だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ!!   作:散髪どっこいしょ野郎

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担当の様子が早くもおかしい

「~♪」

 

 

 俺は今、気分が良かった。トレーニングメニューが組み終わり、トリプルティアラに向けてのプランも数パターン完成したからだ。

 

 認めるのは癪だが、あの神様から与えられたトレーナーとしての才能は随一のものだった。何をすればいいか、考えずとも分かる。

 

 ……だけど、いいのか?周囲のトレーナーは血の滲むような努力で中央に来ているというのに、俺は与えられた才能を振るって戦おうとしている。もちろん自己研鑽は欠かさない心積もりだが、ズルをしているような気がしてならない。

 

 努力はしてきた。だが、生まれついての差、ギフトが今の俺を構築している。

 

 

「……」

 

 

 ああクソ、いい気分が台無しだ。恨むぞ神様。

 

 

「ん?どうぞー」

 

 

 ノックの音。この感じ……スティルとは違う?

 

 

「失礼します」

 

「キミは……」

 

 

 アドマイヤグルーヴ。スティルと同世代の選手が、何故俺の所に?

 

 

「恐れ入りますが、スティルさんと走らせてください」

 

「えー……あ、いやもちろんいいんだけど」

 

 

 どんな心境の変化があったんだ?まあスティルの糧になってくれるならなんでもいいか。

 

 あの早朝から、アドマイヤグルーヴ……アルヴについて調べてみた。

 

 幼い頃から両親の元を離れ、施設で過ごしてきたウマ娘。『神童』ともて囃されながらも纏う雰囲気は冷たく、孤独を貫いている。同情も軽蔑もしないが、スティルの前に立ちはだかるなら容赦なく打ち破る気でいた。少なくとも俺は。

 

 

「今のままでは、私はスティルさん……いえ、貴方たちに勝てない。だから、利用させていただきます」

 

「ふっ、それをトレーナー本人の前で言うか。分かった。じゃあ早速なんだが──」

 

 

 というわけで、予定が合う日はスティルとアルヴで走ってもらうことにした。これなら友情トレーニングもできるか?

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「うーん、いい日和だ……」

 

 

 デスクワークに追われてパソコンをいじくっているが、窓から差し込む陽気が心地よい。……よし、一区切りついた。ちょっと眠るか。最近徹夜してばっかだったし。

 

 

「ふぁぁ……ねむ……」

 

 

 部屋のソファに横たわり、瞳を閉じる。何か音が聞こえた気がしたが、全身を襲う脱力感に抗えず、寝落ち。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「あれ?」

 

『やっほー、元気?』

 

「……なんでアンタがここにいる」

 

『どっちかというと君の意識をこっちに呼び込んでるんだけどね』

 

「どっちでもいい。なんでまた話しかけてきた。そんなに殴られたいのか」

 

 

 夢特有のふわふわした意識でありながら理解する。目の前にいるコイツは俺をウマ娘世界に転生させた神様だ。

 

 

「見て分からねぇか?俺寝てんだけど」

 

『おー、怖……。いやね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……なんで今の段階でアルヴちゃんとほんの少しだけだけど打ち解けてるの?アプリだとこの時はまだ『なれ合いなんて必要ない』なんて言ってたんだよ?』

 

「育成ではバチバチでもサポカに編成してたら関わるだろ。多分そういうことだ。そろそろいいか?俺眠りたいんだが」

 

『ふーん……ま、頑張ってよ。ハッピーエンド見せてね』

 

「言われなくてもそのつもりだ。じゃあな」

 

 

 隙を見て殴りかかろうとしたが肉体から意識を切り離されてるため不可能だった。悔しい。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ううん……」

 

 

 神様と対話した記憶はあるが、体はしっかり休めていた。浮上する意識に任せ目を見開くと──鼻先くらいの位置にいるスティルの視線が俺を射貫いていた。

 

 

「……スティル?」

 

「……あっ、ご、ごめんなさい。つい……」

 

「いや、別に咎めてるつもりじゃないんだが……俺を見てたってつまらないだけだぞ?」

 

 

 美少女が目の前に突然現れたことで俺の心臓は早鐘を打っていた。よかったー、ムラっとこなくて。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫(時は少し遡り)

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん?……寝てる……」

 

 

 ノックをしたものの返事が無かったので心配になり、無断で部屋に入ったら彼は眠っていた。

 

 

「……」

 

 

 起こさないようにそっと毛布を掛ける。表情は穏やか。願わくは、良い夢をご覧になっているように。

 

