さて、今日はヴェリタスとエンジニア部に協力してくれないか聞いてみる予定だ。
モモイに案内されながら、まずヴェリタスに向かう。
「頼もー!」
ヴェリタスの部室の入り口と思われる扉をモモイが開ける。
中は様々な電子機器がたくさん置いてある。
「おはようモモイ、今日はどうしたの?」
「おはようハレ先輩!お願いがあってきたの!」
パソコンに向かい合っていたハレと呼ばれた彼女はモモイと話を始める。
周りを見るとエナジードリンクの山があり、とてもじゃないが健康的ではなさそうだ……
「セミナーの保管庫を襲撃したいの!手伝ってくれない?」
「うーんと、話が見えないかな…もう少し詳しく教えてくれない?」
事情も説明せずに協力してくれるとは思っていなかったため、説明をする。
納得してくれたのか、ハレはどこかに連絡をする。
「ほかのヴェリタスのみんなもいたほうがいいよね?」
「そうですね」
ミドリがハレの質問に答えると同時に、部室のドアが開く。
「「鏡」を取り戻せるかもしれないって本当?」
赤色の髪の少女と、その後ろにクリーム色の髪の少女が立っているようだ。
「もしかしたらだけどね…?マキ」
「やった!これで部長に怒られずにすむ!」
喜びで小躍りし始めた赤色の髪の少女はマキというらしい。
「しかしどうして急に取り戻せる算段が?ゲーム開発部と何かするのですか?」
「その通りだよ、コタマ先輩」
もう一人の少女はコタマ、という名前らしい。
"…ところで鏡って?"
「ああ、それは……」
説明をしようとするハレは考え始めたのか言葉が止まってしまう。
"それは……?"
「簡単に言うと、暗号システムの最強ハッキングツールかな」
「部長が作ったやつだから、なくなったのがばれたら怒られちゃう…」
ハレの言う通りの鏡、というのはどういうものかはわからないが、すごいものであることはわかる。
マキの補足によるとヴェリタスの部長が作ったものなのだろう。
そしてそれを取り戻すということは……
"もしかしてセミナーに回収された?"
「その通りだよ、だから部長に見つかる前に回収したいんだ」
なるほど…つまりゲーム開発部が保管庫に映像データを、
入手するときに一緒に近くにある差押品保管所にある鏡を入手してきてほしいということだろうか。
「まあ簡単に言うと私たちもセミナーから取り返したいものがあるんだ」
「共にレイドバトルをするのであれば、私たちはパーティーメンバーですね!」
アリスは嬉しそうにハレと握手をしている。
「さて、計画の話をしよう。そのためにエンジニア部に向かおうか」
いい悪戯でも思いついたような笑顔を浮かべたハレは、立ち上がってエンジニア部へと向かい始めた。
エンジニア部に着いて、ひとまず事情を説明する。
あらかた説明し終えると、部長であるウタハは頷く。
「なるほど、協力しようじゃないか」
同時に近くにいたヒビキとコトリもうなずく。
「私たちの力があれば何とかなりそうだね」
「私たちもできる限り協力しましょう!」
同時刻、とある建物にて
『王女とその近くにいるやつらはセミナーに襲撃しようとしているみたいですね』
「なるほどね、教えてくれてありがとう」
前までは動くことすらなかった箱が宙を浮いているのを眺める。
『契約がなければ今すぐにでも王女の手伝いをするというのに』
『王女も王女です。まさかデータが消えているとはいえ、あんな奴らに振り回されるとは』
あの建物で拾ったシッテムの箱の模倣品らしい箱───スレイプニルというらしい───が
稼働して、私の肩の上ほどの場所をクルクルと浮いている。
『本当に最悪です。よりによって貴方が……』
空中に浮いている箱をもういちど眺める。ケイ、王女のいた廃墟にあったAI。
今は本人曰くスレイプニルのメインOSをやっているらしい。
あの時のことを思い出す。あの時の廃墟で私とケイが出会ったときのことを。
私が何度も行った廃墟群。
そのなかの一つにあった入室拒否をされた建物に先生たちが入っていくのにこっそり着いていく。
入口から少し歩くと、入室拒否の音声が響いた行き止まりに先生たちはいるようだ。
少し遠くから聞き耳を立てる。
モモイ、ミドリは拒否をされ、次は先生だろうと考えていると、どうやら様子がおかしい。
入室拒否の返答までに時間がかかっている…と思っていると音声が聞こえ始める。
『資格を確認、入出許可を付与』
『下部の扉を解放します』
下部の扉の開放と音声が言うと、先生達が落ちていく。
もしも下に何もなかった場合、モモイとミドリはともかく先生は無事かどうかわからない。
走って先生たちが落ちて行った穴へ向かう。
冷静に落ちて行った穴を見ると、クッションが設置してあるようで、
そこに先生たちは着地したようだ。
…もっとも受け身をとれていないようだから起き上がるまでは時間が掛かるだろう。
もともとここは調査にくることができていないし、先生の安全のこともある。
鞄からスモークグレネードを取り出し、落ちていく最中に投げる準備を整える。
クッションに着地すると、足元に投げ、急いで離れる。
…自分で投げたとはいえ、煙が多く見えにくい、壁を伝いながら移動する。
ひとまず先生たちが最初に見るであろう部屋からでれそうな廊下を探す。
そろそろ煙が消えそうだというときに、廊下に出る。
廊下にでると、ついに煙が引いていく。
先生たちの様子を見ようと、先ほどまでいた部屋を振り返る。
名もなき神々の王女。それが、中央に眠っている。
