十代好きの私が天上院明日香に転生したのはいいけど、この世界のカードパワーが明らかにインフレしている!   作:スパークリング

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Turn-7 「昇格試験デュエル」

 入学してから二週間が経とうとしていた時のこと。デュエルアカデミアでの私を取り巻く環境はなんというか、想像した通りになった。

 

 あの後の女子寮の歓迎会でジュンコとももえにお願いして、中等部からの知り合いの伝手を使って私が十代に対して告白した噂を流した。年頃の女の子たちはこういう噂話が大好きなもので、すぐにそれは同学年から上級生まで浸透し、そして数日もすれば男子全員が知ることになる。

 

 結果、実技試験でクロノス先生に勝ち、そして私に告白された十代はすっかり時の人になった。

 

 最初こそ、私の元に何人も……主に私に過去告白してきた上級生たちが来て真偽を問うてきたけど全部肯定してあげた。私は十代に一目惚れしたと、だから諦めろと、ね。それと同時に遠回しに邪魔をするなと釘も刺しておいた。

 

 まぁ、ショックを受けたような顔をしていたけど、それはごめんなさいとしか言いようがない。早く新しい恋を見つけられることを切に祈るわ。

 

「あっ、明日香さん。ほらアニキ、かわいい彼女が来たっすよ?」

「残念だけど翔くん、まだ返事は貰ってないのよ。もう……十代ほら、授業終わったわよ?」

「んあ?」

 

 同じ選択科目の授業に出席して爆睡している十代に困っていた翔くんを助けに向かう。ちょっと肩をゆすってあげてようやく十代が目を覚ました。あらかわいい。

 

「んっ、んーっ!……っと、んあ、おはよう、明日香……。あれ、他のふたりは?」

「あの子たちはこの授業を選択していないのよ。もう、あんまり授業で寝ちゃダメよ十代」

「いやだって……この授業は正直、なぁ?」

「あ、あはは……」

 

 苦笑している翔くん。否定していないことから彼もそう思ってはいるってことよね。まぁ……私も正直、この授業には思うところはある。

 

 デュエルアカデミアにもいわゆるハズレ枠の授業のひとつやふたつある。私も十代に告白したことで進路もある程度決まり、それに沿って必要な授業と単位を稼ぐための手頃な授業を受講しているけど、それはそれはまぁ素敵な授業がいくつかあって頭を悩ませている。そして今受けていた授業もそれに当てはまる。

 単位が取りやすい、そう先輩から教えてもらって受講したのはいいんだけど……うん。まぁ、単位のためだと思えばいいかしらね。話を聞かなくても大丈夫そうだから、新しい展開ルートとか存分に考えられるし。

 

「やぁ、十代。翔くんも。キミたちもこの授業を受けていたんだね」

「よぉ、三沢。おまえもか」

「こんにちは三沢くん」

「ああ。それから……キミが噂の十代のコレかい?」

「生憎お返事は保留中だけどね。天上院明日香よ。よろしくね、三沢大地くん」

 

 小指を立ててイタズラしてくるラー・イエローの男子生徒……三沢大地が会話に加わってきた。そういえば彼もこの授業を受けていたわね。

 彼は驚いたように少し目をぱちくりさせた。

 

「驚いたな、俺のことを知っているのかい?」

「試験番号一番の秀才の顔と名前くらいは覚えているわよ。十代ほどじゃないにしても、あなただって時の人よ三沢くん」

「アカデミアの女王陛下にそう言ってもらえて光栄だよ」

「中等部の、よ。語弊があるからしばらくはその呼び方は控えてちょうだいね?」

「おお、それは怖い。というか十代はまだ君に返事をしていないのかい?」

「いいのよ三沢くん。私が待つって言ったんだから」

「そうなのかい? それなら俺からはなにも言うことはないか」

 

 うん、相変わらず彼はすごく性格の良い。いいキャラクターだっただけに、途中から扱いが悪くなっちゃったのが少し残念に思った記憶があるわ。というか三沢くんがGX主要キャラの中で一番自立するのが早かったわよね。途中でフェードアウトとはいえ本人的にはトゥルーエンドだったから救いがあったけど……この世界の彼はどうなるのかしらね。

 

「ところで大丈夫なのかい十代? もう少しで月末試験だぞ」

「月末試験?」

「ああ……さては、聞いてなかったわね?」

 

