だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ!!   作:散髪どっこいしょ野郎

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ずっと前から、今でも、これからも

「今日もお仕事……ですか?」

 

「ああ。ジャパンカップに向けてやれることはやっておきたくてな」

 

 

 この人はいつも私のために頑張ってくれている。日の光が当たらずとも、実直に。

 

 歓声も、賞賛も、受けてきたのは私だけ。この人は私に与えてばかりで、自分のことなんて考えもしないで。

 

 

「っ……」

 

「スティル?どうした?」

 

 

 光になりたい、なんて。なんて思い上がりだろう。今まで散々振り回しておいて。

 

 この人は、私が願えば堕ちてくれる。私のためだけに全てを捧げようとしているこの人なら。

 

 アルヴさんに負けて気づいた。私は壊れるのを恐れておきながら、トレーナーさんを壊そうとしていたのだと。

 

 だからもう逃げない。私の望む私になるためなら、化け物(ワタシ)だって超えてみせる。

 

 

「トレーナーさん、は……」

 

「なんだ?」

 

「何故、私に尽くしてくださるのですか?今まで何度もご迷惑をおかけしてしまったのに」

 

「……ああ。フッ、キミが迷惑だなんて思ったことは一度も無いよ。でもなんで尽くすかって聞かれたら……そうだな……神様にそうしろって言われたから、か?最初の動機はそれだけだったんだが……。……キミと過ごして、キミと話して──いつしか、スティルインラブという存在に魅入っていた。そんなところだ」

 

「ッ……」

 

 

 ……私、なんかのために、そこまで思ってくれる貴方が。努力を続ける貴方が。命を燃やす貴方が。

 

 ──私には美しく、輝いて見えた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 エリザベス女王杯が終わってすぐにジャパンカップに出走する関係上、最近はトレーニングを控え調整に入っていた。

 

 

「はい、コーヒー」

 

「ありがとうございます」

 

 

 お菓子とコーヒーがある幸せ。貴方が傍にいる幸せ。あまりの幸甚に窒息してしまいそう。

 

 

「あぁ……」

 

「?どうした。そんなまじまじと見つめてきて」

 

 

 ……好き。貴方が好き。こんな感情、生まれて初めてだった。初恋だった。こんなに誰かに惹かれたことはなかった。

 

 少しでも気を抜いたら、きっと溶かされてしまう。私もワタシも、貴方だけに心を捧げたがっている。

 

 どちらが先?私が壊れるか、貴方と一つになるか。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、分析完了」

 

 

 ジャパンカップ。国内外問わずものすごいウマ娘が参戦する超大舞台のレースだ。

 

 スティルの力をフルで発揮させるためにも妥協は許されない。策も数パターン用意した。

 

 このレースには俺の前世の推しその二、メジロラモーヌも出走する。相手にとって不足無し。相当の難敵となるだろう。

 

 その上で言える。俺のスティルは、最強だ。

 

 神様から貰ったギフトを抜きにしても彼女は素晴らしい才能を秘めていた。精神面で危うくなることはあるが、思春期に突入して平然としていられる方が貴重とも言える。

 

 これがトゥインクル・シリーズ最後のレースになる。エリザベス女王杯の雪辱を果たすためにも、ブレーキを踏んではいられない。

 

 今のスティルは選手として最高のコンディションだ。最も調子がいい今なら、向かうところ敵無しだ。

 

 だから日々のケアを重点的に努めた。本当に今が一番なんだ。今ならきっと、いや確実に、誰にも負けない。

 

 スティルにハッピーエンドを齎す。俺の脳内はそれだけしかなかった。故にその提案は、想定外だった。

 

 

「トレーナーさん、明日一緒にお出かけしませんか?」

 

「────、分かった。行くか」

 

 

 好感度も稼いだ方がいいか。そう思考を切り替え、デートプランを脳内で練り始めた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「涼しいなぁ」

 

「そうですね。……そろそろ柿が食べ頃かしら……」

 

 

 夏のうんざりするような熱気がようやく収まり、外気温は程よく冷たくなっていた。秋って短いんだよなぁ……。

 

 名所は大体リストアップしてある。最高のプランを作るため、何処に行きたいかと聞いたら『一緒に歩きたい』、と、それだけ言われた。俺はこういうウマさんぽも大歓迎だが、スティルはそれでいいのか?

