トリニティ、古聖堂付近。
トリニティ側からは正義実現委員会が。
調印式のために訪れていたゲヘナからは風紀委員会が。
それぞれ担当するルートでアリウスの生徒やミメシスと交戦していた。
その最前線にヒナは立っている。
いつもの不良生徒達を鎮圧する時と同じように、極めて冷静に銃を撃ち続けている。
ただ、内心はいつも通りとはいかなかった。
(グリムは、どこに行ったのかしら)
巡行ミサイルが、古聖堂に落ちてからすぐに、
意識が戻ったヒナは、非常事態だと判断して
一度他の風紀委員と連絡を取ろうとした。
ただ、どうも電波が上手く繋がらず、そうこうしている間に
襲われるわけには行かないと判断した。
この非常事態だ。まずは先生を助け、
一度トリニティ本校舎まで連れて行って手当てを受けてもらわなければ。
先生がいたはずのところの瓦礫をどかし、先生を探す。
(お願い、死なないで)
そう思いながら瓦礫をどかしていると暖かそうな肌が見える。
急いでどかし終えるとところどころ怪我しているものの、
命に別状はなさそうで、自力で歩けそうだ。
それならば早く連れて行かなければ。
瓦礫を動かした衝撃で先生の意識が戻ったようで、
"ありがとう。ヒナ"
「それよりも先生、早く逃げないと」
撤退しようとヒナが先生を連れて撤退しようとした、その時。
前方から青白い生徒が襲ってきた。
まさか敵だとは思わずヒナは一発受けるが、ヒナの反撃を受け、青白い生徒が消える。
「気をつけて頂戴先生。あの青白い生徒は敵よ」
"分かった。ヒナ、全力で指揮するね"
少しの間進んでいると青白い生徒とともに襲いかかってくる
一見普通に見える生徒達。どこ所属なのか分からないが、
ヒナに敵意をもっているのは明らかだった。
とはいえヒナの敵ではない。
変わらず撤退のために戦っていると、人一倍青白い生徒を連れた
生徒がこちらへ駆け寄ってくる。
敵かと思い発砲すると、少し驚いた表情になり、
青白い生徒に何かを伝え、全員すっと消えていった。
何かをした。その事だけは分かった。
次に何か変なことをされる前に早く倒してしまおう。
そう考えて、ヒナは銃を構える。
しかし追撃をしようとするとヒナは先生に止められる。
その生徒───いや、グリムはお互いに事情を確認するよりも前に先生を押し倒す。
何事だとヒナが思っていると、建物の影から誰かが出てくる。
グリムが先生への狙撃を防いでくれたかと思うと、
グリムが足止めを自らやってくれるといったので、任せてしまった。
ヒナはグリムの銃がスナイパーライフルなのを見て分かっている。
それなのに時間稼ぎを任せて先生を連れて撤退してしまった。
早く助けに行こうと来たが、グリムの姿が見えない。
そのことにヒナは焦っているのだ。
ヒナが戦い始める前、先生はというと……
「先生、事態が収束するまでここで安静にしておいてください」
"けどねセリナ…… "
"こう言う時こそ先生のわたしがいかないと"
セリナは少し納得しかけたようだが、現実的な疑問を伝える。
「それに誰が守るんですか?先生の安全を保証することはできません」
"それでも…… "
先生が何か言うのを遮りながら、セリナは続ける。
「さすがにわたし一人で守り切ることはできません。他にも誰かいなければ……」
そう言いかけているセリナの声は、ドアの開く音によって遮られる。
「せ、先生。アズサちゃんが、いないんです!」
"アズサが……?"
セリナは驚いた表情でヒフミを見つめた。それは先生も同様だ。
"詳しく教えてくれない?"
「はい、その、アズサちゃんは調印式のニュースを
レストラン聞いているときはいたのですが……」
事情を説明するヒフミは罪悪感を感じながらも、先生に説明した。
爆発が起きるまでは一緒だったこと。避難誘導の最中にはぐれてしまったこと。
一通り言い終えると、ヒフミは頭を下げて先生に懇願する。
「お願いします。先生。探すのを手伝ってください!」
先生が即座に了承すると、セリナに視線を向ける。
「……補修授業部の方々がいるならいいですよ。ただ、私も付いていきますね」
"ありがとうセリナ!"
