陰謀渦巻く業界の闇みたいなものが全面に出てる同人誌みたいな世界でアイドルの頂点になった思春期真っ盛りな男の娘の話(仮題) 作:男の娘はガコンガコンするまでもない!
「さて、早速やっていくわけだけど……とりあえずここにいる全員は合格でいっか」
そうボクが口に出した瞬間、面接室の空気が一気に跳ねた。結論を急ぎすぎたかな?
「え!?」
面接開始から一分も経っていない。
驚きの声を上げた応募者達を前に、ボクは内心で小さく頷く。
「質問よろしいですか?」
手を挙げたのはシュンちゃんだった。
ビシッと手を上に挙げた拍子にバルンッと胸部の双丘が大きく揺れる。相変わらずおっぱい大きいなぁ……あ、集中しないと!
一瞬だけ喉を鳴らしてから、きっちりとした声で続ける。
「先程全員合格と仰いましたが、それなら私達は何故今日この場に呼ばれたのですか?」
「あー、それはね」
ボクは指を折りながら考える。
「合格は合格なんだけど、ボクから一つ……あ、二つかな? ……三つかも……と、とにかく! いくつか確認も兼ねた質問をしたくてさ!」
「質問……ですか?」
シュンちゃんの言葉を、カリンちゃんが小さく反芻する。
完全にノープランだったからそんなもの用意してないなんて言えないなぁ……。
はぁ、質問の数くらい事前に決めておくべきだったと思うけど……まあ、今さらだね。
臨機応変って言葉、ボクの辞書には載ってないから!
「それじゃあまず一つ目! どうしてボクの事務所に応募したのか! それを聞かせて!」
「社長、それは二次面接で……」
背後に控えていた秘書ちゃんから小声でツッコミが飛んできた。
「秘書ちゃん。ここに残ってる子達ってさ、『この事務所じゃなきゃダメなんです!』みたいな、ありきたりで模範的な返しをした子達?」
「……そうですね。模範解答、悪く言えば量産的なテンプレートで答えた方が多いです」
「ふーん。全員じゃないんだ」
なら、及第点。
ボクは視線をゆっくりと応募者達に向ける。
別に睨んでるつもりはないけど……たぶん、きっと、ちょっと不安になってきた。
まぁいいや。さて、ここからはちょっぴり
真面目に、とは言っても難しいことは特にしないよ? 簡単な演技をするだけだから。
──ボクは彼ら彼女らを選定する面接官。見極める必要があるのはトップアイドルを目指せる素質を見出すこと。
意識を
場の空気を支配するのはあくまでも
「ッ!?」
ボクの視線を受けて、みんなが無意識に背筋を伸ばすのが分かった。あ、やっぱりやりすぎだったかも。
内心で自省しつつ、次の質問に進む。
「じゃあ二つ目ね」
指をもう一本立てる。
「もしアイドルになって、有名になって……それで、
空気が、ぴんと張り詰めたように思える。
模範解答を探して目が泳ぐ子。
言葉を飲み込む子。
「あ、別に正解はたった一つ、とかじゃないよ? テストじゃないし」
慌ててフォローを入れる。
このままだと、ボクが圧迫面接する嫌な社長みたいだ。いや、社長ではあるんだけどね!?
そもそも面接って主に人事部が担当するから厳密には社長は現場に来ないみたいな……止めておこう。これ以上考え出したらキリがない。
「相談する? 断る? それとも……何も行動せずに流されちゃう?」
「……相談、するの」
端の席の女の子──きらりちゃんが、小さく、でもはっきり答えた。
「一人じゃ怖いから……誰かに話すの。澄華さ……社長でも、秘書さんでも。信頼できる人に共有するの!」
「……そっか」
思わず、少しだけ笑ってしまう。
この子は大丈夫だ。
別の子も続く。
「オレは……正直分かんねぇ。だけど、嫌だなって思ったら逃げます」
「うん。それも大事。リョウスケくんくらいの年齢なら、逃げても挽回できるくらい力をつけてから、足蹴にしちゃえばいい」
全員の答えはバラバラ。
でも、ボクの中ではちゃんと線で繋がっていた。
少なくとも、何も考えてない顔じゃない。ちゃんと自分を持ってたから。
「じゃあ最後。三つ目ね」
少しだけ声のトーンを落とす。この質問はちょっと意地悪かもしれない。
「アイドルって、キラキラしてるでしょ。でもさ……ボクは、結構めんどくさいって思ってる。歌、ダンス、ファンとの交流、テレビ出演……アイドルがやらないといけないことって、まだまだいっぱいあるけどね。そうしたものをひっくるめて質問、言うよ?」
みんなが息を呑むのが分かる。自惚れじゃなければみんなはこう思ってる、『あのKOIがそんなことを!?』ってね。
