十代好きの私が天上院明日香に転生したのはいいけど、この世界のカードパワーが明らかにインフレしている! 作:スパークリング
どこか自分たちと違う不思議な魅力を纏った少女になんとなく惹かれ、気が付いたら声をかけていた。
それが当時小学生だった枕田ジュンコと浜口ももえが、天上院明日香という少女と今日まで、そしてこれからも関係を持つにいたるきっかけだった。
しかしながら、衝動のままに声をかけて友達になれたのはいいものの、とても自分たちとは違いすぎるスペックを誇る明日香に最初の内は委縮してしまっていた。
端正の取れた顔つきに綺麗な金髪、性格は少し落ち着いているけど気さくで、根は明るく優しくて、勉強もスポーツもできる。デュエルの腕も男子たちを抑えてクラス一位の優等生。もはやモテる要素しかない完璧美少女、それが天上院明日香という少女。言うまでもなく学年カーストトップに君臨する女王だった。
彼女のふたつ上の兄である天上院吹雪もまた、色々と残念ながらもハイスペックなイケメンではあったがゆえに、吹雪目当てで明日香に近づこうとする上級生もいたほどに、あらゆる方面からアプローチがあった女の子だった。
そんな高嶺の花の周りを自分たちが侍っていても良いのか、友達になってからしばらくの間は自信がなかった。ジュンコが「さん」付けかつ丁寧語で、ももえは口調こそ変わらないものの「さま」付けで明日香の名前を呼ぶのは、この不安だった頃の名残である。
しかしそんな不安はある日を境に霧散することになる。
それは明日香がふたりを家に招待した日のことだった。
緊張のあまりガチガチで昨晩は碌に寝付けもしなかったふたりだったが……。
「は、はぁあっ!? ちょっと待ちなさいよ、『群雄割拠』だけならともかく『センサー万別』はいくらなんでもダメすぎるでしょう!? モンスター1体しか出せないじゃない! せめて『神の宣告』とかで我慢しときなさいよもう!……いや、落ち着きなさい明日香。まだある……まだチャンスはあるわ……」
天上院家の自室にあるパソコンの前で
なんとかひねり出した趣味に関する話題から転じて、普段毎日のようにやっているというデュエルモンスターズのアプリゲーを実際に見てみたいと言い出したふたりに喜んだ明日香が、説明しながら実際にプレイしてみせた結果がこれである。
始めこそ和やかだったものの、だんだんと明日香の表情が険しいものになっていき……ついに限界を向かえて爆発したのだった。ポカンとしている友人ふたりを置き去りに、明日香はムキになってパソコンに物凄い形相で齧りついている。
いったい今どのような状況なのかと、どうしてそんなに怒っているのかと尋ねれば、操作と目線はそのままに対戦相手が使うカードと今の明日香の状況を説明してくれた。早口ではあったが妙に聞き取りやすく、そしてわかりやすかった。
そしてここでふたりは、明日香の本性に気付いた。
そう……天上院明日香は、真正のデュエルバカだったのだ。
自分たちも嗜む程度にデュエルはできるし知識もある。が、天上院明日香は自分たちのそれとは比べものにならないレベルの情熱をデュエルモンスターズに向けていた。
それゆえに毒されすぎているがあまり、デュエルの盤面や戦術・状況で例え話をしてしまう癖があるため時々何を言っているのかわからないことがあるものの、不思議なことに彼女が伝えたいことは言い方や雰囲気でしっかりと伝わるのだから面白い。
なるほど。とても自分たちと同い年とは思えないほどのデュエルにまつわる知識の深さや、上手にカードを使う腕は、天才だからとかそんな陳腐な理由じゃなくて、こうして色んな相手とオンライン上でマッチングできるゲームで毎日のようにデュエルして自然と身についたものだったのだ。つまりは彼女自身の努力の賜物だった。
どこか遠くの存在だった彼女が急に自分たちと近しい存在に思えて嬉しく思えたし、叩き上げの腕前でクラスの女王となるまでに昇華したというのだから尊敬できるところだった。一月後に行われる学年別デュエルトーナメントでも優勝できるのではないかとも思えた。実際に、明日香はそのトーナメントを制し、クラス女王から学年女王になった。
