少女は記憶を胸に   作:クロケル

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黒服

情報の整理をしていると爆発音が聞こえる。

普段は風と砂の舞う音くらいしかしないアビドスなのだから、

こういった爆発音は珍しい。

 

カイザーPMCの襲撃が来たのだ、援護射撃の準備を

整えてアビドス高校の市街地の近くの建物へ向かう。

 

先生の指揮によってカイザーPMCの軍隊は壊滅させられ、カイザー理事も撤退に追い込まれる。

その後先生は黒服の元へ向かう。

 

あらかじめ決めておいた狙撃スポットに移動し、射撃を開始する。

乱戦のような状態だ、周りのビルも一部は破壊され、

遮蔽物となり、敵味方が入り乱れる戦闘で援護射撃が

あったところでそれが本当にあったのか分かりにくい。

 

一基、また一基と撃ち落としながらアビドス高校の

反撃をスコープ越しに眺める。

カイザー理事の元まで辿り着いて口論しているみたいだ。

 

カイザー理事にホシノが退学したため、アビドスの存続は不可能に

なっているという話を聞き意気消沈してしまっている対策委員会。

 

その様子を見たカイザー理事は追撃をするようにゴリアテを呼び出し搭乗した。

さまざまなところからやってくるカイザーPMCの兵士に苦戦を強いられている上、

頑張って守ってもアビドスは維持できないということで、抵抗をする力を失いかけている。

 

しかしそろそろ、便利屋達が到着するはず。

考えているとちょうどたどり着いた、アルが先陣をきって攻撃を繰り出し、

爆発によってゴリアテの装甲が壊れる。

 

後発のカヨコによって集まっていたカイザーPMCの兵士達が一掃される。

便利屋に説得されて決意を固めたのか、自身を納得させたのか、

 

カイザーと敵対する決心を彼女たちはしたようだ。

それならばチャンスだと言わんばかりに総攻撃を行う便利屋と対策委員会。

 

装甲が破壊された部分にあまり攻撃が当たらないようにしようとしているが、

そうはいかずむしろ集中攻撃をくらっていた。

 

ゴリアテは大破し、兵士がほとんど鎮圧された上、治療が必要なほどの

傷を負ったカイザー理事は撤退の指示を出したようだ。

 

ひとまず守り切ったことに安堵している様子の便利屋と対策委員会のみんな。

カイザーPMCによるアビドス襲撃を撤退させたのを確認すると、私も移動する。

黒服のいる建物。先生が護衛もなしに入ろうとするあの建物に、私も同行する。

 

大人の戦いに私たちを巻き込みたくないのはわかるが対抗できもしないのに

一人で突っ走ってしまわないでほしい。お願いだから。

 

先生が覚悟をしっかりと黒服に見せなければだめだ。

そうじゃなければ黒服がホシノから手を引いてくれない。

時間帯は把握しているのだから、予定通り向かえばいいだろう。

早まったりすることはないはずだ。

 

 

 

 

 

カイザーPMCによる襲撃を便利屋と対策委員会のみんなで乗り切った。

みんなにホシノを取り戻すために襲撃をすることになった際の準備をしてもらっておく。

私はというと直接乗り込むための場所をアロナに調べてもらい、

監視カメラの情報からホシノがいるのであろう建物はわかった。

 

…ホシノの足取りはそこから消えているが、

間違いなくそれ以降の足取りを知っているヤツがいる建物はわかった。

 

そんな建物の入り口に入ろうとして向かうと、

建物の灯りはまだ灯っていて、あたりを照らしてくれている。

そんな中、建物の灯りに照らされて、人影が見える。

 

ホシノが最後に入った建物、多分、黒服がいる建物。

どのような理由なのかはわからないけれど、急いで止めるか、一緒に行かなければ。

 

そう思い足を早める。近づくと、建物の前にいた少女はこちらを向く。

グリムがここにいる。

そういえばホシノ曰く、黒服が彼女にも提案したらしい。

それならば、ここに居るのは黒服だろうか。

 

"グリム?どうしてここにいるの?"

「待ってたよ、先生、ここに……」

話そうとしていたようだが少し考えた様子の後、口に手を当てて。

 

「ごめんなさい、言えない」

申し訳なさそうな声色になったグリムのことを考えると何かしらの事情があるのだろう。

 

"もう夜遅いから、帰りなよ"

「先生は今から、黒服と話をしようとしてる、そうだよね?

それに同席させてほしい」

……!?どうしてそのことを知っているのだろうか。

少なくともグリムはみんなで話したときに居なかったはずだ。

 

"…どうしてそのことを知ってるのかな?"

「これも理由はいえない」

申し訳なさそうな声色は変わらずに事情を隠し続けるグリム。

 

"グリム、申し訳ないけどこれは私達大人の戦いなんだ"

「戦闘が起きたときの護衛はいないの?」

確かに護衛が誰一人いない状況が危険なのは事実だが、生徒を巻き込むわけにはいかない。

 

やはりここは帰ってもらおう。

いざという時の切り札は持ってきている。

そう思って口を開こうとする。

 

「同行しないなら一人で提案を聞いて受け入れるかもよ?」

"グリム"

やはり提案をされていたのだろうグリムに提案を

承認されてしまっては、ホシノのような被害者を増やすことになってしまう。

 

加えてホシノが敵対したらヘイローを壊して、と手紙に書いていたことを考えると、ろくな提案じゃない可能性が高い。

そんなものに、ホシノも含めて、被害者を出すわけにはいかない。

 

"…絶対に提案を受け入れないのなら、同席だけならいいよ"

「分かった」

そういって、私の後ろに回った彼女は、私が建物に入るのを待っているようだ。

 