 

 

「……今日まで、あっという間でしたね」

 

「……そうだな」

 

 

 悩み、苦しみ、それでもいいトレーナー人生だった。彼女はどう思っているだろうか。疑問を抱いても聞きはしない。それが最低限の礼儀だ。

 

 

「ありがとうございました、トレーナーさん」

 

「?なんだよ急に改まって」

 

「私一人では、この景色に辿り着けなかった。それともう一つ、伝えたいことがあります」

 

 

 隣を淑やかに歩いていたスティルが、俺に向き直る。俺も釣られて襟を正した。

 

 

「私は、貴方と歩めて──幸せでした」

 

「……やっぱりキミは笑顔の方がいいな」

 

 

 理由は分からないが笑ってくれた。なら今はそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 ……静か。研がれた意識が、黒に沈みながら異彩を放っている。

 

 ジャパンカップという大舞台に立っていながら、思考は極限まで冷静だった。

 

 トゥインクル・シリーズ最後のレース。たとえあの子が消え去っても、もしくは発現しても、私は私の走りを貫き通す。

 

 

「……スティル、行けるか」

 

「──はい」

 

 

 立ち上がり、控え室を出る。地下バ場には一人のウマ娘の影。

 

 

「……ラモーヌさん」

 

 

 何かに納得したようなご様子で、彼女は佇んでいた。

 

 

「そう。貴方たちは、殉ずることを選んだのね」

 

「……違います」

 

「?」

 

 

 『本来の私』だったらきっとそうだった。彼と共にどこまでも堕ちてしまっただろう。けど、今は違う。

 

 

「私たちは共に羽ばたきます。どこまでも……!」

 

「フフッ、お可愛らしいこと。なら、示してくださる?」

 

 

 負けない。譲らない。勝つのは、私──!

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

『各ウマ娘、揃ってゲートに入りました』

 

「……」

 

 

 貴方が見ていてくれる。それだけで、どれだけ救われたことだろう。

 

 

「……信じてください」

 

 

 貴方が待っている。それだけで、どこまでも走っていける。

 

 

『スタートしました!』

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ」

 

 

 息が苦しい。体が酸素を求めて激しく脈動する。

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ」

 

 

 はしたなくてもいい。今この瞬間、貴方(ワタシ)を超えられるなら!

 

 

『脚の運び方も素晴らしい……末脚も言うこと無しだ……これが……メジロの至宝……』

 

「ッ!」

 

 

 雑念が過る。妬み、嫉妬、憎しみ。その一切を抜き去って走る。

 

 ラモーヌさんが憎かった。でも、今はそんな醜い心は捨てる。

 

 愛していると嘶くなら、この隔絶も乗り越えてみせなさい、スティルインラブ!

 

 

「これがワタシの──いや、私の全力……!」

 

 

 その人が欲しい。それは恋だ。

 

 その人を守りたい。その人の笑顔を守りたい。その人のためなら五体が四散しようと構わない。何があろうと尽くし果てたい。それはきっと──

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「は、ぁっ、ハァッ、は、ァ……」

 

 

 ……不思議。喰らい尽くした快楽よりも、貴方に示せた。その事実が何よりも大きく私の中で芽吹いていた。

 

 

「スティルー!!」

 

「あ、トレーナーさ──きゃっ──!?」

 

 

 え、今の私、汗が、そ、それよりも私──抱きしめられてる──!?

 

 

「と、トレーナーさん……!?私、汗が……」

 

「よかったなあ。よかったなあ、スティル……!」

 

 

 ……泣いている。そして……温かい。

 

 これで何度目の再確認だろう。分からないけど、どのような形であれ私は貴方に愛されている。それだけが確かでそれだけが私を形取っていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「「「メリークリスマス!そして……ジャパンカップ優勝おめでとう、スティルちゃん!」」」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 日本一の称号を獲得した後も、私の走りは続く。でも、今だけは……いいわよね?

