バッドエンドで反転したその先へ   作:思い出はここにある

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バッドエンドのその先へ

炎が燃える。全てが焼き尽くされていき、雷鳴が轟く。雷を振り下ろす怪物と、赤黒い炎を纏った少女の成れの果て。だがやがて、その二つは互いに巨大なエネルギーをぶつけ合い、対消滅するように消えてしまった。

 

「……」

 

少女の周りには、何も残らなかった。同級生の猫耳の少女も、プラチナブロンドの髪が特徴的な先輩も、二人の同じ名前の先輩も、この窮地に駆け付けてくれたゲヘナの風紀委員長も。そして、自分達が頼りにし、ここまで一緒に来てくれた先生も。そして、自分達が間に合わず、反転という現象を引き起こし、二度と取り戻せなくなった先輩も、全て。

 

「どうして……」

 

嗚咽が零れる。こんな結末を望んだわけがない。むしろ、全員が、全てがあるハッピーエンドを目指して皆と頑張ったはずだ。その結果がこれなのか。こんなものが、自分の辿り着いた結末なのか。

 

「嫌だ……嫌だよ……」

 

涙が零れる。しかし、彼女の泣き顔を見ても、嗚咽を零しても、誰も声も反応も返してくれない。それをしてくれる人は誰もいない。いなくなってしまったのだ。

 

「セリカちゃん……ノノミ先輩……シロコ先輩……もう一人のシロコ先輩……ホシノ先輩……先生……う、うう……」

 

ピシリ、と何かにヒビが入っていく音が聞こえてくる。ヒビ割れていく音は段々大きくなっていき、それに呼応するように絶望が膨れ上がっていく。そして。

 

「―――」

 

視界が黒く塗りつぶされる。自分の中の何かが爆発したかのような感覚に見舞われたその時だった。一瞬視界が途切れ、混沌としか表現できないような空間に佇む、目を二個以上持つ異形の存在を認識する。

 

「……?なにこれ……」

 

周囲を見渡すと、自分を中心とした小さなクレーターのようなものが生まれていた。自分の右手を見ると、そこには黒く、禍々しく変質した自分が愛用していたハンドガンだったものが握られていた。だが、その銃口からは煙が上がっている。一体自分が何をしたのかわからず、足を踏み出すと。その足に今まで履いていないはずの黒いブーツが履かされていることに気付く。

 

「え……?靴……?それに、この格好って」

 

それだけではない。学生服を着ていた自分の服装は、黒を基調とした美しい衣装へと変わっていた。それを見て、黒いドレスを着た、自分の先輩を思い出したことで、彼女は悟る。自分の身に起こった現象が何なのか。

 

「……まさか、反転……?」

「そうだよ」

「!?」

 

反転。自分の身に起きたその変化について口にした瞬間、その声に誰かが答える。少女が振り向くと、そこには黒いローブを羽織った少女がいた。顔には傷跡が刻まれた仮面をつけている彼女がローブについているフードを外し、薄紫色のロングヘアを曝け出し、仮面を取ると、その下から赤い目の少女が現れる。

 

「……まさか、あなたも?」

「そう。といっても、こことは別の世界から来たけどね」

「別の……別の時間軸」

「別の時間軸?ふーん、そういう言い方もあるんだ。こっちに来なよ。面白い場所を教えてあげる」

「……?」

 

仮面をつけていた少女が背を向けて歩き始める。と、そこで足を止めて振り向く。

 

「そういえばあなた、名前なんていうの?」

「えっと……アヤネです。奥空アヤネ」

「秤アツコ。まあ、私は一年生だからそんな畏まらなくたっていいよ」

「同じ学年だったんだ……」

 

アツコと名乗った少女に連れられ、アヤネは歩き続ける。何時間もの間、歩き続けていたが、疲れる様子は全く感じなかった。心が悲しみと絶望で塗り潰されているというのに、名前しか知らない、だが同じく反転した少女が目の前にいるというだけでどことなく気が楽になった。と、

 

「ここだよ」

「……ここは?」

 

そして辿り着いたのは、廃屋だった。その中に入ったアツコについていくと、そこには地下への入り口のようなものがあった。

 

「ここ、私がいた世界だと元々神殿っていうか遺跡みたいになってたんだけどね。こっちだと壊されて作り直したのかな?まあ、家になってる方が多いのかもね」

「?どういうこと?」

「んー、まあ、とりあえず行ってみればわかると思うよ」

 

地下へ一緒に入っていくと、そこには柱に囲まれた祭壇があった。だが、ただの祭壇というわけではない。中央には時空の狭間のようなものが広がっていた。

 

「これって」

「ゲート。多分、私がこの姿になったことで手に入れた能力かな?マダ……ベアトリーチェがそういうのを望んでいたからあの環境もあって身に付けちゃったんだと思う」

「それって、もう一人のシロコ先輩のようなワープみたいな……」

「残念だけどワープなんて便利なものじゃないよ。というかこの世界って反転した人がまだ別にいるんだ……もう一人って言い方は気になるけど」

 

