少女は記憶を胸に   作:クロケル

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襲撃①

カイザーPMC基地襲撃の少し前。

 

今はちょうど先生がいろんなところに交渉に行っているところだろうか。

そろそろアビドスで先生がやるであろうことは終わるはずだ。

 

電車に乗ってシャーレ近くに借りている建物に戻って荷物を片付ける。

荷物を片付け、銃弾と手榴弾を鞄に入れておく。

 

外に出ると日が落ち始めている。

今から歩くとアビドス行きの電車の終電に間に合うくらいだろうか。

ゆっくりと歩みを進めながら駅へと進む。

 

多くの人が電車へと乗っていく中に見覚えのある姿を見かける。

どうやら先生もこの電車に乗るようだ。交渉の帰りなのだろう。

襲撃に向かうことくらい言っておくべきだろうか。

 

そんなことを考えながら別の車両の開いている席に座り、考える。

そういえば学院はどうなっているだろうか。

 

もともと評議会に所属していたのも含めて確実に捜索されているだろうが…

どうなのだろう、どの程度まで進んでいるのだろう。

 

基本的に町中では仮面をつけているし、そうでないときは変装しているから簡単には見つからないと思うが……どのくらいで見つかるだろうか。

 

また一つ、駅に止まる。ぞろぞろと人が降りていった車内にはほとんどの人は居なくなったが、まだ少し残っているように見える。

 

 

それから、黒服の言っていた死者でもあり生者でもある、というのはどういうことなのだろう。

少なくとも今の私は生きているはずだ。

 

しかし、心当たりはある。

未来の記憶では私は死んでいたはずだ、それと関係しているのだろうか。

……それとも論理が飛躍しすぎただろうか。

 

黒服の戯言とも捉えられるが未来で先生から聞き出した限りは

わざわざ嘘を言って混乱させるようなことはしてこないはず。

 

少なくとも黒服から見るとそうだと思っているか、

かなり極端、曲解して伝えたかのどちらかだろう。

黒服は信用に値しないが、言っていることは事実だろう。嘘はないと思う。

 

電車に体を預けながら考えているとついに私の乗っている車両に一人になってしまった。

 

目を閉じて、深呼吸をする。

「グリム……でしたかね……?」

 

急いで見渡そうと目を開けると、目の前には顔のような何かが頭部に二つついていて、スーツを来ている何かがいた。

こいつは……

 

「私のことは……マエストロと呼んでくれ……貴殿に会えて光栄だ」

マエストロ、ゲマトリアの一人。エデン条約の時に人工天使を作っていたやつであっているはずだ。

 

「マエストロ、あなたは何をしにきたの」

何を考えているのか、何が目的なのかは分からないが、あの時の事を考えると、

理性的な話し合いができるタイプのはずだ。

 

「黒服から変わった神秘の複製を頼まれた……」

「それから貴殿のことが気になっていた……貴殿に会えて光栄だ」

……つまりこいつはいつ取られたのか不明だが取られていた神秘の複製を黒服が頼んだから私に接触したらしい。

 

私の関わり知らぬところで私の神秘というものを採取したようだ。

少し気持ち悪く感じるがゲマトリアに文句を言うだけ無駄だろう。

 

「質問に答えて」

「すまなかったな……貴殿に挨拶をしようと思っただけだ」

挨拶、ゲマトリアに丁寧にされると思っていなかったから、面食らってしまった。

 

「グリム……いや、偽名で呼ぶ必要はないな」

「ヘリア」

 

銃を即座に取り出し、いつでも撃てるように態勢を変える。

「どうやって知った」

脅すように銃を向けたが、焦りがほとんど見えていないように見える。

 

「貴殿の神秘によるものだ」

また神秘だ、ゲマトリアが探求してるのは知ってるが、個人の特定に使えるとは。

 

「もともと貴殿の神秘には目をつけていたのだ……まさか神秘が変質するとはな」

訳が分からない、何を言ってるんだ。

混乱していながらもなんとか平静を装い質問をする。

 

「変質したのになぜ分かった」

そもそも神秘が変質したのなら、こいつが分かるはずがないのだ。

 

「大部分が変質していたが……もともとの神秘も残っていたからだ……」

言ってることは、理解できた。

だが、肝心の疑問が残っている。

 

「なぜ挨拶しに来た」

ゲマトリアがわざわざ、挨拶をするためだけに来るとは思えない、しかも黒服に複製を頼まれたのなら、もっと早く知っていたはず。急ぐならばもっと早く来るからだ。

 

「私の作品の題材になってくれないだろうか」

こいつが作ったので私が知っている作品は大体碌なものがなかった。

そういう気質なのだろう。そんなものに巻き込まれたくはない。

 

「断る」

そう伝えると残念そうな様子を見せた後に、続ける。

 

「……残念だ、またの機会に誘うとしよう」

「何度言われても、私の答えは変わらないよ」

そう伝えると向けていた銃を下ろす。

これでこの話は終わりだ。マエストロもこれで諦めるだろう。

 

「帰って」

「貴殿の事をもっと知ってからにする……それから、次の作品も楽しみにしている」

……残念ながら諦めてくれなかったが、仕方がない。

拒否し続ければいつか諦めてくれるはずだ。

 