 月末試験。

 このデュエルアカデミアでは、月末に筆記と実技で定期試験が行われる。筆記試験は必修科目のみで小テスト形式の簡単なものだけど、実技は同じ寮の同じ学年の生徒同士でデュエルをし、勝った方に寮昇格のチャンスが巡ってくる。

 

 当然、一度勝ったからと言ってすぐに昇格することはないけど、こういうのは積み重ねていくことが重要なわけで。運が良ければ一年も経たない内にラー・イエローやオベリスク・ブルーに上がることができる。

 逆に負けが込んだり、筆記試験の成績も上がらなければ降格の可能性もある。オシリス・レッドに至っては退学させられる危険性もあるのだから恐ろしい。

 

 ああ、ちなみにオベリスク・ブルー女子は降格もないし、退学させられることもほとんどない……のだけど。その、あんまり成績が振るわなければ、カーストが重視される女子特有の洗礼を受けることになるから、男子とは全然違うベクトルで辛い学園生活を送らないといけなくなる羽目になる。主に精神的に。

 成績が良いなら良いで違う洗礼を受けるし……まぁ面倒くさいことこの上ないわよ? 私だってそりゃあもう目立ちに目立ちまくっているから上級生からは目を付けられているし、派閥だって作る気はないから、絡まれないようにこちらから出来るだけ近づかないように気を配っている。それでも絡まれてデュエルを挑まれるようなら返り討ちにしてあげるんだけどね。

 

「実技の方は心配してないけど……勉強の方は大丈夫なの十代?」

「そんな心配することかぁ? クロノス先生の授業とかわかりやすくて面白ぇぞ」

「アニキ、明日香さんが心配しているのは普通の学科の方だと思うよ? 数学とか現代文とか」

「まぁ……なんとかなるって。そんな難しい問題とか出さねぇだろ、多分」

 

 あら、意外と前向きな返事が返ってきたわね。歯切れの悪いものになるかなと思ったのに。根拠のない自信なのか、本気でそう思う程度の自信があるのかはわからないけど、十代がこんなケロッとした表情で嘘を吐けるような子じゃないし……うーん、よくわからないわ。

 

「噂だが、月末試験の日に新しいパックの入荷もあるらしいぞ?」

「なんですって?」

「あくまでも噂だがな。だから実技は荒れるかもしれないぞ?」

「そうね……それは面倒かもしれないわ」

 

 デュエルモンスターズの新弾。

 今までなかったカードたちが手元に巡ってくる機会であり……この世界からのある種のお告げでもある。ひとつ買うだけで、どんな系統のカードが自分のもとに集まってくるのかがわかるし、本当に欲しいカードが当たるかもしれないから買わざるを得ない。それが実技試験当日にとは……なかなか厄介なことね。いくつ買えるかも分かったもんじゃない。

 

 実技試験は当然私も受けることになるし……相手がわかるのは当日で対策しようがないから、こういう不確定要素がひとつ追加されるだけで、デッキ調整の難易度が上がる。それが面白いところなんだけど、ある意味人生がかかっているデュエルでそれをされるのは心穏やかな気持ちではいられない。

 

「まぁ、心配しててもしょうがねえだろ。それより、みんなの前でデュエルできるんだぜ? それを目いっぱい楽しもうじゃねぇか! なぁ?」

「うんそうだね……って言いたいんだけど、アニキと当たるかもしれないのはちょっと、なぁ」

「なんだよ翔、オレとデュエルしたくねーのかよぉ?」

「テストで当たるのは嫌なんすよ! 普通に遊ぶ分には吝かじゃないっすけど!」

「まぁ、気持ちは分かるわよ翔くん」

「こればかりは翔くんに同情するよ」

「なんでだよぉ!?」

 

 いやだって、アナタと今の翔くんは同じオシリス・レッドでも比較するのも可哀想なレベルで力の差があるじゃないのよ。例えるならイビルツインスプライトとイビルツインデモンスミスと同じくらい差がある。それぞれ良し悪しはあるけどパワーだけを見るなら比べるまでもない。

 

「ま、一回限りじゃないんだし、そんなに緊張するものじゃあない。よほどひどい結果じゃなければ大丈夫だよ」

「それでも心配なものは心配なんすよ」

「それくらいが丁度いいわよ。……さて、私は次の講義があるからもう行くわね」

 