「お、女の子…!?」
「どうしてこんなところに……?」
すでに煙は晴れており、先生たちは名もなき神々の王女を見ている。
さすがにここで姿をさらすわけにはいかない。
それに起動していない状態で危害を加えることはできないだろう。
大丈夫だろうと判断して、探索を進めることにする。
中はほかの廃墟と比べると、それなりに綺麗になっており、
頻繁ではないが、人が出入りしているように感じる。気のせいだろうか。
背を向けて音を立てないようにゆっくりと歩く。
廃墟という名の通り、ボロボロになっている廊下を歩く。
扉がある部屋や、ない部屋。床が崩落している部屋。
その様々な部屋を探索しているうちに一つの部屋に入る。
「…コンピュータ?」
部屋の中央に鎮座しているそれなりの大きさのコンピュータのある部屋。
試しに触ってみると、コンピュータが起動する。
『検索する単語を入力してください』
検索ボックスだけがディスプレイに簡素に表示される。
単語…単語か……調べることをあまり思いつかない。厄災について知りたいが、
そもそも正式名称すらもよくわかっていないのだから、ここで調べることはできない。
そんなことを考えながら調べる単語を考える。
「名もなき神々の王女……」
そうつぶやいたのは偶然だ。先ほど見たから口にしただけ。
『……閲覧する権限がありません』
「まぁそうだよね」
考える。いま調べなければならないことを。
そもそもこの端末はどこまで知っているんだろうか。
「エデン条約」
『該当する単語に関する情報はありません』
知らない?いや、廃墟にあるようなコンピュータなのだから知らなくてもおかしくはないが…
検証を進めようと次の単語を考える。
私の息遣い程度しか聞こえない室内に重々しい音が響く。
そして、どこかから出てきた廃墟に大量にいるドローンとロボットが襲ってくる。
咄嗟に入口まで離れ銃を取り出し、反撃をする。
この建物は不自然なまでにロボットがいなかった。
それなのに今、こうして突然襲ってきている。
手榴弾を投げる。
そして明らかに指揮をされているロボット。
現に先ほど投げた手榴弾でほとんど被害が出ていない。
引き金を引く。銃声が狭い室内に反響し、ロボットの装甲に火花が散る。
犯人はわかっている。いや、もしかしたら人ではないかもしれないが。
もとより逃げるつもりはなかったが、ドアはロックされているように見える。
走る。犯人のもとへ。
そして……
「そこにいるよね、出てきて」
先ほどまで検索をしていたコンピュータに銃口を向ける。
答えない、増援のロボットはしばらく来れないのか、部屋は静かになる。
「そっちがその気なら名もなき神々の王女を破壊するよ」
返答はない。…それならば仕方ない。
「これを破壊して、名もなき神々の王女も壊す。お前は復帰できるかもしれないけど王女のほうはどうだろうね」
『いいでしょう。ここで始末すればいいだけのことです』
「こっちは逃げるだけでいいことを忘れるなよ」
『こちらの兵力を誤らないことです。おとなしくここで殺されてください』
やはりいた、名もなき神々の王女。それの補助係なのかこっちが本体なのかは不明だが、
こちらに敵意を持っていることは明らかだ。
「お前は負けるよ。ここで私を殺しても結果は変わらない」
『まさか親切に教えてくれるとでも?関係ない、必ずこちらは勝てるのですから』
「教えてあげてもいい、条件付きで」
『交渉の余地などありません、瀕死に追いこんで聞き出せばいいだけですので』
思うに、名もなき神々の王女はこいつがいないと完成しないのだろう。
先生たちが眠っていた彼女を連れて帰るはずだから、条件を満たすことはできない。
ただしもう一度ここに来ることがなければだが。
どういう理由で来るのかは知らないが、再度来訪でもして王女を目覚めさせるわけにはいかない。
ここは上手に交渉して一度中立に引き込まなければ。
「これでも私は口が堅いよ、交渉に乗って聞き出したほうが楽だろうね」
『何度でも言ってあげましょう。交渉の余地はありません』
「なるほどね、お前が傲慢だから王女は負けるわけだ」
『…聞き捨てなりませんね、必ずこちらは勝てます』
「負けないんでしょ?それなら交渉して聞き出した後でも問題ないよね?」
『なるほど、そう考えますか、しかし知られている者を逃す必要はありません』
「こちらは逃げるだけでいいのにずいぶんと甘い考えだね」
『あなたでは突破することはできませんよ、どうです?ここで教えれば殺さずに監禁だけにしておきましょう』
交渉することはあまりできなさそうなのはそうだとは思っていたがここまでとは。
…仕方がない。破壊して王女も壊すべきだろうか?
『どうしました?だんまりですか?所詮はハッタリでしたか』
「いや、知ってるよ。お前たちは負ける」
『何度言えばわかるんですか?私たちは必ず勝ちます』
「従者のせいで負ける王女が哀れだよね」
『いつまで嘘を貫き通すつもりですか?いい加減諦めなさい』
否定はない。つまりこいつは王女の従者的存在。
「スパイもできない従者がスパイをやれば負けないかもしれないのにね」
『…いいでしょうそこまでの自信があるのならばその挑発に乗ってあげましょう』
…乗った。嘘を使いながら交渉したおかげもあってか、目の前のコンピューターは乗ってくれた。
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