毛頭無いが。

 

 ぐあああ……!緊張で心臓がぶっ壊れそうだ!俺人間だろ!適応能力はどうしたんだよ!

 

 

「……じゃ、行くぞ」

 

「はい。……来て」

 

 

 徐々に歩み寄る。その度に心臓がやかましく急き立てる。

 

 

「……っ」

 

「……」

 

 

 彼女の背中に腕を回す。そして、互いの胸をくっつける。

 

 

「……愛してる」

 

「……ここでその言葉は心に来るぞキミぃ……」

 

「お嫌、ですか?」

 

「なわけないよ」

 

 

 

 うああああ!体柔らかっ!めっちゃ良い匂いする!これで爆発するなは無理があるぞ!

 

 ていうかマジでスティルグイグイ来るじゃん!そんなに俺好感度稼いでたか!?

 

 ……と、そこまで思考して急に落ち着いてきた。俺が出逢った時、スティルは中等部だった。思春期に関わった異性という補正もある程度あるのだろう。そう考えると不安になる。

 

 ──俺は、本当に彼女に必要なのか?

 

 だって俺ってキモいし。長所だってほんの僅かしかないし。トレーナーもう辞めちまったし。

 

 

「……なあ」

 

「はい?」

 

 

 ……恐怖がにじみ出る。こんな俺が、スティルに必要とされていいのか?ていうか婚姻関係まで結んでおいてなにウジウジ悩んでんだ。

 

 

「今さらすぎるかもしれないけどさ、俺、本当にキミに必要か?」

 

「……何故、そう思われたのですか?」

 

「だって俺、中高生相手に爆発するロリコン野郎だし、トレーナー業ぐらいしか得意分野無いし、それに──」

 

「トレーナーさん」

 

「ヒャウッ!?」

 

 

 背中に回された腕が俺の頭を掴み、鼻先が触れそうな程近くまで俺とスティルの顔が寄る。うおっ、すっげえ美少女……。

 

 

「私が貴方のスティルインラブであるように、貴方は私の全てなのです。そこは否定なさらないでください。それに──貴方は私だけを愛してる。それはお互い存じ上げているでしょう?」

 

「……そうだな。ごめんスティル。変な迷いだった」

 

 

 もう何年も前の誓いだろうと、俺は契りを結んだ。

 

 俺はスティルのためだけにトレーナーになった。そして、彼女を愛して、愛されるようになった。今はそれだけ分かっていればいい。

 

 そこまで思考してようやく落ち着けた。落ち着けた、が……。

 

 

「ふふ、熱い……」

 

「……なんかインモラルだぞ、その言い方」

 

 

 俺の心臓が加速する。顔が近くで見えることで緊張は更に倍増した。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー……」

 

「お帰りなさいませ、トレーナーさん」

 

 

 現在は仕事が繁忙期に置かれているとのことで、彼のご帰宅時間は遅くなっている。

 

 

「いやー、悪いなスティル待たせちまって。先に食べててよかったんだぞ?」

 

「……ワガママを申し上げますと、私はトレーナーさんと一緒に食事を摂りたいです」

 

「……フッ、いつもありがとうな。待っててくれて。シャワー浴びてくる」

 

 

 浴室に向かう彼の背中を眺めていると、私の中で一つの欲求が生じる。

 

 あれからしばらく彼の鼓動は聞けていない。あのドラマはこの間最終回を迎えてしまった。きっかけを作り出すのは難しい。

 

 ……勇気が欲しい。貴方を欲する、勇気を。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「……!もぐもぐ……」

 

「ははっ、いいってそんな焦んなくても。俺、キミが美味そうに食ってるの見るの好きなんだよ」

 

「もぐもぐ……そ、そうですか」

 

 

 私は食事のスピードが遅い。急かされるように咀嚼する私を、トレーナーさんはいつでも穏やかに見守っていた。

 

 ……貴方は、私の走りを好きだと仰っていた。それ以外にも、私に関係するあらゆる事柄を好ましく思ってくれている。

 

 一歩間違えると途端に狂ってしまいそう。好き、好き、好き、大好き……

 

 

「あ、目赤くなった」

 

「?」

 

「ああ悪い、こっちの話」

 

 

 私とワタシは溶け合っている。もう私は、ワタシではない。

 

 それでも彼は認めてくださった。ありのままの私でいいと。どんな私でも愛していると。

 

 だから私は貴方を守りたい。貴方を襲う全てを切り落としてしまいたい。

 

 貴方に、トレーナーさんに笑顔でいてほしい。だから、だけど、こんな衝動は……。

 

 

「スティル」

 

「!は、はい」

 