 本当はもっとおしゃべりしたかったんだけどね。生憎、そんな暇はあんまりない。それこそ必修科目や選択科目で被った時か、偶然どこかでばったり会えない限りはアプローチするのも大変なのよね。良かったわ本当、初日から告白しておいて。

 

「また会いましょう、十代」

「ふぁあっ!?」

「じゃあね」

 

 耳元でそう囁いてあげると、顔を真っ赤にしていいリアクションをしてくれる。ああ、本当にかわいいわぁ。

 満足した私はこの場から離脱。次の授業が行われる教室に移動する。

 

 

 

 

 

「おおっ! 相変わらず攻撃力が高いっすねぇ!」

「どうするんだ十代、これはもう逃げられないぞ?」

「逃げたりはしねーよ! ただタイミングが、なぁ……」

 

 

 

 

「! 天上院くん!」

「? あら、万丈目くんじゃない」

 

 次の講義の教室に入ると、そこには万丈目くんとその取り巻きの子たちがいた。なにやら面白くなさそうに私に視線を向けてくれている。

 

「どうしたの、そんな顔をして?」

「どうしたって……噂は本当なのかい天上院くん。あのドロップアウトに告白したって」

「ええ、そうだけど?」

「っ」

 

 あらら……ショック受けちゃってまぁ、かわいそうにね。

 私が原因なわけなんだけど、結構こっぴどく振ったんだから諦めてほしかったんだけどな……。

 

「悪いけど気が変わることはないわよ? だから次の恋を探した方がいいわ」

「……確かにクロノス教諭に勝った奴の腕はオレも認めている。だが肝心の君に奴は勝ったのかい!?」

「デュエルはしたけど持ち越しになっちゃったから決着はつかなかったわ。接戦になったし、どっちが勝ってもおかしくはなかった、とだけ言っておこうかしらね」

 

 まぁ、多分負けていたと思うんだけどね。決着はついてないから素直に認めないけど。

 

「どっちのデッキだ!? どっちのデッキで奴と――」

 

「はぁーい、はい! そこまでそこまで!」

「これ以上はわたくしたちがお相手いたしますわぁ」

 

「うっ!?……チッ、わかった、もういい」

 

 ちょっと万丈目くんが白熱しかけたところで、親友ふたりが間に入ってきた。満面の笑顔で引く気なし。まずは自分たちの相手をしろよオーラ全開だった。完全に私の壁になったふたりを見て少し顔が青くなって、話を切り上げた万丈目くん。

 

 なんか知らないけど、万丈目くんはジュンコとももえのふたりに苦手意識を持っているのよね。誰も語ろうとはしないから、なにかされたのかどうかもわからないけど。

 とはいえ助かった。やっぱり諦めてくれてなかったし、絡まれ続けるのは疲れるから、このふたりが壁になってくれているのは普通にありがたい。

 

「ささ、もう用はないみたいですよ明日香さん」

「参りましょう」

「ええ。それじゃあね、万丈目くん」

 

 彼に別れを告げて私たちはちょっと離れたところに着席して授業が始まるまで待つ。

 

 もう……なんで万丈目くんは私に固執するのかしらね。普通にいい子なんだし、デュエルの腕もいいし、大企業万丈目財閥の御曹司でもあるんだから引く手あまたでしょうに。

 

 まぁ、そんなことはいいか。今は月末試験の対策を考えておかないといけない。

 

 デッキは……いつものやつでいいとして、細かい部分は見直しをした方がいいかしらね。攻めっ気を抑えて守りに少し比重を置いてどっしり構えた方がいいのかも。となると永続を多めに入れる? でも後手引いたときに弱いのよね永続。だったら強い速攻魔法とか入れた方がいい? いややっぱりここは……。

 

 

 

 

「そこまで。解答用紙を回収する」

 

 あれから一週間が経ち、迎えた昇格試験当日。午前の部である必修科目総合筆記試験が今終わった。

 手応えとしてはまぁ……大丈夫なんじゃないかしら? 人生二週目である私にとって、中学生の勉強に毛が生えた程度の問題なんてどうということもなかったし、デュエルモンスターズに関する知識問題なんてお客様もいいところだ。論述する問題は張り切って解答欄いっぱいに書くほど余裕だった。

 

「くぅ……終わったな、翔」

「うん。なんとか乗り切ったっすね、アニキ」

「お疲れさま、十代、翔くん」

「おう!」

「明日香さんもお疲れっすね」

 

