「準備はできた?ケイ」
『はぁ……それはこちらのセリフです。戦うのはあなたですよ』
今はミカに変装してトリニティの合宿施設のある森の中に隠れている。
木々の隙間から見える空は赤だったが、
徐々に夜空の青に染められそうになっている。
そろそろ行動し始めるべきだろう。
「さて、行こうか」
今日の目標はミカを止めること。そのための戦闘準備は整えてある。
セイアが生きていることを伝えるだけで止まるかもしれなかったが、
後のことも考えれば、戦っておいた方がよい。
森の中で、ゆっくりと歩みを進める。
そうやってたどり着いた合宿施設は真っ暗で、中に誰がいるのか分かったものじゃない。
慎重にトラップを避けながら、体育館の中に入る。
体育館の二階……ギャラリーに隠れる。
幸いまだ誰も来ていないのか、
トラップは仕掛けられておらず、安全に来ることが出来た。
『歩いてきているようで、人数は8人程です』
「……アリウスかな」
補習授業部は先生を含めたとしても5人。8人になるはずがない。
それならばアリウスの生徒達がきたはずだ。
時々爆発音が聞こえているということは、アズサのトラップにかかっているのだろう。
『足音が一時的に止まりましたね。連絡をしているようです』
爆発音が鳴り止んだかと思うと、ケイが報告をしてくれる。
おそらく引っ掛かったのがアリウスの偵察班で、
トラップの存在を知らせているのだろう。
『ふむ、聖園ミカと2、3、4、5班が同時に来るようですね』
偵察班が一班で、それ以外は待機。ミカがナギサの捜索をしてるのだろう。
『ナギサの部屋が襲撃されていたようで、補習授業部が犯人だ、
ということで来たのですか。なるほど』
通信を傍受しているのか、ケイが情報を教えてくれる。
未来の記憶通り、補習授業部のみんながナギサを連れてきてくれたらしい。
『着いたようです。ひとまずこの施設を占領しようとしてるみたいです』
ケイがそういうと、私の耳にも足音が聞こえてくる。
まるで軍隊のように統一された足取りがこちらに進んできている。
どうやらついてしまったらしい。ミカの対処は、先生がいる状態にして、
ハナコにシスターフッドを呼んでもらわなければ対処が難しい。
そのため、あまり戦いたくない。
ヒフミ達がここに着くまでの間にバレないことを祈りつつ、観察をする。
『扉が開いた音が聞こえましたね』
入ってくるアリウスの生徒達は、怯えながら入って来ているようで少し震えている。
「罠は無さそうか?」
「あぁ、倉庫は……開いてそうだな。遮蔽物を取り出しておけ」
月だけが見守っている体育館の中で、静かに侵入して来たアリウスの子達は、
倉庫からハードルやマット、ボールを入れた箱や飛び箱などを並べていく。
そこにゆっくりと集団を引き連れて入ってくる影。
「やっほ〜みんな頑張ってるかな〜⭐︎」
「はい、ミカ様」
「も〜そんなに固くならなくていいよ〜」
怖がっているアリウスの子達とは対照的に、明るく振る舞うミカは異様に見えた。
側から見ると、クーデターの最中なんてわからないだろう。
「ただ、そこで隠れてる子は別かな。早く出ておいでよ。ヘイローまでは壊さないから」
そう言ってミカは私の方向に銃口を向ける。
「えっと……ミカ様、この建物には誰もいないはずですが」
「少し黙って」
私が出てこないことに苛立っているのか、少し口調が荒くなっている。
『なるほど、ミカというのは彼女でしたか』
ケイが冷静そうにこちらに話しかけてくる。
『先生が来るまで見つかりたくない、とか言ってましたが無理そうですね』
「……そうだね」
ケイの言う通り、隠れながら集中砲火を受けて耐えられそうにはない。
それならば、手榴弾を取り出し、窓に投げる。
激しい爆発音が響く前に走って背後に回り、飛び降りる。
落下していくなかで、取り出しておいた銃を発砲する。
と同時に爆発音が静かだった体育館に響く。
ひとまずリーダー格と思われるアリウスの子を狙撃し、倒す。
「な、なんだ!?」
狼狽している子を他所に、一人、二人、三人と撃つ。
これで半分は倒せた。
「それなりの実力はあるみたいだね。これは増援を……」
ミカがそう言い終える前に、ここではないどこかで戦闘音が聞こえたと思ったら消える。
「増援の望み薄いかも。はぁ、もっと後に来てほしかったなぁ」
先程は確かに聞こえた戦闘音の事を考えると、先生達が帰還したんだろう。
小声でケイにメッセージを送る。
「ケイ、先生に匿名でメッセージ」
『了解です。内容は?』
少しでもミカとの戦闘は短い方がいい。言葉で解決するのは、私の仕事ではないから。
「体育館に来て。だけでいい」
『はい、そのように送りますね』
私がそうして話している間にミカはアリウスの子に指示をしたのか、裏口から出ていく。
「逃してよかったの?仲間が必要なんじゃないかな?君は」
少しでも時間稼ぎをするために適当なことを聞く。
「あはは、私一人でも十分かなと思っただけだよ。
それよりもその仮面をはずしたらどうかな?」
ミカの煽りへ返答しようとすると、ミカはこちらに向けていた銃の引き金を引く。
『発砲されました!避けてください』
