だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ!! 作:散髪どっこいしょ野郎
「桜が綺麗ですね」
「そうだな」
桜の花弁が春風の中へ散っていく卒業シーズン。ドリームトロフィーリーグの戦いも終わり、スティルは学び舎を旅立つ。俺もトレーナーを辞めるつもりだった。これで日課だった般若心経熟読ともおさらばだ。
そう、俺は律儀に煩悩を排除していた。流石に学生相手にムラつくのはアウトだろうという自己判断の元に。
転職活動は進めている。トレセン学園での多忙さと比べれば多少大変でもまあなんとかなるだろう。
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「というわけで、退職したいのですが」
神様からの依頼をこなした以上、俺がトレーナーを続ける理由は無かった。というわけで秋川理事長に直談判。確かに給料はいいけど……だって激務なんだもの。
「拒否ッ!断固拒否だ!君程のトレーナーを失うのは大きな痛手だ!」
うーん、そう易々と逃がしてくれないか。……あ、そうだ。
「……俺が教え子に欲情する変態野郎だと言ったら?」
「引退承諾ッ!」
たづなさんからはとんでもないものを見る目で見られた。当然のことだけど悲しかった。
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「トレーナーさん、朝ですよ」
「んぅ……もう朝か」
トレーナーを辞めてから数年後。俺とスティルは同棲していた。
「朝食のご用意はできております。シャワーをどうぞ」
「おー……ありがとな……」
寝起き眼を擦り風呂場へ直行。朝シャワーは意識をしゃっきりさせてくれる。
「それじゃ、行ってきます」
「はい。お気をつけて」
朝食を摂り歯を磨き、短く言葉を交わしてから俺は家を出た。
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なんだろうな。今、凄い幸せだ。
IT企業の社員になり、スティルのことを思いながら仕事に打ち込み、社会の歯車になる日々。
実に凡庸で実に特別なスペシャルデイ。そんな毎日。繁忙期はトレーナーやってた頃並みに忙しいが、無心でする仕事はなんともいえない快感を得られる。
「おはようございます」
「おー、おはよう、トレーナーくん」
「……先輩……」
「あはは、悪かったって。缶コーヒーで許してよ」
一つ惜しむらくは、俺はトレーナーとして働く期間は(一般的なトレーナーと比べて)短かったが、トリプルティアラの担当を持ったことで結構有名人になっていたということ。転職活動の際も『君スティルインラブのトレーナーだよね?』と聞かれたことがある。
揶揄うのが好きな先輩からはトレーナーくんと呼ばれる毎日。いつかぜってえ仕返ししてやる。
「さて、頑張るか」
缶コーヒーを受け取り、俺はパソコンに向き合った。
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「ただいま~」
「お帰りなさいませ、トレーナーさん」
スティルは俺をトレーナーさんと呼ぶ。しかし先輩のそれよりも、遥かに懐かしく愛らしい響きがこもっていた。
『誰か一人と結ばれてみたかった。妻のことを思いながら仕事に行き、帰ったらおかえりと迎えてもらう。そんな古くさい幸せが欲しかった』、という前世からの夢が叶い
「御夕飯にしますか?」
「あー、先に汗流したいな」
「かしこまりました」
いつか必ずプロポーズをする、と決め込んでおきながらこの関係の心地良さに浸ってつい甘えてしまう。マジで今前世含めて一番幸せなんだもの。
「……これ、いつ渡そう」
懐に忍ばせた指輪。給料数ヶ月分をはたいて買った、契りの一品。今ではない今ではないと遅らせてタイミングを失ってしまった。
……とりあえずシャワー浴びるか。
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「「いただきます」」
菓子作りが上手いこともありスティルは料理も上手かった。毎日三食彼女が作ってくれており、すっかり胃袋を掴まれてしまっていた。
「……美味いな」
「お気に召したのであればなによりです」
あ゛ー、ヤバい。なんか泣きそう。てか泣いた。
「……ッ」
「トレーナーさん……?どうかされましたか?」
「あ゛ー、今俺すごく幸せなんだよ。キミがいてくれて、今日まで一緒に歩いてきて」
……よし、渡そう。こんな、格好つかない俺だけど、真心を込めて。
「スティル。よかったらこれ、受け取ってくれないか」
「!これは……」
「結婚してくれ」
心臓マジでうっせえな。てかこれで拒否られたら俺生きていけねぇぞ?もっとムードってもんがあるだろ。
「……私の気持ちは、あの時から変わりません。……ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「ッッ……スティルー!」
感極まりバカみてぇに涙を流した。でもそれだけ嬉しかった、本当に嬉しかったんだ。
ああ……俺、生きてんだなぁ……。
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「……スティル?」
「スゥ……スゥ……」
「眠ってる……」
最近スティルは積極策ガン積みしたのかってくらいグイグイ来る。ソファに座ってたら腕を絡ませてきたり、頭を俺に預けて眠ったりしたり。
ぶっちゃけると理性がヤバい。トレーナー時代散々堪えてきた分、滾る火山のような衝動が心を荒ぶらせる。
久々に般若心経を唱える。流石に合意無しでコトを運ぶのは外道のすることだ。しかし……
「……ホントに、マジで可愛いなこの子」
ただでさえ学生時代から完成されていた容姿が、年を重ね美麗さを増している。もう俺の性癖はめちゃくちゃなのだった。
「スゥ……トレーナー、さん……」
「…………」
あああああ!これじゃ生殺しだぞちくしょう!俺の理性をなんだと思ってんだ!しかしホントに可愛いなこの子は!