 私の前の席に仲良く座って試験を受けていたふたりに声を掛ければ、明るい表情で返事を聞くことができた。遅刻することもなく、寝落ちすることもなかったし、この反応からして手応えありと思ってもよさそうね。

 

「ほら、明日香さん、前のふたりも! 急ぐわよ!」

「購買部にダッシュですわぁ!」

 

 おっと、そうだったわね。

 今日はデュエルモンスターズの新弾発売日でもあった。買えるパック数に制限があるも買い得であることこの上なしだ。だってこの世界、パックを買えば有用なカードが1枚は必ず手に入れることができるご都合世界なんだから。そういうものだと思ってちょうだいな、そうでもないとデュエルが一般化された世界で生きていけないのよ。

 

 私の両隣りで試験を受けていた親友ふたりはもう片付けを終えて準備万端だった。購入制限があるとはいえ売り切れたら世話ないもの。

 

 そうこう説明しているうちに支度を終え……。

 

「じゃあ私たちは行くわね! 早く片付けしないと売り切れちゃうわよ!」

「ほんじゃばいなら~」

「アデュ~」

 

「なっ!? お、おい急ぐぞ翔!」

「う、うん、アニキって、わぁ! 筆箱落としたぁ!」

「ああっ、なにやってんだ!?」

 

 悪いわね十代。あなたのことは大好きだけど、新弾を手に入れることは現状の最優先事項! このインフレしたデュエルモンスターズで飯を食おうとしている者たちにとっては死活問題にまで発展するビッグイベントなのよ! だから待ってあげられないわ!

 

「おらおら、どけどけ野郎ども!」

「アカデミアの女王になる予定のお方のお通りですわぁ!」

「ももえ、バカらしいからやめなさい!」

 

 青春らしくバカやりながら走り抜け……辿り着いた購買部。

 すでに何人かいるけどこれなら……!

 

「はいはい、お一人様5パックまでだよ」

「5パックください!」

「はい、毎度あり~」

 

 ゲット……新弾、ゲットしたわ……! しかもいい感じの汎用カードを2枚もゲット……! ツイてる……今日はツイているわ……!

 

 原作だと確か、クロノス先生に買い占められたはずだけど、この世界ではそんな事態になってなくて助かったわ。ええ、覚えているわよこのエピソードは。なにせインチキ効果の『打ち出の小槌』が出た回だもの。

 

 たしか、クロノス先生の計らいで十代と万丈目くんがこの後の実技試験でぶつかるはずなんだけど……翔くんがナイスボートする事件も起きなかったし、新弾の買い占めも起こらなかったことからクロノス先生が十代を陥れようと動いているとは考えにくい。

 

 クロノス先生は十代に対しては他のオシリス・レッドの子たちと違って少し優し目に注意しているし、ちゃんと答えられたら嫌みなしに褒めているしで、明らかに十代を気に入っている様子だった。十代もクロノス先生の授業を思った以上に真面目に受けているし、指名されたらしっかり答えようと頑張っているしで、関係は極めて良好だ。この時点で原作とは全く違うルートを辿っている。

 

 なら今回の実技試験、十代はオシリス・レッドの誰かとデュエルすることになるのかしらね? だってあのマッチアップが成立したのはクロノス先生が仕組んだからだもの。でもこの世界でクロノス先生がそんなことをする理由がない。

 

 うーん、万丈目くんと十代のデュエル、見てみたかっただけに残念ね。

 

 万丈目くんは私がコテンパンにした過去があるけど、それでも腕の立つデュエリストだし、中等部の男子ナンバーワンの実績を誇る鬼才だ。見応えのあるデュエルが見られると思っていたからちょっぴり残念。

 

 まぁ、機会はいくらでもあるし、それまでお預けよね。お預けといえば私とのデュエルの決着もついてないし、いつか必ず十代ともう一度デュエルをやりたいわぁ。

 

 

 

「シニョール遊城十代は特別に、シニョール万丈目と実技試験デュエルしてもらうノーネ。シニョール十代、異論はないノーネ?」

 

「ああ、勿論だぜ先生! デュエルだ、万丈目!」

 

「そうこなくてはな! 来い、ドロップアウト!」

 

「ああ、行くぜ万丈目!」

 

「万丈目“さん”だ!」

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 ……あれぇ?

 なんでこのふたりがデュエルすることになっているのかしらね?

 

 

 

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