しまいには。
「『アンデットワールド』なんてモンを張るなァアッ! こいつ絶対性格終わってるわよ! デュエルIQを高める代償に人間性を捨てるだなんて最終手段に留めておきなさいよ! 性根までアンデットみたいに腐りきってんじゃないのかしら!? プラズマクラスターも秒でぶっ壊れるような盤面形成してんじゃないわよ! ドロソが被りまくる呪いをかけてやろうかしら、ってぇ!? グワーッ!? アバーッ!……もうッ! どんだけ強いのよこのミセアビ王とかいうやつ! 名前通りデュエルキングなんじゃないのかしら!? 勝てるわけないわよこんな盤面! 負けよこんなの負け負け! はい対戦ありがとうございました! パリンパリンパリン!」
ヒステリックにキレ散らかして対戦相手を罵倒しながらも、それでもどこか楽しそうに悲鳴を上げて負けていく明日香は……本当に好きなことを本気で打ち込んで全力で楽しんでいるその姿は、眩しいものであったのと同時に、いつもの優等生然とした姿からは想像できないくらいのギャップがありすぎて非常にかわいらしかった。
「ふぅ……ああ、ごめんなさいね、取り乱しちゃったわ。ふたりもどう? やる?」
「いえ、アタシたちは大丈夫ですよ」
「わたくしたちは見ているだけで充分に楽しめておりますので、あと小一時間ほど続けてくださいな?」
「? そう? じゃああと少しやるとしましょうか」
その後も飽きない時間が続いた。
勝利して得意げだったり、操作ミスして絶叫したり、トップドローに一喜一憂したり、理不尽な盤面を突き付けられてブチギレたりと、表情豊かで普段押さえつけているものを解放している明日香は見てて飽きない。
――なんだ。確かに凄くて尊敬すべき存在だけど、結局のところ自分たちと同じ普通の女の子じゃん。
うまく言語化できずとも、そう感じ取ることができたふたりはこの日を境に、明日香に対して変に緊張することはなくなったし、もっと親しみを込めて自然に、ときに容赦なく接することができるようになった。
そしてそんなデュエルバカの明日香が……恋に落ちた。
今日に至るまで明日香は何人もの人間に告白されてきた。
上級生から下級生、理由も様々、果てに異性のみならず同性に至るまで、何人もの人間たちが明日香に勇気のアタックを仕掛けた。その中には運動部の部長クラスの学園カースト上位者や、交流デュエル大会で明日香と当たった腕利きのデュエリストもいたほどで、誰しもが彼女の魅力に惹かれていった。
「デュエルで勝てたら考えてあげる」
この明日香の返答が、断り文句であることに気付いた者は誰一人としていなかった。そして案の定、全員もれなく明日香に勝つことができず、散っていったのである。
中には明日香が普段使っているデッキを分析して有利なデッキを作りあげ、ぶつかって行った者もいたが、それでも成就することはなかった。なぜか。
明日香が全く違うデッキを使ってきたからだ。
告白を断るときにだけ見せる、真の明日香のデッキの前に全員が玉砕していったのだ。
しかも、二度と彼女に告白できなくなるように、する気にすらないように徹底的に、中には恐怖を抱く者が出るほどに容赦なく突っ撥ね続けた。
そういう経緯もあり、恐怖と畏敬の念を込めて『アカデミアの女王』と明日香は呼ばれるように至ったのだ。
そんなことをしていたから、ジュンコもももえも明日香はデュエル一筋で、恋愛に全く関心がないと思い込んでいた。
単にデュエルが強い人間が好きなわけでもないことも知っている。ちょっとカッコイイプロデュエリストと生で会った時も、彼のプレイングだけを見て彼自身をそういう目で見ることは一切なかったし、明日香と互角に張り合うことのできる
実技試験が終わる直前に突然始まった、実技担当最高責任者直々に試験官を務める異例の最終試験。対する受験生は男の子で、決して格好悪いわけじゃないけど見るからに子供っぽく、それ以外は普通の、元気なだけでぱっとしない子だった。
――あーあ。あの子、なんかやっちゃったんだ……。
