十代好きの私が天上院明日香に転生したのはいいけど、この世界のカードパワーが明らかにインフレしている!   作:スパークリング

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皆さまの感想、ありがとうございます。
そして時間が取れず前話の感想返しが出来なかったこと、本当に申し訳ありません。

目はしっかり通していますが、この話で大体の感想返しの代わりになると判断させていただきましたので、今回20以上の皆さまへの感想返しを心苦しいですが見送らせていただきました。次からは返せるよう努めてまいります。

これからも本作のご愛読、よろしくお願いします。


幕間 「天上院明日香という少女と、遊城十代という少年」

 万丈目準は激怒した。必ず、かの天真爛漫なドロップアウト・ボーイを除かなければならぬと決意した……これが今の万丈目準の心境を最もわかりやすく要約したものである。

 

 万丈目は中等部からのいわゆるエリート組、成績上位グループの常連であり、過去トップ5のどこかから転落したことは一度もない鬼才だった。しかし、彼は一度も、ただ一度たりともトップの頂に立ったことがなかった。たったひとりの女子がその座を我が物顔で独占していたからだ。

 

 天上院明日香。

 

 年間無敗のデュエルの腕、それを裏付けるその知識量、そして追従を許さぬその美貌。天は二物を与えず、ということわざを嘲笑うかのようなアカデミアの女王が君臨していたのだ。

 

 毅然とした態度で鼻にかけず、しれっとトップの座だけを掻っ攫っていく彼女は万丈目にとってある種の憧れの存在であり、同時に越えるべき壁でもあった。何度も彼女を超えるべくチャレンジし続けているが、いまだにその座を明け渡してもらったことはない。しかし万丈目準の辞書に諦めの二文字はなく今でも頑張って彼女を越えんと努力をしている。

 

 そんな彼の天上院明日香への憧れの感情が恋心に変わるのは時間の問題だった。

 

 彼女を越えることを諦めてはいないが、嫌というほど彼女という存在を意識され続けていればそんな気持ちを抱いてしまうのもおかしくないだろう。

 

 しかし彼女はガードが非常に堅いことでも有名だった。

 男女問わず彼女に立ち向かっていった何人もの勇者たちがしょっぱい想いをして玉砕していったことは知っているし、それでも諦めず突撃して行った者は明日香の取り巻きであるふたり組(ヤベーやつら)にさらにひどい目に遭わされることで有名だ。つまりチャンスは一回しかないと考えていい。

 

 なんでも散っていったやつらからの情報によれば、彼女に告白するとデュエルを挑まれ、勝利することができたら考えてもらえるらしい。が、それ以上の情報はどうやっても聞きだすことができなかった。全員、それ以上は話せないと口を噤んでしまうのだ。

 

 だから……万丈目は明日香のデッキを対策したカードを何枚か投入したデッキを持ち込んで、彼女にアタックしに行ったのだ。

 

「そう……それなら、私にデュエルで勝てたら考えてあげるわ」

 

 噂通り、明日香は自分のデュエルを挑んできた。しかもギャラリーはなし。取り巻きふたりに人払いをすませ、誰にも見られない状況を作り出してのデュエル。いつもと変わらないようでどこか暗い雰囲気の明日香を見て一抹の不安を抱きながら彼女とのデュエルが始まった。

 

 先攻と後攻のどちらでもいいという彼女に対して万丈目は迷わず先攻を選択し、彼のデッキ本来の自慢の展開に加えて明日香の儀式デッキに効く妨害まで用意した。何回か彼女の手札から妨害の罠カードが飛んできたが、それでも充分な盤面を築き上げた。ほぼ自分の勝ちが確定した……そう思ったのも束の間だった。

 

 まったく知らない、彼女本来のデッキによって完膚なきまでに蹂躙されたのは。

 

 後攻ワンターンキルだった。

 なんとか抵抗はしたがそれでも明日香の猛攻を止めることができず、結果自分の全てのモンスターが跡形もなく消し飛ばされて負けたのだ。

 

「はい、残念でした。悪いけど貴方の気持ちには応えられないわ。ごめんなさいね。それからひとつ約束してほしいのだけど、私のこのデッキを他人に言いふらすのはやめてちょうだいね。もしも約束を破ったら……どうなるかは保障できないわ」

 

 瞬間、彼女の後ろにいる……ソリッドヴィジョンで出現しているモンスターたちから尋常でないプレッシャーを感じ、万丈目はなぜ自分のもとにこの情報が来なかったのかを理解したと同時に、約束を固く守ることを心に決めたのだった。