ゲートに近づくアツコ。恐る恐るといった様子で近づくアヤネがゲートを見ると、その先にどこか別の場所の景色が見えた。

 

「このゲートはね、キヴォトスの外にある別のキヴォトスに繋がっている。私はこの遺跡にゲートを固定して、あの人の言葉に従っていろんな世界から人を集めることにしたんだ」

「……集める?」

「そう」

「……あの人……まさか、先生!?」

 

アヤネの質問に、アツコは首を横に振る。先生ではないというのなら一体誰なのか。その答えも向こう側にあるのだろう。

 

「……さ、行こうか」

「……行ってどうするの?まさか、向こうのキヴォトスを滅ぼすとか……」

「?何を言ってるの?そんなことするわけないじゃん」

 

直後、アヤネの警戒したような声音に驚いたような表情を浮かべるアツコ。しかし、アヤネからすれば、実際に反転した人物がこの世界を滅ぼしに来ているのだから、自分達もそれをやろうとしているのではないかと思うのもある意味無理もない。

 

「むしろ逆……私達はね。滅びの経験を糧にしてたった一つの世界を救いに行くんだよ」

「……それって……」

「ほら、入った」

「きゃっ!?」

 

それ以上は向こうで話すべきと言わんばかりに、アヤネはゲートの向こう側に押し出される。そこには、先程見たのと同じ祭壇があった。だが、そこには六本の柱が光を灯している様子があり、四人の少女たちが立っていた。

 

「……あなた達は……?」

 

共通点があるとすれば、そこにいる全員が黒い服を着ている事だろうか。黒い着物に身を包んだ紫の髪の少女。防弾チョッキを着こみ、厚手の黒い服装に身を包んだ、白いロングヘアの少女。腰や頭部から黒い翼を二枚ずつ生やした腰や背中がぱっくり空いた黒いドレスを着た桃色のロングヘアの少女。黒を基調とし、要所要所に緑をアクセントとして加えた学生服を着ている金髪に桃色の瞳の少女。その合計四人が、アヤネとアツコを出迎えていた。

 

「……あなたと同じですよ。あなたと同じような経緯で……そして、アツコの誘いを受けてこの世界に来ました」

「……ふん」

 

白髪の少女が答えると、桃髪の少女がアツコを見てどこか恨めしそうに鼻を鳴らす。二人の中にぎくしゃくとした雰囲気が流れる中、アヤネは残りの面々を見る。白髪の少女は一見、しっかりしていそうに見るがその目には影が見える。金髪の少女や紫髪の少女は暗い表情を隠そうともしない。いや、おそらくは自分もそうなのだろう。自分も後悔が多い。もし、あの時。もっと早く、奴の存在に気付けていれば。全てをおかしくして、自分がいたアビドスを滅ぼしたあの存在にもっと早く手を打てれば。

 

(ああ、そうか。あの時、私が見たのが、ホシノ先輩をおかしくして、全てを壊した……!)

 

アヤネの目が見たのは、別の空間に存在していたそれだったのだ。そして、引き金を引いた時、それは空間を越えて奴に突き刺さり、倒れるのが見えた。やっと、あの時、反転する際の流れで無我夢中でやったことを思い出した。あれで、あの世界はもう奴の好きになることはないのだろう。だが、奴を倒したところであの世界は元に戻らない。おそらく、他の面々も似たような経緯で、アツコに連れてこられたのだろう。

 

「……その、奥空アヤネと言います。アビドス高等学校の一年……でした」

「才羽モモイ。ミレニアムの一年生だったよ」

「……下江コハル。同じく一年生……所属はトリニティだった」

「月雪ミヤコ。元SRT特殊学園の一年生……いえ、所属校なんて意味はなくなりましたね……」

「勘解由小路ユカリですわ。一年生で百鬼夜行にいました」

「最後は私だね。改めて、秤アツコ。アリウス分校の一年生だった」

 

この場に集まった六人の少女達。互いに自己紹介をし終わったところで、祭壇と外に通じる唯一の出入り口から、一人の男が入ってくる。

 

「……あなたは……?」

「……奇妙な縁でこいつらと出会うことになっただけの男だ。名前は……適当に墓守とでも呼べばいい」

「私の世界の彼が好きに呼べって言ってたからそう呼んでるんだ」

 

防弾チョッキを着ており、その上からジャージを羽織ったその男は、アヤネを一目見る。そして頭上の、ヘイローを確認していると、アヤネが手を上げて質問をし始める。

 

「あ、あの!墓守さん……」

「何があった」

「え?」

「お前の世界で、お前はどのようにして全てを失った。ここにいる奴らは全員、それぞれ大切なものを、場所を、或いは世界すらも失った。それ故にその滅びを回避するべくアツコによって集められた。俺を道標としたのは正直色々思うところがあるが、俺だってこの世界が滅ぶのは困る。だからこそ、話してもらおうか。それが、お前がここにいるために必要なことだ」

