陰謀渦巻く業界の闇みたいなものが全面に出てる同人誌みたいな世界でアイドルの頂点になった思春期真っ盛りな男の娘の話(仮題)   作:男の娘はガコンガコンするまでもない!

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果たして『ソレ』って何でしょうかね?
ちなみに今回は大詰めですのでちょっと長いです。6000字くらいです。


ボクが『ソレ』を見誤るまでの話、その3

 桜が舞い散る春の季節。その季節は出会いと別れの季節でもある。

 そんなボクは自身が代表を務めている事務所──『レディースター』の社長室でふんぞり返っていた。

 

「アイドルオーディションの一般公募が終了して早数日……ボクの事務所に来てくれる子いるのかな……?」

 

 ごめんなさい嘘です超不安になってる。

 果たしてボクの事務所へ何人の子が応募してきてくれるのかとハラハラしていた。

 

「せめて男女関係なく五人くらいはいて欲しい! もしかしたら応募者が一人もいないなんてことも……ひぃっ!」

 

 最悪の事態を想像して悲鳴を上げる。万に一つそんな悲惨な事態を巻き起こしてしまったのなら引退でも考えようかな……芸能じゃなくて人生の。

 

 アイドルというだけあって女の子の募集のみと思われがちだが、『レディースター』は男性部門、女性部門と両部門の公募を募っている。これはアイドルが社会現象となっている現在では別段珍しい事ではなく、ただ両部門の経営となると所属タレントを担当する人員が不足しがちになるやりづらさがあるのだ。

 だからボクは人事コスト削減するため、どこの事務所にも所属していないフリーのアイドルをしていたってワケ。

 

 自信なさげに情けない希望的観測をしていると、部屋の外から聞こえてくる足音に気付いたので、慌てて居住まいを正した。

 

「凪掛社長。失礼します」

 

「失礼するなら帰ってや」

 

「張り倒しますよ」

 

「許してよ秘書ちゃん」

 

「張り倒しますね」

 

「悪かった。ボクが悪かったから右腕を高らかに掲げながらじりじり詰めてこないで!?」

 

 扉のノックの後に入室してきたのは昔パパの元秘書を務めていたキャリアウーマンで、ボクは親しみを込めて秘書ちゃんって呼んでる。

 おふざけを全力で咎めようとしている秘書ちゃんを落ち着かせ、「それで?」とボクは続けた。

 

「書類をボクに持ってきたようだけど……やっぱり一枚たりとも無かったとか?」

 

「どうしてその発想に至ったのですかこのアホゥは」

 

「社長に対してアホとか言った? それにかなりバカにした感じで()っちゃい『ゥ』つけてたよね」

 

「社長である以前に私は貴方のマネージャーです」

 

「だからって人に悪口言っていい理由にはならないとボクは思うんだ」

 

「チッ、面倒くさい」

 

 ——ねぇ今舌打ちしたよね?

 と、喉の奥まで出かかった言葉を飲み込んだ。自分から地雷をこれ以上踏まないように話を逸らした。

 

「と、ともかく! 書類だよ書類! 何人くらいの書類が届いたのかな?」

 

「ざっと5000人です」

 

「さっき考えたんだけど五人くらいが目ひょ…………え?」

 

「5000人です」

 

「…………ゑ? 5000、ごせん、五銭……あー! 五銭ね! 五銭だからえーっと、0.05円人? え、どういうこと?」

 

「なに自分で言って自分で混乱してるのですか?」

 

 秘書ちゃんから言われた人数を脳が理解するのを拒んでいるので支離滅裂な言動をボクはしていた。

 

「だって5000人だよ? 最近やったライブを見に来てくれたファンの人達の10%が応募してきたって……嘘だよね?」

 

「嘘をつくメリットがありませんし、既に凪掛社長の方にデータを送りましたよ?」

 

「あ……ホントだ。で、でもまさかそんな沢山の人数が応募してくれるわけ……っ!」

 

 秘書ちゃんから送られてきたデータを確認して絶句した。送られたデータファイルのページ数が『1/5000』と表示されている画面を見たからだ。

 