 

「…………」

 

 

 安らかな寝息を立てるトレーナーさん。その(かんばせ)から目が離せない。

 

 

「ゆっくりお休みください、トレーナーさん」

 

 

 凛々しくも可愛らしい、貴方の寝顔。見つめていたい。いつまでも、いつまでも。

 

 

「っ……」

 

 

 もっと。もっと、近くで。

 

 

「ううん……」

 

「!」

 

 

 起こして、しまった?とにかく離れないと──でも、いや。離れたくない。

 

 

「……スティル?」

 

「……あっ、ご、ごめんなさい。つい……」

 

「いや、別に咎めてるつもりじゃないんだが……俺を見てたってつまらないだけだぞ?」

 

 

 ……私は、なんて、はしたないことを。

 

 頬が紅潮する。心臓が不規則に乱れる。

 

 手を伸ばせば、そのまま飲み込まれてしまいそうなトレーナーさんの存在感。まるで、()()()()()()()()()()()

 

 魂が叫ぶ。私の出会うべき、手を取り合うべき相手は、この人以外いないと。

 

 

「……申し訳、ありませんでした。失礼しました」

 

「ちょい待て。時間まだ空いてるだろ?ビブリオバトルでもしないか。小説読んできたんだ」

 

 

 ああ、そんな、優しくされたら、今度こそ私は自分を抑えられなくなる。

 

 ──やっぱり、そう。いくら誤魔化してもこの心は熱を持つ。

 

 ワタサナイ。アルヴさんにも、ラモーヌさんにも。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり勘違いじゃないよな」

 

 

 アルヴとスティルが走るようになってから身体能力の伸びが良い。これがミックスアップってやつか。

 

 

「これならメイクデビューもいけるな」

 

 

 俺はリアルを生きている。アプリのように、ステータスが見えるわけじゃない。サポカ編成だって不明だ。いやもしかしたら、サポカなんて概念が無い世界かもしれない。

 

 

「それじゃ、先に上がるから」

 

「はい。ありがとうございました、アルヴさん」

 

「よし、ちょっくら調整に入るか」

 

 

 メイクデビューまでもう間もない。スティルには最高潮の状態で挑ませてやりたいという気概もそこそこに、俺はプランを進めていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「フー……」

 

 

 トレーナーになれば美少女とキャッキャウフフできるのでは、なんて考えてた前世の俺を殴りたくなるくらいに仕事は多忙を極めていた。

 

 今日も徹夜だな、なんて思いながらエナドリのプルタブを引くと同時に、ノックの音。

 

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

「どうしたスティル、なんか忘れ物でも……って、これじゃデジャヴだな」

 

 

 苦笑交じりにスティルを見る。小さなプラスチックの箱に何かが入っている。これは──

 

 

「甘味は、お好きでしょうか」

 

「ん?まあ、人並み程度には」

 

「スコーンを焼きました。よろしければ、お仕事の合間にお召し上がりください」

 

「おー、ありがとう」

 

 

 今は門限が近い夜だというのに、わざわざトレーナー室まで来てくれて、更に菓子までくれるなんて。本当にできた子だ、スティルは。

 

 それからはパソコンとにらめっこする傍ら彼女お手製スコーンに舌鼓を打った。なんやかんやで充実してるな、俺のトレーナー人生。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、ふふふふふ……」

 

 

 長かった。今日まで、衝動を抑えることにどれだけ呻吟したことか。

 

 だけど今日は、いいのね?全て曝け出して。

 

 

「お、早速スイッチ入ってるな」

 

「……ああ、トレーナーさん」

 

 

 白昼夢の中にいるみたい。欲しかった人が傍にいて、本能を解放させられる。なんて──至高の時間。

 

 

「作戦は念頭に置いてほしいが囚われすぎるな。最悪、キミのやりたいように走っていい」

 

「でも、そんなことをしたら……」

 

「威圧感が放出するだろうな。キミはバカじゃない。座学通りの走りもできるだろう。だが、これはあくまでデビュー戦だ。下手に悩むくらいなら、いっそ貫き通せ」

 

「…………」

 

 

 トレーナーさんは、きっと許してしまう。私のはしたない疾走も嬉々として受け取ってくれる。

 

 それでも染みついた恐怖は拭えなかった。

 

 

「なんて言ったけど、俺はキミが負けようが理性を捨てようがキミが心から笑えればなんでもいい。……って、ごめん。レース前に言うことじゃなかったな」

 

「どうして、そこまでしてくれるのですか?」

 

 

 純粋な疑問だった。私のような未熟者の何が彼に刺さっているのか。

 

 

「簡単だ。スティルが、俺の一番大切な存在だからだ」

 

「……。……!?」

 

 

 あまりの衝撃に二の句が継げない。それはつまり……私が、私の存在が、彼の中で一番大きいということ?両親を差し置いて?

