十代好きの私が天上院明日香に転生したのはいいけど、この世界のカードパワーが明らかにインフレしている! 作:スパークリング
遊城十代はデュエルが大好きな少年である。
いつからだったか、きっかけを思い出すことはできないが、それでも小さい時からデュエルモンスターズを遊び、コミュニケーションを取って友達を作り、そしてメキメキと実力をつけてきたという自覚だけはあった。
デュエルは大好きだし得意だった。
負けることも多々あったけどそれでも楽しかったし、「次は勝つ」という向上心もあった。そして見事リベンジを果たしたときは、さらに強くなれた感覚を抱けて気持ちが良かったし、ますますデュエルが好きになった。
特に相手が自信満々に作りあげた盤面をいかにして攻略するのかを考え、そして乗り越えるのが大好きだった。作られた相手の盤面が強ければ強いほど燃えてくるものがあったし、それだけ自分に対して全力で向き合ってくれていると感じて嬉しかった。
そんな彼がデュエルアカデミアに通いたいと思うようになったのは、当然のことだった。
叩き上げの腕と感覚だけでデュエルしてきた彼にとって、筆記試験はカードの知識に関するところだけは答えることができたものの、それ以外の基本的なセオリーを問う問題はからっきし。しかしながらデュエルモンスターズに関する問題だったため、わからなくても楽しく答えることはできた。……それでも、成績はお察しだったが。
実技試験の日はデュエルできるということもあって楽しみにしていたが、まさかまさかの電車の遅延が発生してしまった。
楽天家で前向きな性格をしている十代も、さすがに遅刻することが良くないことだということは分かる。しかもテストで遅刻なんて最悪だ。これには焦った。途中、ある人物から1枚のカードをもらったが、それを喜ぶ間もなく走り、そして時間ギリギリに滑り込むことができたときには胸を撫でおろしたものだ。
そして……相手した試験官の、クロノスを見た時心の底から喜んだ。
立ち姿が今までの相手とは全く違う。余裕があって、そしてデュエルの経験も豊富そうな大人のデュエリストだ。
そしてそれからは怒涛の先攻展開が行われ、クロノスのフィールドには後続に繋ぐことができる巨大な融合モンスター、妨害モンスター、そしてそれらに耐性を与える永続罠の盤面が出来上がった。隙がなく、完成度の高い期待以上の盤面を突き付けられ、すっかりクロノスのことが好きになった。そして……
だからこそ、自分ができる限りのことをして、先生の築き上げた盤面を返そうと思えた。
そこからはひたすらクロノスとデュエルの上で会話を続けた。ここに対して妨害を使うか、使わないのか。手札から飛んできたトラップには驚かされたが、それでも十代にとっては心地いい刺激であり、一番効くところに適切に妨害を使って自分を見てくれるのだから、クロノスへの好感度は鰻登りだった。
二度にわたる手札からのトラップ合戦を制し、
そして、十代はデュエルアカデミアに入学することができる切符を手に入れた。
どうやら自分は最下層の寮に所属するらしいが、十代にとってデュエルアカデミアに入学することが重要であり、寮のランクはどうでも良いことだった。
「ボクもレッドだぁ。よろしくね、アニキ!」
「やぁ一番くん。どうして君がレッドなのか、不思議だよ……」
なんかよくわかんないけど自分をアニキと慕ってくれる
それにこれからはデュエルに関して色々と学べるし、実技の授業なら大好きなデュエルだってできる。将来については何も考えていないが、それでも今は全力で楽しむことができると十代は浮かれていた。
「ああオレ、遊城十代。よろしく!……で、アイツは?」
「オマエ万丈目さんを知らないのか!? 同じ一年でも、中等部からの生え抜き! エリートクラスの
「未来の……ああ、大丈夫か。こほん! 未来の
そんな十代は持ち前の第六感……デュエルの匂いを嗅ぎ取ることのできる嗅覚によって、なんの因果か、オベリスク・ブルーの期待の新星であり、中等部の男子ナンバーワンの鬼才である万丈目準とその取り巻きとエンカウントした。