「俺さあ、スティルに救われてたんだ。キミのお陰で俺はトレーナーやれてたし、今こうして生きてるのもキミが傍にいてくれたからなんだ。だから、言えなくてもいいから、たまには俺を頼ってくれ。日陰になるくらいならできる」

 

「……ふふ、ふふふ、ふふふふふ……」

 

 

 もう、いいわよね?この世界(いえ)には貴方と私以外誰もいない。

 

 ──貴方だけ、欲する修羅に、成り堕ちる。

 

 

「……また、抱きしめてほしい、です。離れてしまわないよう、きつく」

 

「……わ、分かった。ふー……改めてだけど緊張するな……」

 

 

 食事の後片付けを終えて、二人向き合う。今度は私から。

 

 

「トレーナー、さん……」

 

「……ぅ、ぅぉぉぉ……」

 

 

 貴方の鼓動が伝わる。生きていることの確証。絶えず放たれ続ける命の音。

 

 貴方を確かめられると心の底から安心する。帰る場所がそこにあるのだと。

 

 以降、一週間に一回ハグをするのが定例行事となった。

 

 ……今は一週間に一度の頻度。だけど、私が完全に壊れたら……ふふ、どうなってしまうのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「温泉旅行……ですか?」

 

「そ。福引きで当たったから、一緒に行けたらと思って」

 

「では、早い内にパッキングを済ませましょうか」

 

 

 原作(アプリ)ではチャンスは一度きり。しかし卒業してからはゲームの範疇外だ。故に、いくらでもトライできる。これが大人になるということだ。

 

 手続きや下準備は順調に進み、俺たちは名旅館の温泉施設に繰り出していった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ここが……」

 

「ほえー、良い景色だぁ……」

 

 

 たまにはこうやって外出するのもいいな。スティルがいるなら尚更だ。

 

 

「どーする?先に旅館で荷物降ろすか?」

 

「はい。よろしければ、そのまま観光に行きたいです」

 

「……」

 

「?どうかされましたか?」

 

「……キミが自分の意見を躊躇わずに言ってくれたことが、嬉しくて。ちょっと感慨に耽ってた」

 

「……そう、ですか。……ふふ……」

 

 

 そこからはあっという間で。荷解きをして俺たちは観光に繰り出していった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はぁ……はぁ……デスク、ワーク、ばかりでっ、体力、落ちてるな、俺……」

 

「トレーナーさんがよろしければ私が背負いましょうか?」

 

「ぜぇ……ぜぇ……いや、ここは格好つけさせてくれ。……こんなに疲れを表に出しといて格好つけも何もないけど」

 

「かしこまりました。……貴方を背中に感じる、『馬』になるのも少し楽しそうですが……トレーナーさんがそう仰るのなら」

 

 

 時代錯誤な考え方だけど、俺は異性の子、それも結ばれた子相手には格好つけたかった。こんなみっともない姿だけど譲れないものがある。

 

 ちなみに今俺たちは観光スポットの高台に向かっているのだが、ロープウェイが点検中で使えなかったのだ。だからぜぇはぁ言いながら坂道を登っている。

 

 

「ふぅ……ふぅ……つ、着いたぁー……」

 

「お疲れ様でした。しばらく休憩しましょうか。この場所限定のソフトクリームもあるようですから」

 

「おー……じゃ、お言葉に甘えて……。……うおー、良い景色……」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふー、いい湯だったぁ……」

 

「あ、トレーナーさん」

 

「ん、キミも同タイミングで上がった口か。フルーツ牛乳でも飲まないか?」

 

「では、お一ついただきます」

 

 

 硬貨を入れてボタンを押す。たったそれだけの行動でも、旅行という特別感に彩られていた。

 

 ちなみに俺は意図的にスティルから若干目を逸らしていた。なにせいつも被っているヴェールが無く、更に館内着を着ているからだ。いつもとは違った良さに目を潰されそうだった。

 

 

「んっく、んっく……ぷはぁー、美味ぁー!」

 

「ふふ。入浴後だとより特別に感じられますね」

 

 

 さて、ここまで順調な旅路だったが、少し前から俺の中で深刻な悩みがあった。それは今も絶えず俺を責め立てていた。

 

 そんな憂いを覆い隠すように笑む。が……スティルのことだ。きっとバレてるんだろーな……。それでも追求しないでくれる優しさが、傷口に染みる。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……スティル」

 

「はい」

 

「これはちょっとぉ……よろしくないんじゃないか?」

 

「お嫌でしたら、拒んでください」

 

「……ちくしょー、ズルいなぁ。俺がキミを拒めるわけないのに」

 

「ふふ。存じ上げております」

 

 

 何を押し問答しているのかと聞かれれば、どうやって眠るかの問題だと答えよう。

 

 普段同衾してるのだから今日もそうするのが自然だ。しかしいつもとは違った空間、いつもとは違った気配、あらゆる事象が俺を爆発させようと追い詰めていた。要するに、添い寝されるんだがめっちゃドキドキして眠れない。

 

 ……あー!もうどうにでもなれー!

