陰謀渦巻く業界の闇みたいなものが全面に出てる同人誌みたいな世界でアイドルの頂点になった思春期真っ盛りな男の娘の話(仮題) 作:男の娘はガコンガコンするまでもない!
ライブ終了の数刻後、ボクの前には長蛇の列が出来ていた。
「凪掛澄華さんの握手会会場はコチラです!」
会場スタッフさんが列の崩壊を防ぐように何回も何回も折り返しをつくるように誘導する。毎度毎度、お勤めご苦労様です。
「澄華様! 今日のライブ最高でした! かわいいけどそこにかっこよさもあってでもそこに儚さもあって……もう、全部ありました!」
「ミユさんお久しぶり! ライブ楽しんでくれてボクも嬉しいな! またライブやった時にミユさんの姿見つけれるよう頑張ろっと」
「いえいえとんでもない! 澄華様とこうしてお話出来るだけでも感無量です! 後ろがつっかえてるので早く握手しましょう!」
「その配慮むしろボクらサイドが言うべき立場なんだよね…………はい、また来てね! それと弁護士の仕事も頑張って!」
「はいっ! ありがとうございましたぁ!」
ボクに会えた殆どのファンは一言二言会話をしてすぐに握手しようと促す。まぁ、ボクとしては時短になって有難いが、それでいいんか? と思った。マナーが良すぎるのがボクのファンの特徴でもあるけどさ。
「っと、キミは……初めての子かな?」
「は、はい! そうでひゅっ! …………あ」
続々と列が減っていき、握手会も終盤に差し掛かった時、目の前の少女が初めてボクのライブに訪れた子だと気付いた。
その少女は初めてボクに会って緊張したのか、早口な上に途中で噛んでしまうというミスを犯してしまった。あら可愛い。
次第に少女の顔が羞恥で真っ赤になり、恥ずかしさで口をつぐんでしまった。
ずっとこの光景を見ていられるがそろそろフォローをしないとね。
「ふふっ。落ち着いて、深呼吸をしてからもう一回話してごらん」
「──ぅ、すぅ……お、落ち着きました」
「それならよろしい。キミの名前を教えてほしいな」
「はい! 私は
「カリンちゃんね。覚えたよ。カリンちゃん、今日はボクのライブに来てくれてありがとう。ライブはどうだった?」
「ライブは楽しかったです! 本当は友達が澄華さんのライブに行く予定だったんですけど、風邪を引いてしまったので急遽私にチケットを譲ってくれたんです!」
かなり緊張が解れたのか、会話が弾むようになったカリンちゃん。そこでボクはカリンちゃんの言っていた休んでしまった友達の存在に見当をつける。
「カリンちゃんの友達ってもしかしてシュンちゃんだったりする?」
「ふぇ!? ど、どうしてわかったんですか?」
ボクの口から友人の名前が飛び出たことに目を見開いて驚いた様子のカリンちゃん。
「シュンちゃんはボクのファーストライブからずっと参加してた皆勤賞の一人だったから今日来てないのがすごく印象に残ってね」
「そうだったんですか……もうっシュンったら肝心な時に風邪引いちゃって」
「帰ったらライブの感想聞かせてあげてね」
「はい! ……あ! それと一つ聞きたいんですけど」
「何かな?」
そこでカリンちゃんは一呼吸。気持ちを一旦整えて、続けた。
「澄華さんみたいなアイドルになりたいです!」
「ボクみたいな?」
「はい! 私って今まで得意なこととか誇れるものとか無くて、やりたい事とかも見つからなくて不安だったんです。でも、今日初めて私は澄華さんに……アイドルっていうものを見てコレだ! ってなったんです。まさしく運命の出会いってやつでした。だから……だから私も! 私もアイドルになって澄華さんみたいにキラキラしたライブをして見てくれてる人に希望を与えられるような、そんな存在に私はなりたいです……!」
「君、少し時間が──」
「──ボクは構わないよスタッフさん…………でも、そっか。カリンちゃんはボクみたいなアイドルになりたいのか」
「はい! なりたいです!」
そう意気込んだカリンちゃんの眼をボクは真剣に見つめる。マリンブルーの深い海のような瞳が真剣に想いを伝えようとしていた。視線を交わし続けてボクは理解する。この眼は本気だと。