「そいつ、おまえたちよりやる。入学試験デュエルで手抜きしたとはいえ、一応あのクロノス教諭を敗った男だ」
「クロノス先生は手抜きなんてしてないぜ。先生はオレに全力でぶつかってきてくれた。だからオレは、そんな先生に実力で応えたんだ。そんな風に言うなよ」
バカにするように取り巻きたちに笑われたことよりも、この万丈目のセリフのほうに十代はムッとする。
あのデュエルはお互いに真剣だった。これは実際にクロノスと相対していた自分だからよくわかる。だからこそ、まぐれで自分が勝ったと言われることはまだいいとして、手を抜いたクロノスが負けたと言われることは、クロノスを貶されているように聞こえて嫌だったのだ。
「あなたたち、なにしているの?」
そんな時に彼女が現れた。
「わぁ、綺麗な人……」
隣にいる翔が見惚れるのも無理はない。なにせデュエル第一であまり女子に興味がなかった十代にだって「美人だな」と頭に
この金髪の女子生徒と知り合いなのか、少し浮かれた様子の万丈目が話しかけているが、数回会話を交わしただけで慌てた様子で取り巻きふたりを連れてデュエル場からいなくなった。どうやらこの場を丸く収めてくれたみたいだった。
万丈目とかいうエリートとデュエルできるチャンスがなくなったのは……少しだけ残念だったが。
「ふぅ、災難だったわね、大丈夫かしら?」
「おう、ありがとうな! えっと……」
「明日香、天上院明日香よ」
「オレは遊城十代! よろしくな、明日香!」
「ええよろしくね、十代」
彼女の名前は天上院明日香というらしい。さっきまでの万丈目たちと違って、十代にも翔にも分け隔てなく彼女は接していた。明日香の連れである枕田ジュンコと浜口ももえもまた、感じの良い笑みを浮かべて自己紹介をし、自然と友好的な雰囲気になる。
「そういえば明日香って、さっきのアイツと知り合いなのか?」
「万丈目くんのことかしら? ええ、そうよ。といっても中等部が同じだっただけで、そんなに親しいわけじゃないけどね。彼自身は結構優秀で、悪い子じゃないんだけど……気をつけてね。目をつけられたらちょっと厄介な子でもあるから」
ふーん、とだけ十代は思った。
ただ自分で振ったものの、あんまり良い話題ではなかった。困ったような笑顔で忠告してくれる明日香を見て、空気を変えるために冗談のつもりで、こんな台詞を口にしたのだ。
「わざわざそんなこと教えてくれるなんて、ひょっとしてオレに一目惚れかぁ?」
「え、なんでわかったの?」
「……え?」
思っていたのと全然違う反応に、きょとんとする。
ケロッとした表情で、明日香が十代の言葉に肯定してしまったからだ。
お調子者な自分が中学時代、女子にこういう冗談を言えば大体は笑顔で否定してくるか、冗談はやめてよと笑ってくるかの二択だったばっかりに、まさか肯定の言葉が返ってくるとは思わなかったのだ。
「え、えっ!? マジっすか!? お、おおっ、マジっすかぁ!」
「わぁ、明日香さん大胆!」
「やりやがりましたわぁ!」
始めこそ困惑するもすぐに面白そうに十代と明日香を交互に見始める翔。そして明日香の十代に対する好意を知っていたらしいジュンコとももえがキャッキャと黄色い悲鳴を上げる。当事者である十代だけが取り残されたままだった。
そんな困惑している十代に構わず明日香が動く。
髪の毛と同じ金色の瞳を向けられた十代は直感した。
これはもう逃げられない。おちゃらけることもできない。向き合わないといけない。
今までは苦手なことや自分にとって都合の悪いことからは上手く立ち回って回避し続けてきた十代だったが、今このときだけは逃げてはいけないと十代の第六感が告げていた。
しかしそれでも、こっちにゆっくり迫ってくる明日香の圧にやられて思わず逃げるように後退ってしまう。
「入学試験デュエル、あなたとクロノス先生のデュエル、素敵だったわ」
「あ、ああ……サンキュ」
「あのデュエルを見せられてからね、私、胸の高まりが止まらないのよ。聞いてみるかしら?」
「い、いや、遠慮しておくぜ」
「遠慮しなくていいわよ?」
ドンッ!!