 

 しかし一度振られた程度で諦める万丈目ではない。

 むしろ裏の顔があることを知った上に、さらにとんでもない強さを誇るデッキを操ることも知れたのだ。明日香の真のデッキに恐怖を抱き、腰抜けになったやつらとは違う。それらを全てひっくるめて改めて惚れ直した万丈目が、明日香という名の高嶺の花を諦めるはずがなかった。

 中等部ではおそらくもうチャンスは巡ってこない。ならば高等部で、彼女も進学するであろうデュエルアカデミア本校でさらに腕を磨き、リベンジを果たして勝ち取る。前回のように対策カードを用意するなんて小細工もしない。純粋な強さのデッキとそれを使いこなす腕を手に入れて挑んでやる。そう息巻いていた矢先にまさかまさかの大事件である。

 

 ――天上院明日香がとある少年に愛の告白をした。

 

 アカデミアでの生活が始まってから少し経って一部の女子の間で話されていたその噂を、つまらない出まかせだと始めのうちは鼻で笑っていた。

 どんな美男美女、肩書きや経歴にも靡かず、容赦なく突っ撥ね返してきたあの孤高の女王が逆プロポーズを、しかもこんな入学して間もないタイミングで仕掛けるなんて、どう考えてもあり得ないだろうと。その万丈目の考えは至って普通だ。なにもおかしなところはない、至極真っ当な意見であり、所詮は噂と一蹴するのも無理はない。ただ……天上院明日香という少女が普通ではなかっただけなのだ。

 

 数日後、男子の間でも大真面目に話す輩がぽつぽつと出始め、違和感を抱いた時にはもう遅かった。万丈目は完全に動くのが遅れてしまったのだ。自らが調べるまでもなく……一週間も経たないうちに噂が真実であるということが発覚し、開いた口が塞がらなかった。

 

 ショックだった……こともあるが、なにより相手が誰なのかが気になった。

 あの天上院明日香がこんなにも早いタイミングで自ら動いて逆プロポーズを仕掛けるほどの相手だ。よほどの人間であるに違いない。

 

 カイザーと評されている丸藤亮か? いや、それはない。

 中等部の時から距離が近いふたりだったが、お互いにそんな気を見せる気配が全くなかったし、こんな入学早々にカースト上位者の明日香が仕掛けなくとも、女子にとっても高嶺の花である丸藤亮ならばそこまで焦る必要がない。

 

 だったら入学試験総合一位の成績を収めた……たしか、三沢大地とかいう秀才か? それならまぁ、ありえるといえばありえる……か?

 やつは高等部からの編入生で筆記試験一位、実技試験も万丈目からしても見事と思えるデュエルの腕を振るって試験官を制していただけあってわからんこともない。腹立たしいことに顔も悪くないし、人当たりもよさそうだ。イメージは湧かないが……あの天上院明日香が惚れたと聞いてもまだギリギリ理解することができる。許すことはできないが。

 

 あるいはあの……。

 

 いやいや、それだけは……いや、それだけは、ソイツだけはありえないだろう。思い浮かんだひとりの男の顔を万丈目は頭を振って消し去った。が、現実は非情であった。

 

 これまた調べるまでもなく、明日香の意中の相手の名前が万丈目の耳まで届いて天を仰いだ。

 

 遊城十代。

 

 後ろすぎる試験番号からして明らかに落ちこぼれ。アカデミアに入れたとしてもオシリス・レッド直行のドロップアウト。しかしながら、実技試験で実技担当最高責任者であるクロノス相手に後攻ワンターンキルを決めたデュエルの腕だけは目を張るものがある……そんな男だ。

 

 入学早々なんの因果か、その遊城十代と遭遇した万丈目の十代への印象は……どこか得体のしれないガキだった。

 

 中等部での男子ナンバーワンの成績を誇る自分を知らなかった知見の浅さや、ちょっと挑発しただけで好戦的に乗ってくる若干の喧嘩っ早さ、そして……超が付くほどのデュエル好きであることから、万丈目は十代のことをただの小生意気なガキだと真っ先に思った。

 

 その後に明日香が現れて間に入られたが、あまり長く居座ることもできず直後に退散。久々に明日香と会話ができて嬉しかった反面、彼女に庇われた十代にほんの少し腹が立った万丈目はその日の夜に……十代に挑戦状を叩きつけた。

 

 午前0時、アカデミアの備え付けのデュエル場でのアンティルールでのデュエル。クロノスを下して調子に乗っているあのガキを中等部男子ナンバーワンの自分が直接心をへし折り、どっちが上なのかをわからせてやる。そしてその上でやつのレアカードを奪って、二重に苦しめてやろう。なに、少し挑発しただけであそこまで乗ってきたんだ。しかも大好きなデュエルができると聞いて飛びつかないはずがない。そう思いほくそ笑んでいたのだが……。

 

 ――あ、悪い万丈目、今日はパス! また今度デュエルしようぜ!