返答しようとしていた体を急いで動かし、遮蔽物に隠れる。
「後、これ以上話すつもりはないよ。時間があんまりないんだ」
そう言ってミカは私が隠れている遮蔽物を撃つ。
きれいに立てられていた跳び箱は、ミカの弾丸を何発も受けて壊されてしまった。
『破壊力がかなり高いですね……』
ケイの言う通り、ミカの銃撃はかなりの破壊力がある。
逃げながら、反撃をしてもよいが、ミカの耐久力はかなり高い。
ホシノやヒナ、ネルともひけをとらないような耐久力で、単純な威力の暴力。
まだ手が込んでいる方が楽だ。
一つ、また一つと遮蔽物を移動する。
「かくれんぼしたいのかな?あんまり付き合ってあげる時間がないんだよね~」
そういってミカは、私が移動する遮蔽物を順番に破壊する。
少し移動を繰り返しているうちに、気がついたら
アリウスの子が時間をかけて準備した遮蔽物はついに体育館から消え失せてしまった。
「もう、これで逃げ道はないよ。できれば私も戦いたくないんだ、降参してくれる?」
先生はまだ来ない。
連絡に気がついていないのか、それともアリウスの子に邪魔されているのか。
少なくとも、ミカの増援が来ていないということはアリウスの生徒は来れていない。
そう考えるとアリウスの子に邪魔されているのだろう。
それならば、やりたくはなかったが戦うしかない。
ミカの降参要求に答え代わりに銃を撃つ。
銃弾が避けようとしたミカに当たると同時に、ミカが話し始め、
「……そっか、それが答えなんだね」
そう言いながら素早くリロードを済ませたミカはこちらに銃を撃つ。
「なら私も容赦しないよ」
ミカが発砲した銃弾を避けるように、こちらも移動する。
ダダダダと銃弾がこちらに向かってくる。
こちらの逃げ場を奪い、少しでも多くの弾丸が当たるように。
壊された遮蔽物を利用して、下に避け、ミカを狙う。
『あなたにとってかなりの脅威になりそうですね。』
ケイの分析を聞きながら、戦場の様子を見る。
ミカに遮蔽物は破壊されてしまったが、それでも少しは役に立つ。
下に避けることは想定通りだったのか、何発か弾丸を食らったが、そこまで問題はない。
痛くはあるが、許容範囲内だ。
お返しに何発か弾丸を撃ち込む。
全弾命中したが、そこまでダメージを負ってそうには見えない。
それどころかこちらに近づいて来る。
「思ってたより痛いかも。まあでも……」
『後方は壁しかありません。正面突破するか、横からいくしかありませんよ!』
ケイの報告の通りなら、私は今、ミカによって壁際まで追い詰められていることになる。
ミカの攻撃は普通のサブマシンガンのそれと比べて、ダメージが大きい。
当たる弾は何故か、当たって欲しくない場所に当たるのもあるのだろうが。
対する私はスナイパーライフル。近接戦は非常に不利で、出来るだけ距離を取る前提。
近寄って来た方がダメージは上がるが、その前に倒される。
それがスナイパーライフルというものだ。
近づきながら倒すか、遮蔽物がある状態でないと近距離戦はできない。
……普通なら。
後退していると、ついに壁に体がぶつかる。
『もう逃げられませんよ!どうするつもりなんですか!?』
ケイの声を聞くと同時に、ミカがこちらに飛んでくる。
ミカが飛んだ床が少し抉れていることを考えると、
かなりの力で飛んでいることが分かる。
「これで終わりかな。少し眠っといてくれる?」
そう言ってミカは、拳に力を入れているのだろう。私を軽く拘束して、拳を構えている。
私の手には、スナイパーライフルが握られている。
こと近距離戦闘においてスナイパーライフルが不利、というのは場合による。
イオリは、スナイパーライフルを持っているが、体術で少しは近接ができる。
そういう場合は、必ずしも近接が不利になるとは限らない。
それと同じように私は……
スナイパーライフルを薙ぎ払う。
さすがのミカも、スナイパーライフルで殴ってくるのは想定外のようで、
一瞬動揺している。
その一瞬の動揺をしている間に、銃口で強く突く。
流石に避けることはできず、ミカに直撃する。そこで追撃の一発。
『やけに焦っていないと思いましたが、杖術を習得していたとは……』
杖術、私が昔から習得していた技術。
キヴォトスにおいて、銃撃戦以外の近接戦は基本ステゴロだ。あって体術くらい。
ただ幼い時に見た、百鬼夜行連合学院の一角でやっていた稽古。
そこでは、杖を使って杖術をしていたが、当時見ていた私は違った。
これがあれば、近接戦闘がある程度できる。そう思った私は杖術を習得したのだ。
もっとも、近接戦になる前に鎮圧できてしまうことがほとんどだったが、
こういう時の切り札になり得る。
とはいえ銃本体にもかなりの負担がかかるし、
整備が大変だからあまり積極的にやりたくはない。
本当にどうしようもない時の切り札でしかないのだ。
ミカが少し倒れている間に壁から離れて中央の方へ移動する。
この程度では、ミカは倒れてはくれない。その証拠に……
「あはは、中々やるじゃん。さっきの一撃はかなり効いちゃった」
何とか私が距離を取り終えた間に、ミカは復帰している。
先程当てた場所からは軽く血が流れているようだが、その程度だ。
お互いに銃口を向け直し、対面する。