「ひぃっ!?」
壁際まで追い詰められて自らの両耳元から大きな音に十代は肩をびくつかせた。そしてその音がした方を恐る恐る見てみれば、染みひとつない細い両腕が自身の頭の左右を掠めるように伸びていて、その手を壁にあてていた。壁と明日香に囲われ、今度こそ、十代は逃げ場を失う。
「私、遠回しな言い方はあんまり得意じゃないの。だからストレートに伝えるわ。十代、私あなたのことが好きよ。もちろん男女の、恋愛的な意味でね」
「え、えぇ!?」
「なにを驚いているのよ、あなたが振ってきたんじゃない。私はそれに答えただけ」
まさか本当に自分のことを好いていてくれていたんだなんて思わなかったんです、とは十代は口が裂けても言えなかった。そんなことを言おうものなら何をされるかわかったもんじゃない。そんな恐怖と、アカデミアに来てこんな早くにこんな美人に言い寄られているほんの少しの喜びと、それを覆い隠す程の困惑に上手く言葉がでてこない。
「……さぁ、今度はあなたが答える番よ」
元から近かった、明日香の綺麗な顔が迫り……。
「どう? 私と付き合ってみないかしら?」
耳元でそう囁かれて、十代はリミッターを越えた。女子特有の甘くていい匂いがするし、明日香の綺麗な声が至近距離で聞こえるしで、顔を真っ赤にし、目がぐるぐるとし始める。
「わぁ! わぁ! 凄い、情熱的っすねぇ!」
「いいぞ明日香さん、もっとやれ! 堕とせ、堕としてしまえ!」
「このままキスですわぁ! そしてお持ち帰りからの融合を儀式召喚ですわぁ!」
外野が勝手に盛り上がって、一部とんでもないことを口走っている奴がいるが、そんなことは十代の耳に入ってこない。それくらいに十代は、明日香に支配されていた。
もういよいよキャパオーバーしてしまいそうな……そのときだった。
「ふぅ、ここまでにしましょうか」
明日香が自分から離れたのは。
少し下がって……適切な距離を取った明日香からは迫力が消えていて、知り合った時と同じような雰囲気に戻っている。さっきまでの攻め攻めな……まるで肉食獣のような明日香でなく、ちょっと優等生然とした落ち着いた雰囲気の明日香に。
元に戻った明日香に十代は三年の猶予を与えられた。急ぐ必要はない。しかし意識せざるを得ない。保留という名の逃げ道を確保されたことに安堵した十代は、なんとか落ち着きを取り戻すことができた。
これからも明日香による猛アタックが続いてくるが、覚悟できていればさっきまでのようにキャパオーバー一歩手前まで追い込まれることはないし、なにより純粋に、明日香にストレートな好意を向けられたことによる嬉しさもある。恋愛とかはあまりよくわからないが、少なくとも良いことであるということは十代にだってわかる。
「よし。じゃあ、早速私のことを知ってもらおうかしら? あなた、デュエルディスクつけてるってことはデッキ、あるんでしょう?」
「え?……お、おう! あるぜもちろん!」
さらに十代にとって嬉しい出来事は続いた。
なんと、明日香とデュエルすることができる。しかもこのデュエル場で。
明日香もデュエルディスクとデッキは持ち歩いていたらしく、慣れた手つきで装着していた。これには十代は食いついた。十代はデュエルバカなのだ。デュエルできると聞いて、飛びつかないわけがなかった。
そしてデュエルディスクを装着した明日香を見て……十代はさらに喜んだ。
明らかに只者じゃない風格を明日香は身に纏っていたのだ。それこそ実技試験で自分と相対したクロノスと同じような、重厚で静かな圧を。
――これは面白いデュエルになりそうだぜ。
そんな十代の予感は見事に的中した。
儀式召喚は知識こそあったがそれでも相手したことがなかった十代にとって、明日香の操る『ドライトロンエンジェル』デッキは新鮮で驚きがあり……そして予想を超える盤面が築き上げられたのだ。
