十代好きの私が天上院明日香に転生したのはいいけど、この世界のカードパワーが明らかにインフレしている! 作:スパークリング
「そいつ、おまえたちよりやる。入学試験デュエルで手抜きしたとはいえ、一応あのクロノス教諭を敗った男だ」
「クロノス先生は手抜きなんてしてないぜ。先生はオレに全力でぶつかってきてくれた。だからオレは、そんな先生に実力で応えたんだ。そんな風に言うなよ」
「ふふ、そうかい。ならその実力とやら、ここで見せてほしいものだな」
「いいぜ?」
十代を探しつつアカデミアを散策すること約一時間後、オベリスク・ブルー専用のデュエル場でなんだか面白そうなやりとりが行われている現場を発見した。
両方とも知っている声で、ひとつは私が探していた相手である遊城十代。そしてもう片方がオベリスク・ブルーの鬼才であり、十代のライバルポジションキャラの万丈目準だ。十代が翔くんを、万丈目くんがえっと……名前は知らない取り巻きふたりを引き連れて対峙している。
わぁ、オベリスク・ブルーの制服を着ている万丈目くんだ。初視聴時はまさかこの格好がレアモノになるだなんて思いもしなかったわ。
といっても万丈目くんとは初対面じゃないのよね。同じ中等部に通っていたし、なんなら告白もされたわ。デュエルで負かして断ったけど。
いや別に嫌いじゃないのよ彼のことは。十代一筋だから恋愛対象として見られないだけで、キャラクターとしてなら余裕で好きの部類に入る。
それに……万丈目くんだけだったわね。本気で私にアタックしてきてくれたのは。
私の普段使っているデッキの対策をしてきてくれたのよ万丈目くん。おかげで本気で私をモノにしようとする意思が伝わってきたわ。だからちょっと嬉しくて……全く違うデッキでその返しのターンにワンターンキルしてあげたっけね。
それきり言葉を交わしたことは無かったけど……まさかこんな形で再会するなんてね。というかそういえば、十代と万丈目くんのファーストコンタクトってこんな感じだったかしら?
まぁいいか。
私は十代にアプローチをするという極めて大切なミッションを熟さないといけないし、万丈目くんには悪いけど退散して貰いましょうか。
声をかけることにした。
「あなたたち、なにしているの?」
「天上院くん!」
ちょっと嬉しそうな表情が可愛らしいけどごめんなさいね万丈目くん。あなたには用がないのよ。
あ、十代がこっち見てる。誰だこいつみたいな感じだけど、子供っぽくてかわいいわぁ。これが十代にとって私とのファーストコンタクトになるのだから、しっかりイイ女っぷりをアピールしていかないとね。
「久しぶりね、万丈目くん。で、そこの彼になにをしているのかしら?」
「いやぁ、この新入りがあまりにも世間知らずなんでね。学園の厳しさを少々教えて差し上げようと思ってね」
「そう。でも、もうそろそろ寮で歓迎会が始まる時間よ?」
「え?……あ! チッ、引き上げるぞ」
はい、オタッシャデー。これで心置きなく十代とお話しできるわぁ。
とはいえ、いきなり距離が近くても困惑しちゃうだろうから、当たり障りのない話題から振りましょうか。
「ふぅ、災難だったわね、大丈夫かしら?」
「おう、ありがとうな! えっと……」
「明日香、天上院明日香よ」
「オレは遊城十代! よろしくな、明日香!」
「ええよろしくね、十代」
よし、ナチュラルに下の名前を呼び合う同士まで距離を詰めることに成功したわ。
距離感がバグって女として将来的に意識しづらくなるかもしれないとはいえ、現状は問題ないでしょう。
このあと翔くんにジュンコ、ももえの三人が自己紹介して、とりあえずこの場にいる全員が知り合いになった。
「そういえば明日香って、さっきのアイツと知り合いなのか?」
「万丈目くんのことかしら? ええ、そうよ。といっても中等部が同じだっただけで、そんなに親しいわけじゃないけどね。彼自身は結構優秀で、悪い子じゃないんだけど……気をつけてね。目をつけられたらちょっと厄介な子でもあるから」
さっきの彼の私への態度からして、私のことを諦めてなさそうだったしね。デュエルするのはいいんだけど、面倒くさいのはちょっと勘弁。
すぐにはアタックしては来ないだろうけど、なんかのイベントの後とか、キリの良いところで言い寄ってきそうな感じはする。どうしたものかしらねぇ……。
とかそんなことを考えていると、十代がちょっと調子にのった感じのかわいい笑顔で口を開く。
「わざわざそんなこと教えてくれるなんて、ひょっとしてオレに一目惚れかぁ?」
「え、なんでわかったの?」
「……え?」
「え?」
「「まぁ!」」
「……あ」
やっちゃった。
普通にぽろっと暴露しちゃったわ。だって十代から振ってくれたんだもん仕方ないわよね?
