仕切り直して、戦闘を続行する。
冷静に今の状況を考えてみよう。切り札はもう切ってしまった。
そして、単純な戦闘でミカとぶつかるのはかなり分が悪い。
パワーや耐久力が、私と段違いで、ぶつかるのはほぼ無理だ。
そして目標。先生が来るまで時間を稼いでおくこと。
来てくれて、セイアが生きていることをミカが知れば止まるはず。
先生が伝えることによって止めなければ、ミカがシャーレに協力するように
できるかどうかわからなくなってしまう。とはいえ戦闘を続けるのは難しい。
先ほどは少し冷静さを欠いてしまっていて、鎮圧することを優先してしまっていた。
冷静さを欠いてしまっていたとはいえ、
先生が来るまでの時間稼ぎが目標だったのに
すり替わってしまっていたことは、反省するべきだろう。
反省をそこそこに、ミカに向かい合う。
戦闘を適度にしながら、時間稼ぎを念頭に置いて戦おう。
よし、軽く現状を整理できた。飛んでくるミカを、杖術でいなす。
ミカほどの実力者なら、私の杖術込みでも近接のほうが分があると考えたのだろう。
そうじゃなかったとしてもサブマシンガンが一番強いのは近接戦闘。
警戒できれば、杖術によって致命的なミスを犯す可能性もかなり減るだろうし。
なんだかんだミカは頭が回っているな、と思いつつこちらも銃を構える。
できれば距離を取っておきたいが、ミカの戦闘能力ではそれを許してくれないだろう。
先程いなしたため、少し距離があったはずなのだがすぐにその距離は詰められている。
サブマシンガンの連射は驚異的だ。
少なくともこちらに接近戦を積極的に仕掛ける理由がない。
このままでは埒が開かないと思ったのか、
ミカは落ちていたボールをこちらに投げてくる。
もちろん避けられるのだが、大量のボールが床にあると動きが制限される。
そしてこちらがボールを取ろうとすると
その隙を逃すことなく詰めてきて攻撃されるだろう。
どうしたものかと考えているとケイが報告をしてくれる。
『足音がこちらに向かって来ています。速度から推測すると先生達でしょう』
ようやく先生達がこちらに来るようで、時間稼ぎは成功した。
扉が開いた音が聞こえたので、そちらを見ると先生が見える。
しかし油断している私を見逃すほど、ミカは甘くなかった。
「眠っておいてね」
一気に距離を詰めて、こちらを攻撃してくる。
気づくのが遅かったせいで間に合わない。
愛銃を振る前に、ミカの拳が命中し、軽く吹き飛ばされて、壁に激突する。
態勢を立て直そうとしているところに追撃の銃弾と、ボールが飛んでくる。
『大丈夫ですか!?ちょっと!?』
ケイが心配してくれているのが聞こえる。
この月影の下から少しの間動けない。
怪我はそこまで重くないからミカと先生が戦っている間に復帰できるはず。
幸い、先生が来てくれたおかげか、ミカの攻撃はこちらに飛んできそうにない。
そういえば、やけにミカが止まっている時間が長い気がする。
未来で、こんなに長かっただろうか?
そんなことを思いながら、何とか入口の方向を見る。
「申し訳ないが、止めさせてもらうぞ聖園ミカ」
「ハナコさんに協力させていただきます」
アズサを始めとした補習授業部の面々に、シスターフッドの子が数名。
ここまでは、私も知っている。問題は……
「やはり、貴方だったのですね。ミカさん」
「今のミカ様には、救護が必要なようですね」
ナギサと、ミネをはじめとした救護騎士団がいることだ。
いや、分かっている。私がいないのだから、少しは変わったりするだろうし、
そもそも全く同じでは滅亡の未来になってしまうのだ。
私がすべての依頼の、すべての要素を把握しているとは思っていないし、
実際そうだと思うが、目の前の光景は想定外だ。
いくつか知らない依頼を受けていた。ただ、知っている依頼がここまで変わるとは。
だって、この襲撃はナギサの暗殺が目的で。
ミネは今はセイアの看病と秘匿をしているはずで。
先生に早く協力してくれた?
それは……
誰かから来た連絡によって、体育館へ向かう。
今現在、アリウスの襲撃を受けている合宿施設を、奪取している最中だ。
アズサが仕掛けておいたトラップは、見やすいところは解除されているが、
見えにくく、引っかからないような場所はまだ解除されていない。
この状態なら、戦闘の誘導次第で、トラップを踏ませて鎮圧することができる。
来てくれた時に事情を説明すると、すごい顔をしたミネがテントの準備をしていた。
ミネに適宜アリウスの子たちを救急騎士団の
臨時テントで保護するようにお願いしてある。
とはいえ、なんとかアリウスの手から合宿施設の本館は奪取した。
そして急いで体育館に向かったのだが……
体育館の中に立っていたのはやはりミカだった。つまり裏切者はミカで確定。
何か事情があるのだろうが、ひとまず止めないといけない。
"ごめんね、ミカ。強硬手段で止まってもらうよ"
「う~んさすがに分が悪いかな。でもね?先生」
そういって近づいてくるミカをミネが止める。
「私はナギちゃんを殺せば終わり。分かってる?」
ミネがミカを盾で突き飛ばす。
"ミネを前線に、アズサとヒフミ、サクラコはその少し後ろから、
コハルはそれより少し後ろに"
頷くと四人は走り出し、陣形を整える。
直接戦闘があまり得意でないナギサたちは、後方からの支援だ。
"ナギサ"
「は、い」
動揺しているところ悪いが、私はミカの戦闘を見たことがなく、人読みができない。
ただナギサは知っている。それなら、協力してもらわない手はない。
"手伝ってほしいな。ミカには事情を説明してもらわないと"
「そうですね。そうですよね」
"大丈夫?"
