少女は記憶を胸に   作:クロケル

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人工天使

「貴殿が先生か」

"お前は誰だ。グリムに何をしようとした"

ミメシス達が塞いでいる道を通り抜け、私の前に先生が立つ。

 

「私のことはどうかマエストロ、と呼んでほしい」

そう聞いて先生は何かを察した表情になる。

"……ゲマトリアが何の用?"

 

「先生、貴殿には私の作品を是非とも見てもらいたい。無論、そこにいる彼女もだが」

"作品……?"

私を少し見たかと思うと、先生へと視線を戻す。

 

「少々不格好で、未完成な作品を見せることになり恥ずかしく思う」

"何を言って……"

そう言ってマエストロの奥にあった扉が開く。

 

神々しい後光の前に立っているのは───

「紹介しよう、トリニティの地下に眠っていた教義の受肉せし存在」

 

先生とともに来たであろうみんなが、走ってくる階段の音が止まる。

「私はそれにこう名付ける。人工天使ヒエロニムス、と」

 

ヒエロニムス、マエストロが地下で用意していたもの。

受肉せし教義だとかなんとか言っていたが、ひとまずどうでも良い。

今大事なことは、アイツを倒さなければならないこと。

 

気が付くとマエストロは消えていた。

先生は慌てながらも、大人のカードを取り出すが、それを制止する。

 

"グリム、私はあれを倒さないといけないんだ。危ないから下がっておいて"

「駄目」

黒服の言っていた、カードの代償。

そんなものを先生に払わせるわけには行かない。

 

"ごめんねグリム、そうも言ってられないんだ"

先生はそう言って歩みを進めようとするので、

入り口のほうへと突き飛ばし、ヒエロニムスと向き合う。

 

『……ようやく音声妨害機能を阻害されなくなりました!アイツは本当に!』

ケイが復旧してくれたようだ。これなら少しは楽になるだろう。

扉をひとまず閉め、先生が来られないようにする。

 

「みんな、アイツを倒すよ」

*了解だ、リーダー*

ミメシス全員で、ヒエロニムスを攻撃する。

 

『何かが来ます!避けて!』

ケイの指示を聞いて避けようとするが、攻撃が見当たらない。

だが、ケイが嘘をつくわけがない。しかし何の攻撃が飛んでくるんだ。

 

ヒエロニムスは先程から持っていた杖を降ろしたが、攻撃をした様子もない。

気になりはするが、何事もないのならそれが一番だろう。

そう思って銃を再び構え直す。

 

「痛っ」

どこから感じたか分からない痛みが私を襲う。

何事か、と思って周りをみるが、ヒエロニムスの近くで戦ってもらっている

ミメシスのみんなは痛みを感じていなさそうに見える。

 

ミメシスは痛みを感じないのか、

それともこの痛みは私だけを狙っているのかは定かではない。

そう考えているうちに再度痛みが走る。

 

先程と同じ様な、鋭い痛み。

無視できないほどに私を蝕むその痛みの原因は分からない。

どうすればいい?この痛みの原因が分からない状態で戦い続けるのは危険だ。

 

痛い。どうにかこの痛みの原因を探れ。

「ケイ!」

先程ケイは確かに、何かが来る。と言った。

ケイの言っていた何かは、この痛みの原因に関係するかもしれない。 

 

四度目の痛みが私を襲う。

「私の状態を分析して!」

『了解です』

 

ドロテア達が戦っているところ申し訳ないが少し距離をとる。

痛みが襲ってくる中、引きずるように体を動かし、壁にもたれる。

 

私のみを襲ってきているらしい同じ痛み。

私の体を見ても目立った外傷はないのが非常に奇妙だ。

 

『分析はできました。が……』

ケイは少しためらうような口振りながらも、説明をしてくれる。

 

『簡潔に言うと貴方は呪い、とでも呼びましょうか、

それによって徐々に体力を奪われています』

「それが痛みの正体?」

『おそらくはそうかと』

 

おそらくヒエロニムスが原因で起こっているであろう呪い。

「対処法はある?」

『問題はそこです』

 

私の質問に、ケイは被せるように答える。

『呪いは何らかの治療を受けることによって解除できるようです』

つまり……

 

「私一人では、自然治癒を待つ以外できないわけだ」

『つまりそう言うことです』

ミメシスの中に、治療のできる人材はいないだろうか。

そう思ってヒエロニムスの方向を見る。

 

いつの間にかいたアンブロジウスも、

ドロテアも他にもたくさんのミメシス達の攻撃を食らっているが、

純白のローブを着たヒエロニムスは意にも介していない。

 

ただ淡々とこちらを排除しようとしているように見える。

一際大きい痛みが襲ってきたかと思うと、呪いがおそらく解除されたのだろう。

助かった、と思いながら、銃の引き金を引く。

 

弾丸が真っ直ぐ飛んでいく最中、ヒエロニムスを見ると杖を掲げている。

何をする気だ、と思っていると、

ヒエロニムスの周囲にいたミメシスが吹き飛ばされている。

 

ヒエロニムスの攻撃だ。たしかアイツの攻撃の中に、

範囲内の全員を対象として攻撃したものがあったはず。

「危険を感じたら安全な場所に退避して!」

 

ドアを開けようと試行錯誤している音が聞こえてくる。

先生に代償を払わせるわけには行かない。早く決着をつけなければ。

 

ヒエロニムスが再度、杖を掲げようとしている。

止める方法は知ってはいる。知ってはいるのだが、

赤色の聖遺物を修理しなくてはならない。

 