「確認しましたか? 確認したのなら私達社員はこれから選考の作業に移るので私は行きますね」

 

「ちょ、ちょっと待って! ボクもやるよ!」

 

「凪掛社長は知っている子がいたらその子を贔屓するので結構です」

 

「そんなこと…………すないる」

 

「そこはせめて嘘でも言い切ってみてはどうですか? 『すないる』ってなんですか。日本語母語話者ならしっかり習得してから話してください」

 

「秘書ちゃんが辛辣すぎて泣きたい」

 

「凪掛社長は散歩でもして時間を潰しといてください。あぁ、言い忘れてましたが。くれぐれも、ご自身がアイドルの凪掛澄華だと言うことを悟らせないようにしてくださいね」

 

「もしかしてボク、いらない子……!?」

 

「アホ言ってないで変装なりして外出してください。貴方今日で何日部屋に引き篭ってるのですか?」

 

「ひぇーん」

 

 とっとと去れと言わんばかりに変装道具とボクの貴重品などを秘書ちゃんから投げつけられた。これが超人気アイドル兼社長の姿なの?

 

 事務所から出ていく道すがら、社員と会う度に「社長! ようやくお出かけですか!?」と長期間部屋に閉じこもっていたボクを心配する声や「働きすぎですよ社長!」と労いの言葉を掛けてくる社員にすごく罪悪感といたたまれなさを感じる。

 

「皆変なの。ボクはただ、アイドル事務所を開業してどんな事をしようか? って未来設計を組み立てるのが楽しすぎてはしゃいでいただけなのに」

 

 楽しいことは狂ったようにのめり込んでしまう性分とはいえ、限度があったようだ。

 社員さん達に妙な勘違いをしたりされたりながらもボクは一週間ぶりに太陽の下を歩き始めた。

 

「出たのはいいけどノープランだから何しよう……駅周辺を目指して歩いてみるか。もしかしたらこの溢れ出るオーラでスカウトされちゃったりして……!」

 

 よーし、それを目的に散歩でもしてみよう!

 プランも決まったことなので、心を弾ませながらずんずん進んで行くと人通りが一気に増えた駅周辺へとやってきた。

 

「おぉ……今日は一段と人が多いなぁ。何かイベントでもあったりする?」

 

 休日だからでは片付けられないほど、やけに賑わっている駅周辺を散策しながら原因を探る。

 すると通路の脇の石造りのベンチに腰掛けているお婆さんを見つけたので話し掛けやすいというのもあって声を掛けた。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「おやまぁ。お嬢ちゃんどうかしたのかい?」

 

「お嬢ちゃん……あ、いえ、なんでもないです。……今日はやけに人が多いのでどうしてなのかと思いまして」

 

 お婆さんに女の子と間違われたことに肩を落とすが変装は上手くいってる証拠だと勇気づけた。ボクはポジティブだからね。

 

「あぁ何だ。そんなことかい。あたしも詳しい事はわからんがの。げりららいぶ? をするらしいけれどお嬢ちゃんは知ってるかい?」

 

「ゲリラライブ? それはアイドルのですか?」

 

 訊いておいてなんだが十中八九アイドルのライブだろう。駅周辺という、人の行き交い激しい場でゲリラライブをすると言うことは相当の実力を持ったアイドルだと。

 ゲリラライブを行う胆力や計画性。周囲の通行人をまとめるカリスマやパフォーマンス。

 

 そうなるとボクも何回か関わったことのあるレベルのアイドルになりそうだ。

 

「お嬢ちゃんは知っていたのかい。ほれ、あそこに舞台があるはずだから行ってみるといい」

 

「教えてくださりありがとうございます」

 

 お婆さんが指を指した方向にはこの場所の人の多さなんて鼻で笑うような密集具合となっている空間が形成されていた。

 更に奥には特設ステージらしきものが建てられており、ボクは推定視力6.0の人外じみた視力で50メートル近く離れた会場を見た。

 

「あ〜3&M(ミンドゥム)か」

 

 その正体は『3&M』。彼女達はボクとちょっと前にトップアイドルの座をかけて競い合ったいくつかの人気アイドルグループの一つだった。

 