引き返すことはできない。何としても情報を聞き出さなければ。

気持ちを落ち着けて、フロントに場所を聞くだけのつもりが、

どういうわけか案内の人までつけられて、とある部屋まで連れてこられる。

 

重々しい扉を開けると、部屋の中央には真っ黒な服をした、異形。

こいつが黒服なのだろうか。

 

「お待ちしておりました。先生」

私に視線を合わせて一礼をする。私の後ろから入ってきたグリムを見て、驚いた様子を見せる。

 

「…これはこれは、驚きました、グリムさんまでいらしてくれるとは」

喜ばしげな声をしている黒服に圧倒されてしまい、何も言うことができない。

 

「あなたたちと、しっかりと、腰を据えて、お話をしてみたかったのですよ」

威圧感すら感じるような堂々とした立ち振る舞いをしている黒服。

 

そして、どういうわけか私たちが来ることを把握している。

不気味さを感じている私たちのことを気にしていない黒服は悠々としている。

 

「あなたの基本的なことは把握しておりますよ、先生」

顔をこちらに向けて、話を進める黒服。

 

「まず最初に言っておきたいのは、先生、あなたと敵対するつもりはないのですよ」

「私たちはただ、神秘や恐怖、崇高を研究したいだけなのです」

「そこにいる彼女のように、神秘をもった彼女たちに協力してほしいのですよ」

グリムに視線を向けると、もう一度私に視線を戻す。

 

「どうです?先生、私たちの仲間になりませんか?」

"断る、それよりホシノを返してもらおうか"

断られるのはわかっていたのだろうが、愉快そうな反応を浮かべる。

 

「なんの権利があってあなたはそんなことを?それとも後ろにいる彼女はホシノさんの代わりでしょうか?」

"違うよ、グリムは渡さないし、ホシノも返してもらう"

ホシノも、グリムも、こんな奴には渡さない。

生徒のみんなを守るのが、わたしの、先生としての役目だ。

 

「しかし、彼女はすでにアビドスの生徒ではないでしょう?」

"まだ、担当顧問の私のサインがないよ"

ホシノの退学届けには、私のサインがない、つまりまだ退学ではない。

 

「クククッ学校の先生に生徒、厄介な概念ですね」

"あなたは、ホシノの心を踏みにじって利用した"

"それにグリムも利用しようとした"

何も言わずに私と黒服に視線を向けるグリム。

 

「利用したことは認めますが、あくまでルールの範囲ですよ、誤解しないでください」

"関係ないよ"

黒服の言う通り、ルールの範囲でやっていることは事実だ。

しかし私は先生だ、生徒を守る必要がある。

 

「…そこにいる彼女はともかく、あなたは戦えないでしょう」

私にとっての切り札、奇跡を起こせるカード。

大人のカードを黒服に見せつける。

 

「たしかにそれはあなたの武器でしょう、しかしリスクを理解していますか?」

「このようなくだらないことで浪費するべきではないでしょう」

"大事なことだよ、くだらなくなんかない"

ホシノを助けることは、私が今最優先でやるべきことだ。

 

「なぜ?なぜ?なぜ?理解できません。こんなことより大事なことがあるでしょう」

"何度でもいうよ、くだらないことなんかじゃない"

"大人として、先生として、責任をとるべきなんだよ、私は"

 

「なるほど、大人を責任を負うべきものと考えているのですか」

「しかし大人とは、自分勝手に、人も、物も利用するのですよ」

"お前には理解できないだろうね"

こいつは、きっと理解できない。

私たち大人は、生徒たちを守るべきだと。子供を守るべきだと。

 

「いいでしょう。交渉は決裂です」

諦めたような声色になった黒服をにらみつける。

 

「ホシノさんの代わりにそこにいる彼女でもよかったのですが……」

"くどい、さっさと教えて"

「ククッわかっておりますともホシノさんはカイザーPMC基地の中央の実験室にいます」

「幸運を祈っておりますよ」

ホシノの居場所が分かった。こいつのいう実験室にいるのなら、早く助けなければ。

 

急いで退出しようとする私に、黒服が呼び止めてくる。

「そういえば、先生」

"何?早く行きたいんだけど"

 

「あなたが連れてきたグリムさんのことをあなたはどのくらい知っているのですか?」

"…知らないよ、ほとんどのことを"

 

なぜか私を時々助けてくれる、仮面をつけた不思議な少女。

それがグリムだ。本人が言おうとしていないことを知るのは失礼だろう。

 

目の前の黒服をにらみつける。

あまり効果はありそうになく、一息置いて黒服はまた話始める。

 

「それでは忠告をしておきましょう」

こいつがグリムの何を知っているのだろうか。

チラリと横を見る。

しかし私の横にいるグリムは、仮面をつけているため表情がわからない。

 

「彼女は死者でもあり生者でもあります、それによってどのようなことが起こるのかを考えておくことです」

"グリムも私の生徒なんだから、私が守るよ"

「クククッそう考えますか、わかりました」

今度こそ話が終わり、部屋から退出する。

 

建物から出ると、グリムに話しかける。

"こんなことを話しちゃってごめんね"

彼女が付いてきたいと言っていたとはいえ、大人の戦いに巻き込んでしまった。

 

「気にしないでほしい、私が言ったことだから」

黒服との会話のときに、一言も話さなかったグリムの声は、

少し震えていて、動揺しているように感じた。

 

"大丈夫?"

「…大丈夫、同席させてくれてありがとう、じゃあね」

走り去っていき、徐々に建物の灯りで見えた彼女の後ろ姿は見えなくなっていった。

 

私も、アビドス高校に戻る。

ホシノを早く、助けなければ。

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