それは誰かしらの治療行為を聖遺物に対して行えば良いのだが、

生憎私はそんなことは出来ない。

ならば、今できることは一つだろう。

 

ヒエロニムスが一定以上の攻撃を受けると、ベールを解除するための行動へ移る。

そうすれば攻撃されないはず。

 

そう思って攻撃を続けるが、変化はない。

アイツの足元にある魔法陣の光も、かなり強くなっている。

間に合わない。杖を降ろすと、魔法陣の発光も収まる。

 

そうして襲ってくるのは、渇きのような苦痛。

まるで砂漠で数日彷徨った果てのような苦痛が襲ってきている。

 

こちらの意地だ、せめてベールの破壊だけでも。

意識を手放す前に、引き金を引く。

最後に聞こえたのはヒエロニムスが倒れる音ではなく、扉の破壊音だった。

 

 

 

 

 

グリムが入っていった扉を開けようとする。

マエストロとかいうやつが作ったらしい

あの化け物の対処をグリムにさせるわけにはいかない。

手元に握っている大人のカードを使おうとしたのだが、

さすがに見えない状態で指示は出せない。

 

黒服が代償について警告してきた時にグリムだけは聞いていたし、

ホシノ曰く、私の協力者を増やしたいと言っていたことを考えると、

私に被害がでないようにしているのだろうか。

 

何度か開けようとしても、何かに遮られているようで開くことはない。

どうすれば開けられる?

"アロナ、開けられそう?"

 

『えっと、すこしだけ待ってくださいね!先生』

アロナに調べてもらいながら、何度も扉を開けようと試みる。

押戸である扉を、奥へと押し込もうとしても上手くいかない。

 

マエストロが見せてきたあれは放おっておくと確実に被害が発生する。

それを一人で対処しようとするのは非常に危険だ。

もしかしたらグリムの命が危険に晒されるかもしれない。

 

『魔法のようなものによって扉を開かなくされてます』

"どうやれば突破できる!?"

ここを開けておかないと、グリムは退路を断たれてしまう。

 

『扉を破壊するしか……』

どうする。私が待っている拳銃で破壊できるのか?

重厚そうな扉を見て思うが、やってみるしかない。

 

そう思っていると、階段を駆け下りながらこちらへ走ってくる音が聞こえる。

「先生、大丈夫かしら?」

「うへ〜走って行かないでほしいな〜おじさん、もう歳だから疲れちゃうな〜」

 

ホシノとヒナを先頭に、ぞろぞろと階段を降りてくる。

「大丈夫か」

そうして最後にアズサが降りてくる。これで最後のようだ。

 

"だれかこの扉を壊してくれない?"

「少し離れていただけますか〜」

私がすこし距離を取ると、ノノミは銃を持って扉に向かって攻撃する。

銃弾が当たる度に、扉がどんどん凹んでいき、ついにドアが倒れる。

 

扉の奥に見えたのは、美しく見えた礼拝室が、

本来の姿かのようにボロボロになってゆく礼拝室と、

中央に鎮座するヒエロニムス。

それを取り囲み、一斉に攻撃を加えている青白い生徒達だった。

 

グリムはどこだ、と思いながら聖堂を探してみるが見つからない。

あの化け物をそのままにして

ひとまずヒエロニムスを倒してから探すことにする。

 

幸いみんなも来てくれたし、グリムがヒエロニムスにダメージを与えてくれているのだ。

切り札である大人のカードを切らなくても十分対処できる。

 

"アロナ、戦術支援をお願い"

『分かりました先生!スーパーアロナちゃんにお任せください!』

 

シッテムの箱から、得られる情報をアロナに伝えるようにお願いする。

"ホシノが一番前にほかのみんなはその後ろを"

 

すぐに陣形を整えると、ヒエロニムスが杖を掲げる。

『ヒナさんに異常が起きています!先生』

ヒナに呪いの痛みが襲って来た一度目だった。

"セリナは救急箱をヒナに、シロコはドローンを呼んで"

 

何かしらの異常が起こっているのなら、ひとまず治療しておかなければ。

それが何なのかは分からないため、ひとまずはそうやって対処するしかない。

 

『ヒナさんにあった異常がなくなっています』

"ありがとう、シロコ、もう一回ドローンを"

自然治癒でなくなるタイプとかではなかった、

ということは治療することによって対処できる?

 

"セリナ、救急箱の準備をお願い。アヤネもドローンの準備を"

治療ができるように準備を整えておく。

ヒエロニムスが杖を掲げ、足元に出現した魔法陣が発光する。

 

何が来るんだ。そう身構まえると、ホシノを中心に円形に光が降り注ぐ。

光の範囲にいたホシノ達を見ると、ところどころ怪我をしているようだ。

 

"アヤネ、ドローンでみんなの治療を"

私に言われると同時に、アヤネのドローンは勢いよく飛んでいき、簡易的な治療をする。

 

"アロナ、みんなの体力状況はわかる?"

『皆さん元気いっぱいです!問題はありません!』

ダメージはそこまで痛く無かったようで、

アヤネのドローンのみでなんとかなったらしい。

 

"アイツはあとどのくらいで倒れる?"

『もう少しです!』

青白い生徒と、みんなの協力もあってようやく倒せそうだ。

 

アズサに特殊弾薬使用の指示を、シロコにはドローンの召喚を、

ヒナには集中射撃を、それぞれお願いする。

ヒナが集中射撃を終了すると同時にヒエロニムスは倒れる。

私達の勝利だ。

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