 

 学園のクリスマス会。ありがたくも主役にならせていただいた。今日は心ゆくまで羽を伸ばそう。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「よっ、楽しんでるか」

 

「……ああ、トレーナーさん」

 

 

 ……熱い。貴方の視線が、思いが、覚悟が、私を酩酊させる。舌があの駄菓子の味を想起していた。

 

 諦めよう。私はこの人にとことんまで堕とされてしまった。叶わない恋でも幸せだった。

 

 

「トレーナーさん、一つお願いがあるのですが……」

 

「なんだ?なんでも言ってくれ」

 

「少し、外の空気を浴びたいです。……貴方と一緒に」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「本来だったら」

 

「ん?」

 

 

 二人きり、夜風に吹かれていると唐突に彼女からの言葉が飛び込んできた。

 

 

「本来だったら、血が混じり合って私たちは破滅に追い込まれていたのかもしれません」

 

「……かもな」

 

 

 スティルの持つ、危うさ。誰かを飲み込んでしまう程の大きな存在感。事実、被殺経験ありの転生者でもなければとうに砕かれて波濤の中に消え失せていただろう。

 

 

「何度でも言わせてください。ありがとうございました、トレーナーさん。本当に……ありがとうございます」

 

「……ふっ、礼を言うのはこっちの方だ。よく今日まで俺を信じてくれた」

 

 

 最大級の壁は乗り越えたがまだまだ気は抜けない。URAファイナルズがあるのもそうだし、トゥインクル・シリーズを引退しても選手生命は続いていくのだから。

 

 だが……そうだな、今日は。今日ぐらいは、思い切り羽目を外しても、許されるかもしれないな。

 

 俺はこれからもスティルを最優先にする。自分自身に誓った生き方を過つ程、愚かじゃない。

 

 

「スー……」

 

「あ、その駄菓子……」

 

「ん?ああ、ココアシガレット。キミも食べるか?」

 

「……では、お口直しに、一つ」

 

 

 独特のハッカ味とココアの風味。

 

 なんちゃって喫煙者が二人、夜のトレセン学園にて並んで立っていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふぃー、疲れたぁ……」

 

「お疲れ様です」

 

「……って、一番疲れてるのは走ったキミだろ。よく頑張ってくれた。ありがとうな」

 

「……ふふ」

 

 

 URAファイナルズ優勝。これなら十分ハッピーエンドと言えるんじゃないか?まああの神様がどう判断するかに全てがかかっているのだが。

 

 長ったらしい取材や書類作成がようやく終わり、トレーナー室のソファに体をダイブさせる。

 

 

「ふぅー……やぁーっと、一区切りついたかぁ……。……悪い、スティル。少し眠る」

 

「ゆっくりお休みください、トレーナーさん」

 

 

 俺の意識は闇の中へ吸い込まれていった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

『いやー、よかったよかった、おめでとう』

 

「……ようやく仕事から解放されたかと思ったらアンタか。一体何の用だ?」

 

 

 またしても意識が神様の元へ連れ去られていた。やっとゆっくり眠れそうだったのに。

 

 

『……嫌われてるなー、私』

 

「むしろ好きになる要素ねぇだろ」

 

『くすん。……ま、それはさておき、おめでとう。ハッピーエンド達成だよ!』

 

「……お、おお……」

 

 

 一気に肩の荷が下りる。神経を磨り減らして生きてきた分、喜びもひとしおだった。

 

 

『反省点はたくさんあるけど、とりあえず及第点はあげるよ』

 

「ハッ、偉そうに」

 

『偉そうっていうか、実際偉いんだよ?』

 

「ぬかせ。テメェみたいな邪神、信仰する価値も無い」

 

『酷い言い方だなぁ~……あ、そうそう。呪いを解除したよ。これでウマ娘ちゃんをエッチな目で見ても爆発しない』

 

 

 おお……!何気に一番気疲れした部分が、ようやく治るのか!……しかし……。

 

 

「……」

 

『どしたの?』

 

「なんか……いざOKってなったら、罪悪感が湧いてきて」

 

『あー……』

 

 

 思えば教え子に性欲を抱くとか、普通に人間としてダメダメだ。俺はウマ娘を掛け値なしに導ける程大した奴じゃない。

 

 

「……それと」

 

『うん?』

 

「……アンタ、思考読めるだろ。言わなくたって分かるだろ」

 

『なにー?言ってくれないとわからないな~』

 

「っ、コイツ……!」

 

 

 俺の中で結ばれた思い。それは、

 

 

「──前世に、帰りたく、ねぇ。スティルと一緒にいたい……!」

 

 

 前世の父母は毒親だったし、彼女なんていなかったし!