ヒフミは飛ぶように喜んだかと思うと、小走りで部屋を退出する。
先生もセリナに一言言って、準備を始めた。
「先生、アズサさんの行方の予想はつくんですか?」
"確かめたい場所があるんだ"
セリナの質問に、先生は答えて歩をすすめる。
先生についていくように、ヒフミ、コハル、ハナコ、セリナは歩き進める。
「どこにアズサちゃんがいるのか分かるの?先生」
コハルが少し疑うように先生に聞く。
"うん。どうやらアリウスの生徒達がいるみたいだから"
命を狙われている状況であったが、先生は冷静に観察していた。
あの時グリムと対峙していた彼女達は、紛れもなくアリウスの銃を使っていた。
アズサ達から聞く限り、閉鎖的な空間であるアリウスの銃を使えるのは
アリウスの生徒だけだ。先生はそう判断した。
「アリウスの生徒がいる……と、言う事はこの襲撃は彼女達のせいですか」
ハナコは冷静にそう判断する。
「しかし、先生。まさかとは思うのですが、古聖堂へ向かうつもりですか?」
"そうだね、いまから古聖堂へ向かうよ"
そう言うと少し驚いた表情を先生以外は浮かべるがすぐに決意を固めた。
「早く行くわよ!先生。怪我なんてしてたらただじゃおかないんだから!」
コハルがそう言うと、より一層、歩く速度が早くなった。
そういえば、と思い、先生はヒフミに耳打ちをする。
"ねぇ、ヒフミ"
「はい?どうしたんですか、先生」
"ホシノ達も呼ぼうと思うんだけど……ヒフミも話してくれない?ファウストとして"
先生が悪戯っぽく最後の言葉をつけ足すと、少し顔を赤くしながらヒフミは頷く。
先生達がシッテムの箱経由で連絡をすると、
覆面水着団としてホシノ達が来てくれることとなった。
先生はアビドスの近くの道から古聖堂へ来るようにお願いしておくと、連絡を切った。
さて、いくらヒナが強くても弾数は限度がある。
ミメシスとアリウスの生徒に少しずつ前線を押される。
「委員長。いつまで戦えばいいんでしょうか?」
ある風紀委員の子が、もう何度目かも分からないリロードをしながらヒナに聞く。
何度倒しても、数の減らないミメシスに疲弊して来ていた彼女達。
グリムを探すにしても、ミメシスとアリウス生徒の壁は突破できていない。
毎回毎回、あとわずかというところで復活されてしまっている。
せめてあと数人、今すぐ来てくれたら突破できる、
ヒナがそう考えた時、都合の良いことに、手榴弾が飛んでくる。
誰が来たのかとそちらを見ると、ホシノをはじめとした、
対策委員会の面々が来ていた。加えて覆面を被っていたが。
アビドスの戦力は、少人数とは思えないほど頼もしい。
「小鳥遊ホシノ、手伝ってくれる……ってことでいいのよね?」
「うへ~ホシノじゃなくて私は覆面水着団1号だよ~」
冗談で言ってるのか、本気で言っているのかわからず、ヒナは困惑したが、
銃を取り出しているホシノ達を見て、協力してくれると判断したようだ。
「1号。グリムを探し出すために突破を手伝ってちょうだい」
「……グリムちゃんも?なら頑張らないとな~」
シロコやノノミ達も戦闘態勢を整えて、戦い始める。
「あなたの実力を頼らせてもらうわ。1号」
「そっちこそ頼りにしてるよ~風紀委員長さん」
そういって、ホシノは盾を構えて前線に切り込んでいく。
その後ろを、ヒナがついていく。
ヒナとともに戦っていた風紀委員も、対策委員会の面々も、追従してついていく。
戦況はずいぶんと改善した。
ホシノが盾を使って攻撃を防ぎながら攻撃をする。
ヒナのマシンガンによってミメシスも、アリウスの生徒も倒されていく。
先ほどまで遮蔽物を使って戦っていたのが、
全員が実力者であるアビドスが来たことが大きく影響したと言える。
停滞していた前線は、一気に進み、もうすぐ古聖堂に着くところで、
先ほどまでとは雰囲気の違うミメシス達がいた。
「うへ〜まずいね〜ちょっと厳しいかも〜」
「ホシ…いや、1号。一旦考えましょう」
目の前に立ち塞がるミメシス達は、誰一人通そうとしていない。
生前は偉大なシスターだったと思われるミメシスが前線を指揮している。
指揮官らしきミメシスを狙えば他のミメシスが割って入り、
他のミメシスを狙えば指揮官らしきミメシスの援護射撃が飛ぶ。
無理にでも突破しようとすれば被害は甚大になる。
幸いなことがあるとすれば、突破しようとしない限り攻撃されないことだろうか。
「手榴弾が切れた」
『少し離れてください。支援攻撃をしますので』
シロコの手榴弾が切れたところに、アヤネの支援が飛んでいく。
「……1号、はっきり言って状況はかなり悪いわ」
ホシノは答えることはなかったが、盾を構えながらヒナの方向へ向いた。
いつまでも終わらないこの戦闘に終止符を打ちたい。
それはこの場にいる全員が思っていることだ。
果てのないようにすら思えるこの戦闘は、突然終わりを告げる。
まるで最初から存在しなかったかのように、ミメシス達の姿が一斉に消えていく。
「……消えたね~」
「えぇ、そうね。なぜこんな……」
ヒナは少し考えるが、答えは得られない。
「警戒は続けて。罠の可能性もあるわ」
困惑していたものの、ミメシスが、せっかく消えたのだ。
早く移動しきったほうが良いと判断した彼女達は、すぐに古聖堂へと向かう。