「それでも続けたい理由。今ここで言える?」
今度の沈黙は、さっきとは違った。
逃げるためじゃなく、自分の中の答えを探るための
ボクは確信する。
今日この場にみんなを呼んだ判断は、間違ってなかった。
「……ありがと。じゃあ今日はここまで!」
「え!? いいんですか!?」
「うん。聞きたいことは全部聞けたし」
「まだ質問に答えていませんわ……」
「それはまた今度聞くよ」
ざわつく室内をよそに、ボクは立ち上がって微笑む。
「さて、と。改めて言うね……全員合格! ようこそボクの事務所、『レディースター』へ!」
歓声が上がりかけた、その前に一言付け足す。
「ただし。ここから先は楽じゃない。それでもいいって思える子だけ、ついてきて」
再び静まり返った面接室。
全員合格、と告げた直後の沈黙って、こんなに重いものだっけ? ボクだったらもっと「イヤッホー!!!」って諸手を挙げて喜ぶけど。
演技を止めると張り詰めた空気が一気に雲散した。
「……えっと」
誰かが口を開く前に、ボクは手を叩いた。
「はい! というわけで本日の面接は以上! 終了でーす! 解散解散!」
「え、ええっ!?」
「え、これで終わり!?」
「合否連絡とかは……?」
予想通り、ざわざわと声が上がる。
「合否はずっと言ってる通りだよ。全員合格。書類とかは後で秘書ちゃんがいい感じにやってくれるから!」
「はっ倒します」
「ゑ? ……きょ、今日は気をつけて帰ってね! 寄り道とかしないで、知らない人について行かないで! もうみんなはボクの所属アイドルなんだからね!」
途中、秘書ちゃんから物騒な単語が聴こえた気がしなくもないけど幻聴だよね、きっと!
「では……本日はありがとうございました……」
半ば呆然としながらも、応募者達は順番に頭を下げて退室していく。
最後の一人がドアを閉めた瞬間、面接室には急激な静けさが戻った。
「……」
「……」
「……秘書ちゃん?」
返事がない。まるで屍のようだ。
そんな冗談は置いといて。どうしたことかと振り向くと、秘書ちゃんは椅子に座ったまま、片手で胃のあたりを押さえていた。
「……秘書ちゃん、大丈夫?」
「……大丈夫です。よくあることですので……」
よくあること?
「え、ボク
「『また』という自覚はあるんですね……」
秘書ちゃんは深く、深く息を吐いた。幸せが飛んでっちゃってる。もったいないなぁ。
「社長」
「なに?」
「面接開始一分で全員合格を出すのは、前代未聞です」
「そうかな? 時間短縮できて効率的じゃない?」
「効率の問題ではありません……!」
「それに、『嫌な大人に声をかけられたらどうするか』という質問……」
そこまで言って、秘書ちゃんは再び胃を押さえる。
「……倫理研修をすっ飛ばして最終試験をやる社長がどこにいますか」
「え? あれって普通じゃないの?」
ボクは首を傾げる。
本当に分からない。
「だってさ、嫌なことは嫌って言えた方がいいでしょ? 言えないなら、言える人のところに行けばいいし。きらりちゃんも言ってたけど、ボクのところに来てくれてもいいし」
秘書ちゃんは、ゆっくりと顔を上げた。
「……それを普通だと思っている時点で、社長は普通ではありません」
「えっ、そうなの!?」
ちょっとショックだ。思春期に取り憑かれてる以外は弱点なんて見当たらない無敵のキングオブアイドルなボクは普通ではないらしい……ま、当然だよね!
「というかさ、秘書ちゃん」
「はい……?」
「さっきの質問、みんなちゃんと考えて答えてたよ? 誰もヘラヘラしてなかったしさ。ボク、
秘書ちゃんは一瞬だけ言葉に詰まり、そして諦めたように肩を落とした。
「……社長は、本当に自覚がないんですね」
「何の?」
「自分がどれだけ、地雷を先に踏み抜いているかの自覚が、です」
地雷? タップダンスをやったのは小学生以来だけど踏んだ覚えはないよ?
「え、ボク何か爆発させた?」
「いえ。爆発する前に
秘書ちゃんは疲れ切った顔でそう言った。妙に圧が強かったけど……ボクの思ってる以上に疲れてるのかな?
「……本当に、胃に悪いお方ですね」
「えー、でも今日の面接楽しかったよ?」
にこっと笑うと、秘書ちゃんは頭を抱えた。
「社長……」
「うん?」
「どうか、これ以上、
「???」
よく分からないけど、とりあえず。
「じゃあ秘書ちゃん、胃薬いる?」
「……後でお願いします」
明日から正式にボクのプロデューサーとしてのお仕事が始まる……楽しみだなぁ!