だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ!! 作:散髪どっこいしょ野郎
目を覚ますと
「……スティル?」
「……ぁ、も、申し訳ありません」
「フッ、なんかキミの学生時代思い出すな」
スティルは俺に好意を向けてくれている。しかしそれがいつからなのかは正確に判断できていなかった。
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「なあスティル」
「はい?」
『蒸し返すようで悪いんだけど、ずっと前から愛してるって、いつからだったんだ?』、と言いかけて飲み込む。そんなド直球で聞けるほど度胸は据わってないし、なにより失礼だ。
「……あー、よかったらまたカボチャのプリン作ってくれよ。俺キミが作ったプリン好きなんだよ」
「ふふ、かしこまりました」
なんというか、ままならないものだなぁ。
俺は天井を見上げた。
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少しだけ、羨ましいと思う。
彼の言う『いじわるな神様』が、彼をこの世界に誕生させた。トレーナーさんは生まれる前から私を知っていた。それが少しだけ、羨ましい。私だって、もっと前から彼を知りたかった。
『好きだ、スティルインラブ。生まれる前から、ずっと好きだった』。その言葉を思い返す度に歓喜の波が押し寄せる。貴方に狂ってしまうと思う程に。
貴方が好き。愛してる。だから、その
「トレーナーさん」
「……くう、おおぉ……!……あ、わ、悪い。なんだ?」
私が傍に寄ると、トレーナーさんは″迷い″を募らせる。私を思いのままにしたい。けれどそれはいけないこと。
その苦しみを、解いてしまいたい。
「私は大丈夫です。貴方になら何をされても」
「ぅぅ……。……確かにキミは好きだけれど、キミを穢したくない。俺がしたいことは、叶っちゃいけないんだ。……少なくとも俺にとっては」
「……承知しました」
貴方の優しさが貴方を苦しめている。でも、それでも幸せなのだと貴方は言う。
だから私は待ち続ける。トレーナーさんが己を解放できる、その時まで。
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ちなみにだが、婚約した時、俺は彼女の両親にどの面下げて会えばいいんだと悩んでいた。
だって、当時中高生の子にガチで惚れちまったんだぞ?世間からの風当たりだって強くなるだろう。こんなやべーやつを義理の息子に据えるのは普通なら忌避感がある筈だ。
スティルはもう……凄かった。本当に……凄かった。レースでも美しさでも、圧倒的だった。そんな彼女と俺が釣り合わないよなとも何度も考えた。
……が、意外と拍子抜けに結婚手続きは進んでいき。
スティルの親御さんは温かく迎えてくれた。普通なら殺されても文句は言えないのに。俺の両親は『コイツ教え子に手を出しやがった』みたいな目で見てきた。むしろそっちが正常な反応だけど悲しかった。
生々しい話をすると肉体関係には至ってない。愛情の究極が性に行き着くなんてロマンが無いからな。
しかし、最近はスティルの妖艶さがヤバすぎる。ただでさえ美少女なのに大人の色気が加わったことで爆裂超絶清楚艶麗ウマ娘と化している。呪いが健在だったら一日五回は爆発してるだろう。
そこまで振り返って考えたことがある。
俺ばっかり爆発したら不公平だ。ということで、スティルを思いっきり照れさせる。キモいと嗤え。これが俺だ。
「スティル~」
「はい。……ふふ、ご機嫌ですね──っ!?」
彼女の顔が驚きに染まる。それはそうだろう。普段こんなことしないからな。
「いつもありがとうな、スティル」
頭を撫でるという、上からの行為。イケメンならまだしも、俺のようなダメ男がやるのは見え透いた地雷!それを、決行した!
「!……ふふ……」
笑った、だと?マズい、想定外だ。若干頬は赤いがこれは非常にヤバい!しかし覆水は盆に返らない。
「……わ、悪かった。急だったな」
「いえ。……その、一つお願いがあるのですが」
ゆっくりと頭のヴェールを脱ぐスティル。その仕草から目を離せなかった。
「……今度は、直にお願いします」
あ、俺爆発するわ。
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最近、トレーナーさんからのアプローチが多い。どこか子供のようでたどたどしいそれが、たまらなく愛おしい。
「スティルー、キミがよかったらまたあの花畑行かないか?」
「喜んで」
外出する機会も増えた。彼との時間を長く味わえるなら、私は何でもよかった。
「麦茶持ってくか。いや、どうせなら向こうでご飯食うか」
「では、お弁当を作りましょうか。暫しお待ちください」
軽食と飲み物を用意して、私たちは約束の場所に向かった。
▫▫▫▫▫
「フー……いつ来てもここの景色は素晴らしいな」
「そうですね」
「ウマスタ映えしそうだぁ……ふぁあ……なんか眠くなってきたな」
「どうぞ遠慮なくお眠りください。私はお傍におりますから」
「んー……じゃ、たの、む……」
そう言い残すと、穏やかな寝息を立て始めた。
「……」
改めてトレーナーさんの寝顔を見つめる。安心しきった、全てを委ねてくれる表情。
「貴方が見つけてくれたから、私は私でいられた」
そう。だからきっと、初めて出会った時から、貴方を──
「愛してる」
気が触れそう。貴方への感情が膨れ上がりすぎて、滾り、熱を持つ。その繰り返し。