マエストロが消えた後には何の痕跡も残っていない。

窓の外を眺めるとついに終点のアビドスの前の最後の駅を通り過ぎたようだ。

 

「すみませ〜ん」

ハイランダーの見回りに来ていた子が私に声をかけてくる。

 

「清掃のために車両を移ってくれませんか?」

そんな事を言いながら、目の前の子は別の車両へと移動する扉を指差す。

 

「わかった」

別に迷惑をかける趣味はないのだ、これが今日の最後の運行なのだから、清掃をしておきたい気持ちはよく分かる。

 

立ち上がって移動しようとするとありがとうございます、という声が聞こえる。大変だと思うが頑張ってほしい。

軽く会釈をして扉を開ける。

 

先生がいるのは隣の車両だ。

「こんばんは、先生」

床を見ながら考え込んでいる先生は挨拶されたことを理解して、

咄嗟に顔をあげて驚いているようだ。

 

"……どうしてここに?"

先生からしたら私がわざわざこの電車に乗っている理由も分からないだろう。どうしてここにいるかは当然の疑問だと思うが、拠点のことを知られたくはない。

 

「少し用事があった」

いえるのはこれくらいだ、先生は私のことを知りたいのかもしれないが、私はあまり明かしたくない。

 

"……そっか"

追及しないでくれて助かった。

しかし、気まずい沈黙がもう一度襲ってくる。

 

窓の外は既に砂と廃墟が山ほどあるアビドス砂漠になっていた。

そろそろアビドスへ着くとのアナウンスが響く。

 

"お願いがあるんだ"

"これからカイザーPMCからホシノを取り戻そうとしてるんだ"

"手伝ってくれないかな?"

 

わざわざ私にも……と思ったがまだ先生の人脈も広くないし頼れる先が少ないのか。

考え事をしながら見つめていると、電車が止まる。

 

何か言うこともなく降りて、ベンチに座る。

「…これから、私がすることを言ってなかった」

先生の指揮下で手伝うのは……あまり好ましくないが、ホシノがいないのはもっと困る。

 

"グリムは何するの?"

「カイザーPMC基地の襲撃に行ってくる」

襲撃をするつもりなのは事実だ、そのための荷物を持っているのだから。

 

"手伝ってくれるってこと…なのかな?"

そうでもあるが、そうすると先生の指揮下で戦う事となる。

それは避けたい。

 

「違う」

"どういうこと?"

そうなるだろう、と思っていた通りの反応だ。

襲撃することによって手伝いをすることになるのだから手伝いとも取れる。

 

「あなたを手伝うつもりはない。私は私の目的のために襲撃をする」

"それが厄災を防ぐために必要なの?"

……なんとなく分かっている、おそらく厄災は防げない。

それでも、対抗する方法を用意しておかなければならない。

 

「多分、そう」

先生、私達生徒を導いてくれる人。貴方ならきっとなんとかしてくれる。

だから、私がするのは先生を助けながら、対策を立てるようにすること。

 

"グリム、聞いてもいい?"

「駄目」

先生のもとで、補佐をしてきた未来では、同じように滅亡してしまう可能性が高いだろう。

厄災が来ると言うことは話しているのだから、そう提案されてしまってもおかしくはない。

 

"まだ何も言ってないんだけど……"

「どうせ手伝おうかって提案でしょ。無理」

"そうなんだけど…どうしてダメなのかな?"

 

声が震えているのは、自分でも分かる。

 

分かってる。分かってるんだ。

貴方と長くいたのだから、それくらいは分かってる。

 

それでも……

どうしても、貴方の助けを受けてはいけない。

 

事情を説明すれば学院に戻されることはないだろうがシャーレに滞在してしまえば未来と同じだろう。

それだけは絶対に駄目だ。同じことをしても同じことになる。

 

これ以上、話をしていると、平静を保てそうにない。

 

「言えない。これ以上、話すこともない」

立ち上がり、ー話を切り上げて、カイザーPMC基地へと向かおうとする。

 

"もしも、助けが必要なら教えてね"

“頼りにならないかもしれないけど、私も力になりたいから”

私から助けを求めることはきっとないと思う。

私に構うくらいなら、より多くの縁を結んでほしい。

 

「…頑張ってね、先生」

事情を説明せずに行かせてくれたのだ、応援の言葉をかけるくらいはするべきだろう。

 

 

 

 

もうそろそろ日が昇るかというほどの早朝、私はカイザーPMCの基地入り口へと到着した。

さっさとホシノを助けて、ここから出る。

 

できることなら戦闘は避けたい。今回の目的はではないからだ。

そんな事を考えながら入り口に目を向ける。

 

少しの間観察したが、どうやら隙は無さそうだ。

あまりやりたくなかったが強行突破して早く助け出さなければ。

 

そう判断し、入り口近くにいた警備兵を倒す。

その後、ホシノの囚われている研究室へと走って向かい始める。

 

道中の半分程まで進めたが、ついにアラートが鳴り始めてしまった。

どこからともなくカイザーPMCの兵士とドローンがやってくる。

 