アプローチとか諸々すっ飛ばしたかなりのロケットスタートになっちゃったけど……まぁいっそのこと開き直っちゃいましょう。
それにここではっきりと
早々に十代に自分の気持ちを伝えられる上に面倒事まで解消できる……あらまぁ完璧じゃないの。
どれくらい完璧かというと後手札が手札誘発4種+1枚初動で後手ドローが『墓穴の指名者』だった時くらい完璧ね。こんな後手札握らされて敗北するなんて、当たった相手がバックガン伏せする罠デッキかメタビだったり、相手のハンドが貫通札だらけのときくらいで基本勝ちよ勝ち。後手を取っている時点で微不利なんて言っちゃいけない。
そうと決まればガンガン攻めるとしましょうか。
きっと思ってたのとぜんぜん違う私の言葉に呆然としているであろう十代の瞳をロックオン。目を反らさせないし、適当に茶化そうとしても逃がさないわ。
ゆっくりと十代に近づくと、怖いものを見るような顔をした十代はじりじりと後ろに下がる。
「入学試験デュエル、あなたとクロノス先生のデュエル、素敵だったわ」
「あ、ああ……サンキュ」
「あのデュエルを見せられてからね、私、胸の高まりが止まらないのよ。聞いてみるかしら?」
「い、いや、遠慮しておくぜ」
「遠慮しなくていいわよ?」
壁際まで追い詰めたところで、十代の顔を掠めるように両腕を伸ばして勢いよく音を立てて手を付ける。逆壁ドンってやつを仕掛けてやったわ。これでもう逃がさない。
「私、遠回しな言い方はあんまり得意じゃないの。だからストレートに伝えるわ。十代、私あなたのことが好きよ。もちろん男女の、恋愛的な意味でね」
「え、えぇ!?」
「なにを驚いているのよ、あなたから振ってきたんじゃない。私はそれに答えただけ。……さぁ、今度はあなたが答える番よ」
さてトドメと行きましょうか。
吐息を感じられるギリギリのところまで顔を近づけて、耳元で小さく囁く。
「どう? 私と付き合ってみないかしら?」
「え、あ……その……」
顔を真っ赤にして、十代はしどろもどろになってあわあわしだす。目も回りかけているし、私からの逆プロポーズの効果は抜群のようでなによりね。
……よし、ここが潮時ね。
「ふぅ、ここまでにしましょうか」
「え?」
さっきまで感じていたであろう私の圧が霧散して、壁ドンを解いて少し距離を置いた私に十代が呆然とする。
「なによ、取って食われるとでも思ったの?」
「え、だ、だってまだオレ何も答えて……」
「別に今すぐ答えてもらう必要はないわよ」
今の目標は私が十代に告白すること、だもの。まぁ願わくばここで付き合いにまで発展させてほしいものだけど……。
「それともなに? 返事を聞かせてもらえるのかしら?」
「いや、その……ごめん。急すぎて整理がつかない」
「でしょうね。だからいいのよ。ゆっくり考えてもらって……そうねぇ。アカデミアを卒業するまでなら待ってあげるわ」
「え? それってつまり、最大で三年も待つって言ってんのか?」
「そうよ」
ここで急かして困らせてもいい返事が聞ける保証がないもの。だったら頑張って点数稼ぎをして、私に堕ちるまで待った方がいい。
「まぁでも、アプローチは続けさせてもらうわよ? だから覚悟だけはしておいてね? 私は本気なんだから。この三年間、私はあなたへの想いを変えることは絶対にない。それだけは肝に銘じていて?」
「う……わ、わかった」
よし、目標達成。