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穏やかな日々だった。彼のために尽くし、彼だけを想う毎日。
貴方が笑顔を見せてくれる度に心は熱を持つ。幾度も焦がれた、貴方からの愛。
愛する幸せと、愛される幸せ。似通っているようでまるで別物の感情が私を包む。
「愛してる」
「ッ!?……も、もぉ……スティル~……!」
私が不意に呟くと、彼は驚いたように体を跳ね上がらせる。その反応が愛おしかった。
愛してる。愛してる。愛してる……。
「……俺も、大好きだぞ、スティル」
「っっ……!」
感情の共有をできることが、こんなにも温かいということだなんて知らなかった。
いっそ狂ってしまえたら、貴方だけを見つめていられたら。
「……隣、失礼します」
「ッ!?!?」
私が傍に寄り添うと彼は決まって体を強張らせて、頬を赤く染める。
……幸せ……。
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さて、思いを伝え合ったことで俺たちは爛れた日々を送っていた……なんてことはなく、花も恥じらうような、むしろ奥手すぎる恋愛を続けていた。触れあうことでさえ緊張するんだ。爛れた日常なんて送ったら死ぬぞ?
今日も今日とて互いにドギマギ。騒ぎ続ける心臓を抑えながら、俺は明日の予定を夢想した。
「綺麗な花畑を見つけたんだ。明日一緒に行かないか?」
「はい、喜んで」
スローペースな関係性だけど、それでもいいと思う。心はいつでも傍にある。その確信があるだけで、俺たちは笑っていられるから。
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「風が気持ちいいな」
「ふふ……そうですね」
俺たち以外誰もいない、二人だけの花畑。ここは穴場だった。
「なあ、スティル」
「はい」
いつもとは違った種類の緊張。正直、これを言うかどうかかなり悩んだ。だけどスティルにはありのままの自分でいたい。だから話す。
「神様がいたんだ。とびっきりいじわるな」
そう切り出し、俺は転生者であることを暴露した。スティルがゲームの存在ということはぼやかしたが。
「生まれる前からとは、そういう意味だったのですね」
「……怒らないのか?」
「?何をですか?」
「だって俺……自分のためにキミを利用したようなもんなのに」
あまりにも眉唾物の話だったが、スティルは真剣に聞いてくれていた。
「貴方は、貴方ですから」
辺りにあるどんな花にも負けない、美しい微笑み。
俺は目を細めながら、空の色を数えだした。
風が綺麗だ。ああ。今日はいい日だ。
「なあスティル、ついでに暴露しちまうんだけどさ」
「はい?」
「キミにくっつかれると……その……すげぇドキドキするんだよ。……あまり近寄られると……俺も俺を抑えられなくなるというか……」
「私は……貴方になら、貪られても構いません」
「……!……。……うあー!!煩悩退散煩悩退散!」
「……ふふ。あの、トレーナーさん」
「ぁぁあああ──あ?なんだ?」
「愛……いえ、大好きです」
「……俺も大好……いや、愛してる」
「……ふふ……」
「……ハッ」