 

 とんだ肩透かしを食らって、「えー……?」と声に出ずとも表情を見るだけで聞こえてくるような作画崩壊している顔に万丈目がなってしまうのも無理はない。完全に自分の思惑の外の回答が返ってきたのだから。通信機に移る明るい十代の顔を呆然と見る万丈目の背中はどこか寂しいものであった。

 

「おい、そこの腰抜けのドロップアウト!」

「んあ?」

 

 後日、必修科目の授業を受ける教室で十代を見かけた万丈目は直接絡んで軽くいびった。挑戦状を送り付けてやったのにそれを反故にし、勝負から逃げ出した臆病者だと。万丈目は直接言わず遠回しに、そして取り巻きのふたりがそれを要約して追撃するコンビネーションで十代を責め立てる……が。

 

「いやそりゃあオマエ……午前0時にデュエル場で、しかもアンティルールでデュエルなんて、普通に考えてダメだろ?」

 

 物凄く真っ当なことを真顔で言われてぐうの音も出なかった。

 

 ――こいつ、こんなことを考えられるようなやつだったか?

 

 あまりにも最初に会った時と様子や雰囲気が違う。あのときはただのガキだと思っていたのに……今の遊城十代はどこか、一皮剝けているような感じだった。どこか冷めているというか……それでいてきょとんと自分を見つめる彼の目は純粋で……。

 

「シニョール十代。スペルスピードについて簡単に説明するノーネ」

 

「え? スペルスピードってのは、えっと。起動効果とか通常魔法カードとかが一番遅くてチェーン発動できなくて、誘発……即時? 効果とか速攻魔法やトラップが普通でタイミングが合えばチェーンを組むことができて、カウンター罠が一番速くてカウンター罠が発動されたらもうカウンター罠でしかチェーンすることができない……みたいな感じか先生?」

 

「ふむ……少々抜けているところはありますが、おおむねその通りなノーネ。よろしい、座るノーネ。さらに詳しく補足説明するからよく聞いて理解を深めるノーネ」

 

 クロノスの質問に対して彼なりに頑張って答えて……しかもほとんど正解の返答をした十代に教室が少しざわめき、クロノスが少し柔らかい声で「よろしい」と褒めたことでさらにざわめいた。

 確か受験番号110とかいう後ろも後ろの成績のオシリス・レッドの生徒が、初歩の中でも少し複雑なスペルスピードの説明を求められてしどろもどろにならずに答えられたのもさることながら、オシリス・レッドに厳しいと評判で、実際にオシリス・レッドの生徒に良い感情を向けていないクロノスが嫌みのひとつも言わずに誉めたのだから驚くしかない。これで万丈目は気付いたのだ。遊城十代はクロノスに気に入られていると。つまりやつの実力は本物であると。

 他の授業で一緒になった時でも、十代は思った以上に――いくつかの授業で爆睡している時もあったとはいえ――真面目に授業を受けていた。本当に筆記試験で悲惨な結果だったやつと同じやつなのかと疑問に思うまでに。

 

 なんとなく気味が悪く感じた万丈目はそれ以降、十代に直接絡みに行くことはなくなった……矢先に発覚したこのとんでもないスキャンダルである。

 

 天上院明日香が遊城十代に愛の告白をした。明日香本人も公認済み。隠す気なしのあまりにも大胆すぎる明日香の行動は恋愛強者のそれであった。しかしそれで万丈目は十代の変化に合点がいった。

 

 遊城十代は変わったのだ。天上院明日香に告白されたことで。

 

 だとしたら説明がついた。

 アカデミアが誇る最高クラスの美少女のアプローチという劇薬は、ただのガキだと思っていたやつが一皮も二皮も剥けてマトモになるには充分すぎる特効薬だったのだ。

 

 納得は行った。が、それはあくまで十代の変化に対する納得であって、明日香が十代に惚れたことに関しては全然納得がいかない。

 

 告白されるまではどう考えてもガキでしかなかった十代のどこをあの天上院明日香が惚れたというのか。クロノスとのデュエルは見事であったがまさかそれで一目惚れだと? だとしたら自分自身が必死になって努力したことは、あのたった一回のデュエルにも及ばないことだったのか? そう考えると万丈目は悔しく、そして怒りすら覚えた。