 

 

「そろそろ時間だな。行けるか?」

 

「は、はい……」

 

 

 何故かしら。私の本能は彼の言葉を前にすると途端に口をつぐむ。

 

 今日までトレーナーさんと共に駆けてきた。まだまだ先は長い。それでもハッキリ言える。私は幸せだったと。

 

 

「あぁ……」

 

 

 ゲート入りする頃には理性が溶けかかっていた。早く、はやく、ハヤク──もう待ちきれない。

 

 心に滾る灼熱。解き放つ時は──今。

 

 

『スタートしました!』

 

「ッ!」

 

 

 私は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「凄まじいな」

 

 

 ……ちょっと鍛えすぎたか?アプリでもメイクデビューで大差なんてつけられなかったぞ?

 

 スティルは勝った。本能が溢れ出していることを感知したが彼女がレースを楽しんでくれたのであれば言うことは無い。

 

 

「よくやったな」

 

「トレーナーさん……」

 

 

 観客の反応は様々だった。素直に喜ぶ者、恐れ戦く者、闘志を滾らせる者。それだけスティルの走りは強い存在感を放っていた。

 

 

「ナイスファイト。ライブまで時間あるから、ちょっと休もう」

 

「……はい」

 

 

 スティルの表情に浮かぶ感情はこれまた様々だった。

 

 

「スティル」

 

「はい」

 

うーん、なんて言おう……いいレースだった、じゃありふれすぎてるし……美しかった……は、イケメンじゃないと言えねぇし……あ、綺麗だった。やっぱり俺、スティル(のレース)が好きみたいだ」

 

「……ッッッ!?!?」

 

 

 ?顔真っ赤になっちゃった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「で、また書類仕事と」

 

 

 やることが……やることが多い……!!

 

 アプリじゃサラッと流されている雑務が忙しすぎて寝てる場合じゃない!まあそれはそうか。ここはプロの世界だしな。

 

 それもこれもあの神様の所為だ、と自分を慰めながら手を動かす。やらなきゃ仕事は終わらない。

 

 

「あ、どうぞー」

 

 

 スティルの控えめなノック音。別に予め知らせなくともやましいことしてるわけじゃないから勝手に入ってもらって構わないんだが、律儀だなー。

 

 

「失礼します」

 

「なんか用か?」

 

「……その、お嫌でしたら追い出していただいて構いませんが……少し、ここで休んでいいですか?」

 

「ああなんだ、全然いいぞそれくらい」

 

 

 俺がスティルを拒むなんて天と地がひっくり返ってもありえないのになぁ。どうやってこの気持ちを知ってもらうか……。まあ、まだメイクデビューが終わってすぐだからな。親愛もゆっくり時間をかけて育まれるものだし、焦りは禁物。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 ……なんだ?めっちゃ視線感じるんだが。俺の仕事風景見てたってつまらないだけなのになぁ。とはいえ拒むのは躊躇われるし、スティルのしたいようにさせるか。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「フー……よし、一段落ついた。スティル」

 

「!は、はい」

 

「ちょっと散歩でもしないか?座ってばかりじゃ健康に悪いし」

 

「……よろしいのですか?」

 

「むしろこっちが聞きたいくらいなんだが」

 

「……貴方が望むなら、私は大丈夫です」

 

 

 あ、笑ってくれた。

 

 

「……」

 

「トレーナーさん?どうかしましたか?」

 

 

 ……なんか泣きそう。てか泣いた。

 

 

「トレーナーさん……!?」

 

「あ゛ーごめん、キミが嫌とかじゃなくて、嬉しくて」

 

 

 あーやばい。涙が止まらない。

 

 なりたくもないトレーナーに就かされて、毎日ズルをしてるような背徳感に襲われて、それでも頑張って。

 

 ダメージは想像以上に重かった。それが、スティルの笑顔、たったそれだけで霧散した。

 

 ……俺、チョロいな。優しくしてくれただけの中等部の女の子に、もう傾倒しかかっている。

 

 

「……よし、行くか、スティル」

 

「……はい」

 

 

 

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