何とかセミナーから映像を取り戻して、ゲーム開発部の部室へ戻ってくる。
「な、何とかなったぁ」
「メイド部になんとか勝てたね……」
モモイとミドリが安堵のため息をつく。
道中で合流してくれたアリスとユズも疲れているようだ。
「な、なんとかレイドボスを倒すことができました……」
「うぅ…こ、怖かったぁ……」
道中で何度も危ないところはあったが、何とか成功できた。
「で、でもこれでG.Bibleを持っている人がわかるはず!さっそく見てみよう!」
パソコンに映像を接続してみる。
廃墟に入ったばかりのときからゆっくりと映像を進めていく。
「誰でしょうか……?」
「この人が廃墟にいたんだろうけど……」
仮面をつけた生徒、それはつまり……
"グリム……?"
「先生は知っているのですか?」
"知ってるんだけど……"
どうして廃墟にいるのか…については彼女の言う厄災を防ぐための調査というやつだろう。
ただ問題は……
"どうやって会うのかがわからないんだよね"
「そ、そんなぁ!」
「…どうしてグリムがそこにいたのかわからない?先生」
"うーん……"
彼女のいる場所を知っているのなら、直接行けばいい。
彼女の連絡先が分かるのなら、連絡を取ればいい。
しかしそのどちらもわからない。
"一応、グリムは厄災の調査をしてるのと"
ホシノの言葉を思い出す。
先生を守って厄災を防ごうとしてるみたい…?と言っていたはずだ。
"私を守るためかな?"
「先生を?」
"そうみたいだね"
「昔からの知り合いとか……」
いや、昔の関係はない……
本当に?何か……
「……先生?」
先ほどから聞いているミドリに揺らされる。
何かはない、はずだ。
"シャーレに赴任してからあったはず"
「聞いてて思ったんだけど、こんな作戦はどうかな?」
私から聞き出し終えて、ミドリは何かを思いついたようで作戦を話してくれる。
「なるほど!たしかにそれなら来てくれるかもしれません!」
「せ、先生はいいの?」
"それよりいい方法は思いつかないかな"
作戦のために一人で廃墟へと向かうことにした。
廃墟の一角。
ネルとの戦闘後、休息をとっていたが、そろそろ移動するべきだろう。
『そういえばどうやって帰るつもりなのですか?列車で帰るのは不可能でしょう』
「ブラックマーケットの入り口はミレニアムにもあるからそこからかな」
多少はブラックマーケットまでの道のりにもあるが、ネルが即座に来ることはないはずだ。
『そんなものもあるんですか……』
「ああ、そっかケイはあんまり今のキヴォトスを知らないんだっけ?」
『えぇ、私が知っているのは施設の中の景色と蓄積されたデータのみです』
……何も知らない子供ともいえる彼女からしたら、善悪の判断があまりつかないのではないだろうか。
もしかしたら、ケイとはちゃんと和解できるかもしれない。
この世界を知ることで、契約とは関係なく、それこそ友達に。
そう思うと少し笑みがこぼれてしまう。
『なんで笑ってるんですか…?気持ち悪いですね……』
「ケイと友達になれたらなぁと思って」
『はぁ……まぁ、勝手に想像でもしといてください』
呆れたような反応のケイを見ていると、足音が聞こえる。
『誰か来たみたいですね』
「あれは……」
先生。しかし、なぜか一人だ。
わざわざ一人で廃墟に……?周りを警戒もせず、黙々と進んでいる。
シッテムの箱しか持っていない先生一人で接敵してしまったらどうするのだろう。
『確か先生、でしたか忌々しい箱も持っているようですね』
「忌々しい箱?」
ケイはため息をつくと、話題を変える。
『それよりも愛しい愛しい先生のもとにいかなくていいんですか?』
「そんな大げさなものでもないし、特に何もなければ行くつもりはないよ」
先生の様子を見守りながら移動しようと歩き始める。
少し歩くとやはりというべきか廃墟を歩き回っているロボットとドローンがやってくる。
先生はハンドガンは持っていたはずだが、扱いは上手くない。
抵抗する手段を持っていない先生を助けるために狙撃をして撃ち落とす。
"こんにちはグリム"
…気づかれてしまったようだ。会話をせずに逃げることも考えたが、
早くここから引きかえさせた方がいいだろう。
「早く帰って」
"グリムに聞きたいことがあるから探してたんだ、教えてくれない?"
「教えたら帰る?」
"そうするかもね"
こういうところは本当に先生らしい。
「何が聞きたいの?」
"三日前、この廃墟にいなかった?"
三日前、三日前というと……
『ちょうど私と契約した日ですね、たしかにいましたね』
「居たよ」
ケイが発言をしてビックリしたが、どうやら先生には聞こえていないようだ。
"私が訪れた廃墟にいなかった?"
「…居たよ」
それを聞いてどうするのだろうか。
"あの廃墟の一室にあったAIについて知らない?"
