だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ!!   作:散髪どっこいしょ野郎

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初めての爆死

 バニラエッセンスを一滴。

 

 

「ふふ……」

 

 

 あの方が喜んでくれる姿を夢想して、笑みがこぼれる。バニラエッセンスを、もう一滴。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「あー、朝か……」

 

 

 今日も忙しくなる。やかましい目覚まし時計を殴りつけながら身を起こした。

 

 

「ふぁあ……」

 

 

 優雅にコーヒーや紅茶を飲んでいる暇は無い。急かされるように朝食を口の中へ押し込み、水筒に麦茶を注いで仕事道具と共に部屋を飛び出す。

 

 ウマ娘は嗅覚が優れている。そして(この学園にいる)ウマ娘は中高生。

 

 『あのトレーナー臭くね?』なんて言われた日には居場所をたちまちに失う。だからシャワーは必ず一日に二回浴びることにしていた。どれだけ忙しくてもそれは欠かさなかった。あと歯磨きも。

 

 

「おはようございます、トレーナーさん」

 

「ああ、おはようスティル」

 

 

 ……毎日毎日、飽きずに思うことだが。

 

 スティルってめっちゃ可愛いよな。担当補正がかかってるのもあるかもしれないけどここまで完成されたキャラデザは中々見られないぞ。

 

 

「まずはアップからやろう。軽めに一周走ってくれ」

 

「はい」

 

 

 ……大丈夫、大丈夫だ。担当相手にムラッと来たらトレーナー失格だ。俺は抑えられている。般若心経を忘れるな。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……よし、今日の仕事終了」

 

「お疲れ様でした。よろしければ、クッキーをどうぞ」

 

「毎度ありがとうな」

 

 

 スティルは授業を除けばいつも隣にいる。……なんか距離感近くないか?

 

 流石に門限破りはしないが、あんまり俺ばかりに構っていてはせっかくの学生時代が台無しになってしまうんじゃないか?と思いながらも口には出さない。それは彼女への拒絶になってしまうから。

 

 うーん……なんというか、幸せだなぁ。

 

 

「ちょっと自販機でなんか買ってくる。欲しいもんあるか?」

 

「……一緒に、行かせていただけませんか?」

 

「オゥッフ」

 

「?」

 

「ああ悪い悪い。じゃ、一緒に行くか」

 

 

 このように時々クリティカルヒットを食らわせてくるから、俺の中でスティルは侮れない存在となっていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「えーっと、後はこの資料を先輩に返すんだったっけな……」

 

 

 ある日。昼食を手早く終わらせ、データをくれた先輩の元に急いでいた。

 

 廊下を歩いていると当然様々なウマ娘とすれ違う。その中でも異彩を放っていたのが、その子だった。

 

 

「……スーパークリーク?」

 

 

 あ、前世の推しその一だ。

 

 

「そ、そこのアンタ!呆けてる場合ちゃうで!今のクリークは強制甘やかしモードなんや!はよ逃げ!」

 

 

 俺にそう呼びかけるのはタマモクロス。……強制甘やかしモード?確かアプリでは似たような状態で風紀委員が餌食になってたような……

 

 

「なにボサッとしてんねん!はよ逃げるで!」

 

「うおっと」

 

 

 推しとはいえ生徒に甘やかされるのは成人男性の沽券に関わるので、タマモクロスに担がれて逃げた。

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「フー……」

 

 

 とある昼下がり。俺は鷹村守というキャラに憧れて、一度はやってみたかった乾燥しいたけを噛みながら仕事に打ち込む、という時間を過ごしていた。

 

 目標は忘れていない。スティルインラブにハッピーエンドを齎す。しかしそれはどういう基準でハッピーエンドと見做されるのか。それが問題だった。

 

 ゲームでは、勝って勝ってURAファイナルズで優勝すればグッドエンドとなる。とにかく勝てばいい。

 

 しかしあの神様は素晴らしいシナリオだったが見てて胸が引き裂かれそうと言っていた。つまり、今のまま突き進んでも目標達成とはならない可能性がある。

 

 ……稼いどいた方がいいか?好感度。ゲームでは育成終了時やレース終了後などで親愛度が加算されるが、俺はゲームの枠組みから外れた存在だ。シナリオを改変できる、ある意味では唯一無二のヒト息子。

 

 要するに、未来はいくらでも変えられる。そのために好感度を高める。

 

 というわけで。

 

 

「スティル」

 

「はい?」

 

「今度の休み、空いてるか」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「くおぉ……」

 

「?どうかしましたか?」

 

「いや……すまない。気にしないでくれ」

 

 

 一応何度か見たのだが、何度見ても慣れないくらいに私服姿めっちゃ可愛い。

 

 

「じゃ、行くか」

 

「はい」

 

 

 ここは東京。娯楽や名所が山のようにある。

 

 予定は無い。気ままに歩き、その場の雰囲気を楽しむウマさんぽに、俺たちは興じようとしていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「パンケーキ二つお願いします」

 

「かしこまりましたー」

 

「いやー、今日は空いてて良かったなー」

 

「ふふ。そうですね」

 

 

 小休止で立ち寄ったカフェにて、軽くスイーツをキメることにした。ここは平日でも行列ができる程の人気店だったが、運良く二人分の席が空いていた。

 

 注文の品を待つ間に何処へ脚を運ぼうか思考を巡らせる。確かここの近くには珍しい物が展示されている個展があった。見てるだけでも十分楽しめるだろう──ん?