とはいえ、いきなり仕掛けちゃったし、ちょっと怖がらせちゃったかしら? 明らかに引いているものね。
にこりとさっきまでとは違う笑顔を作って、私はパンっと両手を叩いた。
「よし。じゃあ、早速私のことを知ってもらおうかしら? あなた、デュエルディスクつけてるってことはデッキ、あるんでしょう?」
「え?……お、おう! あるぜもちろん!」
お、釣れてる釣れてる。さっきまでの混乱はどこへやら、デュエルできそうな雰囲気を察して喜びを隠しきれないご様子。ああ、かわいい。
「せっかく
私は持っていたカバンの中から……支給されたデュエルディスクを取り出す。
「ジュンコ、ももえ。時間ギリギリになってもデュエルが続いているようなら中断してくれるかしら?」
「勿論です!」
「ここまでくればあとは押せ押せですわぁ!」
よし、これで歓迎会に遅れることもない。安心してデュエルに興じられる。
「やるわよ十代。あなたにはこれで想いを伝えた方が一番でしょう?」
「ああ、まぁ……そうだな! ここに来てからの初のデュエルだ! 腕が鳴るぜ!」
突然の告白への混乱より、デュエルできる喜びのほうが勝ったみたい。ここら辺は光の結社編までの、ただデュエルがやりたいだけの十代らしいわ。
さてと、どっちのデッキを使うか迷うけど……普段使っている方でいいわよね。だってこっちは告白を断るときとか、本気で相手を負かすために使うものだし。
デュエルディスクを装着してデッキをセットし、私がデュエルリングの指定された場所まで移動すると、十代はそれと反対側の場所に立ってデュエルディスクを起動させた。
「それにしても嬉しいなぁ」
「あら? それは告白の返事と受け取ってもいいのかしら?」
「い、いや、そうじゃなくってさ……」
「それは残念。じゃあどういう意味かしら?」
「だってさ……あんた、絶対にデュエル強いだろ?」
……へぇ?
「なんでわかるの?」
「そんなのなんとなくさ! でもわかるんだ。あんたからはクロノス先生と同じくらいの圧を感じるからな! デュエルディスクを起動させたときにビリビリ伝わってきたぜ!」
デュエルバカの勘ってやつかしらね。どうやら十代はデュエルディスクを構えた姿で相手の強さの判定をできる特殊能力があるらしい。
それにしてもクロノス先生並みとは……なかなかいい評価を付けてくれるじゃないの。嬉しくなっちゃうわ。これは改めて気合を入れないといけないわね。
「ふふ、面白いわね。そんなところもかわいくて好きよ?」
「う……いちいち調子を崩してくるなぁ」
そういう初々しい反応をしてくるのが悪いのよ。かわいいから言わないけど。
「おしゃべりはこれくらいにして始めましょうか。先攻と後攻、お好きな方を選んでくれていいわ」
「オレはどっちも好きだぜ!」
「あら、気が合うじゃない。私もどっちも好きよ。それなら……これに任せましょう」
ポケットからコインを取り出してピンと指で弾いた。
「模様がある方が出たら私が、無い方なら十代、あなたが先攻よ」
「ああ、それで構わないぜ」
宙を舞い、放物線を描いたコインが私の手の中に戻ってきた。
その結果は――手を開くと、そこには天使の紋章が描かれていた。
念のためそれを十代にも見せ、裏面も確認させてから告げる。
「私が先攻ね。好都合だわ。容赦なくガンガン行かせてもらうわ。私の想い。受け止めてちょうだいね?」
「う……ま、まぁいいぜ!」
「「
さて……楽しませてちょうだいね?