「やっぱり()()()にしてる娘達が動いたり歌ったりしてるのを見ると……こう、なんていうか、イイよね」

 

 ボクの個人的に最高だと思うポイントは長女ちゃんの肉付きの良い太ももに巻かれた謎のベルト──えっちベルトだ。

 当時ボクは長女ちゃんにどうしてその位置にベルトを巻いているのか聞いたことがあった。

 曰く、「コレを着けることによって私達姉妹の絆を感じられるんです」とのこと。

 だからってそこに着けるのはおかしいでしょ。

 

「あーでもそろそろ終わっちゃうかな? ボクが飛び入り参加で歌いたいけど秘書ちゃんからバレないようにしろって言われてるしなー」

 

 それに彼女達の、特に三女ちゃんから怒られそうなのもあるんだよね。

 ボクは秘書の忠告を守って、この歌いたい欲を抑えているがこの欲とは別の、ある三大欲求のうち一つが溜まりつつあった。

 

「歌いたい……アイドルとしてあそこに出て行きたい……でも、ムラムラしてきた」

 

 徹夜で未来予想図を夢想していのもあって解消するのをすっかり忘れてた!

 

「事務所であり我が家でもあるボクの家は現在出禁をくらっちゃってるからかなりピンチだ。いや、もういっそのことこの場で──ってアレ? あそこにいるのって、カリンちゃんとシュンちゃん?」

 

 ムラムラが限界まで達したからこの場所で発散しようとノーハンド自家発電のレバーにボクは手を掛けた。

 その寸前に最近初邂逅した女の子とずっと会っていた女の子の姿が視界に入った。

 なんとか理性を取り戻したボクは後ろから驚かせようと近づいてみると先程まで位置の関係で隠れて見えなかったスーツを着た人物がなにやら二人に喋っていた。

 

 あれって絶対スカウトマンじゃん。

 スカウトの話の邪魔しちゃ悪いけど……面白そうだし、ちょっと盗み聞いてみよっと。

 

「あ、あの! 私達は澄華さんのアイドル事務所を志望してるのでスカウトの話は結構です!」

 

「ええ、そうね。ごめんなさいねスカウトマンさん。澄華様が居ないアイドル事務所に価値は無いので、入らないつもりなの」

 

「ですから私の事務所に所属してくださったら凪掛澄華さんにお会いできますよ。私の事務所は先日開業された凪掛澄華さんの事務所との太いパイプがありますので是非、私の事務所でお話だけでも!」

 

 いや、ボクあんな人の事務所と繋がり無いんだけど。

 社員さんからの報告も、秘書ちゃんからもそんなこと聞いてない。真っ赤な嘘だ。

 勝手にボクの名前を使って、自信満々に嘯いてスカウトするのはいただけないなぁ。

 

「シュンどうしようか……」

 

「……怪しいですけど、お話だけなら聞いてもいいですね」

 

「それでしたら私に着いてきてくださ──」

 

 迷った末について行こうとしてる二人。

 ボクはスカウトマンと二人の間に躍り出た。

 

「──ちょっといいかな?」

 

「チッ……何ですかあなたは? 今私はお二人のスカウトでお取り込み中でして」

 

 水を差されたことに苛立ってか、カリンちゃんやシュンちゃんと話していた時とは豹変して冷ややかな態度でボクに接するスカウトマン。

 あーこわいこわい。舌打ちまでしちゃってさ。

 

「まったく。スカウトの邪魔されたからって釣れないこと言わないでよ」

 

「少なくともあなたに対して私が話すことなどありませんが?」

 

「ボクにはあるんだよね、それが」

 

「……あれ? その声、どこかで?」

 

「…………まさか、ね」

 

 ボクの背後にいる二人にはボクが凪掛澄華だとバレそう。

 それもそうか。彼女達だけじゃなくても、ちょっとボクのライブに来てくれてるファンならば挨拶するだけでボクだと見破ってきそうなくらいボクはファン達を虜にしてきた自覚がある。

 元々二人の勧誘に時間をかけていたのがストレスだったのか、業を煮やしたスカウトマンは遂に声を荒らげた。

 