 

 

「……ダメ、いけないのに……」

 

「……?」

 

 

 微笑みを浮かべながらこちらを見やるスティル。それだけならまだいいんだが、何かをぼそぼそ呟きながら視線を外したり合わせたりしている。

 

 対する俺は寝不足だった。何処へ行こうか、という思考は完了し、なおかつ自分の言動を考える余裕が無かったため、思ったことそのままが口からこぼれた。

 

 

「かわいーなー、スティル」

 

「ぇ、あ、そ、そんなにまじまじと見られたら……恥ずかしい……」

 

 

 マジで可愛いなこの子。これで影薄いって嘘だろ?

 

 つーか萌えるのはオッケーなのか。それは助かった。

 

 ……にしてもキモいな俺。中学生相手にセクハラかますような奴だったのか。自分で自分に幻滅するわ。ちなみにパンケーキは美味かった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「たくさん歩いたな。疲れてないか?」

 

「はい、少し。ですが、今日は貴方と過ごせてとても楽しかったです」

 

「そいつは重畳。そろそろ晩飯にするか」

 

 

 そうして立ち寄ったのは某フライドチキン専門店。前世ではウマ娘とコラボしていたため、この世界でも存在している。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「美味いな」

 

「!もぐもぐ……もぐもぐもぐ」

 

「ああいや悪い、そんな急がなくても大丈夫だから」

 

 

 パンケーキもいいけど俺にはこういうジャンキーな飯が合っている。そういった意味でも、この店を選んだのは最適だった。

 

 スティルは一口一口確かめるように食べている。そういう所もやっぱり可愛いんだよなー……。

 

 

「ああ、いけない……」

 

「──」

 

 

 指先に付いたチキンの衣を舐め取るスティル。その仕草は中等部ながら蠱惑的で──

 

 

「スティル下がれ!早く!俺が爆発する!」

 

「はい?」

 

「ほあああああっ!!!」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「──ッ!え、あ?目覚まし、時計……?」

 

 

 けたたましい音が部屋に鳴り響く。枕元の携帯を点け時刻を確認すると今日の朝。つまり逆行していた。というか……

 

 

「……俺、マジで爆発したのか」

 

 

 もっとこう……ギャグ的な感じで処理されるのではと思っていたがマジで殺されるのか。つうか死んだのか。

 

 

「……うっ」

 

 

 死の感覚はドブ色だった。

 

 

「というか俺、ロリコンだったのかよ……」

 

 

 前世ではおっぱい星人だったろ。なんで中等部に興奮してんだよ……。

 

 少し泣いた。

 

 ちなみにだがウマさんぽは普通に爆死前と同じように決行した。下手に突飛な行動をしてバタフライエフェクトを起こすより、ムラッと来るまでの過程をなぞることで対策という形で。

 

 だからスティルには改めてかわいーなーと言ったし某フライドチキン専門店にも行った。スティルが油を舐め取る時は般若心経を高速詠唱して急をしのいだ。

 

 そして確信する。あの神様は本物の邪神だ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「いち、に、いち、に……」

 

 

 ……どうしよう。罪悪感が半端ない。一度でも教え子を性的な目で見てしまったという罪過は、拭っても拭いきれないものだった。

 

 だから今も、ウイニングライブの練習をするスティルを直視できなかった。あまりにも露骨に避ければ彼女を悲しませてしまうため誤魔化し誤魔化しやっているが。

 

 

「……あの」

 

「っ!あ、ああ。なんだ?」

 

「私のパフォーマンスは……観客の方々に届いているでしょうか……」

 

「……あー……」

 

 

 俺はすぐに気づけるがスティルは影が薄い。流石に一着を取れば注目してもらえるが、ウイニングライブではダンスや歌が上手い子の前に埋没してしまうかもしれない、という懸念があった。

 

 でもスティルは声がいいし、ダンスも上手い。加えて練習も欠かさないから俺的には花丸満点だが、何故こうも影が薄いのか。

 

 

「俺はキミのライブ好きなんだけどなー……」

 

……やっぱり、そうなのね。……ふふ、トレーナーさんは、私だけを見ていてくださいますからね。いつもありがとうございます」

 

「俺が好きでやってるだけだ。そんな礼を言われる程でもない」

 