そう、ボクが初めてトップアイドルを目指すとママに息巻いたあの時と同じ目をしていた。
この子はきっと一際輝く──、
「────うん。分かった」
「はい! ……はい?」
「カリンちゃんなら良いアイドルになれると思うよ。お世辞抜きで本気でボクは思ってる……けど、カリンちゃん一人ならトップアイドルにはなれないよ」
「っ! そ、そうですよね。私ったら。澄華さんみたいな、なんて冗談を言っちゃ──」
「──でも! でも、もう一人くらいいれば……それこそ、そうだね。心の底からアイドルが大好きでキミと心で通じ合ってるくらい仲の良い女の子が一人、ね」
「それってシュンちゃんのことですか?」
「さぁ? 後はキミ
差し出された手を握り返すカリンちゃん。ボクから感じる体温とは別になにやら熱い気持ちをカリンちゃんは感じ取った気がした。
カリンちゃんとボクはこの時、再び別の場所で、状況も立場も違う時に握手をすることになるとは思いもよらなかった。
「ぁ……あ、ありがとうごじゃいましゅ! ……あ、またやっちゃったッ!」
「噛みすぎて怪我しないようにね……じゃあ今度は同じステージに立てることを期待してるね」
「ッ! はい!」
***
その後も滞りなく握手会は終わり、ボクは控え室へ戻った。
テレビ局などの控え室とは違い、簡素な造りとなっているその部屋で「はぁ……」と、ため息を
別に疲れたとかではない。確かに、ボクは一般的なライブの倍以上の曲数を歌って踊ったし、握手会も沢山のファンと交流したから疲労が溜まっているんじゃないかと思うかもしれない。
だが、そんな疲れなど感じる余裕がない。
「ムラムラする」
だってえっちなことしか考えられてないんだもん!
いや待ってほしい。ボクは春から高校生になるんだから健全な男子高校生としては
「あーホントにムラムラする。この間読んだ本の内容を思い出したのが原因で、とてもムラムラする。ボク、今、ちょーやばい」
どんなタイトルだったっけ……こういう本のタイトルって覚えないよね。
こんな発言を呟いて大丈夫なのかとツッコまれそうだけど、幸いに控え室にはボク以外誰もいないし、予めボクが出てくるまで入室禁止をスタッフ全員に言い渡しているので人に見られるという愚行は徹底している。
「カリンちゃんめっちゃ可愛かったな。流石はあのクソデカおっぱ…………シュンちゃんの親友だね。あの子がもし本気でアイドルを目指すならボクが事務所開いて
現役超人気アイドルが代表の事務所という話題性。ボクのトップアイドルとしてのノウハウやブランド力。
……これもしかしなくてもいける?
「そうだよ! ボク自身がアイドルをプロデュースしよう! 天才かな? 天才かも。アイドル兼アイドルプロデューサー兼事務所の所長……いける、行けるぞ!
椅子の上に立ち上がった行儀の悪さにバチが当たったのか、ボクは勢いのあまり椅子から転げ落ちた。
強打した臀部を手で擦りながらも「そうと決まればッ!」とパパへと電話を掛けた。
「もしもしパパ?」
『……何だ澄華。もうライブは終わったのか? オレはまだ仕事が片付いてないから後で掛け直してくれ』
「ボク事務所創りたい!」
『…………は?』
突拍子も無いボクの提案にパパはしばらく反応が無かった。多分分かったって事だと思うからすぐさま電話を切った。沈黙は肯定とか言うしね!
事務所の場所の契約や人員の確保など、トントン拍子で物事を進めたパパに感謝をしつつ、ボクは中学最後の冬に新人プロデューサー兼事務所の所長になった。
────ボクが事務所を開設した話は瞬く間に日本中に広がり、オーディションの募集開始を今か今かとアイドルを夢見る少年少女が待ち構えていた。
「シュンちゃん! コレ見て!」
「これは……澄華様の事務所のオーディション結果!?」
ある少女達は憧れに追いつく為に。
「凪掛澄華……俺はアンタを利用する」
ある少年は巨悪へ復讐を果たす為に。
「さーて、どんなお星様がボクへと集まる?」
様々な想いを胸に秘め、ボクの事務所のオーディションの火蓋が切られた。
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