周りは既にある程度包囲されてしまっているようだ。

「仕方ない……」

ホシノが目的だとバレると面倒なことになってしまう。

 

それならば、できる限り殲滅して、先生に助けてもらうべきだろう。

近くにいた兵士数名を倒し、ドローンを撃ち落とすと、高台まで移動する。

 

敵の数が多いのだから、できるだけ消耗しない戦い方のほうがいい。

幸い、私の使う武器はスナイパーライフルだ、銃弾はかなり余裕を持っているから、大丈夫……なはずだ。

 

近くの建物の窓を割り、屋上へと行き、狙撃をする。

一発、また一発と銃を撃ち、近づく兵士を倒し、ドローンを撃ち落とす。

 

基地の半分程を倒し終えた頃だろうか、他のものよりも格段に大きなロボットと、戦車がやってくる。

 

……さすがにまずい、片方だけなら余裕を持って戦えるが、両立は流石に時間が掛かりすぎる。

そんな事を考えていると、無差別に砲撃し始めた。

 

どうやら私が建物から狙撃していたため、無理矢理引きずり下ろすことにしたようだ。

…ここまで破壊されてしまうのはさすがに想定外だった。

 

しばらく逃げ回りながら、少しずつ撃破していく。

途中、増援があったようだが、難なく対処することができた。

 

戦車を破壊し終えた後、補給のために物陰に隠れる。

マガジンを交換し、周囲を見渡し、聞き耳を立てる。

 

歩く音がする。

それもロボットではなく、生身の人間のような音だ。

先生がきたのだろうか?

 

いつでも手榴弾を投げる準備をしながら、物陰から体を出す。

「先生」

"グリム!大丈夫だった?"

やはり先生だったようだ。一緒にシロコ達も来ている。

 

「大丈夫、ホシノは救出できた?」

"そろそろ見つかるはずなんだけど…手伝ってくれない?"

ふぅ、と一息ため息をつくと、先生たちの様子を見る。

 

あまり疲弊していなさそうだが、彼女たちに何かあってはいけないのも事実だ。

さすがにカイザー理事に負けることはないと思うが……

 

「いいよ」

"よろしくね"

まあ、ホシノの救出が目標なのだし、暴れまわってるカイザー理事の対処を私がした方がいいだろう。

 

しばらく歩いていると、ホシノがとらわれている建物の前にカイザー理事が立っていた。

「ふん、やはり来たか対策委員会」

カイザー理事が私たちを睨みつけながら話を続ける。

 

「我々の基地をめっちゃくちゃに襲撃したのも一緒とはな」

「やはり、お前たちのせいだったか」

 

「うるさい!もとはといえばあんたたちがホシノ先輩を連れて行ったからじゃない!」

「正当な契約の結果だ」

 

「もともとあなた達が不当な契約をしたからです!」

「…やはりお前たちは目障りだ」

 

上から大きなロボットが降ってきて、砂埃が舞う。

先ほど破壊に使っていたものの点検をしてすぐに持ってこさせたのだろう。

…まずい、先生を狙おうとしている。急いで押しのけて、銃口を向ける。

 

「早くホシノを助けて、先生」

「グリムはどうするの?」

こいつが乗っているゴリアテとかいう名前のロボット自体はたいしたことがない。

一人でも対して問題がないのだ。

 

「一人で十分、だから早く助けておいでよ」

"…すぐに助けに来るからね!"

ホシノを早く助けるべきで、私に助けは必要ないのだが…

 

先生たちが急いで階段を駆け下りていくのを妨害しようとするカイザー理事に発砲する。

 

足の破壊を優先してカイザー理事の周りをぐるぐると回る。

当たり前のようだが、ロボットに乗り込むと動きが鈍くなる。

生身で戦うよりよっぽど、だ。

 

動き回るだけで避けられる分、回避はかなり容易だ。

少しずつダメージを蓄積させて行く。

 

「ちょこまかと動きよって……」

ガトリングの回転が早まったように見えるが、大した問題ではない。

 

少しの間だけ逃げ回る。それだけで回避できてしまうからだ。

ついに足を片方破壊することができた。

 

ここからは簡単だ。

ただでさえ低い機動力をさらに大幅に失ったこれを破壊するだけだ。

 

「チィッ、お前ら生徒はいつもそうだ!私の邪魔をしよって!」

「社会も知らんガキの無駄な正義感のせいで!」

最後の足掻きをしようとする前にロボットを破壊するために残っていた手榴弾と銃弾を浴びせる準備をする。

 

……いや、まて確かこいつは最後に自爆してくるはずだ。

手榴弾を投擲するようにして急いで離れる。

 

爆発までの猶予はあまり無いだろう。

ホシノが囚われている建物は地下だったはずなので、急いでそこへと向かう。

 

後ろで激しい爆発音が聞こえるが、なんとか安全な場所へと逃げることができた。

地下通路の奥から、走る足音が聞こえる。

 

どうやら無事ホシノを救出できたようだ。

これ以上、ここにいる必要はなくなった、これでアビドスの依頼は終わりのはずだ。

"大丈夫!?"

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