実技担当最高責任者が直々に試験すると聞いてどんな凄い子がくるのかと期待はしたものの、よくよく考えてみれば後ろすぎる受験番号から座学が残念であったことがわかる。しかもあの少年は特に世間を騒がせている有名人でもなさそうだから、接待ということでもないだろう。
ならば、どうしてこんな前代未聞の事態が起こっているのか。
答えは簡単、見せしめだ。
多分あの少年は何か問題を起こした。そしてそれをアカデミアの上層部が許さなかった。
だから通常の試験でなく、この会場にいる全員から注目を浴びるように仕組まれ、しかも圧倒的な実力者をぶつけられたのだ。新入生である自分たちに対する警告も兼ねつつ、あの少年の心を折るために。
かわいそうにと思い、隣にいる明日香にも話題を振ろうとして……ジュンコの動きが止まる。そしてそれに気が付いたももえも、そして自分たちと同じくらいに彼女と長い付き合いの丸藤亮もまた明日香の変化に気が付いた。
あの
しかも尋常じゃない。心なしか頬を赤らめているし、どんな男にも向けることのなかったキラキラした瞳をあの少年に向けているのだ。
「遊城……十代……」
無意識だろう……アナウンスで流れた彼の名前を呟いて、唇に人差し指を当ててふにゃりと柔らかく笑った。
もう間違いない。
ふたりはお互いにアイコンタクトを送って、そして同じ結論に至り小さく首を縦に振った。
――天上院明日香に春がきた。
女子会で男の話題になったときの明日香の回答は「今はそういうのに興味はない」の一点張りだったし、記憶をいくら掘り起こしてもあの少年に心当たりがないことから、間違いなく一目惚れだ。一目惚れしたのだ、我らの女王様が。
一体あの少年のなにが、明日香のあるのかどうかも怪しかったストライクゾーンに突き刺さったのか、ふたりにはわからなかったが、ある予感がした。
この最終試験で何かが起こる、と。
そしてその予感は正しかった。
僅か2ターンの出来事であったが内容が内容だった。
容赦が無さすぎる試験官のクロノスの先攻展開を、あの少年は見事に巻き返してそのまま勝利してしまったのだ。見えない手札からの罠を……それも二度もクリアして、プロも顔負けの圧巻の後手捲りを披露してでの大勝利だったのだ。
なるほどと、ジュンコとももえは納得した。
明日香はあの少年……遊城十代の実力を一目で看破し、自身に届きうるデュエルの腕があることを見破り、そして堕ちたのだ。デュエルバカここに極まれりであるし、全く論理的ではないが、あれだけデュエルに情熱を注いでいた明日香ならばあるいはと思えてしまう。
あの断り文句も、見ただけで格下だと見抜いていたからだとしたら説明がつく。互角以上の丸藤亮に靡かなかったのは単純にタイプじゃなかったからだろう。それはちょっと、丸藤亮が気の毒だった。
……尤も、実際のところそうではないのだが、そんなことをこのふたりに知る由がない。
ならば自分たちはとやかく言う必要はない。冷やかしながらも明日香の恋を応援するだけだ。
さっきのデュエルの中で見せた態度や大健闘ぶりから、遊城十代は決して悪い子ではなさそうだったし、純粋にデュエルが好きで楽しんでいる、しかもかなり強いことから明日香とも相性が良さそうだ。細かいところは少しずつ、これからお互いに知っていけば自然とくっつくだろう。
だからこの日、明日香を焚き付けた。
初めての恋にお熱になっているのはかわいいし微笑ましいだけなので一向に構わないが、それが明日香が自身の進路を決めかねている要因になっているのなら見過ごせない。
しかも話を聞く限り、いくら懐の深い恋愛警察も真顔で違反切符を切るほどに明日香の遊城十代への想いは過積載がすぎる。このまま抱えて進展なしの状況が続けば、明日香と遊城十代双方に悪影響を及ぼしかねない。
これはいけないと考えたふたりは面白半分、されど半分は本気で早めにアプローチを仕掛けるように明日香に焚き付けたのだ。
……しかし。
「わざわざそんなこと教えてくれるなんて、ひょっとしてオレに一目惚れかぁ?」
「え、なんでわかったの?」
「……え?」
「「まぁ!」」
アプローチを通り越して、まさか学園生活0日目にして、いきなり