攻撃力5500と3400の2体の巨大な儀式モンスター。しかも効果では破壊されない耐性があり、攻撃力2000以下のモンスター効果を2回、4000までなら1回無効にして破壊する妨害付き。さらに相手によって破壊されたらなんだか知らないが攻撃力4000のモンスターが出てくるオマケつき。しかもこちらのモンスターは機械化され、ステータスが500ダウンする始末だ。
とんでもない盤面だ。少なくとも今まで、十代はこれほどの巨大なモンスターを並べられたことはない。ステータスだけなら慕っているクロノスのモンスターを遥かに上回っているのだ。それを涼しい顔をして築き上げた、天上院明日香という少女。
いきなり大胆すぎる告白をしてきたのは驚いたが、なかなかどうして……強いデュエリストなんだと、十代は明日香のことが一気に好きになった。恋愛的なものかどうかは置いといて。
「でもだからこそ……越え甲斐があるよなぁ!」
「ええ、そうよ……越えてみなさい十代! 全力で抗ってあげるわ!」
「おう!」
さっきまで明日香の圧にやられていた少年はどこへやら。今度は十代が明日香を標的として見据え、なんとしてでもこの盤面を攻略してやろうと躍起になれた。
結果として、十代は明日香の盤面の攻略には失敗してしまった。本命をチェーンで守りながら巨大モンスターたちの牙城を崩したのはよかった。しかしまさか、後続で出てきたモンスターがモンスター効果の対象にならないなんて思わなかった。ただでさえ強かったのに、そこからさらに強いモンスターが出てくるにしても十代の予測を上回ってしまったのだ。
――知らなかったとはいえ……やっぱ明日香は強いぜ!
久し振りに後攻ワンターンキルに失敗しただけでなく、碌に制圧盤面も作れなかった十代だったが、なんとか明日香の返しのターンもしのぎ切り……迎えた十代の2ターン目。
「ちょっ!? それはちょっと強すぎるんじゃない!?」
逆転の罠カード『異次元からの帰還』を発動させると、明日香がわかりやすく狼狽し始めた。目を白黒させて慌てふためく明日香はなんというか……かわいいなと、十代は思った。
「おっ、ようやくまともに驚いてくれたな明日香! 今までのどこか余裕がある表情とは全然違って、結構かわいいところもあるじゃねえか!」
「かわっ!?」
そして口に出してやれば、今度は明日香の方が顔を真っ赤にして頬に両手を当てて表情をとろけさせる。
やり返してやった……というよりも、かわいいなと素直に思いつつ、特殊召喚時のチェーンを組んで明日香のリバースカードを破壊しながら『融合』をサーチして反撃をしようとする十代。そしてそれを黙って見ている明日香ではなく、立ち直ってチェーン3で何かを発動させようとしたところで……時間切れとなった。
いよいよ盛り上がってきたところでの中断だったため不完全燃焼ではあったが、さすがに歓迎会に遅れるわけにもいかない。……それに。
――オレだけならまだしも、明日香まで遅れて行かせるわけにはいかないよな。
それなら仕方ねーか、と十代は確かにそう思った。
「それじゃあね、十代。明日授業で会いましょう。あんまり問題になるようなことはしないで頂戴ね? その、問題起こして退学なんて……そんなの悲しいから。あと返事、いつでも待っているわぁ」
「お、おう!……あ、ちょっと待ってくれ明日香!」
「?」
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」
いつもの、十代の決め台詞であると同時に、デュエルしてくれた相手に対する感謝の気持ちを表す言葉を明日香に伝える。決着はつかなかったが、それでも楽しかったのは変わらない。いつか必ず決着をつけたい。でも今は、一緒に楽しくデュエルしてくれた明日香にお礼を言おう。それが純粋な、十代の気持ちだった。
「!! ふふっ」
明日香は一瞬驚いたような顔をした後、破顔して、そしてイタズラな笑みを浮かべて人差し指と中指を唇に付け……そして自分と同じポーズをして背を向けた。変則的な投げキッスであり、十代に対する明日香の好意的な返事であった。