「っ……」

 

「どうした?」

 

「い、いえ。大丈夫です」

 

 

 あーやっぱ浄化されるわ。こんないい子に性欲を発した自分は戒めないと。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 昼休みの教室とカフェテリアは賑やかだ。その雑踏の中で、思考を回す。

 

 最近、トレーナーさんが関わってくださらない。理由は分からないけれど、距離を置かれるようになった。

 

 

『本当は分かっているのでしょう?ワタシ。あの方が見込んだのはアナタじゃなくて、(ワタシ)よ』

 

 

 それは……そうだ。だってあの人はトレーナーだから。私を走らせるのが仕事だから。

 

 でも。

 

 ……でも、嫌だ。もう止められなかった。あの人に、見てほしい。私を、欲してほしい。

 

 

「スティルちゃん?どこ行くの?」

 

「トレーナーさんの所へ……」

 

「あー、そういう。ガンバ!」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 周囲にはとうの昔に披瀝してしまっていた。私が彼を求めてしまっていることを。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「失礼します、トレーナーさん」

 

 

 返事が無い。しかし人の気配はある。私はドアを開けた。

 

 

「ううん……スティル?」

 

 

 眠りを妨げてしまっただろうか。罪の意識が脳を刺す。

 

 

「どうした?カフェテリア空いてないのか?」

 

「……一緒に」

 

「え?」

 

「一緒に、お食事を摂りたいです。トレーナーさんと一緒に」

 

「……で、でも俺ばかりと飯食ってたら友達との時間も……」

 

 

 ……やっぱりそうだった。この人はどこまでも私を慮ってくれる。その優しさに応えたい。走ること以外でも。

 

 

「……何度も言うか迷ったけどさ。あんま俺みたいな木っ端と関わってたらせっかくの学生生活が無駄になっちまうぞ?……って、それは俺が決めることじゃねぇな。でも俺、本当に大したことない奴だから……キミに迷惑かけることもあるだろうし……」

 

「貴方は仰っていました。嫌われるのが、怯えられるのが怖いなら、俺以外見るな、と。私は貴方以外見たくないのです。私を肯定してくださった貴方が、欲しい」

 

「……いいんだな?俺ガチで凡骨未満の大人だぞ」

 

「どんな貴方でも、私はトレーナーさんを肯定します。貴方がそうしてくれたように」

 

「……あー、分かった。負けだ。一緒に行くか」

 

「はい」

 

 

 よかった。と。やっと笑えた。

 

 

「っっ……っとに可愛いなこの子。南無南無……」

 

 

 以降、トレーナーさんは以前のように私の傍にいてくれるようになった。本音を吐露する恐怖は、もう忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

『トレーナーさん、今日はシフォンケーキを……』

 

『トレーナーさん、補充する物は……』

 

『トレーナーさん』

 

『トレーナーさん』

 

『トレーナーさん──』

 

「……」

 

 

 ……最近、スティルは凄いグイグイ来る。性欲を発しないように距離を置こうとしたらめっちゃ悲しまれたから泣く泣く断念したが、いつ爆死するのだろうという恐怖で夜も眠れない。……まあ、仕事で元々眠れないんだが。

 

 懐かれてる、みたいな感じなのか?最近はずっと四六時中一緒にいるような状態だし。

 

 大人として慕ってくれる……のもあると思う。どういうことだが知らんが俺の意思や決断を酷く尊重してくれるから。

 

 あのウマさんぽで発覚した、俺はロリコンという事実。それさえなければ思う存分スティルに尽くせるんだが……ちくしょー、恨むぞ俺の性癖……。

 

 

「でもやっぱ距離感近すぎないか……?」

 

 

 周囲のトレーナーと話す機会がそこそこあるのだが、みんな担当とはある程度の距離感を持って接している。

 

 俺の未熟さがこの事態を招いたと言われればそれまでなんだが、この状況はよろしくない。俺の生死的な意味で。

 

 

「……あ、時間だ」

 

 

 スティルのトレーニングの時間がやってきた。ジュニア期はトリプルティアラを獲るための準備期間としたため、たっぷりトレーニングに集中できていた。

 

 

「うー、さむさむ……」

 

「よろしくお願いします。トレーナーさん」

 

「ん。じゃあ今日は……」

 

 

 コースに出ると突き刺すような外気温がやってくる。冬になるのはあっという間だった。

 

 

「じゃあまず一本、行ってこい」

 

「はい」

 

 

 駆け出すスティルを眺める……よし、煩悩消滅!

 

 もうあんな爆死はごめんだ。神様が言ってないだけで逆行できるチャンスは一回しかないのかもしれない。故にこそ、いのちだいじに、だ。

 

 

「……寒いなぁ」

 

 

 今日は曇り空。雪すら降ってきそうだった。その曇天の下で駆ける彼女は、やはり綺麗だった。

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