「大丈夫です。覚悟はしていました」
ふぅとナギサは一息つくと、誰かと戦闘をしていたかのようにボロボロなミカを見る。
「真の裏切り者登場☆……なんてふざけてられないんだよね」
少しおちゃらけていた先ほどの態度と違い、真剣な表情になる。
「あんまり余裕がないの。全力でいくよ」
少し焦っているようにも見えるミカは、手元の銃をこちらに向けてくる。
「おそらく最初はミネさん以外を狙います」
ナギサの声を聞きながら指揮をする。
"ミネ、半歩右にズレた後、3歩左へ。マリーはミネの補助を"
指揮通りに、ミネは動き、ミカの弾丸が受け止められる。
その隙に、アズサ達の射撃をミカは受ける。
少しは痛いはずなのだが、まるで効いていないように見える。
「先程の反応を見ると次はサクラコさんでしょう」
"アズサ、集中して攻撃、ミネはサクラコの前に"
ミネはミカの弾丸をその盾で受け止め、そこにアズサの重い一撃が飛んでいく。
少しよろけたように見えたが、まだまだ元気そうだ。
その後もミカと戦い続けたが、
こちらはミカの攻撃をナギサの読みで回避し続け、射撃をしているはずなのに
あまり疲れていないように見える。
「ねぇ、先生」
突然ミカが話しかけてくる。
少し血が滲んでいる制服を少しも感じさせない佇まい。
その姿に少し気圧されながらも、口を開く。
"何かな?"
私がそう言うと前に、地面を飛んで、こちらに飛んでくる。
そのミカの攻撃がどこからか飛んできた弾丸によって、阻害される。
「起きてくるの早いなぁ」
全員が弾丸のほうへ向いていると月影になって見えなかったところから、人が出てくる。
軽く変装しているようだが、彼女は間違いなくグリムだ。
グリムは何も言わずに、次弾を装填して、ミカを見ている。
ミカの軽く血が出るような怪我と、ボロボロのグリム。
その様子を見ると私達が来る前にミカとグリムは戦っていて、
グリムがミカの攻撃で一時的にダウンしていた、ということだろう。
「ミカは、幼馴染を殺す理由を言わなくていいの?」
全員がミカに銃口を向けている中、グリムが口を開く。
……本当にグリムの情報網はどこにあるのだろうか?
いや、今はミカの動機だ。それさえ分かれば、戦闘を終えられるかもしれない。
「う〜ん、まあいいよ。
ナギちゃんもなんで狙われてるかくらいは知りたいだろうし、話してあげる」
グリムの口車に乗ってあげた様子のミカは、話し始める。
「といってもそこまで複雑じゃないんだけどね。
エデン条約を結ばせるわけにはいかないから」
エデン条約、ナギサがセイアから引き継いだゲヘナとの条約。
お互いに喧嘩しあうのをやめよう、といったものだ。
「そもそも私は反対だったんだ。なんであんな奴らと仲良くしないといけないの?」
「それは……」
ナギサが何か言おうとするのを遮りながらミカは続ける。
「だからアリウスを使って、止めるつもりで呼んだんだ。ね、アズサちゃん?」
アズサを一瞥したと思うとミカはこちらを見る。
「少しの間セイアちゃんには
どっか行ってもらうつもりだったんだけど、殺しちゃったみたい」
まあ仕方ないよね。と続けているミカは、どうやら真実を知らないようで、
セイアが死んでいると認識しているようだ。
「まあ、ナギちゃんはもうアズサちゃんが殺したことは知ってるんでしょ?」
「いえ、知りませんよ」
いたって冷静に回答するナギサにミカは困惑の表情を向けている。
それもそうだろう。この場にアズサもいて、セイアの仇であるはずなのに、
そのことで取り乱さないナギサは、ミカからすれば非常に困惑するものであるはずだ。
「そもそもセイアさんは死んでいないのですから」
「え……?」
先ほどまで困惑の表情に包まれていたミカは一転して、驚いているようだ。
「存在しない事実は知りえないので」
「ほ、本当に生きてるの?」
驚いたまま、ミカは聞き返す。ナギサがミネに目配せをする。
ナギサの目配せを受けて、ミネが少し前に出てくる。
ミカが話しているのを止まって聞いてくれていたミネが口を開く。
「はい、生きていますよ。私が保護していたので」
それが嘘ではないと確信したようで、ミカは膝から崩れ落ちる。
「そっかぁ……」
諦めた様子で、銃を床に置く。何をしてくるのかと警戒をしていると、
小声で良かったぁとミカがつぶやいたと思うとこちらに話しかけてくる。
「……降参。私の負けだよ」
本当に抵抗するつもりはないようで、両手を上げている。
その言葉を聞いて、ミネがすぐ移動し、拘束する。
これで、合宿施設は奪還。ナギサの暗殺も防げた。
あとはアリウスの子たちと話をしたり、グリムと話をしたりしたいところだ。
ただひとまずは、ナギサの疑心暗鬼はこれで終わりだということを喜ぶべきだろう。