 

 デュエルの腕は認めよう、そして変わろうとしていることもまぁ認めてやろう。だが、それはそれ。これはこれだ。

 ポッと出のドロップアウト風情が、この万丈目準を差し置いて、アカデミアの女王のアプローチを一身に受けているだと? ふざけるな。

 

 ――悪いけど気が変わることはないわよ? だから次の恋を探した方がいいわ。

 

 そしてその怒りの矛先は遊城十代のみならず、明日香にもほんの少しであるが向いていた。

 

 たった一回、されど一回デュエルした程度で自分を……そして遊城十代を計ろうとするなッ。話を聞くに君とやつはデュエルをしたものの決着はつかなかったみたいじゃないか。だったら自分にだって……振り向かせようと足掻くくらいの、それくらいのチャンスがあってもいいじゃないかと。

 

「遊城十代……なんとしてでも、貴様を倒してやる! 完膚なきまでにな!!」

 

 言葉にして壁に拳を突き付けた。

 

 前回のように影でこそこそやるようなみっともない真似はしない。誰もが注目しているなかでやつと一騎打ちを仕掛け、勝利をもぎ取り、この万丈目準という男の強さをアカデミアにいるやつら全員に、特にその頂点の一角を担う女王に見せつけ、知らしめてやるのだ。そして明日香のほうから万丈目に振り向かせてやる。そして笑ってやるのだ、おまえが一目惚れした男はこの程度でしかなかったのだと。おまえが惚れるべきは……このオレ、万丈目さんだとな!

 

「クロノス教諭、お話があります」

「む? シニョール万丈目? どうしたノーネ?」

 

 授業が終わり、教室を後にしようとするクロノスを呼び止めた万丈目はとある提案をした。今月末に行われる月一の昇格試験デュエル、その対戦相手として自分に遊城十代をぶつけてくれと。

 

 昇格試験デュエルはアカデミアの生徒全員が受ける試験であり、寮昇格のチャンスでもあるため注目度も高い学園の一大イベント。自らの力をアピールするには相応しい舞台だ。

 本来ならば同じ寮の生徒同士で争われる都合上、万丈目と十代が当たることはない。だからこそこうして、実技担当最高責任者であるクロノスに頼み込みに参ったのだ。自分だって成績優秀な優等生をやっているのだ、クロノスに気に入られている自覚はある。

 

「ふむ……よろしい。アナタと遊城十代とのマッチアップは、確かに見応えがありそうなノーネ。過去にもいくつかある特例ですし、校長に掛け合ってみるとするノーネ」

 

 よし、通った。

 校長と掛け合うと言っていたが、間違いなく通る自信がある。校長である鮫島は基本おおらかな性格であるし、何より楽しいことであれば全力で乗ってくるタイプの人間だ。通らない道理はない。

 

 そして案の定……

 

「シニョール遊城十代は特別に、シニョール万丈目と実技試験デュエルしてもらうノーネ。シニョール十代、異論はないノーネ?」

 

 昇格試験デュエル当日、クロノスによって呼び出されたふたりは試験会場で注目を浴びていた。周りでもそれぞれ何組かでデュエルが行われているが、今この会場にいるほぼすべての生徒が自分たちを見ているといっても過言じゃない。アカデミアの女王の心を射止めた渦中の少年と、オベリスク・ブルーのエリートのマッチアップに興味がないやつなんて、このアカデミアには存在しない。

 

(天上院くんも……ちゃんと見てくれているな)

 

 観戦席にいる明日香もまた、自分たちをしっかり見ていることを確認した万丈目は不敵に笑う。そこで見ていろと、目にもの見せてやるぞと燃えるものが胸の中に渦巻き、今にも爆発しそうだ。

 

「ああ、勿論だぜ先生! デュエルだ、万丈目!」

 

 そして憎き恋仇である遊城十代は最初に出会った時と同じような……曇りなく、そして強敵に挑むことを全力で楽しもうとしている笑顔でデュエルディスクを構える。

 

 ――そうだ、それでいい。そんなおまえを蹴散らし、彼女の心はこのオレが頂く! どん底に落としてやるぞ、ドロップアウト(遊城十代)

 

「そうこなくてはな! 来い、ドロップアウト!」

 

「ああ、行くぜ万丈目!」

 

「万丈目“さん”だ!」

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 こうして万丈目準と遊城十代の、誰もが注目する昇格試験デュエルの幕が切って落とされたのだった。

 

 

 

 

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