「……まだ、ダメ」
衝動の赴くまま、彼を喰らいたいとあの子とは違った密かなる欲望が囁く。けれど、一方的に愛をぶつけるのは学生時代で止めた。
でも、貴方はきっと、最低な私でも愛してくれる。
その確信があるだけでいい。より大きく存在する感情は、貴方に幸福でいてほしい。ただそれだけだから。
「……」
風が流れていく。二人きりの花畑。彼の頭を撫でながら、果てぬ青空に思いを馳せた。
▫▫▫▫▫
今日が何の日であるかは知っていた。私も待ち遠しく思っていた。しかしそれを込みにしても、自制するので精一杯だった。
彼に尽くせるのが幸せだった。彼が帰ってくる家とならせていただく喜びが常夜のように、むせ返る程に、摂り尽くせぬぐらいに溢れていた。
それが、今日は別。
「~♪」
「……」
ご機嫌そうに鼻歌を歌いながら家事に取り組むトレーナーさん。その一挙一動に注視しているのが私だった。
何故このような状況に置かれたのか。それは昨日の夕食時まで遡る。
『明日有休取ったから一緒に過ごそう。あ、そうそう、家事は俺に全部任せてくれ』
『……え?わ、私に何か至らぬ点がありましたか?』
『違う違う、キミへの感謝を示す一日にしたいんだ。せっかくの結婚記念日なんだから』
結婚記念日。あの契りを結んでもう一年経過していた。幸せはいつも早く過ぎていく。
私への感謝。むしろ私が返さなければならないのに、貴方は……。
衝動が芽を出す。摘み取ろうとしても意識に棘を立て、私を悩ませる。
貴方のために身を削りたい。奉仕欲、とでも表せばいいかしら。それが私を突き動かそうと体に這い寄る。
……やはり、少しだけずるいと思ってしまう。私だって、貴方にありがとうと言いたい。受け取るだけなんて、耐えられない。
…………でも、それが貴方の望みなら、私は拒まない。拒めない。
▫▫▫▫▫
「「いただきます」」
食器の動く音、咀嚼する音が場を支配する。
「いやー、料理するのは久々だからなぁ。不味くないか?」
「いえ、どれも美味しゅうございます」
「ははっ、それはよかった」
温かく穏やかな時間。これからもずっと続いてくれたら。それだけを切望する。
「このクッキーは……抹茶、ですか?」
「そ。ちょっと冒険してみた」
夕食と後片付けが終わり、食後の甘味とコーヒーを楽しむ。トレーナーさんがお作りになったお菓子は様々なバリエーションに富んでいた。
心臓が煩い。
「トレーナーさん」
「んー?」
「どうして今日は、こんなにも……その、尽くしてくださるのですか?」
「あー。俺の中でちょっと引け目があってさ。俺は働くことしかできないのにスティルには色んなもの貰ってたから、今日ぐらいは恩返し……って程じゃないけど、なんか与えたかったんだ」
その気遣いが身に染みる。心臓は更に跳ねた。
「それと、やっぱり俺の一番はスティルだからな。改めて大好きだって伝えたくて」
ぷちん、と、私のどこかで何かが切れた。
感情が膨れ上がる。それは熱を持ち私の胸を貫いて──
「……スティル?どうした?」
「……」
「スティ──わ、わあああぁっ!?」
彼を抱き寄せる。この心臓の音が、熱が、貴方へ届くように。
「スティル!!これは……ちょっとよろしくない!よろしくないぞ!!」
「──愛してる」
「……っ、そう言われたら何もできなくなるんだが……!」
「愛してます。本当に、心の底から、いつまでも貴方を愛してる」
心が壊れそう。貴方に侵されて、自律もままならない。
痛まないように、けれどきつく抱きしめる。決して離さないように。
▫▫▫▫▫
「うーん、平和だぁ……」
今日は仕事が休み。午前中はスティルと様々な小説を紹介し合って読み、午後は運動不足解消のために近所で軽くランニングした。
夕食を摂り終わり後片付けも済ませ、ソファに腰掛けながらテレビを見る。平凡かもしれないけど、俺はこんな時間をずっと欲していた。
「トレーナーさん、その……また伺いたいことがあるのですが……」
「おー、いいぞ。何でも聞いてくれ」
「馬、とは、どのような存在なのですか?」
俺は転生者だ。そしてスティルにそれを暴露した。ということで最近はよく前世について聞かれる。
「キミたちの原点みたいな存在だな。馬に乗って戦う武士は多かったらしいし、人間との付き合いはかなり長い。アメリカとかだともっと身近な相手だった気がする。俺はそこまで詳しくないから細かい話はできないけど……神様ならよく知ってるかな」
「なるほど……」
感得したような彼女を見ているだけで心が満たされる。涙すら出てきそうだ。……俺って結構涙もろいな。
「そういえばですが……トレーナーさんは過去に二度神様からの呪いで爆発したと仰っていましたよね。何故そうなってしまったのですか?」
「あー……ホントにクズな話なんだけど、最初はキミがチキン食ってる時の仕草にやられて。二度目はアルヴのケアのためなんだけど──あっ」
「アルヴ、さんの?」
しししし、しまったぁ~……!失言だった!ていうか前に誓っただろ!スティルのことしか考えないって!
「……お、怒ってるか?」
「いえ。ただ少し……羨ましく思います」
そう言うとスティルは少しだけ寂しそうに笑う。ぐおおぉ……!罪悪感が……!
そんな風に悶えていると彼女が近づいてきた。────え?こ、これって──
「貴方はお優しいですから、今はこれで我慢します」
え、ほ、頬に、き、キ、キス──!?
「ほあああああっ!!!」
「と、トレーナーさん……?」
俺は爆発した──かのように荒ぶった。スティルに捕まって更に爆発した。