『おそらく私のことでしょうが……一体何のことを聞きたいのでしょうか』
ケイの言う通りだ。先生はケイになんの用があるのだろう。
「それが?」
"そこにG.Bibleっていうファイルがあるはずなんだけど……"
ケイに小声であるのかを聞く。
『え、えぇありますがわざわざこんなファイルを……?』
どうやらケイが持っているファイルの中にG.Bibleというのはあるらしい。
「欲しいの?」
"そうだね、くれないかな?"
「……USBメモリは?」
"やった!えっとね、ちょっと待って……"
そういうと先生がポケットからUSBメモリを取り出す。
取り出したUSBメモリを受け取り、スレイプニルに近づける。
「ケイ、お願い」
『はぁ……まぁ、この程度のファイルで変わることはないでしょう』
少し気だるげそうな声を出しながら、データの転送をし始めたようだ。
少しの時間もたたずに転送は完了したようで、ケイが声をかけてくる。
『転送完了しました』
「これでいい?」
G.BibleをダウンロードされたUSBメモリを先生に返す。
"ありがとう"
「これで終わり帰って」
先生の言う用事が済んだのならば、ここにとどまる理由はないはずだ。
「一人で行動するな」
"もちろん分かってるよ"
いや、分かっていないだろう。
今回のようなことがないように守るつもりだが、ずっと守り続けられるわけではない。
そんな状況かもしれないのに一人で行動しているのは分かっていないだろう。
"もしもそうなったらグリムが助けてくれる?"
「……無理」
私じゃ先生を守りきることはできない。
それは単純な時間のことでもそうだし、未来での失敗のことでもある。
少なくとも私には無理だ。
"無理に、とは言わないけど助けてくれたらうれしいな"
「そんな状況にならないで」
"それはそうなんだけどね……"
バツが悪そうな表情だった先生がこちらを見つめる。
"でも、そのおかげでグリムに会えたから"
まっすぐな笑顔でこちらを見つめられると少し気恥ずかしい。
私はそのような存在ではない。
「私程度のことは気にしないでいいよ」
"私は君のことをよく知らないと思う、でも自分程度とはいってほしくないかな"
違うよ先生、私は程度をつけてしかるべきなんだ。
私程度のことは気にしなくてもいいんだ。
未来の私は……はっきり言って何も間違っていなかったと思う。
知らなかったら同じ行動をとっていただろうことは私にはわかる。
先生の業務を手伝って、効率化もしたり、シャーレへ来た依頼をあなたと解決したり。
それでも、厄災によってみんな死んでしまった。
あの時、先生ではなく、私が代わりになれれば、あんなことにはならなかったんだ。
悪いのは厄災だ。それは間違いない。
突然やってきて、未来の私たちのキヴォトスを破壊してきたあいつだ。
次に悪いのは誰かといえば、それは私だ。
一番長くいたはずなのに、身近にいたはずなのに。
先生が無茶をして、重症になってしまうことに気が付けず。
挙句の果てに指揮権を先生から譲りうけたのに、みんなを殺したのは私だ。
沈みゆく心を一旦リセットして。先生に向かい合う。
「帰って」
"最後に聞いてもいいかな?"
廃墟のゲートがある方向へ歩き始めようとしていた先生はこちらを向いて質問をしてくる。
"私達、どこかであったりした?"
いや、そんなはずはない。
未来の記憶を思い出したときの夢、列車で連邦生徒会長と先生と私が乗っていた、不思議な夢。
夢の中で会ったことがある、というのは質問の意図としては不自然だ。
「ない……はずだ」
"うーん…そうだよね……"
"ごめん、なんでもないまた今度ね"
そういうと先生は走って戻っていった。
未来の記憶を思い出したときの夢、あれはおかしな点が多くある。
そもそも未来の記憶を思い出した前日のことを思い出すのにすこし時間がかかった。
いや、正しく言えば未来の記憶に加えて前日のことを思い出したように感じた。
…気のせいかもしれないが、頭の片隅に置いておこう。
そして、どうして列車に乗ることになっているのか。
未来の記憶を思い出すまでは一度も見なかったような夢。
通常、夢とは記憶の整理のために見るものだ。
連邦生徒会長はまだわかる。私も知っていたからだ。
しかし先生はどうだ?あの時の私は知りもしない人のはずだ。
それなら記憶の整理のために見る夢で出てくるのはおかしいだろう。
……いや、こんなことを考えても厄災について知ることも、先生を守ることもできない。
私がやるべきことはこんなことじゃないだろう。
『何を考えていたのですか?』
「うん?あぁ、たいしたことはないよ」
『まぁ、いいです』
別の出口を目指して、廃墟の中を歩き始める。
『しかし、貴方、私と話しているときと口調が違うように思いますが』
「うーん、距離感を間違えないようにするためかな」
未来で仲良かった相手でも、今は赤の他人だ、
知りもしない相手がフランクに話しかけてきたら警戒もするだろう。
『よくわからないことを考えているのですね』
こちらから話しかけることがほとんどだけど、楽しく過ごしながら、
ミレニアム付近から去っていった。
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