 

 

「っ?トレーナーさん……?」

 

「……もう俺自重しないからな。覚悟決めてくれよ」

 

 

 俺にしては攻めたポジショニング。スティルに向き合うように寝転がり、無理やり目を閉じた。ええい、黙ってろ心臓!いや黙ったら死ぬだろ。

 

 

「……ふふ」

 

「……」

 

 

 俺の中の悩みが増大していく夜だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 俺の中の悩み。トレーナー時代からずっと堪えてきたが、もうそろそろ我慢が限界を迎えようとしていた。

 

 

「トレーナーさん、今日も、その……ハグをお願いできますか?」

 

「……最近頻度多くないか?」

 

「……嫌、ですか?」

 

「嫌じゃないのが問題なんだよなぁ……」

 

 

 最大の苦悩。それは、もう自分の本能を抑えられないという懸念だった。もういいんじゃないか。ここまでよく耐えただろ?そんな甘い囁きが理性を溶かしていく。

 

 スティルはきっと拒まない。俺が何をしても受け入れてくれる。分かってる。だからこそ穢したくなかった。

 

 俺のエゴを通すには、俺は醜くなりすぎた。何度も爆発して、高潔さなんて欠片も無い。

 

 

「……ん」

 

 

 両腕を広げる。今日も抑えるんだ。耐えろ、耐えろ、耐えろ……

 

 

「あぁ、トレーナーさん……!」

 

「……!」

 

 

 体温が強く伝わるヤバいこのままだとマジでスティルに狂う。それが良いことなのか悪いことなのかさえ判断がつかなくなっている。酒よりタチ悪いんじゃないか。

 

 ──ごめん神様、俺もう無理だ。

 

 

「きゃっ……!?」

 

 

 お姫様抱っこをしながら『落ち着ける場所』に向かう。俺の衝動を気取ったのか、スティルの顔色は赤くなっていく。

 

 

「優しくはできない。いいな?」

 

「……はい。貴方の、全てを曝け出して──」

 

 

 夜が更けていく。夜が、更けていく。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 あああああ!!俺は、俺はなんてことを……!

 

 

「ごめん神様、ごめんスティル……」

 

「大丈夫です。私はここにいますから」

 

 

 だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ……。俺はなんてことしちまったんだ……。

 

 

「ああ、泣かないでトレーナーさん」

 

「で、も、俺、キミを、穢して」

 

「大丈夫です。例え世界が拒絶しても、私が貴方をお守りしますから」

 

 

 スティルの胸に抱かれながら、瞳を閉じる。後悔と愛情と庇護欲の狭間に揺れて、消えてしまいそうだ。

 

 ……愛の到達点が、″これ″だとは思わない。だけど俺は数年間来の欲望に抗えなかった。

 

 ……ああ、俺は、卑しいな。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 わたしの両親はマジでラブラブだ。もちろん夫婦仲が良いのはいいことだけど、にしても限度ってものがあると思う。

 

 

「お父さん、お母さんのどんな所が好きなの?」

 

 

 ある休日、わたしはお父さんにそう尋ねた。するとお父さんは喜びいっぱいの表情で語り出した。

 

 

「まず所作が丁寧な所だろ?加えて言葉遣いも柔らかいし、なによりめっちゃ可愛らしくてな現役時代もいいんだけど今も最大級に──」

 

「分かった、分かったからストップ」

 

 

 このままだときっと何時間も語り尽くすだろう。早めに切り上げた方がいいなと判断し、お父さんを鎮めた。

 

 

「あ、お母さん」

 

「どうしたの?学園は?」

 

「……あー、恥ずかしくてあんまり言えなかったんだけど、二人の顔見たくて。外泊届け出してきた。だから今日は泊まりたいんだ。……迷惑かな」

 

「……ふふふ、そんなことないですよ。せっかくの家族団欒ですし、今日は豪華にしましょうか」

 

「言ってみるもんだなあ……」

 

 

 わたしの言葉に嘘は無い。お父さんもお母さんも大好きだ。けど、この二人の愛情には勝てそうにないかな、なんて一人考えた。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん」

 

「ん?」

 

「今、幸せですか?」

 

「キミが隣にいて、そこで生きてくれる限り、幸せだ」

 

 

 そう言うと、眩しく笑った。

 

 

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