「いい加減にしろよガキ! さっさと文句があるなら言ってみろよ!?」

 

「わかった。じゃあ言うね…………あのさ、嘘つくのやめようよ」

 

「はぁ?」

 

「えーっとね。これでもボク一応社長だからさ。社員さん全員の報告はたとえどんなに小さなものでも、くだらなくても一片たりとも欠かさずに全部覚えてるんだよね」

 

「さっきから何を、言って……?」

 

「だからね…………社員さん達の誰一人としてボクの、()()()()の事務所と提携したなんて報告は聞かなかったんだけど?」

 

「は?」

 

 スカウトマンが困惑している隙にサングラスとマスクを外し、ボクは自身の正体を明かした。

 さーて、秘書ちゃんに言い訳考えないとね。

 

「え!」

 

「うそ……うそでしょ!?」

 

「あなたはッ!? ……嘘だ。何故だ? どうしてあなたのような人がこの場にいる!? 凪掛澄華(キングオブアイドル)!?」

 

「なんでって言われても……ファンが困ってそうな顔をしてたからかな?」

 

 三者三様の反応をする中、ボクは平然としてスカウトマンへの疑問に答えてあげた。

 スカウトマンが声を大にしてボクの正体を言ってしまったので、人が津波のように押し寄せてきた。

 

「え? KOIだって?」

 

「ヤバイ見てあれ! 澄華様なんだけど!」

 

「『3&M』のゲリラライブに澄華様が居るぞ!」

 

「おっとっと……みんなー! 一旦ストップしてほしいな!」

 

 この人の波を塞き止めるのは普通のアイドルだったら無理難題なことだろうね。

 だがしかし、ボクはアイドルの頂に居座った(キング)だ。アイドルの最先端を往くと世間に評されたボクは人の動きをコントロールするなど赤子の手を捻るよりも容易なことだった。

 たった一声。あれ程沸き立っていたファンが眠ったように静まり返った。

 

「さて、と……スカウトマンさん。遅ればせながら、ボクの自己紹介は必要かな?」

 

「ぁ……ぁな、ァた」

 

「あれまー。ビックリしちゃってる……そこまで驚かしたつもりは無かったんだけどな。ボクはキミがどうして嘘をついたのか聞きたいだけなんだけどなぁ?」

 

「…………わ、悪かった! 私が悪かったですとも!? 今後は一切凪掛澄華さんの名を使いません!? ゆ、ゆるして……許してください!」

 

「うん、それで?」

 

「……はぇ?」

 

 土下座までして謝罪を行うスカウトマンを見下ろしながらも、ボクは未だ笑顔を崩さない。

 だってまだ訊きたいこと聞けてないしね。

 

「だからその後だよ? ボクの名前を使ってまでこの子達をスカウトしたがった目的だよ。も、く、て、き…………あるでしょ?」

 

「それっ、それはッ! 私の事務所のアイドルとしてプロデュースを……ッ!?」

 

「うん、でもそれだけじゃないでしょ? キミは一番大事な目的を隠そうとしてる」

 

「それ、は……ッ!」

 

「──はぁ……まぁ、いっか。ボクもそこまでして聞きたくないし、見当はついてるから。話さなくていいよ」

 

 絶対女の子二人を日常的に見ることによる目の保養! それが一番の目的だよね!

 

「(表でアイドルとして活躍しつつ裏で政治家といった権力者の()()()お相手をするという私の策略が見破られただとッ!? クソクソクソクソクソクソクソッ! 凪掛……凪掛澄華ァ!?)…………ッ!?」

 

 お互いに認識の齟齬があり、それを共有し合えるチャンスを潰してしまったため、ボクの勘違いはこの時からどんどん加速して行ったんだろう。

 

 片や目的を潰され復讐に身を焦がす男。

 片や思考回路がお花畑なアホ過ぎる男。

 

 物語は未だ、始まってすらいない。




こんな終わらせ方ですが一応これにて供養は完了です。
続きが見たい方は感想や評価等があれば書こうと思います。
拙作を読んで頂きありがとうございました。

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