――綺麗だな。
しかし十代はうろたえることなく、ただ単純にそんな感想を胸に抱いたのだった。
「いやぁ、アニキやるじゃないっすかぁ! 入学してすぐに、かわいい彼女ゲットだなんて!」
「うっ、からかうなよ翔!」
「明日香さん、綺麗な人だったっすねぇ……デュエルも強いし、性格もよさそうな女の子だったじゃないっすかぁ。……返事はしてあげないの?」
「……なるべく早く返事はするさ。今はほら……デュエルがやりたいっていうか、せっかくアカデミアに来たんだし、しばらくは満喫したいだろ?」
「はいはい、でもあんまり待たせすぎちゃダメっすよ?」
「わーってるよ」
レッド寮に戻る帰り道、翔のお小言が終わると次はデュエルの話になった。
「アニキ、勝てそうだったように見えたっすけど……実際どうだったの?」
「あの明日香のリバースカード次第だな。多分チェーン3で発動させようとしていたのはアレだ。アレが魔法カードの妨害なら多分オレは負けてた。でも罠カードだったら……オレの勝ちだったぜ」
十代のトップドローしたカードの正体、それは『レッド・リブート』だった。だから、発動する前にタイムアップのブザーが鳴った時、自分のデュエルディスクが誤作動を起こしたのかと焦ったものだ。
「紙一重だったんだね」
「ああ。クロノス先生の時もそうだった。やっぱ強いやつとのデュエルはスリルがあっていいよなぁ!」
たった一枚、されど一枚。どこかで使うタイミングを間違えただけで、二択を外しただけで勝負が決まるのがデュエルモンスターズというゲームだ。特に腕の立つプレイヤー同士だと、それが浮き彫りになる。
「ワクワクするよなぁ! あんな強いやつがいっぱいいるんだぜ、翔!」
「あはは……ボクは自信がないからちょっと勘弁してほしいかなぁ」
「んなこというなよ! これから一緒に頑張っていこうぜ! おーっ!」
「お、おー!」
◇
歓迎会を終え、お腹がいっぱいになるまでお代わりして自室に戻った十代は、翔からお茶をもらいつつ、同室の先輩である前田隼人から、どうして他のレッド生があまりご飯を食べなかったかの説明を聞いていると、入学する際に配られた通信機が鳴っていることに気づく。
応答のボタンを押すと、画面に映し出されたのは……なにやら自信満々の表情の万丈目準の顔だった。
『やぁ、ドロップアウト・ボーイ。午前0時、デュエルフィールドで待っている。互いのベストカードを賭けた、アンティルールでデュエルだ。勇気があるなら来るんだな』
それで通信が切れた。
「……面白れぇじゃねえか」
真っ先に出た感想がそれだった。
デュエルができるのなら願ってもない。しかも万丈目はエリートらしいじゃないか。もしかしたらあの明日香よりも強かったりして?
――あんまり問題になるようなことはしないで頂戴ね?
――その、問題起こして退学なんて……そんなの悲しいから。
…………。
「……やっぱやめだ」
「え?」
さっきまでのワクワクしたような笑みがすっと消えて、少し乱暴に通信機を腰のホルダーに戻しつつ十代はお茶を飲む。
「行かないんすか? 万丈目くんとのデュエル楽しみにしていたのに」
「アンティルールで、しかも夜中にデュエル場でって、普通にヤバいだろ? 入学早々にそんなことやってバレたりしたら洒落にもなんねーよ。……それに」
「それに?」
「今日はもう、充分デュエルは楽しめたしな! こんな形じゃなくて、ちゃんと万丈目とデュエルをしたいんだ! だから今日はパス! 翔、風呂入りに行こうぜ!」
「え? あ、アニキ待ってよー!」
遊城十代。
彼はまだ、自分のやりたいことを優先する子供のはずだった……
しかし……
明日香が早々に彼に告白し、
彼に明日香という“女”を意識させたことによって……
彼は確かに成長し……
少しだけ、
ほんの少しだけとはいえ、
大人への……階段を上り始めた。
……彼の中に眠る、正しき闇の力もまた、
ほんの少しだけ、
脈打つ。