市民保護機動隊、コードCP-187。
本日の任務は通常通り――違反者の検挙、配給列の整理、秩序の維持。
だが、その「通常」は唐突に終わった。
スキャナーが悲鳴を上げ、視界が白に染まる。
次の瞬間、俺は舗装された道路に叩きつけられていた。
「……ここは、どこだ?」
通信は繋がらない。
オーバーウォッチの声も聞こえない。
周囲を見渡す。高層ビル、整備された街路樹、人々の視線――
シティ17とは似ているが、決定的に違う。
恐怖が、薄い。
「武装した警官? いや……違うな」
背後から声。
振り向くと、巨大なゴリラが眼鏡をかけて立っていた。
……理解が追いつかない。
「落ち着いて。敵意がないなら、こちらも撃たない」
続いて現れたのは、青いスーツの女性。
彼女は自分を「トレーサー」、所属を「オーバーウォッチ」と名乗った。
その単語に、胸の奥が反射的に震える。
「オーバー……ウォッチ?」
「そう。世界を守るための組織だよ!」
守る?
その言葉は、俺の知る意味とあまりにも違った。
俺は拘束されることなく、拠点へ連れて行かれた。
監視はあるが、暴力はない。
「君は……警察官、なの?」
トレーサーが尋ねる。
「市民保護機動隊だ。秩序を守る」
「その秩序って、誰のため?」
答えられなかった。
俺たちは“違反者”を取り締まる。
だが、それが市民のためだったかと聞かれると――
思考が止まる。
数日後、街に異変が起きた。
紫色の機械兵。
ヌルセクター。
「迎撃に出る! 君も来る?」
ウィンストンが言う。
俺は装備を握り締めた。
ここで逃げれば、元の世界と同じだ。
「……参加する」
戦場は混沌としていた。
だが、オーバーウォッチの戦い方は、俺の知るものと違う。
彼らは市民を守るために前に出る。
盾になり、囮になり、仲間を信じる。
俺は気づく。
これが、本来あるべき「保護」なのだと。
目の前で、子供を庇ったトレーサーが倒れた。
その瞬間、俺の中で何かが切れた。
「下がれ!!」
叫び声は、初めて“自分の意志”だった。
スタンバトンで敵を打ち倒し、瓦礫の中から子供を抱き上げる。
恐怖に震える小さな体。
――昔、配給列で泣いていた子供と、同じだ。
戦闘後、ウィンストンが言った。
「君はもう、誰かに命令されて動いていない」
俺はヘルメットを外した。
外の空気を吸う。
「……俺は、市民を守りたい」
その言葉は、嘘じゃなかった。
後日。
俺は正式にオーバーウォッチの補助要員として登録された。
識別コードは残っている。
だが、それはもう鎖じゃない。
市民保護機動隊CP-187。
今はただの、一人の警官だ。
秩序は、命令じゃない。
人のために在るものだ。
俺は今日も街を巡回する。
今度は、誰かの自由を守るために。