 

 

『転生前にやりたいことまだあるって言ってたよね。それは何なの?』

 

「誰か一人と結ばれてみたかった。妻のことを思いながら仕事に行き、帰ったらおかえりと迎えてもらう。そんな古くさい幸せが欲しかった」

 

 

 幸せになりたかった。でも、今は違う。俺はスティルと幸せになりたいんだ。

 

 

『ふーん……。ねえ、そろそろ起きてみなよ。君の願い、叶うかもしれないよ?』

 

「?それはどういう──」

 

 

 神様の姿がぼやける。俺の意識は急上昇して──

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと一方的に求めるばかりだった。真に彼を想うということができていなかった。でも、やっと分かった。

 

 貴方に幸せになってほしい。ありふれた日常に笑ってほしい。その想いこそがきっと、この名に刻まれた意味(アイ)なのだろう。

 

 

「愛しています、トレーナーさん」

 

 

 届かなくていい。伝わらなくていい。小さな夢だった。それでも幸せだった。

 

 誰かを愛せた。それだけで、私は完結できた。

 

 

「え?俺もなんだけど」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「愛しています、トレーナーさん」

 

 

 ……なるほど、神様が言ってたのはこういうことか。そう言われればこっちだって対抗するぞ。

 

 

「え?俺もなんだけど」

 

「……え?」

 

 

 愛は受け取るものでも与えるものでもない。分かち合うものだ。そうして初めて互いを補完できる。……ん?スティルの様子がおかしい。

 

 

「~~~ッ!?!?」

 

「ちょっ、まっ、待ちやがれ!」

 

 

 顔を真っ赤にして部屋を飛び出すスティルを追いかけるため、俺は走り出した。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ゼェ、ゼェ……速すぎる……!」

 

 

 流石スティル。逃げる速度も最上級だ。……って、感心してる場合じゃねぇ……!

 

 ……!あのウマ娘は……!

 

 

「ネオユニヴァース!スティル捕まえてくれ!」

 

「いいよ。″CHTS″」

 

「ユ、ユニヴァースさん……!離して……!そんな、私……!」

 

「ハーッ、ハーッ、ようやく追いついた……」

 

 

 一方的に告られてはこちらの溜飲が下がらない。だから俺も、衷情を伝える。

 

 

「ゼェッ……。ちょっとまず、聞け!……俺は、ずっとキミに惹かれていた。キミが走る時も悩んでる時も、どんな時間もキミと過ごせるなら幸せだった」

 

「え……?で、でも、貴方は私になんて、恋はしないと……」

 

「勝手に決めつけるな。俺はな、トレーナー失格だと言われようと、キミ以外愛せないし、愛したくない」

 

 

 あ、瞳まで真っ赤になった。ホント、ホント可愛いなこの子。頭がおかしくなりそうだ。

 

 

「好きだ、スティルインラブ。生まれる前から、ずっと好きだった」

 

 

 ハッ、としたように目を見開くスティル。不自然な程の静寂を破って、彼女は言葉を紡ぎ出す。

 

 

「……私も。私も、ずっと前から、そして今でも、これからも、貴方を愛してる」

 

 

 鼓動うるっさ……。あー、ヤバい。マジで惚れちまったんだな、俺。

 

 俺たちは思いの丈を伝え合った。しかし場所が悪かった。

 

 ここは学園のロビー、ゲームで言うところのホーム画面。大勢のウマ娘たちが行き来する場所だ。加えて強い声で呼び止めたため注目を浴びていた。それが意味することは……

 

 

「「「「「キャアアアアアッ!!!」」」」」

 

「生のトレウマよー!」「生徒とトレーナーの禁断の恋愛!ああ、眩しい~!」「デュフフ、捗る……デジたん捗りますぞ……!」「″HPED″、だね」

 

 

 沸き立つ周囲。遠目に見えるのは風紀委員。やらかしたなぁと思いながら、空を仰いだ。

 

 































完結表記にしますが、後に後日談(短め)をちょろっと投稿して本当の終わりにします
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