「……はい」

 

思い出すだけでも、悲しみが湧き上がってくる。あの謎の存在に対しての怒りと憎しみが湧き上がってくる。だが、おそらく他の五人もそうだったのだろう。これは必要な事だと、そしてそれをここにいる人たちで共有することで共に立ち向かうために。様々な思いを堪えてあったことを全て話す。そして、その全てを聞き終えた墓守は溜息を吐くと。

 

「そうだな。どうすればいいか、それは色々話すべきだろうが……少なくとも俺の私見をこの場で述べさせてもらおう」

「……はい。私は、どうやってホシノ先輩を止めるべきだったのか……」

「何を言っている?」

 

後悔の言葉を紡いだアヤネに、こいつは何を言っているんだ?と困惑した表情を見せる墓守。まさか彼は自分にはわからない部分を見つけたというのか。そう思った直後だった。

 

「……駄目なのはその小鳥遊ホシノではなくお前達だろ?」

「え……」

「そのシェマタという危険物は放っておけば動かされようとしていたんだろう?何故それを止めようとする人間を止めている?しかも案の定、お前たちがそんな馬鹿な事をしたせいでシェマタは動かされた。しかも本人は代案を求め続けていたのにお前たちが提示した案はなんだ?とりあえず先輩を止めて後の事はそれから考える?何を言っているんだ……」

 

心底本気で困惑しているとしか思えない声。だが、その冷静な指摘はアヤネの心にどんどん突き刺さっている気がした。ちらと周りを見ると、こんな感じで彼に刺されたのだろう、他の面々も少し同情するような顔を浮かべている。

 

「大問題なのは一番最初だ。その先生が意識不明、いつ目覚めるかもわからないのにそれを待ってから出発する?何を考えてその案を良しとした?そしてなぜそれを押し通すために襲い掛かった?」

「それは……」

「案の定返り討ちか。そしてなんだ?そのホシノは一人で動き出した?バカなことを言うな。お前たちが勝手に襲い掛かって自爆して、身動き取れなくなったせいでそいつは一人で動かざるを得なくなっただけじゃないか」

「……」

 

完全に言い返すことができなかった。言われてみればその通りとしか言いようがない。

 

「それで大事な先輩の足を引っ張るだけ引っ張って、シェマタの目の前で何故か先輩と戦闘開始。そのせいで敵のアシストをしてシェマタは発進。それを止めようとして飛び出した先輩はゲヘナの風紀委員長に止められた……何を考えてるこいつは?」

「ひ、ヒナさんまで……でもヒナさんは私達が止めてくれるって信じて、ホシノ先輩に一人で止めさせないように来てくれたと先生が」

「なら何故一緒に破壊しにいかない?そもそも、ホシノを止めて代わりにお前たちが壊す?何を言っている?お前達、ホシノよりずっと後ろにいたんだろう?それでよく後輩達が壊してくれるとかぬかしてるなそいつは……シェマタは列車"砲"なんだろう?特攻兵器とはわけが違う……アビドスが消える瀬戸際でそんなことをやられたら、俺ならぶちぎれるぞ。足しか引っ張らないなら頼むから帰ってくれってな。そんな無能な働き者しかしない仲間達をどう頼れって言うんだ?まず頼ってほしいならお前たちがそれにふさわしい行動と代案を用意するのが先だろう、何をやっているんだ先生は……世界によって振れ幅が大きすぎるだろう……」

「……」

「俺の感覚では、お前が一番暴走していると思い込んでるそのホシノが一番まともで真面目な事をしていて、他が全員全力で足を引っ張って事態を悪化させているようにしか見えんが?申し開きはあるか?」

「…………ありません……」

「う、うわー……」

 

がっくりと項垂れ、膝を付くアヤネ。彼女を見て、モモイが冷や汗を流す。彼女もまた、同様にこっ酷く墓守にぼこぼこに言われたのだろう。アヤネに同情する視線が強まっていく。

 

「―――だからこそ。お前たちの力はおそらく必要なんだろう。失敗を覚えてるお前達だからこそ、この世界で何かを成せる」

「……」

 

が、ここで墓守が口にした言葉に、六人の視線が向けられる。

 

「計画したのは俺ではない俺だ。そして俺は胡散臭く見えるだろう。俺の目的だって、世界が滅ぶのは困る、明日生きられないのは困る、本当にそれぐらい俗的だ。それでも、別の世界の俺が命を賭して繋ごうとした計画に選ばれた世界だ。ならば俺にできる範囲で足掻くぐらいはやる」

 

墓守が、そこで一呼吸置きながら六人の顔を改めてみる。墓守に顔を見られ、五人は頷いていく。そして最後に残ったアヤネも、彼の視線を受けて、この世界こそはと小さな決意を固めるように頷く。

 

「アツコ、ユカリ、ミヤコ、コハル、モモイ、アヤネ。ついてこい」

 

そして、墓守の言葉と共に、祭壇の外へと六人は出ていくのだった。

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